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繋がりの物語

 その言葉を聞いた瞬間――世界が止まったような気がした。


 草原の匂いも、風の音も聞こえなくなり。本当に、ひかりと二人だけの空間が生まれていた。

 それは、初めて言われたあのときの“好き”とはまったく違う。

 同じ言葉なのに、けれど今は全然違う意味に受け取れることが不思議で、そして、それがとても嬉しかった。


「お友達として……とか、パートナーとして……じゃ、なくて……、その、こ、恋人に、なれたらって、い、意味で…………です、はい……」


 思わずうつむいていたひかりの耳はもう熱そうなくらい真っ赤で、そして僕の手を握っていたその両手からひかりの震えが伝わってくる。



「だ、だから………………琴音ちゃんじゃ、なくて、わ、わたし、と………………」



 ――ああ、と思った。


 やっぱり僕は成長していない。

 いつも、ひかりに先を越されてしまう。


 どうして今までちゃんと意識してこなかったんだろう。

 どうして僕は今までずっとひかりと一緒にいたんだ?


 ひかりが相方になってほしいと言ったから?

 そのまま相方になって、なんとなく続いていた?


 違うだろ。

 お前は、気づかない振りをしてたんじゃないのか?

 自分の気持ちに。そこから前に進む勇気がなかったから。

 ユウキ、なんて名前をつけておいて、勇気を出せないなんて情けない。


 なら、勇気を出せ。

女の子に言わせたままでいいのか。


 いや、いいわけない!


「――ひかり」


 僕もまた、両手でひかりの手を握り返す。

 ひかりはそっと顔を上げた。

 その目には涙が浮かんでいて、今にもこぼれ落ちそうになっている。

 どれだけひかりが勇気を出してくれたのかがよくわかった。

 そこから先は、ひかりに言わせるわけにはいかない。

 以前のように、全部先を越されるわけにはいかないんだ。

 僕だって、少しくらいは男らしいところを見せなきゃいけないって思う。

 これからも、この子のそばにいるために。


 そうして気づけば――僕の口は勝手に開いていた。



「僕は、ひかりが好きだよ」



 止まったままの時間の中で、僕はひかりの目を見つめたまま続ける。

 心臓はバクバクとすごいスピードで動いていたけど、不思議と頭はスッキリしていて、ちゃんと、言葉に集中することが出来た。

 何を言おうか少し悩んで、そして、伝えたいことを伝える。


「今までに、その、いろんなことがあってさ……。僕も、ようやくちゃんと気づけた気がするんだ。僕は、ひかりのことが好きだよ。一人の女の子として。出来ればその……こ、恋人になりたいって思ってる。だから……もし良かったらだけど、僕と付き合ってくれませんか!」


 人生で初めての告白。

 そこだけは目を閉じてしまった。

 どんな反応をされるのかが怖くて。

  

 すると……僕が握っていたひかりの手がさらに震えてきて、


「……ひ、ひかり?」


 こわごわと目を開ける。


 するとひかりは――ボロボロと涙をこぼして泣いていた。


 嗚咽をもらして、たくさん大粒の涙を溢れさせていた。


「ひ、ひかりっ? 大丈夫っ?」


 驚いてうろたえてしまった僕に、ひかりは何度もこくこくとうなずいて、それから僕の手をギュッと強く握り返してくれて、


「ご、ごめんなさい。うれ、うれしくて、わたし、こんな、い、いいのかなって……」


「ひかり…………そ、それじゃあ…………?」


 ひかりは……こくんとうなずいて。

 そして、



「……は、はいっ! わたしでよければ、お付き合い……してくださいっ!」

 


