仮想世界の夏
《海辺フィールド 星海の砂浜》
六月下旬。
GVGイベントも終わって、LROの中も初夏らしい陽気に変わっていた。
梅雨……がLROに実装されるのかどうかはわからないけど、まぁ、LROは国やフィールドによって気候もまったく違うから、梅雨になってもあんまり関係はないんだけども。けど徐々に気温が蒸し暑くなってきているのは確かだった。ていうかここはやたらと暑い!
そんな夏が始まったから、と前置きをしてメイさんは言った。
『GVGお疲れ様の意味も込めて、ギルドメンバーみんなで慰安旅行に行こう☆』
というわけで。
僕、ひかり、メイさん、ナナミの四人は、この土曜日にギルドメンバー揃って慰安旅行へやってきたわけであった。
「はぁ~…………すごい綺麗だ……」
改めて目の前の光景を眺め、なんのひねりもない感想をつぶやく僕。
広がるのは、イメージにぴったりな南国の景色。
眩しい太陽と、どこまでも広がる水平線。ジリジリと暑くなっている白い砂浜。風はほんのり潮を含んで、どこか懐かしい匂いがする。
目を閉じれば、静かに押し寄せる波の音が心地良く耳を通り抜けていく。僕たち以外にも一足早い夏の到来を楽しみに来た生徒たちが結構いて、その人たちの楽しげな声も聞こえた。
ここ、《海辺フィールド 星海の砂浜》は、つい最近になって解放された新しいフィールドの中の一つだ。僕たちの間ではこのアプデは“海開き”と呼ばれており、学園クエストでも各地の海辺フィールドに行くモノが実装されていたりする。
深呼吸をして、そっと目を開けた。
「――はぁ。ほんと、すごいよなぁ」
焼け付くような太陽の力強さは、衣服を脱いで水着一丁になった僕の上半身が感じている。
LROでも日焼けとかってするのだろうか。だとしたら、やっぱりそれはLRO内のことだけで、現実では何も起きてないのかな。いや、脳が錯覚すれば火傷だってするって聞いたことあるし、リアルでも日焼けしてる可能性はあるぞ。
何はともあれ、LROのVR技術には毎度驚かされてばっかりだ。
「ユウキく~~~~んっ!」
そこでひかりの元気な声が聞こえて、僕はそちらへ振り返る。
「わっ……」
思わず小さな声を上げてしまった。
砂を踏みしめて走ってきたひかりが、嬉しそうに微笑む。
「お待たせしましたっ。この水着、どうですかっ?」
「あ、う、うん……良いと思う。に、似合ってるよ!」
「そ、そうですか? えへへ、嬉しいです。ありがとうございます♪」
いつもは聖職者の法衣姿をしていることが多いひかりだけど、今は可愛らしいピンク色の水着を――それも大胆なビキニタイプのものを着用していた。頭にはいつもの狐耳が着けられたままだったけど、なんだか水着とのギャップがまた可愛い。
そこで改めてひかりの胸が本当に――とても、立派に、見事に、素晴らしく実っていたことを目の当たりにして、ついそちらへと視線が引き寄せられたが、僕は鋼の意志でもって視線を逸らした。
――ああ! もっと可愛いねとか言えばよかったのに! ほんと情けない!
「えへへ。NPCさんのレンタル水着屋さんでたくさん種類があったんですけど、メイちゃんに選んでもらったんですよ~。わたしもお気に入りなんです♪」
髪を揺らして、くる、と一回転するひかり。
すると同時にその立派なお胸もぽよよんと揺れてしまったものだから、僕の目はまたそちらへ向いてしまう。
――や、やばい。このままひかりと一緒にいたらなんかやばい! というか水着やばい! いやそもそもひかりがやばい! やばすぎてちゃんと見られない! 何この子反則じゃない!?
「はははは。早速ユウキくんを悩殺しているね、ひかり。ほら、ナナミもいくよ」
「あたしは別にっ、み、水着じゃなくてもよかったのに……」
と、そこで僕たちの元へメイさんがナナミの手を引いてもやってくる。
当然ながら! 二人もまた水着姿なわけで!
