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仮想学園の幸運剣士(ラッキーナイト) ~リンク・リング・オンライン冒険譚~  作者: 灯色ひろ
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二人きりのドキドキ勉強会

 僕がひかりに誘われてメイさんのギルド――【秘密結社☆ラビットシンドローム】に入ってから一ヶ月ほどが立ち、五月も終盤。

 GVGの話は、ひとまず参加してもいいかなと返事をしていた僕は、今日も元気に狩りやクエストをこなして――いたかったんだけど、そうもいかないのが僕たち生徒の事情だ。


 迫っているのである。

 学舎の生徒の実力を試されるあの日が!


「ねぇユーくん……メイたち、二人っきりだね……♥」

「は、はい?」


 メイさんがそっと隣に寄り添い、その指で僕を突っつきながら言う。


「他にだ~れもいない放課後の教室……これからどんな青春ハプニングが起きちゃうんだろう……メイ、なんだかドキドキする……♥ ほらユーくん……メイの胸、触って確かめて……?」

「さささ触りませんよっ!! 勉強以外何も起きませんから! う、腕を絡ませてこないで~~~! 勉強に集中させてくださいってば! ていうかユーくんて僕!?」

「えー? んも~っ、ユウキくんってばノリわるぅ~~~い! ここはぁ、メイの魅力にスタンしちゃうところだぞ☆」

「上手いこと言ったつもり!?」


 目の前の数学の問題に必死に頭を働かせていた僕は、指先からピリピリと電気を発生させながら謎のキャピポーズをとるメイさんに思わずため口でツッコミを入れていた。


「ああ……何やってるんだ僕は……」


 小さくため息をつく。

 ていうかこれをやらせてるのはメイさんなのにそのメイさんが邪魔してくるか普通!?

 と、そこで脈略もなく通常モードに戻ったメイさんはひょいっと僕の前に顔を出して問題を覗き、


「それでどこがわからないのかにゃ?

 ――ああここだね。ほら、こちらの問題は前問の簡単な応用編だよ。落ち着いて考えれば大丈夫」

「えっ? ……あ、なるほど! そっか、こっちと同じでよかったんですね。ありがとうございます!」

「はーい、どういたしまして♪」


 メイさんは僕の隣の席に腰掛けたままにっこりと微笑む。

 メイさんの服は相変わらずスカートがすごく短いからつい目線が向いたけど、すぐ机上の紙に意識を戻すようにした。ていうかさっき腕を絡められたときに触れたメイさんの胸の感触が肘に残っていて、なかなか意識が勉強に向かない。ああもうメイさんには助けてもらってるのか邪魔されてるのかわからないナニコレ!

 一方で、そんな人の気は知らないのか、はたまたそんな僕を見て内心ニヤニヤしているのかわからないメイさんは机に両肘をつき、両手の上に顎を乗せてつぶやいた。


「う~ん。今頃は、ひかりとナナミも寮の自室で勉強中かなぁ? えっと、明日はひかりの勉強も見てあげないといけなかったね。ナナミはいらないって言ってたけどどうしよっかなぁ」

「あ、自分の勉強もあるのにすみません。僕たちの勉強まで見てもらって」

「気にしないでいいんだよ~。もしもギルドメンバーが赤点をとって、今後の可愛い物集め――もといギルド活動に支障が出たら困るからね。これもマスターであるメイさんの立派なお仕事なのです!」

「メイさん的にはまじで可愛い物集めのギルドなんですね……」

「えへっ☆」


 てへぺろ顔でしなを作るメイさん。本来なら腹立ちそうな仕草もやたら可愛いのがなんか悔しい!

 たぶん、それはメイさんの性格的な部分が大きいだろう。この人の明るい表情と言動で僕の気持ちは楽になるし、そういう自然に相手を気に懸けた言い方が出来るメイさんを僕は尊敬していた。


「さ、寮のごはんの時間までに頑張ってあと2ページ片付けちゃおう。ひとまず七割正解を目指してみようか。それで数学は問題なくなると思うよ。ファイトファイト!」

「よっし、わかりました! じゃあ始めます!」

「うんうん、偉いねユウキくん。――そうだ! もしも全問正解出来たら、ご褒美にメイさんがほっぺにチューしてあげるね♥」

「ちゅぇっ!? い、いいいいいやいいですよ別に!」

「イ、イヤなの……? くすん……メイ、ショック……。あっ、もしかして口がいいってこと……? やだ……ユーくんたら……♥」

「そんなこと言ってないですよね!? ていうかそのキャラなんなんですか!」

「あはははっ、付き合いたてのラブラブ彼女をイメージしてみたんだけどどうかな? ほら、男の子としては可愛い女の子にこういうこと言われちゃうとモチベーションあがるかなーってね。それとも、ユウキくんはやっぱりひかりみたいな天然で真面目っぽい子が好きだったりする?」

