婚約破棄→辺境追放された悪役令嬢、浄化チートがバレて隣国将軍に求婚されましたが今さら戻れと泣かれても遅いです
――私には最強の隣国将軍がいますので
あの日のことは、今でもはっきり覚えている。
王立学院の卒業パーティー。
シャンデリアの光がきらきらと降ってくる大広間で、私は王太子アルベルト殿下の隣に立っていた。
「リゼル・フォン・クロイツ。お前との婚約を、ここで破棄する」
音楽が止まった。
ざわめきが広がる。
私は、グラスを持つ手をそっと下ろした。
「理由を、うかがってもよろしいでしょうか。殿下」
「とぼけるな。お前が、聖女エマへの嫌がらせを続けていたことは調査済みだ」
殿下の腕の中には、栗色の髪を揺らす可愛らしい少女。
平民出身の新たな聖女、エマ・レイン。
エマは大げさに私を見上げて、震える声を出した。
「リゼル様、ずっと怖かったんです。廊下でぶつかっても謝ってくれなくて、教科書も、破かれて……」
嘘だ。
全部、嘘。
けれど、周囲の視線は一斉に私を責める色に変わる。
「殿下、調査をなさったとおっしゃいましたが、その調査とやらを、私にも確認させていただけますか」
「必要ない。俺はエマを信じる」
「そうですか」
私は小さく息を吐いた。胸の奥が、ひどく冷えていく。
「王太子殿下。では、その婚約破棄、喜んでお受けいたします。
ただし、1点だけ申し上げておきたいことがございます」
「なんだ」
「その聖女様のことは、よくお見張りくださいませ。でないと、王国が滅びますから」
くす、と誰かが笑った。
嘲り混じりの笑いだ。
「負け惜しみか。リゼル、お前は明日から辺境送りだ。覚悟しておけ」
私はドレスの裾をつまみ、礼をした。
「ええ。殿下の決定を、心よりお祝い申し上げます。……どうか後悔なさいませんように」
その言葉が、将来の預言になるとは。
この時の殿下は、欠片も気づいていなかった。
◇ ◇ ◇
翌日には爵位も剥奪され、私は最低限の荷物と護衛1人だけをつけられ、北の辺境へと追い出された。
馬車の窓から見える景色は、次第に貴族街の華やかさを失い、荒れた平原に変わっていく。
「お嬢……いえ、リゼル様。本当に、よろしかったのですか」
護衛の騎士が、気まずそうに声をかけてくる。
「いいのよ。父も母も、私を信じてくれなかった。だったら、ここにはもう、私の居場所なんてないもの」
本当は少し、涙が出そうだった。
だけど、泣いたって仕方ない。
私は窓の外を見て、空に手を伸ばす。
私は生まれつき、特殊な魔力を持っていた。
それは、この世界を守る大結界と同じ性質の、希少な浄化の力。
本来なら、聖女ではなく私こそが結界の維持を担うはずだった。
でも、殿下は平民出のエマの方を聖女として持ち上げた。
それならそれで、好きにすればいい。
私は、私の力を、私を必要としてくれる誰かのために使うだけだ。
そう、思っていた――まさか本当にそうなるとは、思っていなかったけれど。
◇ ◇ ◇
国境に近い森で魔物に襲われたのは、完全に不運だった。
「ここで終わり、ってわけにはいかないんだけど」
馬車は壊れ、護衛の騎士は傷だらけ。
私は前に出て、手を広げる。
「来るなら来なさい。まとめて浄化してあげるわ」
足元から、白い光がぱっと広がる。
魔物たちは光を嫌がるように悲鳴を上げ、そのまま砂のように崩れ落ちていった。
「……相変わらず、出力がえげつないな」
聞き慣れない声がして、私は振り返る。
銀の鎧。赤いマント。
短く切った黒髪に、鋭い灰色の瞳。
隣国ガルディア帝国の将軍、アレク・ヴァレンシュタイン。
彼の名前は、教養として知っていた。
若くして帝国最強と謳われる将軍。冷酷非情、感情を見せない戦鬼だとか、そんな噂だった気がする。
……目の前で見た印象は、少し違うけれど。
「ここは我が帝国との国境付近だ。おまえたち、王国の貴族だな。なぜこんなところで魔物に囲まれている」
「色々あって、追い出されたところなのよ」
