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第3話 「五分間の攻防」

 秋月楓が一歩踏み出した瞬間、空気が弾けた。


 金属を弾くような鋭い音が連続して響く。

 ユリウスの狙撃だ。

 閉鎖空間で音が反響し、時年樹の枝葉が震え落ちる。


「また撃つかぁ!? ほんっと君たち、容赦ないねぇ!」


 楓はわざとらしく嘆息しながら、銃弾の軌跡を紙のようにひらりと避ける。

 被弾すれば肉体が再生するとはいえ、左手の傷はまだ塞がり切っていない。


「弾道予測修正……次弾、心臓」


 ユリウスの冷徹な声が、枝上から落ちてくる。


「わぁ怖い怖い……いや怖くはないか。どうせ死なないし。

 でも! でもだよユリウスくん! 僕の身体が傷だらけになるのは嫌なんだってば!」


 その軽口に、ヴォルクが割って入るように駆けた。

 石畳を砕く勢いで踏み込み、一閃。


「くだらねぇこと喋ってんじゃねぇ!!」


「うわっ、近い近い! 司令官、もうちょっと距離感覚えてよ!」


 白衣を翻しながら、楓はヴォルクの剣圧を後方へ受け流す。

 避けながらも笑みを崩さないその姿は、戦士というより舞台役者だ。


「……暇そうな口だな」


 低い声と共に、次の影が襲いかかる。


 ボルだ。


 蹴り、拳、肘、膝。

 魔法が使えずとも、肉体だけで戦場を生き抜く男の猛攻は、獣の唸りそのもの。


「はいはいッと!」


 楓は後方へ跳び、ヴォルクとボルの挟撃をギリギリで抜ける。

 だが、避けきれない一撃もある。


「っが……!」


 ヴォルクの刃が、楓の右肩を斬り裂いた。

 返り血が石畳へ落ち、小さく蒸気をあげる。


「痛いなぁ、もう!!

 ほんと嫌いなんだよ、痛覚って! なんでこんな不必要な機能があるのさ!?」


「言ってろ」


 ヴォルクは冷たく返し、構え直す。


 その一方――。


 戦場の中央では、ひとり別の時間が流れていた。


 白い狩衣。

 揺れる紙紐。

 彼岸の周囲に漂う札は、もうただの式符ではなかった。


 まるで宇宙の軌道のように整然と並び、目に見えない巨大な陣を描いている。


「……三重式完成。四重式へ移行します」


 彼岸の声は、戦場の喧騒とは別の世界から聞こえるように静かだった。


「彼岸くん、進捗は?」


 フェイクが後方から声をかける。


「あと少しで起動できます……でも、まだ“楓博士の魂”の流れが乱れています。

 強制的に魂を揺らさないと……」


「それなら任せろ」


 紅葉が、一歩前に出た。


 黒い手袋を締め直し、赤い瞳が楓を捉える。


「……お兄ちゃん。迅雷に、もう二度と触れさせない」


 楓の動きが、一瞬だけ止まる。


「……紅葉。弟がそんな顔するなんて、珍しいな。

 でも“最後の被験者”が欲しいんだ。協力して――」


「黙れッ!!!」


 紅葉の叫びと同時に、地が揺れた。


 大地から噴き出す蒸気。

 足裏から響く衝撃。


 紅葉の能力――《爆震(ばくしん)》が、楓の周囲で炸裂した。


「おわっ……!? 紅葉、それ反則級だってば!!」


 楓の身体が爆風で跳ね上がる。

 その隙を、ボルが逃さない。


「……こっちを見る余裕はないようだな」


 ゴッ!!


 ボルの拳が、秋月楓の顔面を捉えた。

 吹き飛ばされた楓が、閉鎖空間の壁へ叩きつけられる。


 壁がぎし、と悲鳴をあげた。


「……フェイク」


 ボルが振り返る。


「悪い。閉鎖空間、少し揺らしたかもだ」


「大丈夫ですよ。オズ君が補強してくれてますから」


 猫探偵が親指を立てると、黒いスーツの悪魔が軽く指を鳴らした。


「空間補強、完了。

 あと三分は持つ」


「三分……?」


 フェイクが眉を上げる。


「彼岸くん、そろそろ“本番”だね」


 彼岸は舞を止めず、ゆっくりと頷いた。


「はい。

 ――分魂の儀、最終工程へ移ります」


 札が一斉に光を放ち、時年樹の影がぐらりと揺れた。


 空間そのものが泣き叫ぶような軋みをあげ、広場に強烈な霊風が吹き荒れる。


 その中心で、彼岸の瞳が静かに開いた。


「対象:秋月楓。

 魂縛り、確定……。

 ――発動準備、完了です」


 フェイクが息を飲む。


「……よくやった。

 じゃあ――宣言しよう」


 猫探偵は、戦場の全員へ向けて叫んだ。


「全員、聞け!!

 今から 五分間、

 秋月楓をこの場に拘束し続けろ!!

 どんな手を使ってでも、逃がすな!!

 この五分で――世界の命運が決まる!!」


 その言葉に、全員の背筋が伸びた。


 楓は壁際からゆっくりと立ち上がりながら、口角を引きつらせた笑みを浮かべた。


「……五分?

 五分も……僕を止めるつもり?

 馬鹿だなぁ、フェイク。

 君たち、五秒で死ぬかもしれないのに?」


 その瞬間。


 楓の身体から、殺気にも似た魔力が爆発した。


 空気が、霜のように白く凍る。


「――ああ、もう我慢できない。

 君たち全員、実験材料にしてあげるよ」


 白衣の狼獣人が、殺戮者の顔へ変わる。


「さぁ――始めようか。

 五分間の鬼ごっこを」


 天来学園最終決戦。

 その核心が、ついに幕を開けた。

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