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《リンク・フェアリー アリア》

 それからは、外のフィールドで納品クエストのアイテム集めをしているうちに、時刻はもうあっという間に夜八時。

 僕は足がだいぶくたびれていたことに気づき、屈伸運動をしてから伸びをする。


「んー……はぁっ。最近ちょっと遅くまでクエストやりすぎかな。今日は早めに帰って休もう」


 別に寮に門限があるわけじゃないけど、一度落ち着くと動き回っていた身体がかなり疲労していたことに気付いてしまう。

 でも、深夜にだけ現れるモンスターとか、深夜にだけ出来るクエストとかもたくさんあるから夜のLROはそれはそれでまた楽しい。

 何より深夜にワイワイと外で友達と集まってはしゃいだりするのは、それだけで楽しいから。と言っても僕がやってるわけじゃなくて、そういう人たちをよく見るから羨ましいって話だ。現実であんなことやってたら補導されるし、そもそもあんなに堂々と出来ないだろう。

 そういう開放感もこのLROの良いところだよなって思う。まぁ、全部で五万人も生徒がいるから、王都はどの時間だって騒がしいんだけどさ。


「あ、ちょっと倉庫寄ってからにしよう」


 大量のドロップアイテムのログが残っていることに気づき、インベントリからアイテムが溢れそうになっていたため、僕は寮の入り口脇に立っているNPC――《リンク・フェアリー アリア》へ話しかけた。


「あの、倉庫お願いします」

「ハーイ、かしこまりました~♪」


 青いロングヘアーで背中には透明な羽が生えており、メイドさんのような衣装に身を包んだ可愛らしい妖精族のキャラクター――アリアさんがにこやかに応えてくれる。ま、眩しい!

 この《リンク・フェアリー》というNPCは、僕たち生徒にとって最も身近なNPCであり、この寮の入り口だけでなく、学園前や街の正門前、はたまた公園の中、ギルド前などなど、街中のいろいろなところに配置されている『お手伝いNPC』だ。

 こうしてアイテムをしまう倉庫を貸してくれたり、銀行代わりにお金を預かってくれたり、街の情報やクエストのヒントを教えてくれたり、はたまた世間話の相手になってくれたり、僕たちにとっては一番重要と言えるNPCかもしれない。

 しかも一人一人がちゃんと違う名前と性格を持った別のNPCで、僕が王都全体を確認しただけでも七人の個性的な《リンク・フェアリー》がいた。その中でも、アリアさんはおっとりした淑やかなお姉さんタイプだ。


「いつもありがとうございます~ユウキさん」


 アリアさんがそっと僕の方に手を差し出すと、専用の倉庫ウィンドウが開く。

 僕はインベントリの中からある程度の消耗品を残してすべて倉庫にしまい、ウィンドウを閉じた。


 ――ってあれ? そういえば今日は倉庫代を払ってないぞ。


「あの、アリアさん。倉庫代は?」

「いえいえ~結構ですよ~。ユウキさんにはずいぶんご贔屓にしていただいているので~、お得意様にはぁ、倉庫代をサービスしちゃうことにしたんですよ~」

「おお……」

「これからも、アリアたち《リンク・フェアリー》と仲良くしてくださいね~♪」


 ちょっと感動する僕。


「すごい……最近聞いた噂通りだ!」


 というのも、どうもある程度の回数倉庫を利用すると、《リンク・フェアリー》との間に設定された《リンク値》というものが上昇して、それが一定に達するとこういった無料サービスが行われるという噂だ。つまり、ある種の好感度みたいなものなんだろう。

 さらに《リンク値》をこれでもかと上げまくると、《リンク・フェアリー》たちが……エ、エッチなご奉仕をしてくれるとかいう眉唾な噂もあるけど、それはたぶんガセだ。だって教えてくれた僕の友達がうさんくさい顔をしていたからね!


