それぞれの戦い
空気を切り裂き、金属が甲高い音を響かせ続けた。
足を踏み込み、左の短刀で横薙ぎに頭部を狙う。ランスがそれを後方へ受け流す。
衝撃で左腕が弾かれたところへ、鋭い突きが眼前に飛び込んでくる。
サイドステップでかわすと、左頬のすぐ横を凄まじい風切り音が通過。大きく生まれた横腹の隙へ双刀を振るう。
まだ突きの慣性が残っている。レイジさんは動けない。
「――ははっ!」
しかし。
前傾姿勢だったはずのレイジさんは、笑いながら身軽に後ろへステップ。
その手に握られているのは、先ほどより一回り以上も短くなったランス。
――着脱武器!?
前方に落下したランスの抜け殻を一瞥し、すぐに視線を戻す。
レイジさんは口角を上げたまま――その細身のランスで僕を突く。
「《ランス・ポイント》!!』
「くっ!」
前に勢いがつきすぎている。
咄嗟の判断で前方に飛んだ僕は、そのままレイジさんを飛び越えて着地。
すぐに振り返って構える。
レイジさんは着脱した抜け殻にランスを差し込み、ガチャン、と大きな音が鳴ってランスは元の大きさへ戻った。
くそ、見たことのない新型の槍だと思ってたけど、あんな使い方が出来るなんて想像もしてなかった!
「はははっ! 楽しいねユウキくん! こんなに肌がひりつくような感覚の戦いは初めてだよ! 震える……震えるねっ!!」
その目は、心から勝負を楽しむ愉悦感に満ちている。
この人は生粋の戦士だ。
勝ち負けがどうこうじゃない。僕と、真剣に戦うことを悦んでいる。
おそらくレイジさんは今、一種のゾーンに入った状態だろう。そう思えるだけ動きが異常に洗練されている。僕に完全回避がなければ、とっくにやられていてもおかしくない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が上がる。それだけ集中していた証拠だった。もしかしたら呼吸なんて忘れてしまっていたのかもしれない。
双刀を握り直す。
視線を横へ移せば、そちらではひかりたちもまた同じように戦っていた。
「やあああっ!」
前衛役のひかりが飛び跳ねながら両手で杖を叩きつけ、ビードルさんがそれを盾で防ぐ。
「――ふんっ! 殴りクレとは珍しいな。お前はなぜそのような道を選ぶ」
「はい! ユウキくんと……みんなと一緒に戦いたいからです! クレリックさんなら役に立つって、教えて……もらいましたっ! けど、支援で役に立てるって意味だとは、知らなかったんです! やあっ!」
「それで殴りクレになったと? ――むっ!?」
か弱く見えるひかりの一撃が、その巨大な盾に大きな亀裂を入れる。ビードルさんは目を見開いてうろたえた。
「ば、馬鹿な……耐久値が底を尽きた、だと……? ふ、ふはははは! 面白い女子だ! そしてなかなか良いダメをしている! もうこれはいらん。かかってこい!」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
壊れた盾を捨てて身構えるビードルさん。戦闘中にお礼を言いながら杖を振り回すひかりに、近くの楓さんがくすくすと笑う。
「うふふ。そちらのギルドには楽しい子が多いのねぇ~。け・れ・ど、こちらも負けてあげるわけにはいかないの」
「ああ、みんな自慢のギルドメンバーだよ。だから遠慮せず勝ちにおいで。全力を出してもらわないと、メイさんたちが勝ってしまうよ?」
「あらあら。それじゃあ遠慮なく~。《ヴォイド・カーム》」
楓さんの闇呪文――ゆらゆらと揺れる暗黒の塊が、メイさんではなくひかりを襲ったが――、
「させないよ。《ネージュ・ミスト》」
