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仮想学園の幸運剣士(ラッキーナイト) ~リンク・リング・オンライン冒険譚~  作者: 灯色ひろ
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メイさんのリアル

 ネトゲの中でリアルの話を持ち込むのはあまり良くないことだって言われてはいる。プライバシー的な問題もあるし、ひかりが本名を明かしたときだって僕は焦った。

 でも……LROは普通のネトゲとは違う。この世界はどこまでもリアルを目指した世界なんだから。

 だからなのか、僕の口はゆっくりとそれを訊いてしまっていた。


「あの、メイさん。ちょうどいい……っていうとなんか語弊がありますけど、もしよかったらなんですけど、ちょっとリアルの話とか聞いても……いい、ですか?」

「うん、恋人はいないよ♥」

「まだ何も訊いてないですけど!?」

「特に構わないけれど、あんまりプライベートすぎる質問には答えられないかもしれないよ? 例えば……け、経験人数とか……ね? もう、エッチなんだから♥」

「だからそんなこと訊きませんよ!? 僕セクハラ野郎だと思われてます!?」

「あははははっ。もーユウキくんは本当に可愛いなぁ。それでなにかな? 可愛いユウキくんの質問ならな~んでも答えてあげるよ? な~んでもね? あ、ちなみにまだ清い身体だから安心してね♪」

「か、完全に遊ばれてる! 僕からそういう質問を引き出そうとしてる!」

「それで? メイさんに何が聞きたいのかにゃ~?」


 流し目ウィンクの台詞にちょっと動揺しつつ、僕は冷静に戻って口を開いた。


「ええと、あの、メイさんってかなり勉強出来ますよね? レイジさんに聞きましたよ。本当は生徒会長になるはずだったのはメイさんだったって」

「な~んだそういうお話かぁ。もっと乙女の秘密に迫るものだと期待したのにな?」

「なんですか乙女の秘密って……。そ、それよりどうして生徒会長の話は断ったんですか? 生徒会長になればいろいろ優遇もあったはずですけど……」


 メイさんのペースに付き合いながら尋ねる僕に、メイさんは「んー」と頬に手を添えてちょっとだけ間を置き、


「それはほら、生徒会長になんてなったら責任重大で自由にLROを楽しめないと思ってね。今でもそのことは後悔はしてないよ。だって、そのおかげでひかりやナナミ、それにユウキくんとも会えたんだしね。三人はメイさんの宝物だよ♥」

「そ、そうですか……」


 ニコニコと笑顔でそんなことを言えるこの人は、やっぱり僕たちのギルドマスターだと改めて思う。

 質問を続けた。


「でも、メイさんくらい勉強の出来る人が、どうして進学校とかに行かずに、LROに来ることを選んだんですか? メイさんの実力なら相当良いところに行けたはずですよね? やっぱりネトゲが好きだったから、とか?」

「う~ん、もちろんネトゲが好きだからって理由もあるけど……そうだねぇ、一番の理由は、自分らしくいられる場所を探していたから、かな?」

「え?」

「ほら、パンフレットに書いてあった責任者――紫鳳院さんの言葉を覚えてるかな?」


 言われて、思い出す。

 入学式の日、パンフレットの一ページ目で見たあの言葉。



〝すべての子どもたちが、自分らしく成長出来る場所を目指します――〟



 おそらくメイさんは、そのことを言っているんだろう。

 メイさんは微笑みながら言った。


「メイさんはね、あの言葉を読んだからLROに来ることを決めたんだよ。堂々と一ページ目に。自分の名前まで入れて。あんなことを声高らかに叫ぶことの出来る人はなかなかいないからね。ああ、この人は本気なんだって。本気で、仮想現実の世界でリアルを変えようとしているんだって思ったよ。だからメイさん、決まりかけていた自分の人生のレールから一度外れて、その人が本気で作った世界に行ってみたくなったのかな」

「そう、だったんですか……」

「うん。でも、両親にはすごく反対されたよ。メイさん、これでも結構良いところの中学校に通っていたからね。そんなよくわからないネット世界の高校なんてダメだーって。両親はゲームなんかもあまりやらない人だからね、理解がないのも無理ないんだ」

「そっか……すみません、大変だったのに、軽はずみにリアルのこと聞いちゃって……」

「ふふ、なぁに心配してくれるの? 嬉しいな♪ ユウキくんの方は、結構あっさり来れちゃったタイプなのかな?」

「え? あ、そ、そうですね。家族でゲームすることもありましたし、理解はあった方かもしれないです」

「そうなんだぁ~羨ましい! メイさんそういう家庭ちょっと憧れちゃうよ~!」

 

 メイさんはそんな話の最中も努めて明るく振る舞い、続けた。


「けどメイさんは大丈夫っ、だってメイさん超優等生の良い子だったからね! ちゃんと正面から説明をしたらわかってもらえたよ。メイがそこまで言うなら良いでしょうって。そのかわり、ちゃんと名門大学に行くことを条件にされちゃったけれどね」

「うわ、そ、そうなんですか? でも……メイさんはやっぱりすごいですね。ちゃんと自分の進む道を自分で選んで、そのために両親を説得して、その上で勉強もちゃんとしたり、ギルドを作って僕たちの面倒を見てくれたり、本当にすごいな。そんなしっかりしたメイさんだから、一人でも大丈夫だってご両親も許してくれたんですね」