私が正直に答えると、アレクは眉をぴくりと動かした。
「追い出された?」
「婚約破棄されまして。王太子殿下に」
「……ほう」
低い相槌に、妙な圧がある。
「事情を聞いても?」
「森を出てからでいいなら」
「よし。護衛の負傷者はうちで預かる。こっちに来い」
こうして私は、隣国の将軍に拾われた。
◇ ◇ ◇
帝都ガルディア。
そこでの生活は、驚くほど居心地がよかった。
「リゼル、結界の調整、助かった。これで北の砦の魔物発生率が下がる」
「お役に立てて何よりです」
私はアレクの指揮する砦に滞在し、帝国各地の小さな結界を整えたり、魔物討伐に同行したりしていた。
何より、ここでは誰も私を悪役令嬢だなんて呼ばない。
「辺境にたった1人で追放、か。王国は正気か」
「たぶん、正気ではないのでしょうね」
「おまえの浄化魔法は、うちの宮廷魔導師どもが総出でやっても、半分も再現できん。そんな戦力を自分から手放すとは」
アレクは不機嫌そうに言いながらも、私の働きをきちんと評価してくれる。
「リゼル」
「はい?」
「ありがとう」
その一言が、どれだけ嬉しかったか。
誰かに感謝されること。
誰かの役に立てること。
王国にいた頃、私は「殿下の婚約者」という飾りでしかなかった。
けれど、ここでは違う。
私は、私自身として必要とされている。
「こちらこそ、アレク。拾ってくれてありがとう」
気づけば、私は彼の名前を自然に呼べるようになっていた。
◇ ◇ ◇
帝国で暮らし始めてから、ちょうど1年が経った頃。
信じられない知らせが飛び込んできた。
「王国中心部に、魔王級の魔物が出現?」
書状を読み上げたアレクは、無表情のまま私を見る。
「ああ。結界が弱まり、王都周辺に次々と大規模な亀裂が生じているらしい。聖女を中心に結界を強化しているようだが、まったく追いついていないと」
「……それで、帝国に援軍の要請が来たってわけね」
「そして、その書状の末尾には、こう記されている」
アレクはわざとらしく咳払いをした。
「リゼル・フォン・クロイツが、貴国にいると聞き及ぶ。至急、彼女を連れてきてほしい。王国の未来がかかっている」
私は、盛大にため息をついた。
「今さら、ずいぶん都合がいいことを言いますね、王国は」
「そうだな。追い出した相手に泣きつくとは、なかなかの恥知らずだ」
アレクの声には、冷たい笑いが混じっている。
「で、リゼル。どうする」
「……帝国にとって、どうするのが得策かしら」
「王国が沈めば、魔物の群れは確実にこちらにも押し寄せる。放置する選択肢はない。問題は、どんな条件で助けるかだ」
私は少し考えてから、口を開いた。
「王国を助けること自体は、やぶさかではありません。あそこには、罪なき民もいますから」
「ああ」
「ただし。私を追放した連中には、それ相応の責任を取ってもらいたいですね」
アレクの口元が、わずかに上がる。
「具体的には」
「そうですね……まず、殿下と聖女様には、自分たちの判断がどれほど愚かだったか、理解していただかないと」
「ふむ。つまり、きっちり叩きのめしたいと」
「ええ。できれば、盛大に」
そこで、アレクはきっぱりと言った。
「いいだろう。帝国軍として協力しよう」
「そんな大げさにしなくても」
「おまえを雑に扱った連中を、そのまま放置するのは気分が悪い」
さらりと、恐ろしいことを言う。
「アレク」
「なんだ」
「そういうところ、結構好きよ」
私が笑うと、彼は一瞬目を見開き、すぐに咳払いで誤魔化した。
「とにかく、王都に向かう準備をする。リゼル、おまえは詳細な結界の構成案をまとめろ」
「了解しました、将軍閣下」
「……今さら畏まるな」
◇ ◇ ◇
数日後。
王都の城門前に、帝国の旗がはためいた。
「ガルディア帝国軍が、我が国を助けに来てくれるなんて……!」
「だが、あの女が一緒にいるぞ……!」
兵士たちのざわめきの中、私は馬上から城門を見上げる。
中から飛び出してきたのは、見覚えのある金髪の青年だった。
