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仮想学園の幸運剣士(ラッキーナイト) ~リンク・リング・オンライン冒険譚~  作者: 灯色ひろ
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GVGイベント開幕

《王城 剣帝の間》


 GVGイベントが行われる前日。

 僕は《ブレイドマスター》への二次転職を行うため、《ブレイドマスター》のギルド長NPC――《剣帝》のいる王城へとやってきていた。城では、別の部屋で《パラディン》への二次転職も可能だ。


「ふぅ……」


 深呼吸をして心を落ち着ける。

 少しでも強くなるために、今、この試練を乗り越えておく必要があった。

 僕は明日のGVGイベントに向けて、レイジさんやビードルさん、他にも強い人たちに対抗するため、転職試験を受けにきていた。

 二次職になれば基本的なステータスの底上げがされるし、新たなスキルも得られる。さすがに明日までにいくつもスキルをとって完成させるなんて無理だろうけど、少なくとも《ソードマン》のままよりは有利に戦えるはずだ。それに、昨日まで一次職だったやつが当日二次職になって現れたら、僕たちを研究していた相手にはまず精神的な意味で先制出来る。


「――では、これより最終試験を執り行う。この私と戦い、一筋でも浴びせることが出来れば、晴れて君は《ブレイドマスター》の称号を得る。だが、負ければ死、あるのみ。どうだ? 覚悟は出来ているか?」


 眼前の《剣帝》が腰の剣を抜き、心構えを聞いてくる。


「ユウキくん! ファイトです~っ!」

「ふっふっふ。目に物見せてあげなさいユウキくん」

「いーからさっさと終わらせて明日の準備するぞ」


 ひかり、メイさん、ナナミさんが声をかけてくれる。

 僕は笑ってうなずいた。


「はい、お願いします!」

「良い目だ。では参る!」


 双刀を握りしめ、《剣帝》に跳び込む――!



 *****NOW LOADING*****



《コロセウム》


 明くる休日。

 いよいよやってきた《第一回公式GVGイベント》の開催日だ!


「も、もうすぐですねっ。ユウキくん、メイちゃん、ナナミちゃんっ」

「ふふ、落ち着いていこうよひかり。メイさんたちの実力なら、きっと良い結果が出るはずさ!」

「あたしはさっさと負けて終わってもいいんだけどな」

「僕も頑張ります――ってナナミ諦めるの早いなぁ」

「わ、わたしたちならきっと勝てますよね? ファイトファイトですよねっ! よ~し、えいえいおー!

 ひかりがムードメーカーになってくれたおかげで、僕たち四人の間に流れる緊張の空気は緩和された。本当に、ひかりはずっと僕たちの支えになってくれている。

 そんな僕たちが今いるのは、GVGの会場となるあの《コロセウム》である。

 もちろん、周りには僕たち以外にもGVGに参加する生徒たちが大勢いて、コロセウムの中は凄まじい熱気に満ちていた。昔、リアルで母さんに連れていかれた《Purely's》というアイドルバンドのライブのときみたいな感じだ。

 五万人のうちどれだけが参加しているかはわからないけど……半分くらいは来ているんじゃないだろうか。まぁ、観客席に座っている人はGVGの参加者じゃなくて、観戦に来ているだけの人が多いだろうけど。


「――やぁ、ユウキくん」

「え? あ、レイジさん」


 声をかけられてそちらを見れば、レイジさんが手を挙げて近づいてきていた。今回は他の生徒会メンバーの姿はない。

 僕がレイジさんの周囲を確認したことで察したのだろう。レイジさんは言った。


「他のみんなはもう控え室に向かっているよ。その前に君たちの姿を見かけたから、僕だけでも少し挨拶をと思ってね」

「そうだったんですか。イベントの準備、お疲れ様でした。すごい人ですよね」

「ねぎらいの言葉ありがとう。今回は学園側と運営側でほとんどやってくれたけれどね。それにしてもユウキくん……さらに強くなったみたいだね?」


 レイジさんが頭からつま先まで僕をさーっと見下ろし、ニヤ、と笑う。


「僕と同じ《ブレイドマスター》を選んだか。うん、よく似合っている」

「ありがとうございます。僕も、ようやく二次職になれました」


 そこで僕は改めて自分の姿を見下ろした。

肩甲ポールドロン篭手ガントレット胸当て(ブレストプレート)脛当て(グリーヴ)鉄靴ソールレット。主要部だけを守る白銀の鎧と、背中には鮮烈な赤のマント。しかし、武器は変わらず双刀だ。アリアさんから貰った自慢の剣だからね。

 僕たち《ブレイドマスター》は重装備の可能な《パラディン》とは違い、あまり重たい鎧は装備出来ないし、重量のある武器はキツいペナルティがかかる。しかし、最低限の場所だけを守ることで、《ソードマン》の身軽な動きやすさを残したまま、《パラディン》にも匹敵する攻撃力を兼ね備えることの可能な万能さを持ち合わせていた。