 それにしても、このLROは本当に奥が深い。


 LPみたいなマスクデータだけでなく、この《リンク値》みたいなものまで設定されていて、しかもこの《リンク値》は《リンク・フェアリー》たちNPCに対してだけでなく、各プレイヤーや装備品、アイテムなどに対しても設定されているらしいのだ。

 もちろんそれも、僕たちプレイヤーには隠されたマスクデータなんだけど、やればやるだけ変化していく奥深いシステムで、あらゆるところに仕掛けがあるような感じがして、ゲームの楽しさに貢献してくれている。本当に凝った作りのゲームだと思った。


「ま、待てよ。一応倉庫代無料っていうのは本当だったし……このままアリアさんとの《リンク値》を上げていけば、ほ、本当にありえたり…………?」

「まだ何か御用がおありですか~?」


 笑顔で対応してくれるアリアさん。

 NPCなのに髪はふわふわしていて、彼女が動くたびに豊かな胸元もちゃんと揺れていた。


「え、あ、いやなんでもないですごめんなさい! 純粋なアリアさんをこんな目で見てすみません! そ、それじゃあまた!」


 最近ではもう、NPCに対しても普通の人と変わらず接するようになった僕。

 世間話も出来るほど優秀なAIをしてるから、本当に普通の人と変わらないように思えるのだ。だからいやらしい妄想なんてしてしまうのすら申し訳なく感じてしまう。

 そうして僕が去ろうとしたとき、アリアさんがふと言った。


「おや~? そういえばユウキさん、ずいぶんと運が良くなられましたねぇ~」


「――え?」


 予想もしていなかった声に動揺する僕。

 アリアさんはニッコリと微笑んで続ける。


「ユウキさんほど運の良い方はぁ、王都でもまず見かけませんよ~。ユウキさんはお得意様ですし~……その~、もしよろしければなんですがぁ、私のお願いを、一つ聞いてもらえないでしょうか~?」

「お、お願いですか?」

「はい~。実は、南の砂漠フィールドに大切な指輪を落としてしまったんです~。あそこにはぁ、こわぁ~いサソリのモンスターが出没するのでぇ、探しにいくこともできないんです~。そこで、とっても運の良いユウキさんに、あそこから指輪を探してきてもらえたらなぁ、と思ったのです~」


 そこでポン、と軽い音がして自動的にウィンドウが開く。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


●秘密のクエスト アリアのおねがい

 内容:《リンク・フェアリー アリア》の落とし物を見つけてあげよう。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 そのクエストウィンドウの下部には[yes][no]の選択肢がある。

 まさかアリアさんからクエストを頼まれることがあるとは思ってもいなくて、ちょっと驚いてしばらく黙っていると、アリアさんは心配そうに話しかけてくる。


「ユウキさん~? どうかしましたか~?」

「あ、ご、ごめんっ。えっと、わ、わかったよ」


 僕はすぐにそのクエストを承諾。

 するとアリアさんは手を合わせて喜び、ハートのエフェクトがアリアさんの周囲に散っていった。


「ありがとうございます~ユウキさん~♪ こんなことをお願いできるのは、ユウキさんだけでしたので、とても嬉しいです~。急いではいませんので、お暇なときにでもお願いしますねぇ~」


 そこでアリアさんとの会話は終了。

 呆然とする僕の後ろから「よっ」と不意に声がかかった。


「わあっ! あ、シルスくんか……」

「おつかれーい。ユウキくんも今帰り?」

「あ、う、うん」

「そっかそっか。つーか今のハートのエフェなんだ? 見たことねーけど……――あ! もしかしてアリアにエッチなご奉仕してもらえたんじゃないだろーな!? おい! もしそうなら教えてくれ! 倉庫代無料の話教えてやったの俺だろ!」

「いやいや違うって何言ってんの!? つーかどうせその話ガセだってば!」

「いいやわからないだろ! 俺はこのLROの世界に自由を感じている! リアルで出来ることは何でも出来るという売り文句もあるだろ! ならエッチなことも可能なんだよ! そして《リンク値》みたいな隠しシステムがその妄想に拍車をかける……! 俺は信じてるぜ、いずれ《リンク・フェアリー》たちがいやらしいご奉仕してくれる日をな! だから毎日必要以上に話しかけまくっている! 特にこのアリアに!」

