新たなスタート
夜食を取りながらの作戦会議中。
小柄なのに意外にもたくさん食べるナナミさんがハムカツサンドを手にしながら言った。
「――んぐ。つーかこれ食べて改めて思ったんだけどさ、ひかりって確実に尽くすタイプだろ。これだってカレシに食べてほしくてあんなに頑張って作ってたんだろ?」
「え?」と固まる僕。
「ナ、ナナミちゃんっ! だ、だからユウキくんは彼氏さんとかそういうのじゃなくてっ」
「あーあーそういうことじゃなくてさ。つまり、ひかりは元々支援向きの性格なんじゃないかってことだよ。汎用スキルだって山ほどある中からあえて支援向けの料理を取るわけだしさ。なのに殴りクレになるなんて物好きだなって思ったんだよ」
「あははは、ナナミの言う通り、ひかりは性格的に支援向けな女の子かもしれないね。でもさ、プレイスタイルは人それぞれで自由じゃないか。それはリアルもゲームも同じさ、それに――」
「それに?」
ナナミさんが返して、メイさんは「ふふ」と笑ってから言った。
「メイさんは思うんだよ。ひかりみたいな子が、このLROを一番楽しんでいるんじゃないかなって」
キョトン顔のひかりがその鼻の頭につけていたクリームをメイさんが拭き取り、ひかりが「あっ」と頬を赤らめる。
それは確かに、と思う僕。ナナミさんも「まぁな」と苦笑していた。でも、ひかりだけはよくわかっていないようで赤い顔のまま戸惑っていた。
ある程度MMORPGに親しんだ人間には、なかなかひかりみたいなプレイは出来ない。
やらないんじゃない。したくても出来ないのだ。
自分の中で作られた常識やノウハウによってきつく縛られ、そんなプレイをしても時間の無駄だと、効率が悪いと、だからこうしろと、そんな考えに無意識のうちに支配されてしまう。
だからこそ、ひかりの奔放さが僕たちには眩しい。
でもその当人であるひかりは、自分が特別だなんて思っていない。ひかりはひかりで、真っ直ぐ純粋にプレイしているだけなんだ。それに、自分の眩しさになんて人は気付かないものなんだろう。
するとハムカツを食べ終えたナナミさんが言った。
「まぁ、それでさぁ。ひかりに影響されたってわけでもないけど……実はあたし、いい加減にステとスキル少しくらいはいじってみるかなぁって思ってるんだよね。ステはオール1だし、スキルも露天と売買関連しか取ってないしな」
「へぇ~! それは良い影響だねナナミっ。でも急にどうしたんだい?」
「んー……さすがにあたし、今のままじゃGVGで足引っ張りすぎるだろ。それにほら、G狩りでだってアイテム拾いくらいしかやることないし……みんなに何でもやらせすぎかなって……」
ぼそぼそと小さくなっていくナナミさんの声に、僕たちはちょっと笑ってしまう。
するとナナミさんの顔は一気に赤くなっていき、「やっぱやめる!」と断言するナナミさんを僕たちは必死に説得した。
そしてナナミさんの話を聞いて、僕たちはかなり驚く。それは、現状のステやスキルをほとんどいじらなくても、十分に活躍出来る可能性を持つ話だったからだ。
それを聞いて今度はひかりが立ち上がる。
「ナナミちゃん……すごいです! うん、決めましたっ! わたしも、思いきって新しい支援スキルとっちゃいます!」
「えっ? ちょ、待ってひかり!」
「ストップストップ待てひかり!」
僕とナナミさんが一緒にひかりを止めて、ひかりは「え? え?」と僕たちの顔を見比べて困惑していた。
一人笑っていたメイさんが言う。
「ひかりの気持ちは嬉しいけど、殴りクレのひかりが中途半端に支援スキルをとるともったいないところはあるかもね。支援はスキルツリーも複雑だし、効果の高いスキルを取るには前提としてあまり役に立たないスキルも取らなきゃいけないからね」
「そ、そうなんですか? うう、でも、わたしもみんなの役に立ちたいですっ。友達の《クレリック》さんたちは、すっごく頼りにされてるのに……」
「ひかり……」
ナナミさんもそうだけど、ひかりも、ちゃんとギルドのことを考えてくれている。それがわかるから、僕たちも強引にひかりに「やめろ」なんてことは言えなくなってしまう。けど、むやみにスキルを振ってひかりが困るのは見たくない。
「ふふ、ねぇひかり。それじゃあメイさんたちも一緒に、ひかりにどんなスキルが合うのか考えてみようか。今のスキルツリーと残ってるポイントを教えてもらえるかな? 《メイジ》と《クレリック》のスキル情報なら、メイさんだいぶ詳しくなってきたからね。今のスキルツリー状態でも、GVGで役に立つ支援スキルがあるかもしれない」
「メイちゃん……はい!」
さすがメイさん、と言った感じの対応だった。嬉しそうに笑ったひかりは、僕たちに包み隠さずそれらの情報を教えてくれる。
そしてすべてを踏まえた結果、ある結論が出た。
「……うん。今のひかりにはそのスキルが一番合いそうだし、それは僕も助かるかも!」
「だなぁ。というかもうそれしかないだろ。スキルツリーも圧迫しないし、残ってるポイントでもなんとかなる。その上で一番役立ちそうだしな」
「そうだね。どうかなひかり? あくまでもメイさんたちの考えではあるから、もちろんひかりがそうしたくないならいいんだよ」
メイさんがプレッシャーをかけないように優しく話すと、ひかりはすぐにぶんぶんと首を横に振って言った。
「みんなが一所懸命考えてくれたんです。わたし、そうしますっ。それに、わたし自身もそうしたいって思いますから!」
決して僕たちに気を遣った結論ではない。
それがひかりの笑顔でわかったから、僕もメイさんもナナミさんも安堵していた。
「――というわけで取りました~! 早速試しに使ってみますね!」
ひかりが杖を握って呪文の詠唱を始め、白光に包まれていく。
みんながみんな、このギルドのため、みんなのためを考えて動いている。
僕はもう、決意していた。
自分に出来ること。自分がやりたいこと。
このLUKチートの力は強い。けれど絶対ではないし、すべての使い方は僕次第だ。
今までの僕なら、この力の影響を考え、常にどこかでこの世界のみんなに遠慮していた。みんなの顔の色ばかりうかがっていた。せっかくLROの世界にきたのに。力を得たのに。それは、リアルでの弱い僕と何も変わらない。
けど……ひかりとメイさんとナナミさんが認めてくれた。
それだけで、十分だ。
自分のためじゃない。
ひかりと、メイさんと、ナナミさんのために戦う。
そう思えるようになっただけで、僕は戦う覚悟が出来た。
勝ちたい。
GVGイベントで優勝して、それを堂々と誇れるような人間になりたい。
だから、もっと強くなるために、僕も成長しようと思う。
そんな想いを決意したところで、詠唱を終えたひかりの杖から温かい光が溢れた――。
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