ギルド結成
先ほど行ってきたばかりの生徒会室に戻ったことで、レイジさんたちをちょっと驚かせてしまったけど、とにかく無事にギルドの申請を受け付けてもらった僕たち。《ギルドノート》を専用の機械に通したらすぐにギルド設立が終わった。
「――会長、完了しました」
「ありがとう、るぅ子くん。みんな待たせたね。ギルド結成、おめでとう!」
レイジさんがそう言って、楓さんとるぅ子さんもお祝いの声をかけてくれる。
僕の視界に映るひかりやメイさん、ナナミさんに自動カーソルが移ると、その名前欄の下にはしっかりとギルド名が表示されていた……んだけど。
「……え?」
ひかり【秘密結社☆ラビットシンドローム】[ギルドメンバー2]
「何このギルド名!?」
今の今まで気にもしていなかったけどギルド名だけど、まさかこんな名前のギルドになるとは思ってもいなかった。
ていうかこのギルド名、僕の名前の下にも入ってるんだよね!? ああーステータス確認したらちゃんと入ってる! 明日学校行くのちょっと恥ずかしいですこれ!
メイさんの方をみれば、メイさんはうんうんと満足そうにうなずいている。
「可愛い名前でしょ、ユウキくん。【秘密結社☆ラビットシンドローム】はメイさんが可愛い物好きになったきっかけのアニメ作品でね、可愛い物を集めることを生きがいとするウサギ族の女の子たちの痛快で心温まる友情アクションなんだ」
「そんなアニメあったんですか!? 聞いたことな――あ、いや、あります。ありました! そういえば小学生の頃、妹がよく夕方に見てたような……。ええと、もしかして、だからメイさんてウサ耳着けてるんですか?」
「正解♥ それにしてもユウキくんの妹さんは見る目があるねっ。きっと素晴らしく可愛らしい女の子に違いないよ~。妹さんはまだ幼いのかな?」
「あ、はい。まだ小学六年生になったばっかりで。妹も結構ゲームとか好きなので、僕だけLROに行くなんてずるいって騒いでましたよ」
「わぁ~っ。ユウキくんの妹さん、会ってみたいです!」
「そうだねひかり。そういえば、運営の人が言っていたよね。もしかしたら来年の春に向けて、LROの学園でもリアルから新入生を募る可能性はあるって。もし中等部なんて出来れば、妹さんが来る可能性もあるんじゃないかな?」
「なるほど……妹なら無理言って両親を説得するかもしれないです」
妹の顔を思い出す。
あいつも僕の影響でゲームが好きだったから、その可能性は十分にあるかもしれない。もちろんLROが新入生を募ることがあれば、の話だけど。
でも、そういうことにならないと先輩後輩の関係とか出来ないんだよなぁ。今は生徒が全員同級生だし。いや、先輩がいないっていうのは気楽でいいけどね。
「ユウキくんっ、そうなったら楽しそうですね! わ、わたし妹さんと仲良く出来るでしょうか……」
「あはは、さすがに心配が早いよ。でも、ひかりならすぐ仲良くなれるんじゃないかなぁ」
「そ、そうだと嬉しいです!」
少しおてんばな妹だけど、ひかりならそれにも楽々と付き合えるような気がする。そしてひかりに甘えるようになる妹のイメージが見えた。
「ねぇ。あたしもう行っていい? 早く露店開きたいんだけど……」
「いや、ちょっと待ってナナミ。せっかくギルドを作ったんだからさ、みんなでG狩りにでも行こうよ。ほら、ユウキくんの歓迎会も含めてさ。ね?」
「あ、メイちゃんナイスアイデアです! ナナミちゃん、行きましょうっ」
「ええ……あたし戦闘苦手だって知ってるじゃん……役に立たないからいいって」
「そんなことはないよナナミ。君のカートの積載量はかなり大きいから、ドロップアイテムを集めるのにも役立つし、回復材もたくさん持ち歩けるからね。それにナナミは可愛い置物になっているだけで十分役に立っているんだよっ!」
「褒められてる気がしねーよ! 置物扱いすんな!」
「わたし、やっぱりギルドメンバーみんなで遊びにいきたいですっ。だからナナミちゃん……一緒に、行きませんか……?」
「ぐぅっ……ひ、ひかりは断りづらいんだよ……」
小動物みたいに切ない目をするひかりに、ナナミさんが良心を刺激されるようにうろたえていた。そんな光景をメイさんがニコニコと見つめる。
そんなところで、僕たちを見守ってくれていたレイジさんがそばにきて言った。
「ユウキくん、よかったね。良きギルドメンバーに恵まれたようだ」
「あ、レイジさん。お、おかげさまで」
