双子の美人姉妹は究極のシェフ(美味○○○とパパは食べられないので取り除きました)
てくてくと歩く。神様なはずの僕たちだが、空を飛んで移動とかそんなことは特にできない。老衰で死ぬっていうことはないみたいなので、僕たちには時間はいくらでもある。だからスピードは必要ないってことらしい。その代り雲の上でも水の上でもてくてく歩ける。
「面倒くさいなあ、ほんと」
「そんなこと言ったってお兄ちゃん、何も仕事しないで寝てばかりいると、将来本が出たときに登場シーンがなくなっちゃうよ。何も書いてもらえない」
「うん、准おじさんの持ってた本にも、登場したあとはろくに活躍しないまま主人公のハーレムに入っちゃう女の子とか、いっぱい居たしな」
「あれガッカリするよね」
そういえばアマテラスさんが産んだ僕の三人の娘も、あれっきり顔を見せない。まあよくあることなんだろう。
「活躍しなきゃね」
「悪目立ちでもいいから活躍しないとな」
「おかしな決意の仕方ですけど、活躍するに越したことはないですよねえ」
「あ、狭蠅さん。いたんだ」
「いたんだって、ひどいじゃないですか。やっと高天原から見えないとこまで来たんで出てきたんですよ。はぁースサノオ様の穢れ、うんめぇー」
狭蠅さんは僕の肩や腰にぺたぺた触りながらまつわりついて一緒に歩き出した。前より露出度が高くなって凄い格好だ。おっぱいとあそこを三角形の小さな布で覆ってあとは紐みたいなもので縛ってある。肘から先手首までと膝から下はやっぱりもこもこした毛皮みたいなもので覆ってあった。
「お兄ちゃん、この人誰?」
「狭蠅さんっていうんだ。僕の――」
「こゆびと?」
「ツクヨミ様、それを言うなら恋人でしょ」
「どっちにしても違うだろ」
思わず突っ込む。
「あー、否定された。スサノオ様もまんざらじゃなそうに、あんな激しく情熱的な夜を何回も越えてきたのに」
「いや、越えてないからね」
「はい」
そうなのだ。『子産み』の儀式のあと、夜に御殿で一人きりになった時とか出てきてくれるかと思ったんだけど、狭蠅さんは僕の首筋にもぐりこんだまま出てこなかった。高天原の中にいる間は彼女の言う「キラッキラ」が強すぎたらしい。僕の体とそこにたまっている穢れをちょうど宇宙服のような感じで着込んで、狭蠅さんは身を守るのに精いっぱいだったんだって。
「レイ君、このお姉さんはまあ、僕の友達で相棒だ。仲良くしてな」
「うん、わかった」
「ツクヨミ様、イケメン可愛いですねえ。あ、わたくし狭蠅でございまーす」
「お姉さんエッチな恰好だねえ」
レイ君は小学生のくせにいっちょ前に興奮気味だった。ツクヨミボディが歩きにくそうだ。
きれいな海と川に面した、小高い丘二つの間に目的の場所はあった。白木で組まれたちょっと倉庫っぽい店構え。桃太郎のおとぎ話にでてくるようなのぼりが立っていて、毛筆のきれいな字で『お食事処 美双丘』と書いてあった。
店の周りには大勢の人たちが行列を作って並んでいる。人間ばかりじゃなくて、狭蠅さんみたいに何か別の生き物の特徴が混ざった人や、鹿とかヒキガエルとかウサギとか、完全に別の生き物だけど二本足で立って歩いている人とか、姿は様々だ。
あたりには炊き立てご飯と焼き魚のいいにおいが漂っている。みんな給食の前の小学生みたいに期待で顔を輝かせていた。店の中はそんなに広くないみたいで、10人づつくらいでお客が入れ替わっている。
「お兄ちゃん、僕お腹すいたよ」
「いい匂いしますよねえ。我慢できなくなっても仕方ないです」
二人とも漂ってくる匂いを吸い込んで切なそうな顔をしている。行列を見るとまだまだお客は新たに増えているくらいで、ちょっとそう簡単に僕らの順番が回ってくるとは思えなかった。第一、そもそも僕たちはまだ並んでさえいない。
「並ばなきゃ駄目かなあ」
レイ君の目はほとんど漫画みたいなグルグルの渦巻きになっている。よっぽどお腹がすいたらしい。
「バカ正直に並んでちゃだめでしょう、ここはなにか手段を考えないと。ああでもこうやって人材を引き入れるためにいろいろ頭を使うのって醍醐味ですよね! ああ、いけない醍醐なんて言葉はまだこの時代には」
「狭蠅さん?」
「あ、いえ何でもないです」
僕たちは物陰でこそこそと相談をした。並ぶという選択肢は結局出てこない。
「ここはひとつ、計略を使いましょう」
「うん」
「@@」
「高天原から、おいしいお店の取材に来たことにするんです。そうすればきっと、店内通らずに直接厨房でウケモチさんとオオゲツさんの話を聞けるはずですよ」
「狭蠅さん頭いいなあ! よし、それでいこう!」
僕たちは店の裏口をたたいた。
「こんにちわ! マキマキの宮新聞です。取材させてください」返事も待たずにドアを開ける。
中にいたのはスレンダーな体に大きなおっぱいとキュッとしまったおしり、色白で切れ長の二重瞼、まつ毛の長い凄い美人さん二人だった。太もものすごく上のほうでカットされた白っぽいワンピースの衣装に、草木染のスカーフで頭を包んで忙しそうに働いている。スカーフの後ろからは長い黒髪がさらさらと零れ落ちてて、すごく綺麗だ。
「姉さん、取材ですって」
「まあ、困ったわ。今忙しいのに」
厨房の中にはびっくりするほどたくさんの食材が辺り一面に積み上げられていた。
お肉がたくさん。穀物がたくさん。魚がたくさん。野菜もたくさん。なんだか大根やニンジンにまざって、茄子やトマト、ピーマンまである。こういうのってコロンブスって人がアメリカ大陸から持ち帰るまで日本には入ってこないんじゃなかったっけ。まあいいや。異世界だしね。
とりあえず取材の真似事くらいはしてみよう。何か味見させてくれるかもしれないし。正直僕ももうお腹がペコペコだった。
「ここにお店を出して何年くらいですか?」
「そうですね、そろそろ三年くらいですか。最初はほんとに誰も来なかったんですけど、少しづつ評判が広がって、仕込みが足りないくらい毎日お客さん来てくださいます。嬉しいですね」
「仕込みといえば、ずいぶん珍しい食材もあるみたいですけど」
ついつい聞かずにはいられない。21世紀では社会の成績3だったけどこっちでは頑張ってみたい。あ、誰が成績決めるんだろう。
「ああ、このあたりで手に入らないものはですね、少し前に船で浜辺にやってきた、海の向こうのケツアルなんとかって神様が届けてくれるようになったんですよ。なんでもすごく大きな海を渡ってくるんで大変らしいですけどね」
へーへー。凄いなあ。
「あ、宜しかったらこれをどうぞ。少しですけど」
妹のオオゲツさんが僕たちに、高い脚のついた変な恰好の器で山芋と何かの肉を煮込んだものを出してくれた。
「あ、オオゲツさん、俺もそれ一つください」
カウンター風にしつらえられた席の端っこから、日に焼けた筋肉モリモリのおじさんが声を上げた。
「あらあら、タヂカラオさんにはもうハタノヒロモノの焼き物を、お代りまでだしたじゃないですか」
オオゲツさんはそういって笑いながらも、僕たちと同じものをその筋肉モリモリのおじさんに一皿出していた。