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仮想学園の幸運剣士(ラッキーナイト) ~リンク・リング・オンライン冒険譚~  作者: 灯色ひろ
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反省会での決意

 すべての模擬戦が終了した頃は、もう夕方。

 僕たち【秘密結社☆ラビットシンドローム】ギルドの四人は、いつものたまり場で今日の反省会を行っていた。

 メイさんが「うーん」と肘を抱えながら話す。


「一勝二敗かぁ。さすがにいきなりすぎたかもしれないけど、良い経験になったね」


 そう、僕たちは結局負け越してしまった。だからこその『反省会』なのである。

 ナナミさんが言った。


「だから言ったじゃん……あたしは役に立たないってさ……」

「ナナミのせいじゃないよ~。そもそも《マーチャント》の大体の型は対人戦向きではないだろうしね。ほらほら、ユウキくんもそんなに落ち込まないの。君は注目されすぎてどの試合でも集中攻撃されていたからね。仕方ないさ。むしろ、守ってくれようとして感謝してるよ」

「ほんとにごめん……」

「ユウキくんは悪くないですっ。わたしだって、ほとんど役に立てなくて……本当なら、わたしが《クレリック》としてみんなの支援をしなきゃいけなかったのに……」

「も~だからひかりだって悪くないんだよ? すべての責任はギルドマスターであるメイさんにあるんだからねっ。メイさんが試合前に変なことして相手の士気を高めちゃったのも悪いんだからっ! お願いだからもっとメイさんに責任感じさせてよ~! というわけだから、そろそろ反省はやめよっか。ね?」


 メイさんの優しい言葉は嬉しいけど、むしろそれが傷口に染みる。なにせ今回の模擬戦で敵を倒せたのは、全てメイさんの呪文による大火力だけだったからだ。

 それに……何より、負け越してしまったのは僕のせいだと、ハッキリ僕自身で自覚出来ている。


「……メイさん。違うよ。悪いのは僕だよ。全部、僕なんだ」

「え? ユ、ユウキくん?」


 本当なら、僕が最前線でみんなへの攻撃を防ぎつつ、相手の数を減らすはずだった。

 けれど、三組のギルドはどこもまず真っ先に僕を狙い、なんとかして四対一で僕を排除するという形を作ってきた。もちろんそれは僕が一番厄介であろうことと、奴隷ハーレムギルド(濡れ衣)の主として怒りを買っていたこともある。

 けど、だからってそう簡単に僕は負けない。

 むしろ、正直に言えばあの程度ならなんとでもなった(・・・・・・・・)

 物理攻撃は全て回避出来たし、メイさんほど大火力な《メイジ》もいなかった。《アーチャー》系の弓や物理ダメージの罠も僕には効果がないことが確認出来ていた。《ソードマン》にもレイジさんほどの人はいなかったし、《シーフ》の状態異常攻撃もアイテムでなんとかなった。全部、大した問題じゃなかったし、楽に勝てる相手だったと思う。

 だから、一戦目は余裕だった。

 相手は《ソードマン》四人というガチガチの編成で、おそらく一気に僕を片付けて終わらせるつもりだったんだろう。でも、それは僕にとってすごく都合が良かったから、絶対回避しつつの《双刀独楽》スキルを連続使用しているだけで終わった。あのときは、《幸運剣士》の力が見られた、ということで会場もすごく盛り上がっていた。


 けれど、一戦目が終わったとき――。



『――くそっ! なんだよあの威力! ホントに双刀かよ!』

『――全部クリダメだったな……あれ、まとめると威力増すんだよ……』

『――だからって全部クリとか強すぎないか? 攻撃も全然当たんねーしさ。たったの一発もだぜ?』

『――もう反則レベルでしょ……どういうステ振りしてんだ……』


 試合を終えた対戦相手のギルドメンバーたちはそんなことを言っていて、最後には、


『――あーあ。あんなチートが相手じゃ無理だって。GVGはもう棄権しとこうぜ』



 四人ともが、みんな意気消沈して会場を去って行った。


 その後ろ姿を見たとき……僕は、戦う意志を失ってしまった。


 だから二戦目と三戦目は、ほとんど抵抗もしない僕に相手ギルドの《メイジ》たちの呪文が集中し、倒れてしまった。そのままひかりがやられ、ナナミさんもやられ、最後に最後衛のメイさんがトドメを食らう、という流れが決まってしまったのだ。

 勝てる試合だったのに。

 みんなに迷惑をかけることがわかっていて、それでも僕は、何も出来なかった。


「……僕のせいで……」


 拳を握る。

 悔しかった。

 負けるのが。

 全力を出せないことが。

 何より――ひかりたちを守ることが出来なかったことが!

