続々・仮想世界の夏
それからはとにかく遊びまくりで、例えば砂浜でランダムにチーム分けをして四体四ビーチバレーしたり。
その後は海に入ってのボール遊びに変わったり。
レイジさんの提案で、近くに見える島まで誰が一番早く泳げるか勝負することになったりした。LROならリアルで泳げない人も楽々泳げることも多いらしくて、そういう意味でも海フィールドは人気が上がっているらしい。
そして、その島までの遠泳をしているときにその事件は起こった。
「きゃっ!」
「! ひかり!?」
凄まじいスピードで先頭を泳ぐレイジさんに追いつけず疲れ切っていた僕の後方で、突然ひかりの短い悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思ってひかりの元へ泳ぐと、
「うわっ!?」
長いくちばしのような口を持つ魚類モンスター――《ダツダッツ》が海面を飛び跳ねて僕の横を通り過ぎていった。
「あれ? あいつ今何か持ってたような……」
速すぎてちゃんと見えなかったけど、なんだかピンク色の布みたいなものをくわえていたような気がする。
「う、うぅぅ~……」
「あ! ひかりっ!」
そこでひかりが弱った声を上げていたことに気づき、僕は慌ててひかりの元へ。
「ユ、ユウキくぅん……」
「ひかり? どうしたの? さっきのやつに攻撃でもされ――」
と話す途中で気づいてしまった。
ひかりが両手で胸を隠すように押さえている。
そして本来あるべきはずの肩紐がなく……つまり、ひかりの水着が消えてしまっていた!
「――え? えっ!? ひ、ひひひひひかりっ!?」
「さ、さっきのお魚さんに、持っていかれちゃいましたぁ……」
「え? ……み、水着がとられちゃったってこと!?」
「はいぃ~……」
「えええええっ! ま、まじか! LROってそんなことまで出来るのかよ! どどどどどうしよう!」
目を逸らして困り果てる僕。
あいつを追いかけるにしたって、こ、こんな状態のひかりをこのままにはしておけないし、ど、どうすれば!
「ユウキくーん? ひかりー? どしたのー?」
「あ、メ、メイさん!」
そこへ後ろからやってきてくれたのは、最初からのんびり悠々と泳いでいたメイさん。
僕は慌てて事情を説明した。
「――というわけなんです!」
「あはは、なるほどね~わかったよ。それじゃあメイさんたちが取り返してくるから、二人はここで待ってて」
「わ、わかりました」
「メイちゃんお願いします~っ」
「はーい。――ああそれとひかり?」
「は、はい?」
「むふふ。ご立派なものが隠しきれてないですわよ♥」
「「えっ?」」
その発言に固まる僕とひかり。
それからゆっくりひかりの方を見ようとしたら――
「きゃ、きゃあああダメですっ!」
「わわわっ!」
ひかりが正面から勢いよく僕に抱きついてきて、メイさんが愉快そうに笑った。
「あはは、しばらくそのまま隠してあげてねユウキくん。おーいみんな~! ちょっと待って~!」
メイさんはそのままみんなを追いかけ、すぐに事情を説明してくれたようだ。みんな遠泳は中断し、ひかりの水着を持って逃げる《ダツダッツ》を探し始めてくれる。そしてすぐに水中で様々な攻撃スキルが炸裂するカオスな海辺に変貌してしまった。
一方、僕たちは抱き合った状態のまま二人して固まっているしかなく……。
「うう……ご、ごめんなさいユウキくん……」
「い、いや、僕は大丈夫だけど……」
青い空を眺めながら答える僕。
上半身裸のひかりに抱きつかれてるこの状況……ひかりの柔らかい胸の感触がダイレクトに伝わってきて、ちょっぴり硬くなっているその先端の感触さえもハッキリと感じ取れる。濡れたひかりの身体はスベスベと気持ちがよくて、ついこちらから触りたくなってしまう衝動にかられた。ていうかやっぱ全然大丈夫じゃないわこれ!
――ドキドキドキドキドキ……!
僕のものなのかひかりのものなのかわからない大きく速い鼓動。二人ともそうなのかもしれない。とにかく何とかしてこの場を乗り越えなくてはならなかった! もはやこの思考すら誘惑の闇に飲み込まれてしまいそうでぇぇぇ……!