 何より双刀が扱いやすいし、クリティカル補正値が《ストライダー》についで高い。そんな総合的な利点が、僕が《ブレイドマスター》に転職した決めてだ。


「ユウキくんだけじゃないね。他のみんなも、一様に明るく良い顔をしている。特にメイビィくんは……ウィザードに二次転職して、ますます自信がついたようだね」

「ふふんっ。メイさんだってみんなのリーダーとして負けてられませんからねっ。うちの可愛い子たちを守るためなら、メイさんMPが尽きるまで戦い続けるよ!」

「いやHPも尽きるまで戦えよ」

「ナ、ナナミちゃん厳しいですっ」

「はは、期待しているよ。ひかりくんとナナミくんにもね」

「は、はい! 頑張ります!」

「いや、あたしに期待されても困るから……」


 杖を構え、ドヤ顔で鼻息を荒くするメイさんと、多少プレッシャーを感じているっぽいひかり。そして一人だけ冷静に返すナナミさん。

 メイさんもまた、僕が転職したすぐ後に《メイジ》から《ウィザード》への転職試験を受け、見事に一発合格。外見の装備は以前より豪華なウィザードの専用のモノになっていて、けれどやっぱり胸元が大胆に開いていたり、スカートは短かったりと目のやり場に困る格好のままだ。だけどその火力は以前よりグッと上昇しており、とても頼りになる術士である。

 レイジさんはとても嬉しそうに何度かうなずき、


「今日は楽しいイベントになりそうだ。――と、そろそろ始まるね」


 レイジさんが言ったタイミングで、ポンポンポンポーンと高い音が響き、視界の端に『GVGイベント、まもなく開始します』とのログが流れる。

 ほどなくしてコロセウムの巨大スクリーンにも情報が流れ、おそらくは生徒会のるぅ子さんによるものだろうアナウンスが流れた。



『お待たせいたしました。まもなく第一回、公式GVGイベントが開催されます。

 参加ギルドの皆さまは、各転送ゲートからそれぞれの控え室へ移動してください。

 観戦者の皆さまは、コロセウム内の観客席にて各バトルルームの観戦をお楽しみください。なお、優勝ギルドを予想する《リンク・ポイント》争奪クイズもただいまより開催されております。詳細は生徒会メールにて。是非ご参加ください。

 また、現在第一回戦の抽選が終了し、皆さまの元へ対戦相手の通達を始めております。指示に従って転送ゲートをお使い、対戦フィールドへお向かいください。繰り返します。参加ギルドの皆さまは――』



 そのアナウンスの通り、視界にポンッと通達用のウィンドウが立ち上がる。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


『 第一回戦開催のお知らせ

  ギルド:【秘密結社☆ラビットシンドローム】様の対戦相手は、

  ギルド:【生徒会】様となります。

  控え室の転送ゲートより十番ルームへお越し下さい。 』


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「……え?」


 僕の声はかすれていた。

 慌ててみんなの方を見る。

 ひかりもメイさんもナナミさんも、驚愕に目を見開いていた。

 そして――



「……ははは! やっと、やっと戦えるときが来た……僕はとても運が良い! これは本当に楽しいイベントになりそうだね!」



 レイジさんは笑っていた。

 愉快そうに目を輝かせて。


「それじゃあ先に行って待っているよ、ユウキくん。お互いに、良い勝負を――!」


 レイジさんはマントを翻して去って行く。

 残された僕たちはお互いに顔を見合わせて、しかし、呆然としている時間はわずかで終わった。


「まさかの展開だけど……行こうかみんな。とっくに準備は出来ているよね?」

「……はい! 最初から全力、ですよねっ!」

「初戦から運悪すぎだろ。でもま、最初に当たった方が気は楽か……」


 メイさんは不敵に微笑み、ひかりはメラメラとやる気を燃やし、ナナミさんは何かを達観したかのように深い息を吐く。


「ユウキくん!」


 ひかりが僕の手を握る。

 僕も、ひかりの手を握り返した。


「――うん、行こう!」


 僕たちは控え室へ向かい、走る。

 初戦の相手は、いきなりレイジさんが率いるあの生徒会。現状LRO最強プレイヤーと名高いレイジさんがいる生徒会は、当然優勝候補筆頭のギルドだ。確認してみれば、観客たちの優勝予想でも群を抜いてトップである。



「あのレイジさんと……戦う…………僕が……!」



 最強プレイヤーと戦う緊張。そして恐怖。

 だけど、僕は笑っていた。

 心臓が高鳴る。

 視界が広がっていく。

 走るスピードが増した。

 もう、僕には隠すことなんて何もない。

 ひかりがいて、メイさんがいて、ナナミさんがいてくれる。

 この最高のギルドでみんなと一緒にいられる限り、僕はもう、どこまでだって自由に走れる気がした。全力で、レイジさんたちにぶつかることが出来ると確信している。

 それが嬉しくて楽しい。

 だから僕は、笑顔で戦いに向かうことが出来た――。



 *****NOW LOADING*****



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