 でも僕は、どうしても、彼らを攻撃出来なかった――。

 一戦目とは様子が変わった僕のことはわかっているはずなのに、メイさんもナナミさんも、僕に何か文句を言ってくることはない。それが逆に辛かった。


 すると――震える僕の拳を、ひかりがその両手でそっと包みこんでくれた。


「……ひかり?」


 ひかりは笑っていた。


「ユウキくんは、やっぱり優しい人ですね」

「……え?」

「わたし、対人戦なんて初めてでしたから……ゲームだってわかってはいても、そんなに痛みや衝撃が来るわけじゃないってわかってても、なんだかこわくて、相手の人を叩けなかったんです。それに、叩かれるのもこわかったです。でも、ユウキくんは一人でわたしたちを守ろうとしてくれました」

「ひかり……」

「それにユウキくんは……二戦目から、相手の人を攻撃しようとしなかったですよね?」

「…………」


 無言で応える。どうやらこの相方にもバレていたようだ。

 ひかりは続けた。


「だけど、ユウキくんはわたしみたいにこわがっていたんじゃなくって……相手の人を気遣って叩けなかったんじゃないかなぁって、わたし、そう思ったんですっ」

「え……」

「一戦目のユウキくん、すごかったです! とっても強かったです! でも……相手のギルドの人たちは、負けてしまって、すごく悲しそうでした。だから……だからユウキくんは二戦目から攻撃をしなかったんじゃないかなって……あっ、全部わたしの勝手な想像なんですけど、えへへっ」


 ……なんで。

 なんで、そんなことまで――

 顔を伏せた僕に、メイさんが明るく言った。


「ユーウキくんっ。言ったでしょ? すべての責任はメイさんにあるんだって。それに、君の様子がおかしかったことくらい、メイさんたちにだってもちろんわかっていたよ? 二戦目が終わったときなんて、ナナミが君のことを心配してメイさんを頼ってきたくらいだからね♪」

「ちょ、言うなよ! つか別に心配したんじゃないし! あいつがしっかりしてないとあたしがすぐやられるから!」

「ナナミは本当に可愛いね♪ 妹にしたいなぁ♥」

「可愛がるな! 同い年だろーが!」


 メイさんがナナミさんの頭を撫で、妹扱いされたナナミさんがぷりぷりと怒る。

 メイさんは僕の目を見て言った。


「ユウキくん。よかったら、戦えなかった事情を話してはもらえないかな? あ、もちろん話したくなければいいんだよ? 話してくれないからって、メイさんがユウキくんを嫌いになるわけないから安心して♪ いじけはするかもしれないけどね~?」

「メイさん……」

「ふふ。私はみんなのギルドマスターだからね。ギルドメンバーの悩みは、このメイさんの悩みでもあるんだよ。だから、ユウキくんにも頼ってほしいな。いつでもこの胸に飛び込んでおいでよ」


 両手を広げていつもみたいに笑ってくれるメイさん。

 ひかりも僕の手を優しく握ったままで、ナナミさんも僕の言葉を待ってくれている。


「……みんな」



 ――この人たちに、いつまですべてを隠しておくつもりなんだ?


 ――お前は三年間、ずっとこの人たちを騙し続けるつもりか?



 ずっと胸の奥で引っかかっていたトゲに――そんな自問に、僕は、ようやく答えを出せた。


 GMのMOMO*さんには秘密にしてほしいと言われていたけど。

 だけど、もう隠しておくわけにはいかない。いや、隠していたくないんだ。

 もしかしたら、僕はそれがバレたときGMに処罰されてしまうかもしれないし、LROから追い出されてしまうのかもしれない。チートの力を使ってるって、みんなに貶されるのかもしれない。嫌われてしまうのかもしれない。また、独りに戻るのかもしれない。

 それは怖かった。


 けれど、それでも。

 思ったんだ。


 この人たちになら、どんな反応をされても後悔しない――!

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