開戦
《PVPフィールド 王城》
僕たちの前方に広がるのは、重厚な石造りの王城とそこへ伸びる迷路のような通路。背後では大きな門が閉じられていた。
どうやら僕たちは王城へ乗り込んだ形になるのだろう。ということは、おそらく相手の生徒会ギルドは王城の中へ転送されているはずだ。
「生徒会という“王”へ立ち向かう一般人、という構図かなぁこれは」
メイさんが愉快そうにそんなことをつぶやき、僕たちもちょっと笑う。おかげでみんなの緊張がほぐれたのがわかって、さすがメイさんだなってこんなところでも尊敬させられる。
「とにかく、まずは先へ進もうか。相手に待ち構える準備をさせる時間を与えることはないからね。作戦通り、四人離れずに」
メイさんの指示に従い、僕たちは四人固まったままで迷路へ突入。
しかし道中、矢の罠があったり落とし穴が設置されていたりして、それにひかりが掛かりまくってしまった。どうやら《ハンター》に転職済みのるぅ子さんが既に罠を仕掛けていたようで、慎重に進まざるを得なくなってしまう。
「うう、わたしのせいでごめんなさい」
「ひかりのせいじゃないって。これだけ仕掛けられてたら無理もないよ。でも、ここにあるってことはわざわざ外に出てきたか、もしくは生徒会も同じように外から始まったのかもしれないね」
「そんなことよりさ、これ、あっちの方が有利なマップじゃねーか? なんであたしたちがわざわざ入り込んでるとこ通って敵の根城に行かなきゃいけねーんだよ」
「メイさん情報によるとね、GVGマップには集団戦を盛り上げるためにあえて有利不利が設定されているらしいよ。で、基本的には挑戦者側が不利になるみたいだね」
「くっそ、なんだよそれ。あーもーこういうMAPだと《ハンター》ホントうぜぇな!」
「遠距離戦や罠の間接技が得意なジョブだからね。それよりみんな、そろそろ迷路を抜けるはずだよ。準備はいいかな?」
「はい」「は、はい!」「はいよ」
メイさんに言われたとおり、駆けながら記憶を呼び戻す。先ほどここへ転送される前に、僕たちは控え室で生徒会向けの作戦会議をしていたのだ。
生徒会ギルドは《ブレイドマスター》のレイジさんが安定した攻撃役を担い、《パラディン》のビードルさんが圧倒的な防御力の壁として立ちはだかる。加えて《サモンエレメンタラー》に転職した楓さんによる補助火力とこちらの妨害、回復の要である《クレリック》系こそいないものの、《サモンエレメンタラー》は回復呪文も使えるからその隙もないと言っていいだろう。そして《ハンター》になったるぅ子さんが中・後衛から圧倒的なスピードの火力で迫る。《アーチャー》はそうでもないし、《ハンター》は一見罠を用いたトリッキーな職だと思われがちだけど、その弓矢と罠を合わせた瞬間火力は剣士職よりも高い攻撃的なジョブなんだ。正直、かなりバランスの良い編成だと思う。
一方で、僕たちはやはりピーキーだ。
僕のようなLUK剣士と、ひかりのような戦闘力重視の殴り《クレリック》。ナナミは生産予定の《マーチャント》だから、王道のキャラメイクでダメージソースを確保出来るのがメイさんしかいない。だから、メイさん頼りで強引に戦うしかない。
――と、相手も観客のみんなも思っているだろう。
実際に、今までの模擬戦なんかで僕はあえて活躍しないようにしていた。時折絶対回避を使って壁役に徹し、ひかりも攻撃にはほとんど参加せずに数少ない支援呪文のみを多用。メイさんの呪文で敵を制圧する、という形を取っていたのだ。だから負けることも多くあった。
しかし、それこそがメイさんの作戦。
すべてはこの日のためのもの。
多くの参加者たちに僕たちのプレイスタイルはこうだと印象づけておき、いざ本番では僕が全力で叩きにいき、ひかりも実は殴りクレであるその力を存分に振るえる。
出来る限り大会の後半まではそれを隠してはおきたかったが、一回戦の相手が相手なだけに、それは不可能だろう。出し惜しみしていられない。けど、初戦だからこそ、この作戦は最も効果的に働いてくれるはずだ。相手が困惑してくれている間に決着をつける。
――以上。ここまでは戦略の話。
具体的にどう勝つかという戦術の話は――
「みんな、今のうちに作戦を確認しておこう」
メイさんが走りながらそう言って、僕たちは一様に頷く。
「まずは、生徒会の盾であるビードルくんを孤立させ、四人の力で撃破する。壁役の彼は物理防御はもちろん、魔法防御すら引いちゃうくらい高いからね。彼が全力で生徒会を守っている限り、おそらくはユウキくんのクリティカル連撃すら相当な時間ねばるはずだ。その間にユウキくんがあちらの呪文で狙われる可能性が高いからね」
「だね。けど、逆に言えばビードルさんさえいなければ向こうの防御力はがた落ちする。そうすれば僕たちにもチャンスがある、だよね?」
「うん、そういうこと♪」
今回のGVG限定ルールにおいては、一度倒れた者をスキルやアイテムで復活させることは出来ない。つまり、厄介な者ほど早めに片付けておけば後が楽になるんだ。そもそも、回復剤やブースト系アイテムの使用は禁止されていて、自分たちの力のみで戦わなければならない。
だからこそ、本来なら回復役の《クレリック》系がものすごく重要なんだけど……僕たちは僕たちでやってくしかない!
「そして三人になった彼らは集団戦を挑まないはずだ。盾がいない状況では不利だからね。となると怖いのは単独行動を始めるレイジくんだ。彼にタイマンで狙われてしまえば、メイさんやひかり、ナナミでは到底歯が立たないだろう」
ひかりとナナミさんがそれはもうこくこくと素早くうなずく。
「そこでメイさんたちは常に四人一体となり、集団行動で有利な状況を保ち続ける。その間に上手くレイジくん以外の二人を見つければ各個撃破も可能だろうし、向こうも集団行動をとるというのなら、時間切れを待って勝つ方法もある。なにはともあれ、まずはビードルくんを狙おう。そして四人が離れないこと。これが大事かな」
「うん」「はいっ」「りょかい」
一斉に返事をする僕たち。
「さぁ、いよいよ突入だよ」
メイさんの声を聞きながら、僕たちは迷路を抜け、そして王城の門をくぐり抜けた。
そして到着したのは、だだっ広い大広間である。
「――やぁ。待っていたよ」
そこで僕たちを出迎えたのは、レイジさん率いる生徒会ギルドの四人。当然ながら全員一緒で、先頭には巨大な盾を構えたビードルさんが仁王立ちしている。
レイジさんは見たことのない新型の大きなランスを握りしめながら、ビードルさんの隣に立って言った。
「まさか初戦で君たちと戦えるなんて思っていなかったからね。少し興奮してしまっているよ。ユウキくんはどうだい?」
「……はい。僕もです」
「それは嬉しいな。さて、それじゃあ勝負を始めようか。正々堂々、楽しくね!」
僕は双刀を抜き取り、一歩前に出て臨戦態勢に入る。
いよいよ、生徒会とのバトルが始まる――!




