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再会

「――やああああぁっ!」


 金髪で小柄なその子はどうやらソロで、その手に握りしめた杖でガッチガチに硬そうな鎧をまとった《竜人武王》をバコバコ叩きまくっている。

 ていうかあの子……!!


「な、殴りクレ!?」


 驚愕の声がもれた。

 そう。前衛で正面から戦っているその子は戦闘に強い《ソードマン》や《シーフ》ではなく、なんと支援職のイメージが強い《クレリック》だった。しかも、相手はどうやら《竜人》の中ボスだと思われる。


『グオオオオオオ!』

「きゃあっ!」


 か弱い少女にも容赦のない《竜人武王》は、その剛腕でバスタードソードを振り下ろし、女の子はかなりのダメージを受ける。その際に装備の耐久が限界に近づいたようで、クレ用の法衣ローブが一部裂けてしまい、切れ目からその肌が覗く。


「っ! マズイ!」


 周りを見ても、やっぱり他にパーティの人はいない。このままじゃあの子がやられる!

 こんなダンジョンの奥でたった一人で死んでしまえば、起こしてくれる人もそうそうこないだろう。デスペナで減る経験値やLPも馬鹿にならない。

 僕は双刀を抜き、彼女を助けようとしたけど――


「ま、負けないです……」


 その子は立ち上がる。

 一人で、しっかりと立ち上がった。


「強く……ならなきゃ、ですっ! もっと、強く! えい! えいえいえいっ!」


 女の子は杖を両手で握りしめ、かなりの攻撃スピードで怒濤の連撃。

 杖のダメージはかなり大きく、その意外にも重い一撃一撃が《竜人武王》をフラフラにし、スタンしたところでトドメの一撃が入る。

 《竜人武王》は後ろに倒れ、粒子となって消えていった。


「やった……の、かな? や、やりました~~~~~~!」


 レベルアップした女の子は嬉しそうに手を上げてはしゃぐ。

 ま、まさか一人でここの中ボスを倒すなんて……!


「つ、強ぇ……!」


 僕は呆然と立ち尽くしてその子を見つめているしかなかった。

 後ろ姿からもわかるその長く綺麗な金髪は首の近くで二つに結ばれていて、長いしっぽが二つ垂れ下がっているみたいになっている。頭部では『狐耳』がぴょこっと生きているように動き、その下の赤いリボンがアクセントになっていた。

 聖職者らしい清楚な――けれど今はスリットが裂けたりして大胆に色っぽくなってしまっている法衣姿。そして何より杖でガン殴りするというギャップありすぎなプレイスタイルと、可愛らしくも個性的な装備。

 今までいろいろと露店を見てきたから相場は大体わかる。あの狐耳もリボンも法衣もめちゃくちゃ高い装備だ。

 一体どんな子なんだろう……そう思ったとき。

 その子が、こちらを振り返った。



「「……えっ?」」



 僕たちの目が合った。

 声さえ重なる。

 続けて。



「――ひ、ひかり!?」「――ユウキくんっ?」



 再び声が揃った。

 視界に映るそのクレの姿。上部には《ひかり》の名前が浮かんでいる。


 間違いない……ひかりだっ!


 僕が声をかけようとしたそのとき、ひかりの方からこちらへと駆け寄ってきてくれた。


「ユウキくん……ユウキくんユウキくんユウキくんですっ! わ~~~っ!」


 走ってきたひかりは、そのまま僕に飛びつくように抱きついてきた。いきなりのことにうろたえた僕はひかりを抱えたまま尻もちをついて転ぶ。


「あいたっ! ちょ、ひ、ひかり!?」

「うん、うんうんユウキくんの匂いです! 本物です! 嬉しいです!」

「う、うん僕もうれし…………けど、ちょ、ちょっとぐるぢい……」

「え? わわごめんなさいっ」


 パッと僕から離れて申し訳なさそうに眉尻を下げるひかり。ようやく首が自由になる。

 ま、まじで苦しかった。なんかひかり、めっちゃ力強くない!?

