わたしの相方さん
レイジさんからの生徒会への誘いに固まってしまった僕たち。
いや、考えてみれば誘われるのは当然といえば当然かもしれない。だって生徒会専用ダンジョンなんだから、そりゃあ生徒会に入らなきゃ連れていってはもらえないだろう。
レイジさんは一転、真面目な顔から照れたように頬を掻いて言った。
「ははは、いきなりの勧誘すまない。なにせ生徒会はメンバーが足りていなくてね。本当はあと二人は入ってくれる予定だったんだよ。でも、学園業務に時間をとられたくないって人が多くてね。結局今はこの三人だけになってしまっているんだ」
「あ……そうだったんですか」
そういえば、生徒会役員は全部で五人の予定だと聞いたことがある。
でもそっか。確かに生徒会に入ると特別な権利なんかは得られるけど、その代わり貴重なLRO内での自由時間が減るんだもんな。LROをやりたくてここに入学してきたことを考えれば、生徒会へ入りたい人が少ないのも納得出来る。
レイジさんは言った。
「ユウキくんもひかりくんも、僕たちが徹夜をしながら考えて運営さんと一緒に作った《ラトゥーニ廃聖堂》をトップの早さで――しかもたった二人でクリアした猛者だ。勉学の成績もそれなりだと聞くし、《リンク・ポイント》を加算すればトップクラスの成績になるだろう。生徒会に入れる資格は十分にあるはずだ。どうかな楓さん、るぅ子さん」
「うぅ~ん、まぁ、その通りなのだけれど~」
「言われてみればそうですね。確かに、資格はあると思います」
レイジさんの言葉に納得してしまうお二人。レイジさんは満足そうにうんうんとうなずいていた。
「と、いうわけだよユウキくん、ひかりくん。どうかなっ!? 二人ともまだギルドには入っていないようだし、今ならどちらかに生徒会副会長の座もついてくるよ! それに、現金な話だけど生徒会は報酬も多い! 《リンク・ポイント》も優遇されるよ!」
「ど、どうかなと言われましても……ひかりは?」
どうしたものかとひかりに判断を委ねてみると、
「えっと……生徒会役員は、生徒会、というギルドに入ることになるんですよね?」
「ああ、そうだよ。僕たちの名前を見てもらった通りさ」
改めてレイジさんたちを見れば、自動的にカーソルが合わさって名前が表示される。そこには確かに《生徒会ギルド》の所属名とアイコンが表示されていた。
するとひかりは、
「そ、そうですよね……それじゃあ、ごめんなさい。わたしは入れないです」
謝って頭を下げるひかりに、僕もレイジさんも呆然となる。
レイジさんが尋ねた。
「訊いてもいいかな? それはどうしてだい?」
「えっとですね、ギルドって、二つ同時に入ることは出来ない……ですよね?」
「ああ、そうだね」
「そうですよね。わたし、実はもう他にギルドを作るって人に誘われていて……今日、このあとでギルドを作ることになってるんです。だから、ごめんなさい!」
「ええっ? ひ、ひかり? そうだったの?」
「は、はい」
「なるほど……そういうことか。そうか、それは残念だけど仕方ないな」
レイジさんも納得したようで、続けて僕の方に視線が向く。
「それじゃあ、ユウキくんだけを誘うというわけにもいかないな。彼を引き抜いてしまったら、ひかりくんに怒られてしまいそうだ」
「ご、ごめんなさい~」
嬉しそうに謝るひかりに、レイジさんはちょっと寂しそうに息をはいた。
「良い人材だと思ったんだけどなぁ……仕方ない、今は諦めよう。だけど二人とも! 僕はキミたちの実力をしっかり評価しているからね! もし行き場がなくなったら是非生徒会に来てくれ! それからユウキくん!」
「は、はいっ?」
「キミとはいずれ、一戦交えたい! いつかPVPでもしよう!」
「ええっ? ぼ、僕とですか!?」
「あの《ダーク・プリースト》を倒したキミがどれだけ強いのか、とても興味があるんだ! その強さを知るにはPVPでのタイマンが一番だからね! ふふふふふ!」
「あらら~。ユウキちゃん、会長に目を付けられてしまったわね~」
「ご愁傷様です……ユウキさん……」
「ユウキくん! そのときはわたし、応援に行きますねっ!」
「あ、あはは……か、考えておきます……」
やる気満々のレイジさんから視線をそらして答える僕。ひかりもワクワクした感じで言ってるけど勘弁してよ!
