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おっさんから生まれたというアクシデント

『生まれて』最初に見たのはとうとうと流れる川だった。澄み切った水が流れる、とても美しい川だ。岸辺の緑が目に染みた。

 そう、今疑問に思った人がいるかもしれない。僕は生まれた、あるいは目が覚めたその瞬間から目が見えていた。それに視界にも違和感がない。むしろ、記憶に残っている前世の自分より、目線が高いような気がする。


 で、僕の目の前には特記すべき最大の問題が一つ立ちはだかっていた。


 そう、たちはだかっていたのだ。立ち裸っていたのだ。誤字じゃないぞ。


 川でおっさんが全裸の体を洗っていた。あちこちにこびりついた腐臭の漂う汚らしいものを一心に洗っていた。河原にはおっさんにどことなく似た目鼻立ちの若い美男美女が、古墳の壁画でしか見たことのないような古めかしい衣服を着て、どこかぼんやりとした顔でたむろしていた。


「あの……ここは一体。それに僕はどうして――」

「むっ!?」


 おっさんは僕と視線を合わせると、微妙にそこから左右に目を動かし、パッと明るい笑顔を浮かべたのだ。まるでたった今暗闇の中から抜け出したといった様子だ。そして、腕を大きく左右に広げてこういった。

「辛気臭い場所に呼び出された挙句に、こじれ切った別れ話をしてきてうんざりしてたが、俺の後を継ぐのにふさわしい高貴な子供が三人もできた! どうだ、女房なんていらなかったんだ!」


 ん、三人?


 僕はその時初めて左右に、同じくらいの背格好のイケメンと美少女がいるのに気が付いたのだった。




 記憶する限り、僕は中学2年の夏休み最初の週末に、父さんの運転する車で家族とともに海水浴に向かっていたはずだった。小学3年生の弟と、小学6年生の妹も一緒だ。でも、記憶はなにかひどい音がして、体にすごい衝撃が加わった瞬間で途切れている。

 おそらく、僕は親戚の准おじさんがよく話していた『異世界転生』というものを体験しているんだと思う。多分、交通事故か何かで僕たち一家は全滅したんだろう。まあそれはいいんだ。何だか最近ご飯のおかずが物足りない感じになってたし、父さんと母さんが夜遅くにいやな感じで言い争っているのも聞こえたしね。

 生きてても多分、あんまり楽しいことが続かない感じになってたんじゃないかなあ。


 ただ、おっさんに連れられて大きな柱のある御殿(と言っても木の皮みたいなもので屋根をふいた、ちゃっちい建物なんだけどね)についた後、僕は大いに現状に不満を抱くことになった。

 先ほども名前を出した「准おじさん」は去年の夏に心臓の発作で寝ている最中に亡くなったんだけど、その『異世界転生』ってものを扱った小説が大好きで、遊びに行くと部屋にバカみたいに積み上げられた、ジャンプコミックスよりもちょっと大きなサイズの小説本を自由に読ませてくれたんだ。だから、僕も『異世界転生』ってものが普通はどういうものなのか、よく知ってた。


 つまりさ、普通は赤ん坊として生まれるわけ。こっちの精神(イシキ)は元の年齢のままでね。で、たいていは貴族だったり若い金髪の女の人がお母さんだったりして……おっぱいに顔をうずめたりしゃぶったりすることになるんだって。

 え、いいじゃん。僕だってもう中学二年生だよ? 女の子の裸やおっぱい、お尻。そりゃ興味あるさ。


 だけど、この御殿にはそんなもの何にもなかった! だいたい中世ヨーロッパ風の世界でも何でもないし、もちろん金髪のお母さんも美人のメイドさんもいないんだ。ノーおっぱい、ノーメイドだ! あんまりじゃないか! 畜生! おっぱいに、いや、金髪で美人のお母さん(inこの世界)もしくは黒髪眼鏡ミニスカートのメイドに会いたい! 会いたいよ!


 悔しくて悔しくて、僕は毎日悔し涙を流した。この体はどうやら生まれたときからすでに高校生くらいの年齢みたいで、僕はひげがだんだん伸びてきてほっぺたがちくちくした。それも嫌だった。おまけにあのおっさんときたら、僕に『お前は俺に代わって海を治めろ』とかわけのわからないことを言うんだ。


 で、ある日とうとうおっさんは、僕にこう言った。

「そんなに母さんに会いたいのなら、根の堅洲国へ行け」


 

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