『愛を求めるな』と言われたので公認ニートになろうとしたら、健康オタクの旦那様に健康管理されることになりました
※恋愛より先に、旦那様が妻の健康を守り始めます。
「君の身柄は、君の家の借金と引き換えに、私が買い取った。 私が君に求めるのは、名目上妻として存在していることだけだ。 家のための社交は一切必要ないし、家の後継は養子に任せるつもりなので、子をもうける必要もない。 私からの愛を求めず、存在していてくれればいい。 その代わり、生活に必要な金銭はすべて負担しよう。 宝石でもドレスでも、与える予算の範囲内なら好きなように購入して構わない」
結婚初夜、旦那様になった人物からの第一声は、中々のものだった。
「まぁ、んまぁああ! 旦那様! よろしいんですの?! そのような素晴らしい条件で、私を引き取っていただいて、感謝いたしますわ! 私、何しろ殆ど教育を受けておりませんので、社交など全くできそうにありませんでしたの!! そうしましたら旦那様、私、どの程度、旦那様や皆様に姿を見せないように、生活したらよろしいのでしょうか? いえ! むしろ、旦那様がスポンサーになっていただけるのでしたら、私、家以外の場所を、見たことがございませんので、国中を観光して巡る生活で、こちらのお屋敷に一切立ち入らない生活でも問題ありませんわ! あぁ、でも、それだと、生存確認が大変だとおっしゃるのであれば、毎日一食と、トイレ、快適な生活空間、清潔を保つ一切合切と、叶うならば暇を潰せるよう、娯楽に本などがあれば、お部屋一室にずっとこもる生活でも、全く不満はありませんわ!」
旦那様から、公認ニートの契約をもぎ取るべく、テーブルを挟んだ向こう側に座る旦那様に向かって、勢いよく詰め寄った。
「…、っんん゛、とりあえず…。 君が取り乱して泣きわめいたり、ヒステリックに怒り出すタイプでなくてよかったよ。 毎日一食というのは、こちらが心配になるから、三食しっかり食べてほしいが…。 それで、君は姿を見せないよう、生活してくれるつもりがあることは分かった。 どの程度にするかは、そうだな…、今日はもう遅い時間だし、結婚式もあったので、疲れているだろう? 明日にしないか? 私は明日と明後日、休暇になっているから、その間に詳細を決めるのはどうだろう?」
「まぁ! お気遣いいただき、ありがとうございます。 私、物心ついてから一昨日まで、一日にあのような長時間歩いたことも、あのように重たい服を着て動いたこともありませんでしたので、本日はとても疲れましたの。 明日は、筋肉痛で起き上がることができないかもしれませんが、ぜひ話し合いはいたしたく存じます。 それでは旦那様、お休みなさいませ」
向かいのソファーに座っていた旦那様は立ち上がり、
「…、お休み」
と、挨拶をして部屋から出て行った。
ドアが閉まる直前、旦那様は廊下へ控えていた執事へ、何かを告げていた。
(公認ニート契約へのワクワクでドキドキして、こんなの絶対に眠れませんわ! …( ˘ω˘ )スヤァ…)
私は一昨日まで過ごしていた家のベッドより、数万倍柔らかな毛布に包まると、一瞬で眠りの世界へ引き込まれた。
◇
「…ふ、ぁ。 …ごほっ、ごほっ」
自分の腕のはずなのに、まるで言うことを聞かない腕をなんとか動かして、起き上がろうともがく。
サイドテーブルに水差しを発見し、ひとまず喉を潤そうと手を伸ばしたが、生まれたての子馬のように手が震えて、水差しを倒してしまった。
ゴトンッ ビシャッ
「っぬぉ、ぶっ!」
慌てた拍子に、ベッドの縁に手をつき損ねて、滑り落ちた。
「…っうぅ、いた、い…」
顔面から落ちて(絨毯がフカフカでしたので、そこまでのダメージはありませんでしたわ! (・ω・´ )キリッ)床で芋虫のように呻いていると、部屋のドアが開いて、誰かがこちらの様子を確認してくれる。
「奥様? 大変っ! 失礼いたします」
女の人が駆け寄ってきて、私をベッドへ戻してくれた。
(私、一晩で九十歳になりましたの? (^_^;)あら?)
「…あり、がと。 …み、水…」
「えっ? お水ですか?」
「そこの…こぼ、した。 …ごめん…なさい」
倒れた水差しを見て察してくれたのか、女の人は即座に頷いた。
「大丈夫ですよ。 すぐに新しいものを、お持ちいたします」
そう言って、女の人は部屋から出て行った。
◇
少しすると、先ほどの女の人の他に、数人が部屋にやって来た。
「奥様、どうぞお水です」
先ほどの女の人が、私の背に手を差し入れて、上半身を起こし支えながら、反対の手に持った吸い口を口元へ運んでくれた。
(中々に腕力のある女性ね。 ( ᐛ )و パワー)
「ありが、とう」
何日間か水分を取っていなかったかのように、夢中になって水を飲んだ。
吸い口の水を飲み干し、まだ飲み足りないためもう少し、の気持ちを込めて女の人を見る。
女の人は一緒に来ていた一人に顔を向け、顔を向けられた人は首を横に振った。
「奥様、今はこのくらいにしておきましょう。 あちらにいらっしゃるお医者様も、そのように申しております」
(何と! お医者様でしたのね! Σ(゜Д゜)ファッ!)
