第1話 「天来学園最終決戦・開幕」
お久しぶりです!
数年ぶり?くらいですかね
最近はイラストの方にはまっていましたが、ちょっと頭の中を整理したいので再び文字に起こしていこうと思います
天来学園本校舎は、いつもの喧噪が嘘のように静まり返っていた。
昨日、全世界へ流された一つの映像。それがこの学園の空気を一変させたのだ。
白衣を纏い、狂気の笑みを浮かべた狼獣人――
秋月楓博士の“宣戦布告”。
それは実験予告であり、同時に世界への挑戦状だった。
あの映像を見た者の多くが口を揃えて言ったという。
――“災厄が歩いている”。
その影響で本校は緊急休校となり、生徒も教師も避難。
人の気配の消えた廊下は、巨大な生き物の骨の中を歩いているような、不気味な静寂だけをまとっていた。
そんな静けさを裂くように、屋上へヘリのローター音が近づく。
甲高い風切り音とともに、猫耳の影と犬耳の影が降下し、足場に着地する。
国際警察総本部の特殊捜査員――通称“ドクター”の探偵フェイク。
そして、野生の嗅覚を持つスナイパー、柴犬獣人の刑事・雨宮ユリウス。
薄いコートの裾を揺らしながら、フェイクは学園全域を見下ろした。
「……見事に、もぬけの殻ですね」
「当然だろ。
あの映像を見せられて、残れるやつなんていない」
ユリウスは耳を伏せ、苦い顔で吐き捨てる。
鼻孔に届くのは、冷え切ったコンクリートと乾いた消毒液の匂いだけ。
「フェイク、時間は?」
「もうすぐですよ。
だからこそ――先に“駒”を揃えておきませんとね」
フェイクは懐から一枚のメモを取り出し、猫らしい器用な指でひらつかせた。
そこには、本日ここに集めた“戦力”の名が書かれている。
天海の陰陽師の狐獣人――夜見野彼岸。
光の賢者にして右眼を封じる虎獣人――ボル。
迅凱仙最強と称される狼獣人――秋月紅葉。
四大悪魔貴族の一角、ユキヒョウ獣人――オズ。
世界最強の剣術使い――ヴォルク。
世界最強の狙撃手――雨宮ユリウス。
世界中の戦場から最高の札だけを引き抜いたような布陣だった。
「さて、皆さん。もう揃っているようですね」
場所は変わって、天来学園中庭――
巨大な神樹【時年樹】がそびえる広場。
古い桜と楠を合わせたようなその樹は、枝先に淡く光る蕾を宿していた。
本来なら花見の準備で生徒たちが騒いでいる時期だが、今は静寂だけが支配している。
時年樹の根元には、六人の戦士たちが立ち並んでいた。
その輪から少し離れた位置――
燭台に囲まれた結界の中で、白い狩衣を纏った狐獣人が静かに舞っている。
夜見野彼岸。
淡く光る札が彼の周囲を回転し、紙紐で縛られた長い後ろ髪が風のない空間で揺れる。
彼が舞うたび、まるで空気そのものが軋むような、静かな重圧が広場に広がっていく。
「フェイク、我々をここに呼んだ理由は……やはり」
低く落ち着いた声で問いかけたのは、光の賢者・ボル。
「ええ、ボルさん。その通りですよ」
フェイクはゆるく微笑む。
だが、その眼は冴え、計算が走っている。
「今から――秋月楓がここに来ます」
空気がわずかに震えた。
迅凱仙最強の男・秋月紅葉が反射的に身構える。
「お、お兄ちゃんが……ここに?」
「狙いは――迅雷だな」
ボルが鈍い鉄音のような声で言い放つ。
フェイクは肩をすくめ、彼岸へ視線を移した。
「さすが、察しが早い。
秋月楓の魂は今、非常に不安定です。この世に存在できる“枠”が限界を迎えつつある」
結界内の彼岸は、舞を止めずに静かに頷いた。
「……はい。僕の術で、楓博士の魂を“死体”に一時的に宿らせています。
けれどこれは仮の器でしかありません。
完全適合ではないため、定期的に動きが鈍るはずです」
「その“束縛”を外す方法が――一つだけあります」
フェイクは言葉を切り、広場全体を見渡した。
「それは――
天野迅雷との“因果のつながり”を完全に断つこと。
つまり、“迅雷くんの魂を本当に消すこと”です」
風が止んだ。
紅葉の眼が血の気を失い、ボルの拳が強く握りしめられる。
オズの尾が静かに逆立ち、ヴォルクの眼光が鋭く細められた。
ただ一人、夜見野彼岸だけが静かに目を伏せている。
フェイクは言葉を続けた。
「天野迅雷くんは、秋月楓の暴走から皆を守るため――
禁術《魂分離》を発動し、魂が仮死状態に落ちました。」
紅葉が息を呑む。
「じ、迅雷は死んでない……のか?」
「死んではいません。
ただ、魂は器から逸脱し、深い眠りにある。
本来あるべき位置から外れ、“生まれ変わり”の段階へ移ろうとしている状態です」
フェイクは鋭く言った。
「そして――
迅雷が完全に目覚めるには、前段階の“因果”を断つ必要がある。
その因果こそが秋月楓。」
ボルが渋い表情で呟く。
「つまり……迅雷を蘇らせるには、秋月楓の魂を切り離すしかない、というわけだな」
「はい。
そのために僕の《分魂の儀》があります」
彼岸は静かに言い切った。
「これから行う分魂の儀は、楓博士の魂を完全に肉体から引き剥がすための術です。
魔力ではなく、霊力による直接干渉――
彼の魔法無効体質にも影響されません」
ヴォルクが目を細める。
「……だが発動まで時間がかかるんだろ?」
「最低五分。
その間、僕の周囲百メートル以内に楓博士を捕捉し続ける必要があります」
フェイクは仲間たちへ向き直った。
「つまり――五分間、彼岸くんを守りながら秋月楓を封じ込めてください。
この場にいる世界最高の戦士たちにしかできない仕事です」
全員が沈黙した。
しかし否定する者はいない。
それぞれが覚悟を固めていく中――
時年樹の枝が微かに揺れた。
フェイクの耳がぴくりと動く。
「……風が変わりましたね」
その言葉と同時に、空気が重く変質する。
濃厚な霊圧。
息を呑むような圧迫感。
――来る。
全員が理解した瞬間、階段の上から軽い足音が響いた。
コツ、コツ、コツ――。
やがて、白衣の袖がひらりと現れる。
「やあ、皆さん。
こんな朝早くからお集まりとは、感心ですねぇ」
白衣の狼獣人。
柔らかい笑顔に、絶望のような狂気を隠し持つ男。
すべての元凶――
秋月楓。
天来学園最終決戦の“主役”が、ついに姿を現した。