「くっ、う、おおおおお……! た、たえろ僕、たえるんだあああ……!」
「ユ、ユウキくん?」
「なんでもない! 大丈夫だからああああ!」
「そ、そうですか…………あの、ユウキくん……。変なこと、訊いてもいいですか?」
「な、何!?」
理性と戦いながら答える僕。
大丈夫だ。ひかりの方を見ずこうやって美しい晴れ晴れとした爽やかスカイを見つめていればそんな気は起きない! ああほんと良い天気だね!!
「と、友達に教えてもらったんですけど……男の子って……やっぱりみんな…………お、おっぱいが、好きなんですか? その、ユウキくん……も?」
「ぶふぉっ!」
なんというものを押しつけながらなんという質問をおおおお! ひかりの無邪気さがまさか僕を追い詰めるとは! ていうか毎回ひかりにそういうこと教えてる友達誰なの!? もうそんな質問にまともに答えてられる場合じゃないよ!
「き、嫌いなやつはいないとおもいましゅ!」
慌てて言葉を濁そうとするも噛んでしまう。
するとひかりは、
「そ、そうなんですか」
と、なぜかちょっぴり安堵したような言い方で納得したようだった。
ていうかなんでこんなときにそんな質問をするんだひかり! そしてみんな早く水着を持ってきてえええぇぇぇ!
「あ、あの、ユウキくん」
「今度は何!?」
「それじゃあ……わ、わたしなんかでも……こうして、だ、抱き合って、いたら……」
「いたら!?」
「その…………え、えっちな気分に……なり、ますか?」
「……え?」
下を向く。
ひかりがじっと僕を見上げていた。
その目は艶めかしく潤んで、何かを訴えかけるように揺れていた。同時に、その豊かな胸は僕に押しつけられて柔らかく形を変えている。
「ひか、り……」
頭の中で必死に我慢していた何かが今にも飛び出そうとしていた。
ひかりに触れたい。
そんな単純な思いだけでいっぱいになって、僕は自然とひかりに手を伸ばし――
「あ――ユ、ユウキくん後ろっ!」
「――え?」
ひかりに言われて後ろを振り返る。
「そっちに行ったよー! 危ないから逃げて~~~!」
メイさんの声が聞こえた瞬間――海面から飛び出してきた《ダツダッツ》が、ひかりの水着を盗んだそいつが僕の顔目掛けて口から水を吐き出してきた。
「《スプラッシュ》」
「ぐふぉっ!?」
不意の水属性スキルにクリダメを受ける僕。けどそのスキルのおかげで《ダツダッツ》の口からひかりの水着がはらりと水面に落ちたのを確認した。
「きゃあ! ユ、ユウキくん! 大丈夫ですか!? ユ、ユウキく~~~ん!」
「……ぶくぶくぶく…………」
海に沈んでいく僕。水面を通して揺れて見えるひかりの心配そうな顔と、すべてが露わになってしまったその胸元。
幸せなのか不幸なのかよくわからない状況で、しかし僕はひかりに対して過ちを犯さなくて済んだと、ある意味空気を読んでくれた《ダツダッツ》に感謝したのだった――。
――で。
そんな水着泥棒事件も解決して少し休んだ後、僕たちはまたみんなで時間いっぱい使って遊び尽くした。
岩場にのぼって魚釣りスキルを使って釣りに挑戦してみたり。
砂浜に戻ってジャンケンで負けた人(僕)が砂に埋められたり。
砂浜に現れたノンアクティブのレアモンスター、《ゴールデンスイカ》という名の動くスイカモンスターをスイカ割と称して倒してみたり。
お腹が減ったらみんなで持ち寄った食材を使ってバーベキューをしてみたり。
臨時で海辺フィールドに現れた水着姿の《リンク・フェアリー》たちとちょっとしたお宝探しのミニイベントをやることになったり。
とにかく、本当に一日中ただただ遊びまくった。
最初は、同性の友達もいない状況で水着姿の女の子三人とどうやって遊べばいいんだって不安だったんだけど、遠慮なく接してくれるひかりの無邪気さや、一見ふざけていてもちゃんと僕がギルドで浮かないように気に懸けてくれているメイさん、みんなのバランスをとってまとめてくれるナナミと、それに生徒会のみんなも来てくれたおかげで、僕もすごく楽しい休日を過ごすことが出来た。
中学時代までは女の子たちとこんな接点なんてなかったし、こうして夏にみんなで海へレッツゴーなんて青春イベントをしたこともなかった。そういうのは一部のリア充な人たちと、そして物語の中の出来事だって思っていたから。
だからこそ、今日の時間はなんだか夢みたいだなって、今でもそう思ってしまえた。