 まだメイさんと会ってそんなに時間も経ってないけど、この人の凄さというのは様々な場面で感じることが多かった。

 同級生なのに常に大人の余裕みたいなところがあって、何事にも落ち着いて動ける人だし、この人が本気で怒ったりする場面は想像することも出来ない。だから、メイさんに対しては自然と敬語になってしまっているのかなって気がした。

 すると――


「ありがとう、ユウキくん。でも、そんなことはないんだよ」


「え?」


 机に座ったままのメイさんはいつものように微笑み、けれど、それはほんのちょっとだけ寂しげな目に見えた。


「そう見せているから当たり前なんだけどね。でも、メイさんは本当はしっかり者なんかじゃないし、凄くなんかないんだよ。だけど、ユウキくんの言う通りに両親は言ったよ。『メイはしっかり者だから一人でも大丈夫ね』って。もちろん心配はかけたくないからね、うん、大丈夫って答えたよ。それは本音だったけど、本音の全部じゃないんだ」

「全部じゃない……ですか?」

「うん。メイさんてばなんでも出来ちゃうナイスバディのスーパー美少女だから、みんなメイさんを頼ってくれて嬉しいんだけど……でもね、メイさんも誰かに頼りたいなって思うときがあるんだ――よっ」


 ぴょん、と座っていた机から飛び降りるメイさん。体操選手みたいに両足で着地して両手を広げ、その場でくるりと回って微笑む。


「ほら、メイさんてすっごい魅力的な包容力があるでしょ? 溢れ出す母性でユウキくんもメイさんにメロメロでキュンキュンで、バブみを感じちゃうよね?」

「バブみ!? ななな何言ってるんですか感じませんよっ!」

「本当かなぁ? 遠慮せずバブバブしてもいいんだよー♪」

「だから感じませんって! ど、同級生に何言ってるんですか!」


 さすがにツッコんでしまう僕。いや、でも確かにメイさんは年上っぽい包容力があるなとは思うけどさ! バ、バブバブはしない!


「あはは。まぁそんな感じで、メイさんみんなを甘やかすのが好きなんだけどね、でも、ほら。人ってみんな見たとおりのままじゃないでしょ? メイさんだって、たまには自分も甘やかされたいなぁっていうか……ああ~待って待ってっ! やっぱりこういうことまで話すのは恥ずかしいねっ。今のはなしなし! メイさんのオトナセクシーキャラがブレちゃうもんね! これは他のみんなには秘密だからねっ!」


 慌てて両手を身体の前で振るメイさん。照れているのか、はたまた教室に差す夕陽のせいなのか、メイさんの頬がほんのり赤い。


 僕は――そんなメイさんにちょっと見惚れていた。


 なんというか、初めてメイさんの素を見たような気がするというか、本心を教えてもらえたような気がするというか、それが自分を信頼してもらえているように思えて嬉しかった。そして、そんな本当のメイさんの姿がとても可愛らしく見えた。

 だから僕は言った。


「それでもいいんじゃないですか?」

「え?」

「自分らしくいられる場所に行きたくて、メイさんはLROに来たんですよね? なら、もっと本音も言えばいいと思います。甘やかされたいならそう言えばいいですよ」

「そ、そうかな?」

「それにメイさんなら、そういうところもあるんだ可愛い~って思われそうだし。ほら、メイさんって特に女子から人気あるじゃないですか。いや、男子からも人気ありますけど」


 そう、メイさんは美人だけど誰にでもきさくに接する人だし、お茶目で情報通な上にファッションセンスもあるし、楽しいことが好きな人だから、クラスメイトの男子はもちろん特に女子から一目置かれている。

 そんなメイさんの魅力に惹かれて、ひかりやナナミさんもギルドに入ったのかもしれない。たぶん僕だってそうだ。さすがにギルドマスターが信用出来ないギルドになんて入るわけない。だから僕は、メイさんに出会ったあの時、たぶん既にこの人が信用出来ると判断したんだ。

 するとメイさんは何度かパチパチまばたきをして僕を見つめて……やがて満面の笑みを浮かべて言った。


「そっか……そうだね。うん、わかったよ。はーい! それじゃあメイさん甘やかされたいでーす! ユウキくんに膝枕されたいでーす!」

「え、ちょ……はいいぃっ!? いきなり何言ってんですか!?」

「言えばいいって言ったのはユウキくんだよ~? まさか断ったりしないよねぇ~? そんなことされたら、メイさんショックで泣いちゃうかも……しくしく……」


 泣き真似をしながらチラチラと僕を観察するメイさん。口が笑ってるぞおい!

 けど、まぁ、確かに言ったのは僕の方だしな……。


「……本気なんですね?」

「もちろんだよ?」

「……はぁ、わかりましたよ……」


 僕は改めて周りに誰もいないことを確認し、教室のドアをちゃんと閉め直してから教室の後ろに移動して正座する。メイさんは鼻歌交じりに僕の後をついてきた。

 ああ……まさかただの勉強会がこんなことになろうとは……!

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