死人に口無し
今日はあのヒトの命日でした。
そう。あなたの大事な大事な、あのヒトの――。
「……もう、こんな所にいたのですか。おばさんが心配していましたよ」
「んっ……? なんだ、そんなに経ってたのか」
「まったく。こんな河原で寝ていては風邪を引いてしまいます」
「いーの。あいつのお気に入りの場所にいると、あいつと一緒にいるような気がするんだよ」
そう言って、あなたは寂しそうに笑う。
ああ、分かっているのに。この笑顔も今日限りで、明日にはもう直っているだろうと。
それでも、一年にたった一度でも、この日ばかりは訪れてほしくなかった。
それはあなたが誕生日に最低最悪のプレゼントを贈られた日。
他でもないあのヒト――彼の恋人で、私の姉であった小百合の“死”こそが、その日彼に贈られた最悪の報せだった。
真っ青な顔で私の肩を弱弱しく揺さぶった彼を、今でも私は鮮明に覚えている。
『なあ恋、嘘だよな。あいつが死んだなんて嘘だろう? きっとまたユリが首謀で、姉妹で俺をからかおうってことなんだろう? 全部お見通しなんだよ。なあ、だから、だからさ、』
“こんな手紙も、嘘だって言ってくれよ”
彼がぎゅっと握り締めていた手紙は姉さんの遺書だった。姉さんは自殺したのだ。
『拝啓、蒼と恋華へ
この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのですね。頑固な私だもの、一度決心したことは自分で曲げたりはしません。死人に口無しとは言いますが最後まで読んでくれると幸いです。
まずは恋華。あなたってばいつも「姉さん、姉さん」って私の後を付いて回ってたわね。そろそろシスコンも終わりにしないと、あなたももう16なんだから、彼氏くらい作んなさい。恋華は可愛いからきっとすぐ彼氏くらいできるわよ。あ、でもそれはそれで寂しいわ……。とにかく、悪い虫には気を付けなさいね。そこらへん探しても蒼みたいなイイ男にはきっと巡り合えないから。結婚したくなったらとりあえず紳士で優しい男と付き合うのがオススメね。
次に蒼。あなたをどこの馬の骨とも分からぬ女に渡すのはちょっぴり、いやかなり悔しいけれど……私はあなたを幸せにしてあげられなかったものね、何も言う権利はないわ。ちゃんと幸せになってね。私はあなたと共に笑って、泣いて、抱きしめあって、とても幸せだったわ。ありがとう。なんだったら恋華のナイトになってくれると私は嬉しいんだけどなあ。
それじゃあ、またどこかで出逢えたらいいわね。来世で会いましょう!
P,S I love you』
遺書とは思えない馬鹿みたいに明るい文章だ。けれど、それが私の姉だった。
昔っから私たち姉妹はそうだった。性格こそ正反対なのに、好きなものに嫌いなものはまったくもって同じ。
クールな妹と明るい姉。他人の好みにもよるが、私が欲したものはほとんど姉さんがかっさらっていってしまう。
ねえ姉さん、知ってた? 私は姉さんのことが大好きだけど、それ以上に大っ嫌いだったんだよ?
私の欲しいものは姉さんが奪ってしまったから、私の世界には姉さんしか映らなかったの。
蒼さんだって、私が一緒だったらこんな思いはさせなかった。悲しい気持ちを背負わせたりしなかった。
結局姉さんは、自分より優れた私に一人醜く嫉妬していただけだったのよ。
可哀想な姉さん。一人自己満足に溺れながら死んでいったのね。
「蒼さん、早く行きましょう」
「へ? お、おいどこ行くんだよ恋!」
「そんなの決まってるじゃないですか、」
“死んでしまった姉さんのお墓参りですよ”
もう“死人”のあなたに出る幕はないわ。
どーも、yurisでございます。
最近悲恋とかシリアスのハマリ気味…
蒼が恋華に落ちたかどうか、小百合は誰に『I LOVE YOU』と遺したのか?
そこらへんは読者様の想像にお任せ致しますー