生徒会
それからひかりと一緒に聖堂の最奥部までたどり着いた僕らは、そこでわかりやすく取り巻きを連れたボスモンスターの《ダーク・プリースト》を発見。
「名前からして、あきらかにヤバイ呪文使ってくるタイプだな……雑魚も多いし……」
「つ、強そうですね……!」
入り口からこそこそと中を覗く僕と、その下で同じようにしているひかり。
大体のMMORPGの定番として、通常であれば初見のボスに勝てる可能性なんてほぼない。なぜならどんな属性に強いか弱いか、どんな攻撃をしてくるのか、どれくらいHPや防御力があるのか、そんなもの戦ってみないとわからないからだ。まぁ、弱いボスならゴリ押しも出来るけどね。
こういうとき、モンスターのステータスを確認出来る《アーチャー》の偵察スキルがあれば助かるんだけど、ないものねだりをしても意味はない。弱いサービスみたいなボスならともかく、この高難易度ダンジョンのボスであるあいつは間違いなく強敵だろう。
「ユウキくん、どうしますか?」
「うーん、そうだな……」
そもそも引き返すという選択はない。
けど、僕らがあいつを弱らせたところで他のパーティーが来て良いところをとられる、というのは避けたい。というかそれは悔しい! 過去のネトゲで今までどれだけ苦汁をなめさせられたことかっ!
と、とりあえず今集められる情報を集めておこう。
「ひかりは今、どんなスキルを持ってる?」
「スキルですか? えっと、支援スキルは《ヒール》と《プリエ》がレベル5で、《ゴスペル》のレベル3があります。あとは、打撃力を上げるものと、闇属性への耐性をあげるものを取っているくらいです。まだレベルが低くて、スキルもあまり取れてないんです。ごめんなさい」
「なるほど……いや、十分だよ。《プリエ》と《ゴスペル》だけですごく助かると思う」
「本当ですか? 役に立てそうですか?」
「うん。見た目の判断になっちゃうけど、あいつはおそらく闇属性だからね。もし違っても、まぁやられたらやられたで。そのときはひかりだけでも逃げてもらえればいいかな」
「い、いやですっ!」
「え?」
「ユウキくんだけおいて逃げられませんっ。そのときは、一人でも戦ってユウキくんを助けます!」
「ひかり……」
「だ、だから、そんなこと言わないでください……わたしたち、パーティなんですからっ」
軽い気持ちでそう話した僕に、けどひかりは真面目にそう返してくれた。
そんなやりとりで、『ひかり』という女の子がどんな子なのかを僕をなんとなく知って、そしてイメージ通りだなと納得してしまった。
「ん、わかったよひかり。それじゃあ一蓮托生ってことで」
「は、はいっ!」
顔を綻ばせるひかり。まさか一蓮托生という言葉に喜ぶ子がいるなんて思わないよな。
「よし、僕が先陣を切って飛び込むから、敵がみんな僕を狙ってからひかりも部屋に入って。それからは《プリエ》と《ゴスペル》がなるべく切れないようにしてもらえるかな?」
「はい! でも、HPの回復はいいんですか?」
「うん、たぶん回復材だけでなんとかなると思う。それにひかりのMPも厳しいだろうから、支援に集中してもらえると助かるよ」
「わかりました!」
「うん、それじゃあ入る前に一度かけてくれる?」
「はいっ。《プリエ》! 《ゴスペル》!」
温かい神聖な光に包まれて、僕のステータスが一時的に上昇。そして武器が聖属性へと変わる。
二人でうなずき合い、作戦開始だ!
「よし……《フォーチュン・ブレッシング》!」
僕は自身へさらにブーストをかけ、双刀を抜いて部屋に飛び込み――瞬間、《ダーク・プリースト》が僕に気づいて手元の本を開く。
――マズイ! 思ったよりかなり索敵範囲が広い!
通常の敵ならこの距離では気づかれないはずなのに、さすがボスって感じだ。
『――《ジャッジメント》』
《ダーク・プリースト》が先制呪文を唱え、僕の周囲に闇色の雷光が走る。それはつんざくような音を立てながら広範囲を暴れ回り、何度も直撃を受けてしまった。満タンだったHPが一気に七割ほど削られ、痺れるような痛みがリアルに襲ってくる。
「ぐぅっ!」
「ユウキくん!」
「大丈夫!」
僕はショートカットに設定していた回復材を大量使用し、HPをほぼ満タンまで回復。それからボスと、それ以外の雑魚mobたちがみんな僕をターゲットにしたことを確認し、ひかりを呼ぼうとして、
「今行きますっ!」
僕から声をかける必要もなく、ひかりはタイミングを完璧に把握して部屋に入ってきた。
「……ははっ!」
頼もしいパーティーメンバーに嬉しくなる。
さぁ。初見でボス狩り、してやろうじゃないか――!