 そんな風に困惑していた僕にひかりは、


「ユウキくん……お久しぶりです! また、また会えましたねっ!」

「ひかり……」

「わたし、すっごく嬉しいです! 初めて会ったあのときから、ずっとずっと、また一緒に遊べたらって思ってました!」


《クレリック》になって、あんなに強くなって。

 ひかりは変わったかもって一瞬思ったけど、でもやっぱり違う。

 ひかりの、この眩しいくらいの笑顔はあのときのままだ。

 だから僕も、笑顔になれる。


「あのときの約束、覚えてますかっ?」

「……うん、もちろんっ。僕もまた、ひかりと遊べたらって思ってたよ」

「本当ですかっ? わぁ、そうだったらとっても嬉しいです!」


 手を合わせて喜ぶひかり。そこで僕は改めてひかりをゆっくり観察した。

 クレに転職したせいか、その金髪は前よりもさらに衣装に映えるようになっていて、その可愛らしさはもはや反則的である。

 頭のは……おそらく《金色の狐耳ヘアバンド》かな? かなりのレアアイテムだし、《赤いワンポイントリボン》も相当高いファッション装備だと思う。

 も、もしかしてひかりって相当なお金持ちなのか? いや、でもひかりはそういうタイプじゃないような気がするけど……。

 そして心なしか…………とても窮屈そうに法衣を押し上げるそのお、お、お胸さまが! 以前よりさらに成長しているような気がするっ! 

 しかも下半身はスリット部が裂けたせいで白いタイツに包まれた太股が自然と視界を吸い寄せてくるし! め、目のやり場に困るぅ!

 ひかりは僕のそんな視線に気づいたのか、自分の服を見下ろすと立ち上がり、その場でくるりと一回転。法衣のスカートがふわりと浮き上がり、まるでダンサーのように優雅だった。ていうか今パンツ見えたよパンツ!


「えへへ。どうですか? この法衣、似合ってますか? これ、ひらひらで可愛くってお気に入りなんですよ♪ あ、で、でも破れてます! どうしてでしょうか?」

「あ、う、うん。似合ってる! でもその服は耐久値がほとんどないと思うよ!」

「え? たいきゅうち? ……あっ、本当です! あと5しかありませんでした! えと、た、たしか服が壊れちゃうと脱げちゃうんですよね? ど、どうすればいいんでしょう?」

「えっと、完全に破壊される前に修理した方がラピスも安く済むよ。《エンチャンター》でもいれば、装備を修理してくれるスキルもあるみたいだけど……さすがにまだ《エンチャンター》になってる人はまったくと言っていいほどいないからね」

「そうなんですか~……でもでも、せっかくここまで来たので最後まで頑張ります!」

「そ、そっか。ええと、でも、あんまり動きすぎないようにね。その、ほら、や、破れちゃってるし……」

「え? ………………あっ、は、はい~……」


 そこでようやく僕の言いたいことに気付いてくれたのか、光里は顔中赤くなりながらも弱々しく答えてくれた。

 うう、もう真っ白なパンツがイメージ通りすぎて逆に脳裏に焼き付いてしまってるよ!

 なんて記憶を振り払いつつ、僕は言った。


「そ、それにしても……ひかりは《クレリック》になったんだね」

「あ、はいっ。先生や友達に相談したら、《ソードマン》さんと一緒にパーティを組むことが多いなら、《クレリック》さんが良いって聞いたので!」

「へぇ……それじゃあ普段は《ソードマン》の人と一緒に組んでるの?」

「いいえ。普段はずっと一人なんです」

「え? ソロ? で、でも《ソードマン》とパーティを組むならって……」


「はい。だから、ユウキくんとパーティを組むために《クレリック》になりました!」


「……え?」


 ひかりの言葉が頭の中でリフレインする。

 今、なんて?

 僕と、パーティを組むために?


「わたし、前に言いましたよね。将来は、ユウキくんと一緒に戦えるくらい強くなりますって。初めて会ったあのときに、そう決めたんですっ。だから、《クレリック》でユウキくんを助けながら、でも、前で一緒に戦えるようになれたらって」

「ひかり……そ、そのためにクレにっ?」

「えへへ。わたし、こう見えてかなり頑固なんですよ? 一度決めたら出来るまでやりますっ! それで、今は少しくらいは強くなれたかなって、そう思うんです。だからユウキくんっ」


 ひかりは僕の手を取って言った。



「また、わたしと一緒に遊んでもらえますかっ?」


 

 それは、初めて会ったあのときにも言われた言葉。

 何も変わらない空気があった。

 あれから1ヶ月以上経って、僕たちが遊んだ日々は思い出に変わりかけていたけど。

 でも、こうしてひかりと再会したらすべてが元に戻った。

 あの頃。

 初心者の僕たちが二人で草原フィールドを駆け回っていた頃へ。

 あのときの真剣な瞳は――何よりも綺麗なその目は、今も変わらず、僕の前で輝いてくれていた。

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