美味しさのヒミツは知りとうなかった!
結局お店は日没まで全く休みなしに繁盛し続けた。僕たちはその間ちょこちょこといろんな料理を味見させてもらったけど、ウケモチさんとオオゲツさんはそのあいだずっと働き続け。タフな人たちだ。
仕事がようやく片付くと二人はすごい量のご飯を食べていた。僕たちも取材の続きとばかりに同席して、いろんな質問をしながら一緒にご飯を食べた。新鮮な野菜をふんだんに使った煮物や浅漬け、藻塩で味付けした魚や、ウサギやイノシシの豪快な料理が本当に素晴らしい。
「実はさ、僕たちがここに来たのは高天原のマキマキの宮、アマテラス様の御殿でお二人の評判を聞いて、ぜひ料理の腕を振るってほしいということになって……」
そう打ち明けると、二人は顔を見合わせてころころと笑った。
「どうしましょう、姉さん」「どうしようかしら、困ったわねえ」
「困るんですか?」
「海に面したこの場所にいないと、ケツアルさんが来てくれた時にお野菜を受け取れないじゃあないですか。お野菜のほかにも『かかお』とかいう凄く苦いけど元気の出る木の実とか、甘い汁の出る葦とか……うちの料理には欠かせないんですよねえ」
そりゃあこまったなあ。
簡単に結論が出ないので、その夜僕たちはお店の二階で泊めてもらって寝ることになった。少し食べ過ぎてお腹が苦しい。レイ君にはちょっとかわいそうだったけど別の部屋に寝てもらって、僕と狭蠅さんは同じ敷物の上に寝た。
狭蠅さんのおっぱいを触らせてもらってるとどんどん穢れがたまるので、狭蠅さんは僕の穢れを吸い取り続けて上機嫌だ。
「ちょっと狭蠅さん、たまには僕に息をさせて」
「仕方ないなあ、ほら、今のうちにどうぞ」
重ねた唇を離すと、狭蠅さんは自分でも「ふぅ」と息をついた。
彼女は穢れを吸えば吸うほどきれいになっていく。頭の複眼状の飾りはどうやら飾りじゃなくて、本物の複眼だ。その下にある顔が実は飾りだって。口以外は。うわちょっと聞きたくなかった。
その複眼がキラキラと輝いて、腕や脛に着けた毛皮のカバーが風もないのにふわふわと揺れ動き、辺りに黒い光の粒子を振りまくようだ。何かの木の実の油を使ってるらしい黄色い炎の明かりだけなのに、部屋がすごく明るく感じた。
隣の部屋から、突然レイ君が駆け込んできた。言動は小学生だけど体は二十歳近いイケメンだから、すごくおかしな感じがする。彼は僕と狭蠅さんが敷物の上で絡み合ってるのを見て、顔を真っ赤にして前かがみになった。
「お、お兄ちゃん、何してんの!」
「えっと……」
答えに窮する。確かにちょっとこれは小学生には刺激が強いかもしれない、いや僕にも十分刺激が強いんだけど。
「ご心配なく、ツクヨミ様。スサノオ様からちょっと穢れた気を取り除いて差し上げてるだけです」
「そ、そう」
少し安心したような顔になる。が、次の瞬間部屋に入ってきた用事を思い出したらしく、改めて血相を変えた。器用だなあ。
「た、大変だお兄ちゃん。ウケモチさんとオオゲツさんが下の倉庫で変なことしてる!」
「変なこと?」
「おしっこしたくなったから下りて外のお便所に行ったんだ。そして帰ってくるときに倉庫から明かりが漏れてたから覗いてみたら、お姉さんたちがお尻とか口から、次から次に野菜やお魚を出してるんだ」
「出したり入れたり、じゃなくて出してるだけなんですか?」
狭蠅さんがもっと変なことを言いだした。
「そんなにちゃんと見てないよ! でもきっと、僕達が食べたものもああやって……」
「そ、それはさすがにちょっと引きますね」
僕も何だか目の前が暗く曇ってきた。おいしい料理だと思ったのに! そんな変態的な行為で食べ物を汚して、それを僕たちに、それにあのお客さんたちに出してたんだ。
(よくもだましたな! だましてくれたな!)
僕の周りに、体にみなぎってきた暴風の神の怒りのパワーが噴き上がる。
「食べ物をおもちゃにするなんて許せない!」
レイ君も黒々とした闇のオーラを身にまとい、目から青白い光を発して周囲の温度をすうっと下げた。
「ひゃあ、怖い!」
狭蠅さんが僕らの形相を見て腰を抜かし尻もちをついた。よく尻もちをつく女の子だ。
「お兄ちゃん。懲らしめに行こう」
「うん、何だかよくわからないけど僕も腹が立ってきた」
二人それぞれの腰に下がった十拳剣がすらりと抜かれた。
「行くぞレイ君!」
「うん、お兄ちゃん!」
僕たちは憤怒に燃えて剣を片手に階段を駆け下りた。冷静に考えると危ないんだけどその時の僕らはお姉さんたちのお尻をくぐる大根やキュウリの忌まわしいイメージで完全に頭が沸騰していたんだ。