「リゼル! 来てくれたのだな!」
王太子アルベルト。
かつての婚約者。
彼は、私のもとまで駆け寄ると、感動したような顔をした。
「君なら必ず来てくれると信じていた!」
「その自信はどこから来るのか、少し気になりますね」
「なに?」
「私を辺境に追放したのは、どなたでしたっけ」
殿下の表情が、微妙に固まった。
「それは……その、当時は誤解があってだな。エマも怯えていたし、俺もつい、感情的になってしまった。今ならちゃんと謝る」
「謝罪は後でまとめて聞きます。今は魔物の対処が先ですから」
殿下は慌てて頷いた。
「そ、そうだな。さすがリゼル、こういう時は冷静だ」
「ところで、聖女様はどこに?」
「エマは城内で、必死に結界を維持している。あまり責めないでやってくれ。彼女も限界まで頑張っているんだ」
「……そうですか」
私はアレクと視線を交わし、城内へと足を進めた。
◇ ◇ ◇
王城の大ホール。
そこは、魔力の乱流で空気が重くよどんでいた。
「これは、ひどいわね」
結界の中心に座り込むエマは、汗だくで震えていた。
周囲には、彼女を必死に支える宮廷魔導師たち。
「エマ、大丈夫か!」
「アルベルト様……わたくし、もう、魔力が……」
泣きそうな声。
殿下は彼女の手を握りしめる。
「無理はするな。リゼルが来た。彼女ならどうにかしてくれる」
視線が私に集中する。
私は一歩前に出た。
「状況の説明をお願いします」
魔導師長が、疲れた顔で口を開いた。
「ここ数ヶ月、聖女様の力が急激に弱まりましてな。結界に亀裂が生じ、そこから魔物が次々と……」
「聖女の力が弱まった理由は?」
「それが、まったく分からんのです」
私はエマをじっと見つめた。
彼女の背後には、黒い靄がまとわりついている。
「エマ様。最近、何か特別なことをしていましたか」
「べつに、なにも……」
「聖女の力を増幅するペンダントとか、腕輪とか、貰いませんでした?」
「……どうして、それを」
エマの肩がびくりと震えた。
「やっぱり」
私は彼女の胸元に手を伸ばし、隠すように握りしめられていたペンダントをつかむ。
「リゼル、何をしている!」
「危険物の回収です」
次の瞬間。
ペンダントから、どす黒い魔力が噴き出した。
「なっ……!」
「こ、これは……!」
魔力が、結界をさらに侵食しようと暴れ回る。
私は深く息を吸い込んだ。
「アレク!」
「合図を待っていた」
アレクが剣を抜き、私の隣に立つ。
彼が徐々に魔力を絞り、暴走した気流を押さえ込む。
私はペンダントに両手をかざし、浄化の光を集中させた。
「……やっぱり。魔族の呪い付きね、これ」
白い光が黒い魔力を削り取っていく。
悲鳴のような音が響き、やがてペンダントは粉々に砕け散った。
同時に、ホールを満たしていた重苦しい空気が、ふっと軽くなる。
「結界の圧が戻っていく……!」
「魔力の流れが安定しているぞ!」
魔導師たちが口々に叫ぶ。
私は立ち上がり、エマを見下ろした。
「エマ様。このペンダント、誰から貰いました?」
「……それは」
「答えてください」
エマは、ちらりと殿下を見た。
殿下は、困惑したように眉をひそめる。
「エマ?」
「……魔族の方から、です」
大ホールが静まり返った。
「魔族?」
殿下が、信じられないという顔をする。
「アルベルト様を、もっと支えられる聖女になれるって……そう言われて。あの方は、わたくしの力を何倍にもしてくださるって……」
「その代わりに、結界を内側から腐らせていたのよ」
私は淡々と告げた。
「そんな、私はただ……!」
「リゼル。これは、故意だったのか?」
アレクが冷静に尋ねる。
私は首を振った。
「そこまでは分からない。でも、少なくとも、彼女は自分が何をしているのかを理解しようとしなかった。聖女として、それは致命的な怠慢よ」
エマは顔を真っ青にして、殿下にすがりついた。
「アルベルト様、違うんです、わたくしはただ……!」