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――というわけで、ひかりの支援とLUKチートの力があったおかげで、無事に《ダーク・プリースト》を撃破した僕たち。
クエストクリアのためのドロップアイテム――《古びた聖書》を獲得して、それを学園に持ち帰って生徒会に報告すると、僕とひかりは一番目のクリアパーティーとして、かなり多めのLPをあげようと言われた。といってもどれくらいポイント量が貰えたのかは僕たちにはわからないんだけども。
ただ、たった二人だけであのボスを倒せるとは生徒会の人たちも思っていなかったようで、かなり驚かれたのが愉快だった。
「ひかり、やったね」
「はいっ、ユウキくん!」
生徒会室でお互い自然に手を上げ、パン、とハイタッチ。
そこで、面と向かって会うのは初めてな生徒会長――既に二次職の《ブレイドマスター》となっていた《レイジ》さんが拍手で僕たちを祝ってくれた。白銀の鎧姿がすごく似合っていて格好良い。髪が銀色なせいもあるだろうけど、なんかマジでファンタジーの騎士様みたいだ。
そんなレイジさんに続いて、《メイジ》で書記の《楓》さん、アーチャーで会計の《るぅ子》さんも拍手をしてくれた。
拍手をもらった僕とひかりは、二人で思わず照れ笑いを浮かべる。
「う~ん、それにしてもたった二人であのダンジョンを制覇したなんて、本当にすごいな。驚いたよ。見事だね!」
レイジさんは実に感心したようにうなずき、僕たちを褒め称えてくれる。なんだか褒められすぎてこそばゆくなってしまうほどだ。
「いえ、レイジさんの方がずっと強いですよ。だってもうレベル50で二次転職まで済ませてるんですから。生徒会の仕事もあるのに、すごいと思います」
「うんうんっ! わたしもそう思います!」
「一体どこでレベル上げてるんですか? レイジさん、確か槍騎士ですよね? てことは大型で美味いmobがいるんですかっ?」
「ははは、ありがとう。ユウキくんは好奇心旺盛だね。うん、冒険者の資質十分だ」
「あ、す、すみません。いきなり失礼なこと聞いて……」
「いやいや、気にしないでくれ。それに、僕相手にお世辞も必要ないからね」
優しく笑ってそう答えるレイジさん。
僕の言葉は決してお世辞なんかじゃなくて、レイジさんは本当にすごいと思ったから出たものだった。
だって、僕はこの指輪のおかげでなんとかなってきたけど、レイジさんはそんなものなくても僕よりレベルを早く上げて、しかも学校の成績までトップな人だ。そのうえイケメンで身長も高くて性格だって良いっぽい。僕から見たら完璧超人な怪物だよ。たぶんありえないくらい女の子にモテるんだろうな……。
「というかレイジさんたち、たった三人で五万人の生徒たちをまとめてるんですよね? その上で二次職になってて……すごいなんてレベルじゃないですよ……」
「いやいや、さすがに三人では無理さ。生徒会補佐という役職を務めてくれている生徒たちもたくさんいてね。雑務の多くをみんなが担当してくれているからなんとかなりたっているんだよ。それで――」
レイジさんは少し声量を落として言った。
「先ほどの質問の答えだけどね、実はここだけの話、生徒会役員だけが入れるダンジョンがあってね――」
「――会長?」
「う、き、聞こえてたのか、るぅ子くん。す、少しだけだからね。ね?」
るぅ子さんに窘められて軽く焦るレイジさん。たぶん、本当は内密な話なんだろう。
るぅ子さんはため息をつき、ダーツでも投げるような素振りで構えていた矢をそっと机の上に置いた。それでレイジさんは安心して続きを話す。
「それでね、そのダンジョンにやたら硬くてやたらHPが高いけど、その代わりやたらと経験値の高いゴーレムタイプの敵が定期的に湧くんだよ。で、僕はランス使いで大型mobとのタイマンが得意だからさ、そのおかげでサクサクレベルが上げられたんだ。ユウキくんの予想通りだったかな?」
「へぇ……そうだったんですか。き、気になるダンジョンだ……!」
う、うらやましい……ちょっと行ってみたい!
そんな風に思っていたら、楓さんがくすくすと笑って言った。
「どうかずるいと思わないでね~? 私たち生徒会役員は、一般の生徒よりも学園運営に時間を取られているからぁ、その穴埋めとして専用ダンジョンの配慮がされているの~。それにぃ、レイジちゃんがタイマン特化型だからこそ、ここまで狩ることが出来ているのよ~。おかげで、パーティの私とるぅちゃんも経験値がもらえてウハウハなの~♪」
「ははは。正直に言うね、楓さん」
「甘い汁吸ってます~。ね~るぅちゃん?」
「言い方を考えてください楓さん……まぁその通りですが……」
淑やかに、でもハッキリとそんなことを言えてしまう楓さんは、全身を黒っぽい衣装で統一していて、頭に被っている三つの目が刻まれた魔術帽子が印象的だ。すごく綺麗な人なんだけど妖しげな雰囲気を持っている人というか、なんとなく占い師っぽいイメージかも。でも、そんな見た目のお嬢様っぽさと性格にちょっとギャップがあるみたいで面白い。
一方で、キリッとしたイメージのるぅ子さんはポニーテールで、狩人らしく動きやすさを重視しているせいか、おへそが出ていたりとちょっぴり大胆な服装をしている。でも、いやらしさより健康的な感じが強かった。ていうかなんでそんな可愛い名前なんだろう……そ、そっちの方が気になる。
「ふふ……その顔は行ってみたいって顔だね、ユウキくん」
「え?」
レイジさんはがしっと僕の両肩を掴み、僕の目をじっと見て告げた。
「わかるよ。戦ってみたいんだろう? キミは強い。そして強いモノを追い求めるタイプのソードマンだ。うん、ボクもそうだからよくわかる。キミは同士だ!」
レイジさんの目には熱いものがたぎっている。
それだけでなんとなくこの人というものがわかった気がする。実は結構熱血な人なんじゃないかって。
「ユウキくんさえよければ連れていくよ。もちろん、ひかりくんも一緒にね」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
「わたしもいいんですか?」
「レイジちゃん?」「会長何をっ」
レイジさんはこくんとうなずき、人差し指を立てて続けた。
「ただし、条件が一つだけあるよ。それは――二人にもこの生徒会に入ってもらうこと」
「「「「えっ」」」」
レイジさん以外の四人の声が揃う。
なんと、僕とひかりは突然生徒会へ誘われてしまったのだった。