「それにしても……まさかひかりくんが君を誘ったのが、彼女のギルドだったとはね。少し驚いてしまったよ」
「え? レイジさん、メイさんのこと知ってるんですか?」
尋ねると、レイジさんはメイさんの方を見つめながら「ああ」とつぶやく。
「なにせ、本来この学園の生徒会長になるのは彼女の方だったからね」
「…………えっ!?」
衝撃の事実に驚く僕。レイジさんは笑ったままで続けた。
「一年目の生徒会役員は入学時の成績で決まり、上から順に声をかけられる、というのはユウキくんも知っているだろう? あの《メイビィ・フィーリス》という女生徒は入学試験の成績がトップの才女なんだよ。リアルでは、格式ある有名な進学校の中学出身らしいと聞いている」
「メイさんが……そうだったんですか……」
「彼女が生徒会入りを断ったから、次点の僕にお役が回ってきたということさ。どうして断ったのか……はは、今ならその理由がよくわかるよ」
レイジさんの視線を追えば、メイさんが楽しそうにひかりやナナミさんに頬ずりしている姿があった。
そんなメイさんを見ていると、僕にもその理由がわかった気がした。
「それと、今はユウキくんを生徒会に引き入れなくてよかったと思っているよ」
「え? ど、どうしてですか? やっぱり、僕が大したことないってわかったから……」
「いやいやそういう意味じゃないんだ。そうだね……うーん、たぶんそのうちわかるんじゃないかな? そしてユウキくんも同じ気持ちになると思うよ。なにせ同士だからね。ははは」
レイジさんはそう言ってポンポンと僕の肩を叩き、笑う。
僕にはその意味がよくわからなかったけど、とりあえずその場では「はぁ……」と納得しておいた。
その後。
メイさんとひかりがナナミさんを(半ば強引に)納得したことで、生徒会室を後にした僕らは作ったばかりのギルドでモンスターを狩りに――通称『G狩り』と呼ばれるイベントを行うことになった。MMORPGにおいてはギルドの定番イベントである。
王都から正門を出て、草原フィールドに入ったところでメイさんがギルドパーティを組む。
ギルドパーティというのは、同じギルドに入っている者同士でしか組めない特殊なパーティのことで、そのギルドパーティでしか入れない場所やダンジョンなどが存在する。生徒会のダンジョンもその一つだ。また、ギルドパーティだけに恩恵が与えられるギルドスキルなどもある。
まぁ、一般的なフィールドやダンジョンで狩りをするだけなら普通のパーティでもいいんだけど、せっかくだしギルドパーティの方が盛り上がる、ということなのだろう。
「よし、パーティも作れたね。それじゃあどこに行こうか? みんな、行き先の要望はあるかな?」
メイさんの言葉に、ひかりが「ハイ!」と真っ直ぐに手を挙げる。
「どうぞ、ひかり」
「はい! えっと、湖フィールドの《フィリエ湖畔》がいいかなぁって。ユウキくんは行ったことありますか?」
「湖フィールド……いや、行ったことないかな」
確か山岳フィールドの近くにあるって話は聞いたことあるけど、LUKチートを得てから難易度の高い上級フィールドばっかり行ってたから、観光色の強いフィールドはまだほとんど行ったことがなかった。というか、一人では行く気にはなれなかった、という方が正しいのかな。
メイさんは顎に手を添えながら「うん」とうなずいて話す。
「湖フィールドか。うん、そうだね。初めてのG狩りだし、難易度の低いフィールドでのんびりと遠足気分で行けるのがいいかもしれないね。そちらの方が会話も弾むだろうし。ナナミのことも考えると、それがベストかな」
「はいはい考えてくれてありがとさん。ま、あそこは上手くいけばレアもゲット出来るしな。いいんじゃない?」
「よし。ユウキくんもそれでいいかな?」
「あ、はい。もちろん」
「うん、それじゃあ【秘密結社☆ラビットシンドローム】の初G狩り、出発だー! みんな手を挙げていくよー! しゅっ、ぱつ、だーっ!」
「おーです!」「はいはい」「お、おー!」
やる気いっぱいのひかりと、気だるそうに手を挙げるナナミさん、それに僕も続く。周りからの目がちょっと恥ずかしい。
ともかく、そうして僕たちの初めてのG狩りが始まって、遠足気分で徒歩で目的地まで向かうことになるのだった。
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