 と、泣きながら笑ってくれた。


 時間が動く。

 景色が色づく。

 僕は、思わずひかりを抱きしめてしまっていた。

 ひかりも、僕の背中に手を回して抱きしめ返してくれる。

 お互いがお互いの体温を直接感じとって、やがて自然と身体が離れる。


 向かい合う。

 ひかりが言った。


「えへへ……大好きな人から二回も告白してもらえるなんて……わたしは、きっとLROで一番幸せな女の子ですね」

「ひかり……」

「ユウキくん……」


 それから、ひかりがそっと目を閉じる。

 僕は自然とひかりの顔に自分の顔を近づけていた。

 ひかりの艶のある唇がとても綺麗に見える。


 そして、僕たちの唇がわずかに重なり合った瞬間――



「ダメーーーーーーーーーーーーッ!」



「わっ!?」「きゃあっ!?」



 大きな悲鳴で僕たちの顔が離れる。

 キョロキョロと辺りを見回せば、近くの木の影から出てきた琴音が、荒い呼吸で僕たちの前に立っていた。


「え、ええええっ!? こ、琴音!? なんでここにっ!?」

「こ、ここここ琴音ちゃんっ?」

「はぁ、はぁ、はぁ……わ、私だって、私だって好きなんだからっ!」


 すると琴音はずんずん僕に近づいてくると、僕の頬を両手で押さえ、そしてそのまま僕にキスをしてきた。あまりにも突然のことに何も対応出来ず、僕は目を開けたまま呆然とするしかなかった。

 やがて琴音は僕から離れて、


「わ、私だってキスしたんだからこれでおあいこよひかりっ! 私だって、まだ負けてないんだから!」

「琴音……」「こ、琴音ちゃん……」


 と、そこへなんとメイさんがとても申し訳なさそうに、ナナミはげんなりと落としながら、二人もまた木の影から姿を現した。ひかりは驚きすぎて声も失ってしまっている。


「え、ええええっ!? ちょ! もしかしてみんなずっと隠れてたんですか!?」

「あははは、ごめんね~ユウキくん、ひかり。メイさんたち、ちょ~っと二人のことが気になっちゃって……つい覗いちゃった♥ キャー♥」

「あ、あたしは別に見たくて見たわけじゃないからな! 勘違いすんなよ! 人の恋路を邪魔して垢BANされるのなんてまっぴらごめんだからな! つーかむしろここまで琴音を止めてやってたんだから感謝しろよ!」

「いや~、琴音ったら二人が出かけるのが怪しいからってずっとうずうずしててね。キスを見て我慢出来なくなっちゃったみたいなんだ。ごめんね二人とも。琴音も、気持ちはわかるけど強引になんてダメだよ? めっ! ほら、二人に謝らないと!」

「うう……」


 珍しくお叱りモードなメイさんに背中を押され、琴音が僕とひかりの前に立つ。

 それから琴音は頬を赤くして、ゆっくりと頭を下げた。


「…………ごめんなさい。反省はしてるわ。でも、我慢出来なかったんだもん……」


 そんなしゅんとした琴音の頭を、メイさんがぽんぽん叩く。


「うんうん、反省したなら良し。だって恋は止められないもんね! メイさん、個人的にはそういう強引なのも好きだよ。どっちがユウキくんの心を奪うか……メイ楽しみっ♥ ねーあなた?」

「メイさん楽しんでるよね絶対!? ていうか見られてたのめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!? ほ、ほらひかりも何か言ってやってよ!」

「……わたし、負けないです」

「え?」

「琴音ちゃんっ。わたし、ユウキくんが好きですっ! だから、ユウキくんは渡せないですっ!」

「ってひかりっ!? きゅ、急に何をっ!」


 ぎゅう、と僕の右腕に抱きついてくるひかり。

 その際にひかりの大きな胸がぎゅう~~~と押しつけられて、その気持ちの良い柔らかさとひかりの甘い匂いに脳がとろけそうになる。今さっき相思相愛だと判明したばかりの子からこんなに嬉しいスキンシップをされると思わず手が伸び……っていかんいかんしっかりしろ僕!


