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ボクが鉄剣もらった結果

 夜道は真っ暗だけど、やがて雲が晴れて空には満月がこうこうと顔を出した。そこそこ明るい。

 そういえば僕と一緒に生まれたあのイケメンの兄さんは、おっさんに「お前は夜の空を治めろ」っていわれてホイホイと月に行っちゃったらしい。

 すげーな、NASAでも最近じゃおいそれとできないことを平然とやってのけちゃうなんて。でもまあ、イケメンがいると女の子が僕にまで回ってこないかもしれないからね。ちょうどいい。


 腰の剣が心地よい重さを伝えてくる。背中に担いだ布袋の中に詰め込んだ金目のものは、綺麗な塗り物の櫛に真珠やそのほかの宝石のついた髪を縛る紐、磨いた金属製の鏡に、あとなんかいろいろだ。

 きれいな色で染められた細長い布切れとか、女の人の腰から下がってた帯についてた透明感のある石の輪っかとか、それなりによさそうなものもあるし、女の子がいたらプレゼントして喜ばせようっと。


「ほぅ! ほうぅ! ほぅ! ほほぅ!」

 テンション上がりまくりの僕は剣を抜いて、道端の丈の高い草を斬りつけながら、奇声をあげて小走りに駆けつづけた。

 ぴしっ、ぴしっと音を立てて、結構な太さの草や細い雑木が切り払われていく。

 逆手に握っては「アルバン・スラッシュ!」

 フェンシングのように突き出して「ブラスティー・グラインド!」

 アニメや漫画、ゲームで見て憧れた技を繰り出しながら、僕はすっかり勇者様気分になっていた。しかしこれからどこへ行こう。


 そういえば、僕の一緒に生まれた姉さんに当たる、すらりとした長身できりっとした顔立ちの女神が、最近おっさんの故郷だっていう山の上の高原に行って、そこの支配者に収まったって聞いたっけ。誰も反対しなかったのかな。もしかするとおっさんはそこの王子みたいなものだったのかもしれない.


 え、じゃあさ、じゃあさ……もしかして僕でもそこへ行って、姉さんと代わってもらえば、貴族とか領主みたいなシハイ階級にのし上がれるんじゃないのかな……いやいやもちろんそういうことなるでしょう。

 じゃあなんで、僕だけ海に行けとかゾンビの国に行けとか言われるんだ?差別じゃね? おかしくね?

 まあ気にしなくてもいいよね! 僕は自由なんだ。よし、姉さんの国を目指そう。


 そうやって剣をぶんぶん振り回しながら夜道を飛ばしていると、脇の草むらの中から「きゃっ!」という声がした。女の子っぽい声だ。


(おおお、女の子!?)


 僕のテンションは倍増した。目の前の丈の高い草、多分ススキかなんかの、穂の出てない青いやつをかき分けると、そこには……


 頭の上に複眼っぽい飾り物を載せ、黒いもこもこした材質の布きれを体のあちこちに申し訳程度につけた、露出度の高い女の子がいた!


 何かに驚いたようにぺったりと尻もちをついて座ってる。短いスカートというか腰みのというか、そんな感じのものの奥が見えちゃいそうだ。やっばい。

「き、ききき君は誰だい」

 僕は上ずった声でやっとそれだけをその子に訊いた。


「まあ冷たい! あなたが私たちをこの瑞穂の国にお呼びになったんじゃないですか」

「え、僕が?」

「はい。といっても、スサノオ様にはご自覚がないかもしれませんねえ。先般、毎日のこと大層お泣きになったでしょう?あれでこの世の陰陽の気が大いに乱れて穢れが世に満ちたので、私たちは常世からその穢れに引かれて出てきてしまったんですよ」

 穢れって、確か汚いものとか悪いもののことだっけ。じゃあこいつは……

「き、君は悪いやつなのかい?」

「善悪とかはあんまり関係ないかなー。まあ穢れがあると気持ちいいしお腹がすかずに済みます。あ、自己紹介まだ済んでないですね」


 そういって、女の子は背中の虫っぽい羽をふわっと広げ、僕に向かって手を合わせながらお辞儀をしたのだ。


「わたくし、狭蠅(さばえ)でございます!」

 変な名前だ。そう思った。あと、なんだか日曜日が終わるような感じがする。寂しい。

「あ、立たないで! 見えなくなる」

 思わずそう口走った僕を、狭蠅さんはにっこり笑いながら手を掴んで自分のほうへと引き込んだ。これはヤバイ。


 青い月が照らす中で、僕と狭蠅さんの体がぴったり密着して地面に横たわる形になった。

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