「ええ、わかりました」
女の人が私をベッドに戻して離れ、入れ替わりにお医者様が近寄ってくる。
目や喉を覗かれたり、首筋や手首の脈?を測られたり、一通りの軽い診察を受けた後、お医者様は真剣な顔で私の健康状態を告げた。
「奥様、端的に申し上げます。 貴女は一週間、重度の栄養失調と運動不足で昏睡状態でした。 旦那様のご判断が早かったおかげで、助かったんですよ。 もしこのまま、ご希望されている『引きこもり生活』を開始すれば、来月には確実に死にます」
「な、なんですってー!?」
お医者様が真顔で、さらにとんでもない追い打ちをかけてくる。
「それだけではありません。 奥様の骨密度はもはやスカスカです。 ただ寝転がっているだけでは、自重で骨折いたしますよ。 つまり、食っちゃ寝生活では、骨折しながら死に向かうということです!」
(公認ニートになって引きこもるつもりが、引きこもったら死んでしまいますの!? \(^o^)/オワタ)
私の第一希望の引きこもり人生は、始まる前から終了を迎えてしまった。
――ガチャッ!!!
絶望に打ちひしがれる間もなく、凄まじい勢いで部屋のドアが開く。
現れたのは、目の下にどす黒いクマを飼った旦那様である。
一週間、使用人に任せることも出来ただろうに、目の下に立派なクマを飼うほど、付きっきりで看病してくれていた?のかもしれない。
旦那様は私を冷徹に見下ろし、初夜のときのような低い声で――しかし全く違う内容を告げた。
「…話は聞かせてもらった。 君が姿を見せないよう生活する件だが、却下だ。 私が君に求めるのは、名目上妻として存在していること、すなわち『生存』していることだけだ。 健康のための社交(お散歩)は毎日必須だし、筋肉をつけるためにプロテインを毎食飲んでもらう。 私からの愛を求める暇があったら、スクワットをしてくれればいい。 その代わり、健康に必要な金銭や食材はすべて私が負担しよう。 サプリでも畑のヒヒイロカネと噂される野菜でも、与える予算の範囲内なら好きなように摂取して構わない」
「だ、旦那様…!? 初夜におっしゃっていた、放置してくださる神契約は、どうなりましたの!?」
「君が健康になるまでは、私が君の健康管理責任者 (おかん)だ。 さあ、まずはこの特製すりおろしリンゴ粥を完食してもらおう。 ほら、あーんしろ」
「あ、あーん…」
(美味しいのがまた無性に悔しいですわっ! (´~`)モグモグ)
私が食べ終えると、旦那様は懐から手帳を取り出して、さらさらと何かを書き始めた。
「固形物完食、お散歩ノルマ5分未達、プロテイン準備中…」
(なんなんですの、この健康オタク!? ┐(´д`)┌やれやれ)
◇
こうして、愛を求めない冷徹な旦那様は、妻を死なせないために、過保護なスパルタトレーナーへと変貌した。
毎日三食オーガニック、朝晩のお散歩、日中の筋トレ。
公認ニートを目指す妻と、それを阻止して生き永らえさせたい旦那様の、汗と涙の健康優良児育成ライフが幕を開けたのだった。
(私のダラダラを貪る公認ニート生活、どこへ行ってしまいましたのー!? \(;∀;)/エーン)
※本編では主人公視点だったため語られなかった、主人公の実家事情です。
本文の雰囲気とは少し変えて、実況風でお送りします。
【主人公】
『ニート』を連発していることからもお察しの通り、転生者だ!
生まれたお家は筋金入りの貧乏子爵家。
過度の面倒くさがりのため、部屋に閉じ込められても『働かなくていいの!? 合法ニート万歳!』と、むしろ引きこもり生活をエンジョイしていたようで…?
【クズすぎる両親】
この両親、仕事が出来なけりゃ、運も悪いし、散財癖まである無能のフルコンボだぞ!
後継者に男が欲しくて子供を4人も作ったのに、全員女だったため、『四女にかける金はねぇ!』と主人公を部屋に幽閉しやがった!
貴族として育てる金はないけど、×す度胸もない、ただのチキン。
ちなみに、主人公売った金をギャンブルでさらなる借金に錬成し、本編終了前にサクッと没落しているぞ!
【姉たちの逃亡劇】
本編前に、実家からちゃっかり脱獄済みの、姉たちの現在はこちら!
・長女:家とは正反対にある、辺境男爵家のお金持ちな『同級生の父親(後妻枠)』に嫁ぐと見せかけ、両親にチョコッと手切れ金を渡して逃亡したぞ!
両親は『長女をジジイに高く売り飛ばした(大勝利!)』と思っているが、長女は同級生(息子)の方と結ばれて、超ハッピーに暮らしているようだ!
・次女:借金取りの殴り込みに両親がパニックを起こした隙に、窓からダイブして『聖女適性オーディション』を受験。
見事採用され、神殿へ逃亡したぞ!
神殿の権力が強すぎて、両親は指一本触れられなくなったようだ!
・三女:両親の無能を反面教師に猛勉強し、とある国家機関の研究職を勝ち取ったインテリだぞ!
さらに有能さが認められて、高位貴族の養子に入り、法と権力の力で両親を完全遮断して逃亡したようだ!
~そして、売る娘が主人公しか残らなくなった本編へ~




