そのまま飲み込んで、僕の十拳剣
姉さん、つまりアマテラスの座所にまだ後ろ手に縛られたまま、僕は引き出された。ひどい扱いだ。
「だから―ッ! 俺は一目姉さんに会いたかっただけだって! そりゃ根の国なんか行くのは正直いやだし、ここに置いてもらえれば凄くうれしいからみんなの役に立つようにいろいろしようと思うんだけど! 駄目かな!?」
何だかみんな冷ややかな目で僕のことを見てる。居づらい。
「姉さん……」
僕はもう一度必死の思いを込めて玉座の上のアマテラスを見上げた。
「その言葉に、偽りはありませんね?」
「うん!」
「ではこちらへ」と静かな声がした。さっきこの御殿に僕が連れてこられたとき、兵士っぽい格好の人たちを指揮してた糸みたいな目のお兄さんだ。
手首の縄がほどかれる。
(どうしよう、狭蠅さん)
頭の中に向かって小さくつぶやくと、返事があった。
(あー、今暴れるのはちょっとまずいですねえ。大人しくその人の言う通りにしておいた方がいいと思いますよ……まあまあ、二人きりになったらまた穢れをたっぷり吸いとって気持ちよくしてあげますから、我慢我慢)
(う、うん、わかった)
そんな会話をよそに、糸目のお兄さんはとんでもないことを言いだす。
「アマテラス様にはもう説明済みですが、あなたの心に偽りや悪巧みがないか調べるために、あなたとアマテラス様で、子供を作ってもらいます」
「ええっ!」
顔が熱くなる。多分僕の顔はいま真っ赤になってるはずだ。こ、こここ子供を作る!? 目の前のこのきれいな女神さまと!?
「ほんと、そっくりの反応しますねえ。さすがご姉弟といったところですか。慌てないでください。まだお二人は生まれて日が浅いですからご存じないのは仕方ありませんが、この世界で私たち神は別になり成りてなり余れるところをもう一人のなり成りてなりあわざるところに刺し塞いで行う、ナギナミ方式によらなくても、子供を作れるんですよ。一定の清らかな精神状態で『気』を放出することで、アメノミナカヌシさまが混沌の中からお生まれになったように、空間の揺らぎを物質に変換……いやいやちょっとこれはまだ時代的に表現がおかしいですね。まあとにかく、子供くらいべつにややこしいことしなくてもできます」
長いよ! セリフ!
「というわけで、お互いの気をたっぷり吸った普段の持ち物、これをお互いに体に取り込んで自分の気と混ぜ合わせ、吐き出してもらいましょう」
なあんだ。そんな方法かあ。ちょっとがっかりした。中学一年の時生物の授業で先生から「君たちにはこれから生物の増え方について学んでもらう」っていわれてクラス中がどよめいた時のことを思い出す。
その時は結局、砂糖を含んだ寒天の上に花粉をばら撒いて、花粉管が伸びるのを観察するっていう、世にも期待外れな実験だった。今回もあんまり変わりはない感じだ。このお姉さん――アマテラスとエッチなことができるのかと思ったのに。救いはないんですか!
僕たちはぞろぞろと、御殿のそばを流れる川のほとりに出た。何でも、その場所がこの判定をするのにいろんな条件が都合がいいんだそうだ。
骨を焼いてひび割れを作ってそれをじろじろと見たり、木の枝を振り回してお祈りをする退屈な儀式の後、僕とアマテラスは並んで川岸にたたされた。
「では、スサノオ様はその剣をアマテラス様に渡してください。アマテラス様はスサノオ様にその髪飾りの宝玉を」
「え、この剣を」
そんなあ。せっかくおっさんにもらっていい気分で振り回してたのに。これなかったら冒険できないんじゃないか。
「ああ、ご心配なく。安いものではありませんが、剣なら別のものを用意させますから。もうちょっと、いいのをね」
糸目のお兄さんが僕をなだめる。彼の名前はオモイカネっていうらしい。どっちかっていうと軽い感じの人だ。
「難しい漢字が多い、等々アマテラス様のお叱りをいただきましたので少し軽くしてます」
いや質問してないんだけど。
まあおっさんがゾンビの国の汚いところで振り回したものらしいし、そんなに執着しなくてもいいか。
でもアマテラスお姉さんが優雅に剣を受けとる仕草に、僕はちょっとドキドキした。大体、この世界の服、特に女の人の服は布地が薄い。透けて見えそうなのだ、いろいろと。
おまけにアマテラスさんは大きな宝石のビーズに糸を通した、重そうな飾り物を首や肩にかけていて、彼女が体を動かすたびにそれがかちゃりかちゃり、きゅらきゅら、となんとも言えない音を立てる。
音を立てるだけならまだいいけど、その宝玉の重みで服が引っ張られて、おっぱいやお尻の形が時々服の上に浮き出てくるじゃないか。時々凄いエッチな眺めになる。これはすごい。
その僕の視線に気づいたのか、アマテラスさんはちょっと不快そうな表情になった。きっと、キモイとか思ってるのに違いない。くそっくそっ。
しゃらん、という小気味のいい音を立てて剣を鞘から抜くと、アマテラスさんは……それをあっという間に三等分にたたき折った!
そして、あっけにとられて見守る僕の前で、鉄でできているはずのおっさんの剣――だったものを、まるでおせんべいでも食べるようにぱりぱり、ぽりぽりと食べ始めたのだ。
できれば、口を大きく開けて剣を切っ先からすうっと根元まで飲み込む、そんなシーンが見たかった。
そうして彼女が口から息を川面に向かってふうっと吹き出すと、そこには彼女にちょっと似た、すごいきれいな女の子が三人、透けるような薄い布をまとって立っていた。