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そんなこんなで生徒会室を後にした僕たちは、学園の中庭にある大きな木の下のベンチに腰掛けながら休憩していた。
校舎の中はかなり広くて、この中庭はいろんな花が咲いている癒やしのスペースとして人気がある。今も結構な数の生徒たちが思い思いに休んでいた。
よく見るとカップルっぽい男女が多いけど……開始一ヶ月でもう相方持ちかよ! チラチラこっち見てる人たちもいるけど、僕たちはそうじゃないっての! くそ! ネト充たちめ! どうだひかりは可愛いだろっ! けどこっちはカップルじゃないんだよこのやろー!
「ユウキくん? あの、どうかしましたか? な、なんだか怒ってます……?」
「え? あ、いやいやいやなんでもないよごめんっ。そ、それよりレイジさんにはまいったよねっ。タイマンなんてさすがになぁ。あははっ」
「ふふ、そうですね。だけどもしもそうなったら、わたしはユウキくんが勝つと思いますっ!」
「いやいやそもそもならないよっ。ひかりもあんまり楽しみにしないで!」
「えへへ、ごめんなさい」
無邪気に微笑むひかり。
さて、それじゃあこのあとはどうしよう。
ひかりは誰かからギルドに誘われているみたいだし、そっちに行くのかな。ていうかその人ってどんな人なんだろう。ま、まさか男なんだろうか……。
「あの、ユウキくんっ」
「うん?」
そんなことを考えていたらひかりの方から声をかけてきた。
何かと思って言葉を待つと、ひかりはピンとその狐耳を立て、
「わたしの――あ、相方さんになってもらえませんかっ!」
「…………え?」
いきなりのことに、僕は一瞬何を言われたのかわからなくなる。
ひかりはそっと立ち上がり、僕の前に移動して、笑顔で言う。
「わたし、今日はすっごく楽しかったです。ユウキくんと久しぶりに会えて、一緒にダンジョンを攻略して、戦って。ずっと夢見てたんです。それが、今日叶いました!」
「ひかり……」
「だから、その、思ったんです! ユウキくんと……その、あ、相方さんに、なれたらいいなぁって……。と、友達に聞いたんですけど、相方さんって、いつも一緒にいて、何でも一緒に出来るようなパートナーのことを言うんですよね? だからわたし、ユウキくんとそうなれたらいいなって、思ったんですっ」
つんつんと人差し指を合わせているひかりの頬は、ほんのり赤い。
「わ、わたしは、こんな変な殴りクレですし……ゲームのことも、まだ、あんまり知らないですし……きっと、これからもたくさん迷惑かけちゃうと思いますけど……でも、でも、一緒に楽しいこと、いっぱいしたいんです! えとえと、だ、だからっ、よかったら、お願いします!」
そして深々と頭を下げるひかり。
情けないと思った。
ひかりのことじゃない。僕のことだ。
「…………ひかり、顔、上げて?」
僕がゆっくりと立ち上がると、ひかりが顔を上げた。
本当に情けない。
ひかりと初めて会った日。
僕もすごく楽しかった。出来ればひかりと友達になりたいと思った。
けど、女の子にそんなことを言う勇気はなくて。ひかりからまた遊ぼうと約束してもらった。
それからもひかりに会いたくなることはあったけど、自分からwisを飛ばしたりする度胸もなくて。ひかりはもう僕のことは忘れてるかな、なんて言い訳を考えて。もう会えないのかなって思ったりもした。
そしたら今日、偶然にも再開して。ちゃんと僕を覚えててくれて。本当に、僕だってすごく嬉しくて。
ずっとソロだったから、ひかりとパーティーを組んでダンジョンを攻略出来たのが時間を忘れるくらい楽しくて、ワクワクした。