「エマ……本当なのか。魔族と接触していたと?」
「アルベルト様をお守りしたくて、つい……」
「つい、で魔族と取引しないでください」
思わず、口を挟んでしまった。
「おまえは黙っていろ!」
「いいえ。私は黙りません」
私は殿下をまっすぐに見た。
「殿下。1年前、私は申し上げましたよね。聖女様をよくお見張りください、と。でないと王国が滅びると」
「それは……」
「結果として、どうなりました?」
殿下は言葉に詰まる。
私は続けた。
「結界は崩壊寸前。王都は魔物に囲まれ、聖女は魔族との接触を隠し、呪われたアイテムを身に着けて結界を壊しかけていた。
これでも、まだ私の言葉を、ただの負け惜しみだと言えますか?」
大臣たちや貴族たちがざわめき始める。
「そういえば、あの婚約破棄の場でも、彼女は王国が滅びると言っていたな」
「まさか、本当に……」
「しかも、あの浄化の力。聖女よりよほど……」
殿下の顔がみるみる青ざめていく。
「リゼル、俺が間違っていた。俺は……」
「間違いに気づけたなら、それは良いことです。遅すぎますけれど」
私はさらりと言ってのけた。
◇ ◇ ◇
その後の展開は、早かった。
帝国の軍事力と私の浄化魔法を合わせ、王都周辺の魔物は1週間足らずで大幅に減少。
結界も私主導で組み直され、魔王級の脅威はひとまず退けられた。
そして迎えた、戦後の協議の場。
王と宰相、帝国からはアレクと使節団。
私は、双方の間に立つ形で席についていた。
「リゼル」
王は、重い声で私の名を呼んだ。
「まずは礼を言わねばならぬ。おまえのおかげで、この国は滅びずに済んだ。本当に、よくやってくれた」
「恐れ入ります、陛下」
「そして……あの時、お前の言葉を信じていれば、こんなことにはならなかっただろう。婚約破棄と追放については、完全にこちらの過ちだ」
王は、深々と頭を下げた。
かつて、私を一度も庇わなかった人が。
今、目の前で。
正直に言えば、胸の奥が少しだけすっとした。
「謝罪の印として、アルベルトとの婚約を再度認め……」
「お待ちください、陛下」
私は、丁寧に王の言葉を遮った。
「申し訳ありませんが、そのお話は、お受けできません」
場の空気が、ぱんと張り詰める。
「リゼル?」
殿下が信じられないという顔をする。
「どうしてだ。あの時は俺が悪かった。本当に済まないと思っている。エマとのことも、すべて断つ。だから、もう一度……」
「無理です」
私はきっぱりと言った。
「私、もう殿下のことを、好きではありませんので」
「……え?」
殿下の口が、間抜けに開く。
「1年前のあの日。殿下は、私を信じることなく、一方的な噂と聖女様の言葉だけを信じて、私を断罪しました。あの時、私の心は、きれいに折れたんです」
私はゆっくりと立ち上がった。
「それに、今の私は――」
横に立つアレクの袖を、そっとつまむ。
「ガルディア帝国将軍、アレク・ヴァレンシュタイン殿の婚約者ですから」
大広間に、どよめきが走る。
「婚約者……?」
「帝国最強の将軍と、あのリゼルが……?」
アレクは微かに笑った。
「事実だ。我が帝国皇帝陛下も、ご承認済みだ」
「ちょ、ちょっと待て!」
殿下が慌てて前に出る。
「リゼル、おまえ、本気で……!」
「もちろん本気です。アレクは、私の力を正しく評価してくれました。過去ではなく、今の私を見てくれます」
私は、まっすぐ殿下を見る。
「殿下は、どうでしたか?」
「俺は、その……」
「私の話も聞かず、聖女様の涙だけを信じて、私を悪役に仕立て上げましたね」
殿下は沈黙する。
周囲の貴族たちも、気まずそうな顔をしている。
「その結果、結界の真の管理者を自ら追い出し、偽りの聖女を中心に据え、国を滅亡寸前まで追い込んだ。
……これは、私個人への謝罪だけで済む話ではありません」
アレクが、そこで口を開いた。
「帝国としての立場も言わせてもらおう」
彼の声には、一点の迷いもない。
