妹SIDE:お兄ちゃんなんだけど弟になったから私のほうがエラいよね
今日も泣いてる。あー、うるさい。
シンゴお兄ちゃんはまだ私が同じこの世界に転生したことを知らないみたい。うん、教えてあげるつもりもないんだけど。
何だか隣の建物から、いつも「メイドはいないんですか!」とか、「おっぱい!おっぱいが見たかったよぅ!」っていう泣き声が聞こえる。恥ずかしいからやめてくれないかなあ。
でもまあ、私だって自分の置かれた立場が飲み込めるまではかなり混乱したし、お兄ちゃんがあんななのもきっと混乱してるんだと思う。だから許してあげよう。
この世界で目覚めたときに川で体を洗ってた、あのムキムキのおじさんは、イザナギさんっていうらしい……この世界の、このあたりの大地を作った神様なんだって。
で、どうやらあたしたちはイザナギさんの子供としてこの世界に生まれた、ってことみたいね。つまり、私も神様ってこと。びっくりするなあもう。
私には光を操る力がある。気持ちを集中して力むと、この御殿の暗い屋内が昼間みたいに明るくなるの。あと、目からビームが出る。一点を見つめてこめかみに力を入れると、だいたいスパゲッティくらいの太さの黄色い光が両目から、ビーッって。で、当たったものはだいたい蒸発するのね。私はどうやら太陽の神らしいよ。
で、三日目くらいに気が付いたんだけど、これってつまり、ここは日本の神話の世界だってことなんじゃないかな。お兄ちゃんはまだ気が付いてないみたいだけど。私のほうが読書してるからね。で、私のほうが先に生まれたんで私が姉ってことになってる……。
よし、シンゴお兄ちゃんが何かわがままを言ってきたときは、
「私がお姉ちゃんだから我慢してあげるわね」って言おう! すっごーい!気持ちいいーーー!
* * * * * * *
この世界に生まれてだいたいひと月たったんだけど、私はこの世界でのお父さん、つまり、イザナギさんに言いつけられて、高天原ってところに行くことになった。
雲の上にでも行けっていうのかと思ったんだけどそんなことは全然なくて、ちょっと行ったところ、メートル法でいうと地図上の直線距離でだいたい20㎞、中世ヨーロッパの農村地帯なら村と村の間くらいの距離のところなんだけど、標高300mくらいの山の上にちょっとした高原があって、そこにイザナギさんのお父さんやお母さん、親戚の人たちがいるんだって。あ、人たちじゃないね。神様たちだよ。
最初の日に川のそばにいたきれいなお姉さんたち、つまり私のお姉さんに当たる女神さんたちを何人か連れて、ちょっとした行列を仕立てて高天原に入った。
空気が澄んですっごいきれいなところ!
高原の上にも周りの山の斜面にも、きれいな緑の田んぼがたくさん作られてて、私が光を出すと、それを反射して田んぼの水面がキラキラ光る。うん、なんかすごく神様!って感じだ。
長老の一人の、オモイカネさんが用意してくれた御殿で、私たちは生活することになった。高天原の女の子たちが大勢、御殿で働いてくれるので、私の生活には今のところ不便はない。温泉が湧いてるから時々みんなで入るんだけど、湯気の中できゃあきゃあ騒ぐ女の子たちを見てるとね、ちょっとお兄ちゃんが可哀想になったかな。
――シンゴお兄ちゃん、ねえ、おっぱいはここにあるよ。