メイさんの無詠唱氷結呪文がそれを空間ごと凍結させて打ち消す。パラパラと氷の破片が散り、闇は消滅した。
「メイさんじゃなくひかりを狙うんだね。さすがは生徒会の影の支配者、楓だね。聖属性の光に闇呪文だなんて、綺麗な顔をして恐ろしく冷静な対応だね」
「褒め言葉として受け取っていいのよねぇ~? それとぉ、先ほどから思っていたのだけれど~」
「ん? 何だい?」
「うふふ。私を呼び捨てにするなんてぇ、学園でもこの世界でもあなたくらいのものだから嬉しいわぁ~。お友達になれるかしら?」
「あはは、もちろんだよ楓。メイさんは可愛くてキュートでガーリーな乙女が大好きだけど、綺麗な人だって好みだよ!」
「綺麗? ありがとう~。けれど……それは私が可愛くないってことなのかしら~? 《ダーク・ハンド》」
「《フローズン・ロック》。はは、言葉の綾じゃないか。楓もやっぱり可愛い子だね。あっ、今度メイさんの秘蔵着せ替え装備を貸してあげるよ! それで可愛くコーディネートしてあげる!」
「本当~? それは楽しみねぇ~。《ネクロ・ホール》」
「メイさんも楽しみだよ! 《シャイニング・レイ》」
「「うふふふふ!」」
二人の魔法使いがお互いにいろいろ含んだ笑顔で威嚇しあい、お互いの呪文で相殺しまくる中――
なんと、ナナミがその手に持った《ピコピコハンマー》でるぅ子さんを圧倒していた。
「ほらほら次行くぜ? 《ラピス・ハンマー》!!」
「きゃあっ!」
ナナミのそのスキルは、どこからともなく『商売神ヘルメス』を召還して強大な一撃をお見舞いする《マーチャント》の特殊攻撃スキル。ただし、召還には“お布施”が必要であり、一度使うたびに相当なラピスを消費する。それは攻撃能力が貧弱な商人にとってありがたいスキルではあったが、しかし商人の命でもあるラピスを使う、諸刃の剣。
そう。ナナミがGVGのために取ったスキルとはこのことで、このスキルを活かすためにナナミは今も着けているあの《ヘルメスの耳飾り》を欲しがっていたんだ。あの耳飾りはスキルのラピス消費を減らしてくれるから!
「くっ! ま、まさか生産型の《マーチャント》がこんな攻撃力を持っているなんて……! 《サイレンス・アロー》!」
「痛っ! けどあいにくこの鎧は沈黙無効なんでね。んでこっちの靴は毒無効。このださいヘルムはスタン無効。このスキルだけがあたしの武器な以上、そんくらいの対策してんだよ。《ラピス・ハンマー》!」
バックステップを距離をとろうとしたるぅ子さんだけど、ナナミさんはそうはさせないと接近戦を挑み続けていた。遠距離の《ハンター》は本当に怖いけど、近づけば隙だって見えてくる。
何より《ラピス・ハンマー》の威力が絶大で、るぅ子さんもだいぶ戸惑っているようだ。
「きゃあああっ! あ、あなたはお金稼ぎが趣味のキャラではないのですか? そのスキルを使っていればどんどんお金がなくなりますよ!」
「ここで引くのは商売人として負けたみたいでなんかイヤなんだよ。そっちこそ矢と罠使いすぎて経費ヤバイんじゃないの? 《ハンター》みたいなたっけー装備と消耗品が必要な散財狩人さんがちゃんと管理出来てんのか?」
「し、失礼なっ! こちらにだって生徒会会計としてのプライドがあります! 私の管理は完璧ですよ! それに! 私だって本当は《マーチャント》になりたかったのに、楓さんの趣味でこうなったんですっ!」
「な、なんか同情するけど……まぁ遠慮なくやらせてもらうわ!」
「どうぞ! こちらもそうさせていただきます!」
「《ラピス・ハンマー》!!」
「《ハウンド・アロー》!!」
そんな、頼もしい仲間たちの戦いを見て、僕は鼓舞されていた。
負けていられない……!




