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第5話 「魂を裂く光、引き剥がされる因果」

 巨大化した神器の光刃が地面を薙ぎ、閉鎖空間全体が悲鳴をあげる。


 蒼白い光が地表に刻んだ溝は、深さ一メートル以上。

 その“余波”だけで、時年樹の幹に亀裂が走った。


「はぁ……はぁ……くっそ、なんて威力だ……!」


 ヴォルクが剣先で地面を支えながら、楓へ向き直る。

 その額から流れる汗は、焦熱のように重い。


 一方、楓は光刃を軽々と肩に乗せながら、飄々とした調子を崩さない。


「さすが世界最強の剣士。これ、普通の人間なら跡形もなく消えてたよ?」


「ふざけんな……俺は“普通”じゃねぇ……!」


 ヴォルクは刀を構え直し、地を蹴った。


 瞬間――景色が弾けた。


 真横へ走る残像。

 突き刺さる刀圧。

 空間に引き裂かれたような音が連続する。


 だが楓は、まるで散歩のような軽さで剣圧をスキップする。


「ねぇねぇ、司令官。

 君って天才なんだけど……“直線的”すぎない?」


「黙ってろ!!」


 ヴォルクの斬撃が、ついに楓へ届く。


 剣先が白衣の肩口を捉え――肉が裂け、鮮血が舞う。


「っ……!」


 楓の表情が一瞬だけ歪む。


 その隙を逃さず、紅葉が両手を地へ叩き込んだ。


「爆震――ッ!!」


 地面が炸裂し、破片の雨が楓を包む。


 その直上、ユリウスが見下ろす。


「……射線確保。

 目標、中枢神経付近――偏差射撃」


 引き金が引かれた。


 パンッ。


 鋭い衝撃音。


「……っと!」


 楓は上体をひねり、弾丸を避ける。

 だが、避けきれなかった破片が頬へ傷を刻む。


 ヴォルクの斬撃。

 紅葉の爆震。

 ユリウスの狙撃。


 三者の連携は、まるで計算された“型”のように滑らかだった。


(揺らせ……揺らせ……!

 秋月楓の魂を、少しでも乱せ!)


 ボルが拳を固めて背後から迫る。


「……終わりだ」


 その拳には、魔法補助のない“ただの肉体”とは思えない速度と重さがこもっていた。


 楓は避けようとする――だが、ほんの一瞬だけ紅葉の爆震が遅延し、足元が揺れる。


 足場を取られた楓に、ボルの拳が直撃した。


 ドッッ!!


 空気が凹む爆音。


 壁際まで吹き飛ばされ、楓は一瞬だけ動きを止めた。


 その頃、戦場中央では。


 光が、ゆっくりと渦を巻き始めていた。


 夜見野彼岸の周囲には三十六枚の札が軌道を描き、

 光と霊脈が結界のように重なり、彼岸の身体を護る。


 札が振動するたび、音にならない音が響く。

 魂の深部を直接叩かれるような“軋み”だ。


「……魂縛り、確定……。

 霊断ち、起動準備……!」


 彼岸は震える息を押し殺し、式を重ねる。


 その瞳には、戦場の光景など入っていない。

 ただ“楓の魂脈”だけを見据えている。


「フェイクさん……あと、四十秒……!」


「よし! 全員あと四十秒だ!!

 死んでも死ぬな!!」


「意味が分からん!!」


「日本語で言うなーッ!!」


 戦場に無茶苦茶な叫びが飛び交う。


 しかし誰も止まらない。

 止まれば、彼岸が死ぬ。


 彼岸が死ねば――迅雷を救えない。


 その一点だけが、全員を動かしていた。


 壁に叩きつけられた楓は、一瞬だけ息を吐き、髪をかき上げた。


「……あー……痛いなぁもう……」


 その声は、静かだった。


 静かすぎて、逆に不気味だった。


「君たち……

 “僕の研究”を邪魔するの、そろそろやめてよ」


 ぱちん、と小さな指鳴らし。


 次の瞬間――神器の剣群が“再形成”された。


 今度はレプリカではない。

 形状も長さもバラバラな数百の聖剣群が、まるで嵐のように渦巻きながら楓の周囲に整列する。


「四方八方から一斉に斬る。

 そのくらいで死ぬとは思ってないけど……

 “彼岸くんの儀式”は、壊れるかな?」


 刃の群れが、狩衣の狐へ向けて向きを変えた。


「――っ!」


 彼岸の指先が震える。


 その震えを見て、楓はにんまりと笑う。


「君はね……本当にいい反応してくれるから、好きだよ」


 刃が放たれる直前――。


「……させない!!」


 紅葉が両手を地へ叩きつけた。


「爆震――最大出力!!!」


 地面全体が爆発したように揺れ、剣群の集束が一瞬だけ乱れる。


 ヴォルク、ボル、ユリウスが同時に飛び込み、剣群の軌道を次々と叩き落とす。


 それでも、全ては防ぎ切れない。


 一本の刃が、彼岸の結界に触れた。


 キィンッ!!


 鋭い金属音。


 札の一枚が裂け、光が漏れる。


「彼岸くん!!」


「だ、大丈夫……っ!

 まだ維持……できま……っ!!」


 彼岸の顔から血の気が引いている。

 それでも儀式を止めない。


(止められない。

 ここで止めたら、楓博士の魂は……迅雷と再び縛り合ってしまう……!)


 彼岸の脳裏に、迅雷の笑顔が浮かぶ。


「……迅雷……待ってて……」


 その呟きと同時に、儀式が閃光を放つ。


 ――空間が、裂けた。


 楓の身体の周囲に、無数の“魂の糸”のようなものが浮かび上がる。

 青白い霊光が、まるで強制的に引き剥がされるように揺れる。


「っ……ぁ……!!

 なに……これ……!!」


 楓が初めて、焦りの声を上げた。


 霊光が彼岸の結界へ吸い込まれる。

 仮初の肉体と魂が引き裂かれる音が、空間に響き渡る。


「や……めっ……!!

 やめてよ……やめてよやめてよやめてよおおおッ!!!」


 白衣の胸が裂け、黒い霧のような魂が捻り出されていく。


 秋月楓は、初めて絶叫した。


「まだ……切れない……!?

 魂の抵抗が強すぎる……!」


 彼岸の全身に血管が浮かぶ。

 札が千切れ、燭台の火が吹き消える。


 世界が軋む。


「あ……あああああああああああ!!!

 離れたくない……離れたくない離れたくないいい!!

 僕は……迅雷くんと……!!!」


「――もう、離れてください!!」


 彼岸の叫びと同時に。


 魂脈が断ち切れた。


 楓の身体から、魂が“剥がれた”。


 空間が一度沈黙し――そして爆音が広場を揺るがした。

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