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僕と狭蠅さんの異世界道中記

 狭蠅さんの息遣いが耳元で聞こえる。柔らかい体が押し付けられている。凄くいい匂いがする。

「さ、狭蠅さん……」

 うん、この状況はかなりやばい。

「ンンー。スサノオ様って素敵ねえ。穢れでいッぱいだわ!」

「そんな! 僕は昨日も禊ぎをした(シャワー浴びた)よ?」

「そういう穢れじゃないんですよ、ふふふ。もっとね、魂の奥底に――」

「あ、あのッ! そういえばさっき尻もちついてたの、やっぱり僕が剣を振り回した所為? ごごごごめんね驚かしちゃって!!」

「えーと……」

 狭蠅さんはちょっとだけがっかりしたような声を出した。

 僕だってもう中学二年生だ。この状況がどこへ向かおうとしているか、くらいのことは大体わかってる。ちょっとだけ期待感もある。でも、まだ、そのッ心の準備が――

「ふふ、スサノオ様は可愛いなあ……」

 狭蠅さんは囁くようにそういうと、僕の唇を柔らかいものでふさいだ。


 体の奥底で何かが甘くうずき、手足から力が抜けていく。

「スサノオ様の穢れ、おいしいです」

 一度唇を離して泣くような声でそういうと、もう一度狭蠅さんは僕の口を吸った。



 少し体がだるかったけど、僕は狭蠅さんと二人、明るくなっていく空を見上げながら、ズボンのすそを朝露で濡らしながら道を急いだ。僕の『穢れ』はありったけを吸い取られてしまったみたいだ。昨日までなんであんなにおっぱいのことしか頭になかったのか不思議だった。

 頭の中がすっきりして、いろいろと高尚な考えが浮かんでくる。たとえば、何でおっさんは相手もいないで体を水でこすっただけで子供を生み出すことができるのか、とか。

 そりゃまあ神様だから、っていってしまえばそれまでなんだけど、不思議じゃないか。ああ、でもやっぱりおっぱいがそこにある方が世の中は豊かで平和なのではないだろうかおっぱい。

「あ、また穢れがたまってきましたね」

「えっ」

 言う間に狭蠅さんは僕に向かって距離を詰めてくる。狭蠅さんの説明によると、穢れがたまってる人や物のそばにいると、狭蠅さんはそれだけで元気が回復するのだそうだ。

「これなら遠くまで旅ができそうです。スサノオ様はどこまで行くんですか?」

「ん、ええと、僕は高天原まで」

「……」

 狭蠅さんの眉が曇る。

「あそこは苦手なんですよねー……近づいたこともないですけど、常世からでもキラッキラした光が見えて眩しいし、息苦しい感じです」

「そっかあ。じゃあ、この辺で別々に……?」

「とんでもないです!! こんなおいしい穢れをため込む人、千年に一人の逸材ですよ! 少々のことは我慢してでもそばにいたいですね。そうだ、高天原にいる間は私をスサノオ様の頭の中にかくまってください」

「頭の中に!?」

「そうすれば私は高天原のキラッキラから身を守れますし、スサノオ様には判断に困ったときなんかに助言もしてあげられますよ」

 ああ、それはいいかも。何といっても僕はこの世界に転生してきて日が浅いんだ。目立たないところで助言をしてくれる人がいてくれれば、すごく助かるや――

「だいたい納得していただけたみたいですね。では失礼して……」

 狭蠅さんは体をひとゆすりすると、それこそ蠅みたいな大きさに縮んでしまった。そして、僕の耳の少し下に飛びつくと、やっと聞こえるような声でこういった。

「来襲もまた、魅て管災ねぇーーーーー」


 誤字じゃないよ。不思議なんだけどこういう漢字で頭に入ってくるんだ。不思議。でもそれどころじゃあなかった。


 次の瞬間、狭蠅さんはいきなり僕の首筋の中心部へと、ぐりぐりと穴を掘ってもぐりこみ始めた!

「ぎ、ぎぃいいああああああああ!?」

「大丈夫、痛くしません、痛くしませんから。ほらちょっと、落ち着いて。うひゃひゃひゃ口ではいやいやと言うてもなあにすぐによくなる」


 ぐりぐりぐり。


 激痛にのたうち回る僕をよそに怪しげなフレーズを呟きつつ、狭蠅さんはすっかり僕の脊椎のすぐそばに落ち着きどころを作り上げてしまった。

 

「あははは、そんなに怒らないでくださいよスサノオ様。ほら、だんだん気持ちよくなってきたでしょう?」

 狭蠅さんは何だか勝ち誇った声で言った。うん、なんだかだんだん気持ちよくなってきた。昇ってくる朝日を見ながら、僕は高天原の方角へ向かって次第に速度を早め、飛ぶように歩いていった。

 手の中で、十拳剣が躍る。僕は抜身のそれを振り回し、山川草木その草一本一本にも宿るはずの名もなき小さな『神』を切り伏せあらぶる姿となって進むのだった。

 


次回は妹SIDE

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