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異変

慎重に足を進める。

建物の影から周辺を確認する。

相変わらずセミの声がやかましい。

けれど、その音にかき消されても気づいた。



やつらがいる。



数体。

なぜか道端に倒れている。

いつものように腐敗し、皮膚は崩れ骨が覗いている。

不気味な姿は変わらない。


だが、より不気味なのは動かないことだ。

いつもなら腐った顎を開き、ヨロヨロと徘徊している。

だが、今のやつらはただの死体のように動かない。


心臓の音がうるさい。

どうするか。なぜ動かないのかを確認するか。


試しに石を投げてみようか。

ただもしやつらがいつも通りであれば、無駄に危険を呼び込むことになる。


沈黙が流れる。

セミの声が選択を急がせる。

動けない。

頭の中で何度も「やめろ」と「確かめろ」がぶつかり合う。


――結局、俺は石を拾った。

いつもと違うやつらを、ただ見過ごすことはできなかった。


手のひらで石を転がす。

投げやすい握り方を確認するために。

手に汗が滲む。喉が乾く。



深呼吸をして、狙いを定める。

そして腕を振りかぶった。



投げると同時に、片方の手はナイフを強く握る。

何かあった時に備え、戦闘態勢を取る。


石は放物線を描いて飛んでいった。

だが思ったよりも手前に落ちる。

乾いた音が自分の居場所を伝えるように響いた。



――やばい。



やつらに気づかれる。


だが、やつらは動かない。

その沈黙が、かえって不気味に感じた。

いつもなら音に反応するやつらが、微動だにしない。


動かないやつら。

動けない俺。


一秒が長い。

不気味なまでの静寂。

倒れたままの姿勢は変わらない。

俺を待ち伏せしている?罠なのか。


それとも、頭部を破壊されたのか。

だが、このあたりに他の生存者はいないはず。

もう何年も生存者とは会っていない。

だから誰かがこいつらを倒したとは考えにくい。


また自然に死ぬこともないだろう。

やつらに寿命はない。

真っ二つになっても動き続ける。

頭部を破壊することだけが、やつらを機能停止にできる。


そんなやつらから何度も逃げてきたし、奪われてきた。

やつらは恐怖の象徴だった。



……けれど今、目の前にある光景は、俺の知っているやつらと違っている。

だから確かめようと思った。



足が重い。

口が乾く。

それでも確かめたい好奇心が勝った。

ナイフを握る手に力が入る。

絶対に動かないでくれ、心のなかで願う。


かなりの距離まで近づけた。

やつらは相変わらず微動だにしない。

近くで見るやつらの皮膚は黒ずみ、異臭を放っている。


俺はナイフで一体をつついた。

なんとも言えない感触がナイフ伝いに感じられる。

ここまでしても動かないのは驚いた。


何かが起きている。

いくつもの仮説が浮かんでは消える。

どの仮説も決定打にはならない。


そのとき、ふっと体の力が抜けた。

緊張すること自体に限界がきた感覚だった。

夏の熱気に視界がかすむ。

たちくらみだ。足がふらつき、慌てて近くの壁に手をついた。


息を整えるため、遠くを見つめた。


その瞬間――

目に飛び込んできたものに、思わず息が止まった。



視界の先に、開けた場所がある。

そこには黒い物体がいくつも転がっていた。

目を凝らす。やつらだ。


数え切れないほどのやつら。

折り重なるように、地面に倒れている。

だが、どれも動く様子はない。


背筋が冷たくなった。

目の前のやつらに気を取られ、あれらに気づかなかった。

もしあれらが動く可能性があれば、終わっていただろう。

その想像に息が詰まる。

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