「シ、シルスくん……なんてバカな男なんだ……」

「フッ、褒め言葉と受け取るぜ」


 格好付けてマントを翻すシルスくん。そこそこのイケメンが台無しである。

 このシルスくんは寮で僕の隣の部屋に住んでいて、初日に会って以来仲良くしてもらってるクラスメイトだ。今は《メイジ》に転職していて、毎日呪文をぶっ放しまくってレベリングしているらしい。サバサバしていて良い人なんだけど……うん、自分に素直だよね。


「まーそれはともかく、明日も学校あるし早めに休んでおこうぜ~。アリア~俺にも倉庫~」

「ハーイ、シルスさん。かしこまりました~」

「さんきゅー。あとそろそろヒミツのご奉仕してくれませんかね!?」

「いつもありがとうございます~♪」

「高性能AIにスルーされたあああああああああああ!」


 嘆き膝をつく面白い男シルスくん。

 けど落ち込んだのもつかの間、すぐに何事もなかったように起き上がって倉庫に荷物をしまい、平然と僕に言った。


「よしっと。んじゃねユウキくんおやすみー。また明日!」

「あ、う、うん! おやすみ!」


 ひらひら手を振って寮に入っていくシルスくん。

 チラ、とアリアさんの方を見れば、いつも通りにニコニコしているだけだ。

 あんまり長く見つめていると……


「まぁ~。じっと見られるのは、なんだか恥ずかしいですよ~」


 と、頬に手を添えてしまった。か、可愛い。


 じゃなくて、どうやらさっきのは僕だけに向けたクエスト……だったのか?


 なんとなくは感じていた。

 さっきのクエストは、おそらく何かの前提を満たしたから発生した隠しクエストだ。けど、その前提が〝どちら〟だったのか僕にはわからなかった。

 お得意様になれるのと同じ、《リンク値》によるものなのか。

 それとも、僕のこのLUKによるものなのか。

 シルスくんとは学校でよく話すことがあるけど、僕と同じくらいMMORPGが好きな人だ。

 レベルも……今は上級狩り場にいきまくった影響で僕の方が高いみたいだけど、前までは僕よりもハイペースに狩りをしてたくらいだ。

 シルスくんだってお得意様だけど、アリアさんはさっきのクエストの話は持ちかけなかった。それにハートのエフェクトのことも初めて見たような感じだったし。

 つまり、シルスくんは前提を満たしていないということになる。もしくは既にクエストを受けているのかもしれないけど……でも、シルスくんから今までそんな話は聞いたことがない。ゲーム好きなシルスくんなら、そのことを僕にも話してくれるはずだ。というか、もっと噂になっているはずだろう。


 それなら、と思う。


 やっぱり先ほどのクエストは、僕のLUKが前提なんじゃないだろうか。

 アリアさんも「ずいぶんと運が良くなられましたねぇ~」と言っていた。

 けど、既にLUK999になって何度も話したけど、クエストの話題が出たのは今日が初めてだ。そのことから、“お得意様になっており、かつLUK値が一定以上である”、とか、おそらくそんな前提条件なのだろうと察することが出来る。


「すごいな……ほんと、やりこみ要素だらけだよ」


 MMORPGは“ゲームクリア”が存在しないものが多い。

 一部ではストーリー的にエンディングを迎えたりするものもあるけど、そこでゲームが終わるわけじゃない。プレイヤーが自分でやめるまで、もしくはゲームの運営が終わるまで、どこまでもゲームの世界を楽しむことが出来るものだ。

 そしてこのLROは、マスクデータが多いこともあって、より出来ることが多い気がする。始まったばかりでこれなんだから、今後アップデートが続けばさらにやりこめそうだ。

 それを想像すると、ますますテンションが上がっていく!


「……よし! 明日の放課後、さっきのクエストやってみるか!」


 アリアさんの探し物は明日にということで、僕もその日は寮に入って休むことにした。

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