表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一章 第一話境界の名

昔、人は境界を知っていたという。

海と陸のあわい。

山と里のあわい。

生と死のあわい。

そこに立てば、風の向きが変わる。

目に見えない何かが、世界の縁を撫でていく。

どこにでも在る。

在るからこそ、名が必要だった。

名は、呼びかけのための橋だ。

だが同時に、囲いでもある。

囲われたものは、やがて意味を持つ。

意味を持ったものは、役割を与えられる。

役割を与えられたものは、管理できると錯覚される。

人は世界に名をつけた。

風に名を、闇に名を、沈黙に名を。

名づけることで、安心した。

境界は薄れていった。

ある神話がある。

黄泉から戻る者は、決して振り返ってはならない。

振り返るとは、境界を二度見ることだ。

二度見た境界は、こちら側へにじみ出す。

だから人は、振り返らない。

見ないことは、拒絶ではない。

それは敬意だ。

やがて時代は進み、

人は振り返ることを覚えた。

観測し、記録し、証明し、再現する。

境界は測定され、

不確かなものは誤差と呼ばれた。

それでも、風は吹く。

吹いていない日でさえ、

カーテンが揺れることがある。

人はそれを見て、言う。

「異常だ」と。

異常とは、名である。

理解できないものにつけられる、仮の囲いだ。

だが、囲いはときに檻になる。

檻に入れられた神は、

静かに形を変える。

境界は消えたのではない。

ただ、忘れられただけだ。

神は奪わない。

押しつけない。

終わりを告げもしない。

境界を越えるかどうかは、

いつも人間が決める。

そして越えたあとで、こう言うのだ。

「これは異常だ」と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