これからもひかりと一緒にいたいって思ってたくせに、やっぱりそんなことを言う勇気はなくて。きっと他に良い人がいっぱいいて、ひかりはすぐそっちのギルドに入って、僕とはここで別れておしまいなんだって、そんな風に、何もせず勝手に諦めていた。
でも――ひかりは言ってくれた。
相方になってほしいって。
そんなことをひかりに言わせてしまった自分が、全部ひかり任せにしている自分が、あまりにも情けなかった。
別に、そういうことを絶対に男が言わなきゃダメとか、そんな風に思ってるわけじゃないけど。
でも、僕は後悔した。
情けない自分が、嫌だった。
だから、
「――ひかり」
「は、はい……」
ひかりはいつになく緊張した面持ちで震えている。当たり前だ。
「ごめん。その緊張は、僕が体験しなきゃいけなかったものなのに」
「……え?」
言われた意味がわからなかったのかもしれない。
キョトンとしてまばたきしたひかりに、僕は言った。
「僕の方こそ、お願いします。僕の、相方になってください!」
頭を下げて。ちゃんと、自分の方からもお願いする。
すると、ひかりはしばらく黙り込んでいて。
チラ、と顔を上げてみれば、
「――ユウキ、くん」
ひかりは綺麗に泣いていた。
笑顔で。
とても、幸せそうに。
「……は、はいっ! これからも、一緒にたくさん、楽しみましょうね!」
ひかりが僕の手を取って、狐の耳が嬉しそうに動く。
すると、周囲からパチパチと拍手が鳴った。
「え、え?」
僕が慌てて周りを見ると、「おめでとう!」「よかったねー!」なんて声が聞こえてくる。クラスメイトや知り合いがいないのがせめてもの救いだったけど、なんかもう超恥ずかしかった。
「えへへ、噂は本当でした」
「え? う、噂?」
涙を拭っていたひかりに尋ねる。
ひかりは「はい」とうなずいて、そばの大木に触れながら言う。
「これも友達に聞いたんですけど、この中庭の大きな木の下で、相方さんになってほしいって告白すると、100%叶うらしいんです。だから、噂は本当でした!」
「そんな噂があったんだ……」
何か昔、そういう伝説要素の恋愛ゲームがあったって話を聞いたことがある気がする。ていうかさすがに高校生しかいないゲームだけあって、いろんな噂多いな。たぶんこっちは女の子が流行らせた噂なんだと思う。
まぁ、相方になってほしいっていうのは、恋愛面での告白とはまた違ったものな気はするんだけど、でも、気分的には恋人が出来たみたいに嬉しい。
「えへへ……わたしの相方さん、です。なんだかちょっと、照れちゃいますね……」
頬を赤らめて、ぎゅっと僕の手を握るひかりの、その嬉しくもこそばゆそうな表情と仕草があまりにも可愛くて、僕の心が熱を持ったみたいに熱くなる。
や、やばい。今、ものすごくひかりを抱きしめたくなってしまった!
いいか違うぞ僕! ひかりはそういうことを求めて僕と相方になってくれたんじゃないからな! 勘違いするなよ!
「ユ、ユウキくん? どうかしましたか?」
「勘違いはやめろよ僕……え? あ、な、なんでもないよ! あはは!」
し、しまった。いくつか声に出てしまっていたのかもしれない。
ともかく、僕はすごく晴れ晴れとした気持ちだった。
だって、僕なんかには三年間こんな相方は作れないだろうって勝手に思ってたから。
でも、ひかりのおかげでそんな情けない気持ちは消えてくれた。
「ひかり。これからもよろしくね」
「ユウキくん……はいっ!」
相方になってくれたこの子を何より一番大切にしよう。
僕は、そのとき心の底からそう思って、誓った。