「だ、だからひかりとはそういうんじゃなくてですね……! そ、それよりもう勉強の邪魔しないでくださいよ!」

「むふふー。ユウキくんはからかうと面白いねぇ。メイさんてばイイおもちゃ見つけちゃった♪」

「本人の前でよくもまぁ包み隠さず本音を!」

「そういうところがメイさんの魅力じゃない? ほらほら、時間ないよー?」 

「あっ、も、もう邪魔しないでくださいよ!」

「はーい♪」


 自ら魅力を語るメイさんをけん制しつつ問題に戻る僕。


 さて、こうしてメイさんのボケにツッコミつつ、放課後に二人きりの教室で勉強を見てもらっている理由というのは、もちろん、来る『中間考査』を乗り越えるためだ。

 何を隠そう、僕は入学から今までほとんど自室で勉強もせずに狩りやらクエストやらに明け暮れていたため、ツケが溜まっておりました。ひかりやナナミさんはともかく、僕はヤバイ。

 そしてテストで赤点をとると、補習はもちろん、学園クエストも勉強の類いばかりになったり、LROのプレイにもいろいろと影響が出る。ひどい場合はリアルの家族に報告がいって、強制ログアウトされる可能性もあるとかなんとか。

 こんな状況になって、僕は改めてLROがただのMMORPGではなく、リアルな学園生活であることを感じる。


 それからしばらくの間は勉強に集中して――


「……ふぅ~。メイさん、出来ました~」

「はいはーい、お疲れ様。……………………おお~、ちょうど七割は正解してるね。うん、これならテストも問題ないはずだよ。すごいすごい。普段のプレイでもわかってたけど、ユウキくんは要領がいいんだね」

「ああ、よかった……」


 メイさんの方を向くように机上に頭を乗せて休んでいた僕に、メイさんがパチパチ拍手をしてくれる。

 うう、達成感はあるけど、なんか頭が重い気がする……。

 すると、椅子から立ち上がったメイさんがしゃがみ込んで僕と目線を合わせた。


「ふふ。本当にお疲れ様だね。さすがに全問正解とはいかなかったけど、ほっぺにチュー、してあげよっか?」

「うぇっ! い、いいですよそんなの!」

「え~そう? メイさんざんね~ん」

「残念とか言いながらニヤニヤしてるじゃないですか! からかって遊ばないでっ!」

「あはは、ごめんごめん。ユウキくんてば反応が可愛いんだもん。けど、頭を撫でるくらいはしてあげてもいいよね?」

「え、あ……」

「よしよし、頑張ったね~」


 心底楽しそうに笑ったメイさんは、今度は机の上に腰掛け、その手を伸ばして僕の頭をよしよしと撫でてくれた。

 ちょっと照れるけど……邪険にしたいわけじゃないし、別に誰かに見られているわけでもないしと、僕は黙ってそれを受け入れることにした。


「ユウキくんの髪は柔らかいね。ひかりのサラッとしたものよりは、ナナミのふわっとした感じに似てるなぁ。なんだか、撫でてるメイさんの方も気持ち良くなっちゃう♪」

「そ、そうですか……? ていうか二人のも知ってるのか……」


 それは、なんとも不思議な時間だった。

 メイさんは、その性格上なんとなく年上の人っぽい感じはするけど、冷静に考えなくても同級生なんだよな。しかもクラスメイトだし。

 うーん……な、なぜ僕はクラスメイトの女子から年上女性みたいなからかいを受けてるんだろう……そんなにからかいやすい男なのかなぁ……自分ではよくわからない……。

 と、そこで頭を撫でられたまま僕は尋ねた。


「あ、そういえばメイさん」

「ん? なになに?」


 頭を撫でる手が止まる。メイさんは足をぷらぷらさせながら首をかしげた。


「さっきひかりとナナミさんの勉強も見るって言ってましたけど、本当に自分の勉強は大丈夫なんですか? メイさん、僕たちにばっかり気を遣ってくれてますけど……」

「あはは、それなら大丈夫だよ。メイさんこれでも超優等生ですからねっ! ふふ、そんなわけで心配はいらないよ。ちゃんと自室でもやっているからさ」

「おお……堂々とそんなこと言えるのがすごいですね……」

「ふふん、メイさんかっこいいでしょ? 惚れちゃう惚れちゃう?」

「ぷっ。ど、どうでしょうね」

「普段は女の子に弱いっぽいのにそこは笑っちゃうのー!?」 


 ドヤ顔が似合うメイさんについ笑ってしまうと、メイさんは一瞬だけ頬を膨らませて怒ったような態度を見せたけど、直後にまた愉しそうに笑い返してくれた。

 まだメイさんとは出会ってそんなに時間も経ってないけど、僕はメイさんが人として好きだ。一緒にいて居心地が良いし、いつも相手を気遣ってくれる優しい人だとすぐにわかってしまうから。そして、それが誰に対しても変わらない人だと思うから。ある意味、僕はメイさんに惚れちゃってるかもしれないな。

 そしてメイさんがそんな人だからこそ、きっと、ひかりもナナミさんもメイさんのギルドに入ることを決めたんじゃないかなって今は思う。


 そんなとき、僕はふと思った。


 ――メイさんって、リアルでもこんな人なのかな?


 だから、少しだけ緊張したけど……僕はそのことを尋ねてみることにした。

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