第4話 「神器乱舞 ― 狂気の演算」
秋月楓が踏み込んだ瞬間、空気が震えた。
魔力の圧――ではない。
世界そのものが、何か巨大な計算式に飲み込まれたような“圧迫感”だった。
「さて……実験開始しよっか」
白衣の袖がひらりと揺れる。
次の瞬間、楓の背後に大量の光が“生える”ように増殖した。
百。
二百。
三百。
銀白の刃が一直線に整列する。
「っ……!!」
ボルが目を見開く。
「……《真聖絶光剣》のレプリカ……!?
こんな数……ありえん……!」
神器級の聖剣を模した、最高位の魔導兵器。
本来は一振り造るだけでも国の予算が吹き飛ぶ。
それが――数百本。
「すっごいでしょ?
迅雷くんのために用意したんだよ。
まあ、本物じゃないけどね! 性能は十分だけど!」
楓が指を鳴らす。
バチンッ、と軽い音。
直後、数百本の剣が一斉に向きを変え、ヴォルク、ボル、紅葉、そして式神障壁の上で揺れる彼岸へと狙いを定めた。
「全員――!」
「伏せろ!!」
ヴォルクの叫びが響くと同時に、剣群が光を引き裂きながら飛び出した。
銀光の嵐。
天空から降る刃の雨。
閉鎖空間の空気が悲鳴をあげるほど圧縮され、剣圧だけで地面が陥没した。
「オズ!」
「やってる!」
オズが指を鳴らすと同時に、巨大な防壁が広がり、剣の雨を受け止める。
防壁に触れた刃は火花のように散り、壁面を削り取った。
「耐久限界、あと三秒!」
「三秒!? 短すぎだ猫ォ!!」
「神器を防いでるんです、贅沢言わないで!」
オズの声がわずかに震えている。
神魔級兵器を“数百本同時に防ぐ”など、本来悪魔貴族の芸当ではない。
しかし、防ぐしかない。
なぜなら――
彼岸が儀式を止めれば、世界が負けるからだ。
瀑布のような剣雨の中、ヴォルクが前へ跳んだ。
刀を水平に構え、一気に間合いへ飛び込む。
「っ……来いやあああッ!!」
一閃。
二閃。
三閃。
彼の刀の軌跡が残像を残すほどの速度で剣群を切り裂いていく。
だが、斬っても斬っても数が減らない。
「斬っても斬っても湧いてくるか……クソ……!」
「普通、神器を“量産”しないでほしいですね!」
紅葉が爆震で剣群の軌道をずらし、ボルが拳で叩き落とし、ユリウスが狙撃で撃ち砕く。
しかし――楓の背後でレプリカは増え続ける。
「うんうん、いいねぇ。
人海戦術ならぬ“剣海戦術”。
迅雷くんのために開発した兵装なんだけど……試し切りは君たちでいいや」
楓の声は軽く楽しげだ。
「性格が悪すぎんだろテメェ……!」
ヴォルクが吼える。
一方、戦場中央。
札が光り、燭台の火が縦に伸びる。
夜見野彼岸の周囲には、別位相の光輪が三重に重なり、
彼の存在そのものが霞んで見えるほどだった。
「……魂脈、接続……成功。
霊縛式……第二段階、開始……!」
彼岸の声が震える。
指先から零れる光は、まるで空間の“係数”を上書きしているようだった。
「フェイクさん……!
急がないと……このまま戦闘が続くと、魂が暴れます……!」
「分かってる、だから全員で時間を稼ぐ!」
フェイクが叫ぶ。
「彼岸くんを死守しろ!
儀式が乱れた瞬間――楓の魂が抜けない!!」
その時、楓がぴたりと動きを止めた。
「……へぇ、なるほどね」
彼の視線は、彼岸の光環へ向いていた。
「魂を直接引き剥がす式……“あれ”を使うのか。
なら――」
楓は人差し指を上に向ける。
そして、軽く横へ弾いた。
その瞬間。
剣群が空中で停止し、
次の瞬間、すべての剣が一方向へ収束した。
「……収束……!?
まさか……」
ボルの目が見開かれる。
「真聖絶光剣――“連結形態”ッ!!!」
数百本の刃が一つに束ねられ、
天へ伸びる巨大な光刃となり――
「君たちの防壁なんて、これ一本で十分だよ?」
楓が軽く手を振る。
「――薙ぎ払え」
光刃が振り下ろされた。
地面が断裂し、時年樹の幹が悲鳴を上げる。
オズの防壁は一瞬で割れ、瓦片のように砕け散った。
「オズ!!」
「大丈夫……っ、身体が飛んだだけ……!」
オズは吹き飛ばされながらも結界の残滓を保ち、彼岸への直撃を防ぐ。
しかし――まだ終わりではなかった。
楓はその光刃を肩に担ぎ、満足げに言った。
「さて……
儀式の邪魔、しに行こっか?」
彼岸を狙って踏み出そうとする。
その瞬間。
「行かせるかよ!!」
ヴォルクが剣を引きずりながら立ちはだかった。
「お前の相手は……この俺だッ!!!」
楓が微笑む。
「じゃあ……最初に君から壊そうか、司令官」
――五分が、残酷に削れていく。




