表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

自分を産みもせずに死んだ母親がすでにゾンビって、それはないでしょう!

「根の堅洲国って、どんなところなの」

「お前の母さんがいるところだ」

「それじゃわかんないよ」

 このおっさんはどうしてこう言葉が足りなくて一方的なのか。こんなんだから奥さんに逃げられるんじゃないのか。


 と思ったら、よくよく聞いてみると事実はもう少しぶっ飛んでいた。この世界ではこの世とあの世が文字通り地続きで、「根の堅洲国」ってのは死者の国なんだそうだ。

 大体地底にあるんだけど、所在地的に言うとちょっと南のほうにある半島っぽい地形のところで、その土地自体のことも『根の国』『根の堅洲国』って呼んでるらしい。


「母さんって美人? 若い?」

「ああ、若くて美人だったよ、生きてる時は」

 死んじゃってるのかよ!


 ……もう少し話を聞いてみる。この世界では死ぬといつの間にかその地下の国に体ごと転移するらしい。で、そこで出されたご飯を食べると、完全にその国の住人になる。そうすると帰ってこれなくなる。ちょっとやだ。

「……綺麗な女の子はいる?」

「いや、角をはやして体に電光をまとわりつかせた雷神とか、黄泉醜女(よもつしこめ)って呼ばれてる見苦しい顔のオバハンたちばっかりだ。生きたものが行って機嫌を損ねると、そいつらが群をなして追っかけてくる。ああ、思い出しても恐ろしいわ」


 ダメじゃん! 根の堅洲国全然ダメじゃん! 行きたくないよ! 要するにあれでしょ、和風ファンタジーの異世界に隣接して、ダンジョン脱出系ゾンビホラーものの世界がありますよってことだよね。


 僕はおっさんに、なんで自分がそんな恐ろしい世界へ行かなければならないのか、辛抱強く訊き返した。

 要するにこういうことだ。おっさんは毎日泣いては野山を暴風で枯らす僕をすっかりもてあまし、ゾンビの国へ放逐したいのだ。

 言い忘れていたが僕はどうやら嵐の神としての力をもらったらしい。准おじさんが夢見てた、『神様チート』ってやつじゃないか。でもゾンビは嫌だ。

「いやだといってもな、もう遅い。お前は根の国へ行くように、もう手配してあるからな。さすがに知らせを聞いて母さんも喜んでくれたぞ。明日迎えが来る」

「勝手なことすんなよこのクソ親父!」

「だったら海にする?」

 おっさんが顔に妙にキラキラした笑みを張り付けてそう訊いてくる。なんか腹立つ。海は嫌いじゃないけど、どうせこの世界のお姉さんたちは可愛い水着なんか着ててくれない。

 さらに悪いことには、僕が海にフニンすることになると、先におっさんが体をこすって産み出した(オエッ)兄さんたち、ウワツツ、ナカツツ、ソコツツって名前の三人が補佐と監督兼ねてついてくるっていう段取りらしいんだ。それじゃ修学旅行より悪いじゃないか。

 せっかく異世界にチート付きで転生したんだ、冒険の旅に出てかわいい女の子と知り合っておっぱいを触りたいに決まってる。でもどうあってもこのおっさんのおぜん立てから逃げ出さなくっちゃあ、僕の異世界ライフは始まりそうにない。


 その時僕の頭の中に、電光が走ったようにすごいアイデアがひらめいた!自発的に旅に出ちゃって、迎えに来た根の国の人たちには帰ってもらおう。そして、僕は好き勝手気ままにこの世界を旅するってわけさ。


「分かりました。根の国行きます。でも僕はまだ子供だし、向こうに行って軽くみられるかもしれない。良かったら武器とかください」

「ははは、こやつめ。急に物わかりがよくなったと思ったら、なんとも男の子らしいことを言いだしおった。いいとも、お前にはわしの、この(つるぎ)をやろう!」

 そういっておっさんは、腰に下げていた長い直剣をはずして、僕に渡してくれた。すごい!鉄でできた本物の剣だ。「アルミ材で削り出して作ってみた」とかじゃないんだ!

「それは十拳剣(とつかつるぎ)だ。この間根の国に行った時もそれで身を守った。持って行け」

 見るもカッコいい長剣をもらって僕のテンションは最高潮にアゲアゲだ。そしてその夜、僕は心の中でおっさんに謝りながら、御殿の中のお金になりそうなものをこっそりかき集めて、夜の闇の中へ逃げ出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