詩小説へのはるかな道 第91話 沈黙のバラは誰のもの
原詩: あなたに捧げる沈黙のバラ
言葉になる前の
かすかな思いは花びら
そっと手のひらに集めて
あなたに渡します
触れればほどけてしまう
柔らかな花びらは
わたしの沈黙そのもの
まだ名を持たない祈り
もしもあなたが
この静かな祈りを受け取ってくれるなら
わたしはようやく
胸の奥のささやきをバラの形に結べます
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詩小説: 沈黙のバラは誰のもの
僕の部屋のドアをノックする音がしました。
時計を見ると、夜の十一時を少し回っていました。
こんな時間に訪ねてくる人なんて滅多にいません。
ドアを開けると、彼女が立っていました。
「これ、渡しに来たの」と彼女は言いました。
彼女の手のひらには、小さなバラが乗っていました。
けれど、それは花屋で売っているようなバラではありませんでした。
花びらはどこか曖昧で、輪郭が揺れている不思議なバラでした。
「消えてしまうかもしれないから、気をつけてね」
僕は慎重にそれを受け取りました。
「それ、祈りみたいなものなの」と彼女は言いました。
「まだ名前はないけれど」
僕はうなずきました。彼女の言うことはいつも少し抽象的なのです。
「もし受け取ってくれるなら、私、ようやく胸の奥のささやきを形にできるの」
そう言って、彼女はほっとしたように微笑みました。
僕はそのバラを机の上に置き、彼女にコーヒーでも淹れようとキッチンに向かいました。
戻ってきたとき、机の上は空っぽでした。
バラは跡形もなく消えていました。
「消えちゃったみたいだ」と僕は言いました。
彼女は少し考え込むようにしてから、ぽつりと言いました。
「……あ、渡す相手、間違えたかも」
そして、彼女は何事もなかったようにコーヒーを飲み始めました。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:沈黙のバラは誰のもの
Ⅰ 夜の訪問
十一時
ノックの音は
まだ柔らかく
眠らぬ胸に
影を落とせり
Ⅱ 揺れる花弁
輪郭の
ゆらぐバラこそ
名を持たず
祈りのかたち
手のひらに咲く
Ⅲ 受け取るということ
受け取れば
胸のささやき
形づくと
彼女はそっと
息をほどけり
Ⅳ 消失
コーヒーの
湯気の向こうで
空の机
沈黙だけが
花の行方知る
Ⅴ 渡し間違い
「間違えた
かもしれないの」
その一言
夜の温度が
少しだけ揺れ
Ⅵ 沈黙のバラ
消えたもの
それでもどこかで
咲いている
名もなき祈り
渡しそびれて
Ⅶ 誰のものでも
誰のもの
でもない想いが
夜に浮き
コーヒーの苦さ
そっと沁みゆく
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