「わ、私だって負けないわ! ユウキくん! これからは私のことももっと見てね!」

「えええっ!? ちょ、琴音っ!」


 そして左腕には琴音が抱きついてきて、身動きが取れなくなる僕。

 ナナミが肩をすくめ、大きくため息をついて額に手を当てる。


「はぁ~~~~……こういう恋愛絡みのトラブルでギルドって崩壊したりするんだぞ……だから恋愛なんて面倒くさいんだよ……」

「年頃の娘が何を言ってるのさナナミ。命短し恋せよ乙女なんて歌もあるくらいだよ。青春時代にめいっぱい恋をしておくのも少女の特権じゃない!」

「限度があるだろ限度が……――って何お前もユウキに抱きついてんだよ!」

「えへへへ♥」

「ちょ、メイさんまで!?」


 さらに背中からメイさんが胸を押し当てるようにして覆い被さってきた。その感触に僕はひたすら慌てるしかない。


「あっ、メイさん良いこと考えたよ! メイさんだってユウキくんのことは好きだし、ナナミもそろそろツンは終わってデレる頃でしょ? ならこの際みんなでユウキくんとイチャイチャすればいいんじゃないかな? ハーレムギルドになっちゃうけど!」

「ええっ!?」「えっ!」「んなっ」「え」


 さすがに全員呆然となるけど、メイさんは「んふふー」とご機嫌そうに笑う。それが冗談なのかそうでないのかまったくわからないからこの人こわい!!


「はーい! それじゃあこれにて無事に恋愛問題は解決で~す! というわけでユウキくん? メイは愛人でもいいからこれからも愛してねっ♥」

「あ、ああああ愛人て! 冗談だよねメイさん!?」

「さぁどうかな~?? てへぺろ♪」

「おいこら待てメイ! なんであたしまでユウキが好きな流れなんだよ! 誰がツンデレだ誰が!」

「まぁまぁまぁ~♪ それで、ひかりと琴音も問題ないかな?」

「いや問題あるだろありまくりだろ! つーかユウキはひかりが好きだって告白してたじゃんかよ! 二人とも両思いだろ! それでハッピーエンドだろ! なのに何でハーレムになるんだよ! 何よりひかりと琴音は冗談通じにくいタイプなんだからマジで勘違いするぞ!」

「そ、そうですよメイさん! そうなったら大変なことに――」


 と、思ったときにはもう遅かった。

 ひかりと琴音はお互いに向き合っていて、


「……ええ、私は望むところだわ。ひかり、リアルで会っても負けないからね」

「わ、わたしも負けないです! けど……現実で会えるのも楽しみですっ!」


 そんなひかりの発言に、みんな一瞬だけキョトンと呆けた顔をして。


 それから笑い出す。


 なんというか、あまりにもひかりらしい発言で。

 ライバル宣言をした琴音ですら笑ってしまって、ナナミが心底呆れたように苦笑して、メイさんに抱きつかれたひかりが一人あわあわと慌て始める。


 夕陽が落ちていくフィールドで、そんなギルドメンバーを見つめながら僕は思った。


 これからもきっと、僕はこのみんなと一緒に色んな体験をしていくんだろう。

 それはLROでもそうだし、夏休み中のリアルでもそうかもしれない。


 そんな未来でもみんなと繋がっていられることを――僕は心から願っていた。


<next link!>

読者の皆さまへ。


本作にここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

完全に趣味でやっているものですが、多くの方に読んでいただけて嬉しかったです。


さて、この後はいったん現実世界のリアルの方に舞台を移して夏休みが始まり、

その後にまたLRO内への話に戻る予定です。ちゃんと続く予定です!


しかし、現在はまだ続きをお届け出来る目処がたっていないため、

ひとまず、ここで第一幕終了のような形にさせていただきたいと思います。


また続きをお届け出来ることになった際は、お暇潰しにでも楽しんでいただけたら幸いです。

そのときの参考にもなりますので、ご意見ご感想などありましたら、是非お願いします。

ブックマークや評価なども残していただけますと、大変励みになります!


ありがとうございました!

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