「こんな常夏の楽園に来て何を言ってるのさナナミ。ほら、今日くらいは商売のことも忘れて年相応のJKらしくはしゃごうよっ☆」
「だからさぁ、あたしそういうのあんま得意じゃないんだって」
「まぁまぁそう言わず。青春は待ってくれないんだよっ! 三回しか訪れないJKの夏を、LROの中で楽しんじゃおう! ビーチバレーとかスイカ割りとかイベント盛りだくさんだよ! ね?」
「ああもうわかったよ暑苦しい! ってか、あんまりあたしは見るなよなっ!」
「おや? じゃあちょっとは見ても良いってことだね。よかったねユウキくん~♪ あ、メイさんは別にどれだけ見てもらっても構わないからね? さぁどうぞ♥」
メイさんがモデルさんみたいに決まったポーズでウィンクをして、頭のウサ耳がぴょこんと揺れる。
メイさんの水着はひかりと同じビキニタイプの……か、かなり布面積が少ないタイプのもので、なんというかその、すごい色っぽい感じで、だからこそメイさんのスタイルの良さがすごくよくわかって、僕の目は自然と釘付けになる。頭のウサ耳がまたさらに良い味付けをしているというか、こう、現実じゃありえない組み合わせが視覚的にドキドキさを増していた。
そこでメイさんがさっきのひかりみたいに一回転して、その本物のモデルさんも顔負けなんじゃないかと思う綺麗さにただただ感嘆するしかなかった。思わず拝みそうになる。
「やだ、ユーくんたら。昼間からそんな目でメイを見て……♥ もう、二人きりになるまで我慢してね……?」
「――ぶっ! ちょ、ななな何言ってんですか! 変な冗談いわな――」
というところまで言って、僕はメイさんがわずかに震えていることに気づいた。あ、あれ? どうしたんだろ?
なんて思っていると、ナナミがいつもみたいに呆れたため息をつき、それから先ほどのお返しとばかりにニヤつきながら言った。
「つーかメイ、震えてるじゃん。ああ、そういやさっき、『大胆なマイクロビキニなんて着て純情なユウキくんに引かれたらどうしよう』って別の水着にしようか本気で悩んでたもんな。それでか」
「それ言っちゃダメなやつだよナナミ~! メイさんのセクシーキャラが壊れちゃう~! ああ~~ユウキくんそんな目で見ないでぇ~!」
「元々そんなキャラじゃねーから安心しろって……」
意外な話を聞いてしまった呆然とする僕と、ため息をつくナナミ。
そんなナナミの水着は可愛らしいワンピースタイプのもので、白い花柄が南国っぽくてよく映えたし、ひらひらしたフリルのスカートがついているのもキュートだ。ナナミは唯一ケモ耳を着けていないから、こうして水着姿になるとリアルでの水着姿とほとんど変わらない感じで自然だった。
そんな僕の視線に気づいたナナミさんが、さっと手で身体を隠しながらジト目を向けてきて言った。
「べ、別にこれあたしが選んだんじゃないからな。ひかりのと一緒にメイが選んだんだよ。好きでこんな可愛いの着てるわけじゃないからなっ!」
「あ、そ、そうなんだ。でも、別に言い訳しなくてもいいのに。似合ってると思うよ」
「んなっ……だ、だからそういうことすぐ言うなっ!」
真っ赤になって怒鳴るナナミ。
でも、たぶん怒ってはないんだと思う。最近になってナナミの性格がわかってきたような気がする。
そこで復活していたメイさんがナナミの背後から言った。
「あらあら? そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないナナミ。メイさんが選んだ水着、バッチリ似合っていてとっても可愛いよ♪ ほらほら視線ちょうだい? スクショとっておこうよ♥」
「やめろ! 絶対撮るなよ! 絶対だからな!」
「うんうんっ、そうですよナナミちゃん。とってもとっても似合っていて、すっごくすっごく可愛いです! 記念写真とっておきましょ~!」
「そ、そんなことないって……ひかりの方が、ずっと可愛いだろ……」
「みんな違ってみんな可愛いということだね! うんうん、メイさん眼福だよ♥」
手を組み合わせながら満足にニコニコ顔でくねくねするメイさん。うわぁ本当に嬉しそうだ。
とか思っていたら、メイさんは「あっ」と何かに気付いてパン、と手を叩き、
「そうだそうだ。水着のお披露目もしたところだし、ここで定番の質問もしておこっかな~?」
そんなことを言って、なぜか僕へと視線を向けてくる。
そしてメイさんはニヤ、と怪しい笑みを浮かべた。
――や、やばい。あれはよからぬ企みをしている顔だ!
嫌な予感がして逃げようとした僕の腕を、メイさんががっちりとホールド。その際に柔らかいものが当たって思わずぶるっと震えてしまう。
「逃げちゃダぁメぇ~♥ さぁユウキくん、こっちにおいで~?」
「う、うわああああ!」
優しくあまぁい声のメイさんに捕まった僕は、しかしこれからよからぬことが起こるだろう予感に既に怯えていた――。




