中間考査終了
それからも僕はちょくちょくとメイさんに勉強を見てもらいつつ、中間考査のために勉強の時間を増やしていたため、今までほど狩りやクエストをこなしたりは出来なかった。
LROは子どもにとって自由な最高の空間だと思ってたけど……ゲームの中だろうがテスト前はこうして焦った生徒たちが勉強モードになるのは変わらないらしく、他のみんなも放課後は勉強関係のクエストだけ受けてすぐ帰宅、という流れが定番になっていった。だって成績ヤバイと最悪の場合はログアウトさせられることだってあるわけだし、そりゃこの世界にいるために必死にもなる! ていうか、そういうことまで考えてLROが作られているなら、制作者側の思うつぼなんだろうな。
しかし、その地獄のテストも今日で無事に全科目終了だ! 自由カムバーック!
「はぁ~疲れた! ひかりもお疲れ様」
「はい、ユウキくんもお疲れ様でした。ユウキくんはテスト、どうでしたか?」
午前中で中間テスト最後の教科を終えた僕とひかりは、学園の外で合流し、二人でギルドのたまり場に向かっていた。
テストという重荷から解放された生徒たちの多くが嬉しそうに外を走り回っていて、狩りに行く約束だったり遠出する計画を練っていたりする。うん、その気持ちはよくわかる。僕も早くまた狩りやクエストをしたい! 何より午後まるまるいっぱい使えるのがテンション高いよね!
「うーん、正直言ってあんまり自信はないんだ。でも、メイさんから教えてもらったところは出来たと思うから、さすがに赤点はないかな。メイさんの教え方が上手かったおかげだよ」
「わたしも、メイちゃんのおかげですごく手応えあったんですっ! メイちゃん、きっと学校の先生なんて向いてるんじゃないでしょうか?」
「あはは、確かにね。メイさんみたいな人が先生だったら学校も楽しそうだな。あーでも可愛い女子生徒がいろんな意味で狙われそうだけど」
「ふふふっ、そうかもしれないです」
会話も楽しく弾んでいたんだけど、しかし、そこで隣のひかりが突然少しだけ肩を落としながら言った。
「あの、ユウキくん……」
「ん? なにひかり?」
「メイちゃんに寮のお部屋で勉強を教えてもらっているとき、思ったんですけど……ユウキくんとメイちゃんは、同じクラスで、教室で勉強会をしてたんですよね……?」
「ああ、うん。でもこのギルドに入るまでは、メイさんとほとんど話したこともなかったんだけどね。でも、突然どうしたの?」
尋ねてみれば、ひかりは眉尻を下げて言った。
「メイちゃんがうらやましいなぁって思ったんです……。わたしも、ユウキくんと同じクラスがよかったです……。そしたら、教室でもたくさんおしゃべり出来ましたよね? この学校は、自分のクラスの教室にしか入れないようになってますし……」
「あー、うん。でもメイさんは人気者だし、僕が声を掛けるチャンスもほとんどないけどね。それにほら、授業中はwisが禁止されてるけどさ、休み時間ならいつでもwisが出来るし、なんなら会って話も出来るよ?」
「そうなんですけど……うう、ちょっと違うんです。wisみたいな遠距離チャットじゃなくて、ちゃんと、一緒に同じ教室でお話がしたいっていうか……それが高校生っぽいていうか……あの、そ、そこが大事なんですっ!」
「そ、そうなんだ?」
ひかりは今日も真面目で一所懸命だ。
僕たちはクラスが違うから、学園では放課後まであまり会えるチャンスはない。というか、いくら相方同士だからって休み時間ごとに会ったりしてたらまるで恋人だし、端から見てもそうだろう。けど、僕たちの関係でそれはなんか、ちょっと違う。周りの人に勘違いされて、ひかりの迷惑になるようなことが起きてほしくもないしね。
だから学園ではあまり会えないけど、放課後はたまり場で合流すれば――と僕は思ってたんだけど、相方になったあの日からは、ひかりは「一緒にたまり場まで歩きたいです!」というので、僕がひかりのクラスまで迎えに行ったり、逆にひかりが僕のクラスまで迎えにきてくれたりする。
そのせいか、僕たちの関係は結局目立ってしまって、そこそこ噂にもなったりもしているようで、シルスくんにも「おいこらなんだよあの美少女! 付き合ってんのか!」とか言われた。リサ先生には「先生、浮気はいけないと思うよ」とか真顔で窘められたし。つーかメイさんの演技のことまだ誤解されてんのか!
「う~ん……転校……じゃなくって、転クラスとかできないでしょうか!」
「ど、どうだろう? そこまでしなくてもいいんじゃ……」
「うう~、そ、そうですよね……」
ひかりはこういう冗談は言わない。目も本気である。
僕とメイさんが通っている通常クラスとは違い、ひかりは『女子専用』のクラスに通っている。どうもひかりは心配する親の意向に従う形で、女子だけのクラスに所属することになったらしい。
そんなひかりの両親みたいに、保護者の希望に応える形で、LROには共学だけじゃなく女子クラス、男子クラスも存在する。もちろんカリキュラムはどこも一緒だけど。
「でもさ、ひかりのクラスにはナナミさんもいるでしょ?」
「はいっ。けど、ナナミちゃん学校ではあんまりお話してくれないんです。わたしが近づくと逃げちゃうことが多くて……き、嫌われてるんでしょうか?」
「あはは、それはないと思うけど。でも……うーん、な、なんか想像出来るな。ほら、ナナミさんって結構恥ずかしがり屋というか、あまりスキンシップとか得意なタイプじゃないと思うからさ」
「恥ずかしい……そ、そうなんでしょうか?」
と、首をかしげるひかり。
たぶんひかり自身は気づいてないだろうけど、ひかりは人との距離感が近くて、割と大胆にスキンシップをとってくるタイプだ。いわゆるパーソナル・スペースというのが小さいタイプなんだろう。
相方だからかもだけど、男の僕にだって遠慮なくくっついてきたりするし、たまり場だろうが狩り中だろうが、メイさんやナナミさんにはもっとよくくっついている。ナナミさんがクラスでそれをされるのを嫌がる理由は想像にたやすい。メイさんいわく、ひかりがそこまで密着するのは心を許している相手にだけ、ということらしいけど……。
なんて話をしていると、ちょうど中央通りでカートを引いていたナナミさんを発見。
「――あっ、ナナミちゃーん!」
「? げ、ひかり。ちょ、まっ」
駆けだしていくひかりはそのままナナミさんに抱きつき、ナナミさんは困ったような顔でため息をついた。
「ナナミちゃんもたまり場に行くんですよね? それならやっぱり、わたしと一緒にユウキくんを迎えにいけばよかったですねっ」
「勘弁してよ……そんなお邪魔虫になりたくないっての……」
「おじゃまむし? 誰がですか?」
「……はぁ~。おいカレシ。この箱入り娘どうにかしてよ」
「いや、彼氏じゃないですってば」
「だから似たようなもんじゃん。相方なんだから」
追いついた僕に早速愚痴を飛ばすナナミさんと、意味がわからないらしく困惑中のひかり。な、なんかすいませんうちの相方が……。
ともかくそんなわけでナナミさんとも合流した僕らは、いつものたまり場に向かって歩いた。