「リゼルは、この1年で我が国の防衛に多大な貢献をしてくれた。今回、王国を救うために我々が動いたのも、リゼルの意向によるところが大きい。
そのリゼルを追い出したことに対し、帝国もまた、強い疑問を抱いている」
王と大臣たちが、苦い顔になる。
「よって、帝国は要求する。王国は公式に、リゼル・フォン・クロイツへの不当な処遇を認め、その名誉を完全に回復すること。さらに、彼女への補償として、クロイツ公爵家の地位と領地を本人に返還し、その領地を帝国との共同管理区域とすること」
「共同管理区域……!」
「実質的な影響力を、帝国が持つことになるのではないか!」
大臣たちが騒ぎ立てる。
アレクは、わずかに口角を上げた。
「王国としては、嫌なら断ってもいい。その場合、帝国は今後一切、王国への軍事的支援を行わない。魔物の被害がどうなろうと、知ったことではない」
沈黙。
先ほどまで私を冷遇していた人々が、今度は必死に損得を計算している顔をしている。
結局、結論は1つしかなかった。
「……分かった。その条件を、飲もう」
王は、重々しく宣言した。
「ここに、リゼル・フォン・クロイツへの謝罪と、名誉の完全回復を行う。おまえを、公爵として復位する」
「ありがたく、お受けいたします、陛下」
私は優雅に礼をした。
◇ ◇ ◇
会議が終わり、人気のない回廊で、私はバルコニーに出た。
王都の街並みが一望できる。
かつて、未来を夢見ていた場所。
「やっと、終わったわね」
「そうだな。見事なざまぁだった」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、アレクがいた。
「ざまぁって」
「王太子の顔、忘れられん。自業自得という言葉が、これほど似合う男も珍しい」
私は思わず吹き出してしまう。
「エマ様も、これからしばらくは大変でしょうね」
「当然だ。聖女が魔族と接触し、呪われたアイテムを身につけていた。罪が軽いはずがない」
「まぁ、そのあたりは王国が決めることですし、私はもう関わりませんけど」
私は、胸に手を当てた。
「やっと、全部終わったんだなって、少し実感がわいてきました」
「終わり、か」
「ええ。私の、王国での物語は、ここで終わり。これからは――」
私はアレクの方へと振り返る。
「帝国で、あなたと一緒に、新しい物語を始めたいです」
アレクの瞳が、柔らかく細められる。
「リゼル」
「なに?」
「俺は戦場では冷酷非情だと恐れられているが」
「うん、知ってる」
「おまえに対しては、そのつもりはまったくない」
「知ってるわ」
私はくすりと笑う。
「あなた、私が無茶をしようとすると、すぐ顔が怖くなるもの。心配性なんだから」
「当然だ。大事な婚約者だからな」
さらりと口にされて、心臓が跳ねた。
「……もう1回、言ってくれてもいい?」
「大事な婚約者だ」
「うん、いい響き」
頬が自然と熱くなる。
アレクは、少しだけ視線を伏せてから、私の手をそっと取った。
「リゼル。王国での縁は、ここで完全に終わらせろ。二度と、あいつらの言葉で傷つくな」
「うん」
「これからは、帝国で、おまえの価値を正しく理解する者たちだけの中で生きろ」
「うん」
「そして、その中心には、俺がいる」
「……頼もしいわね、将軍様」
私はその手をぎゅっと握り返した。
「じゃあ、これからも、よろしくお願いしますね。私の最強の将軍」
「ああ。任せろ」
アレクが、ふっと口元を緩める。
かつて、私は王子の隣で「飾り」だった。
今、私は将軍と並んで、「相棒」として歩いていく。
ざまぁな結末は、もう全部つけた。
だからあとは――
これから先の幸せを、何度でも、何度でも、味わってやるだけだ。
お読みいただきありがとうございます。作者の○○です。
リゼルとアレクのざまぁ異世界恋愛、少しでも「スカッとした」「続きや番外編も読んでみたい」と思っていただけましたら、評価とブックマークをぽちっとしてもらえると、とても励みになります。
なろうの仕様上、評価やブクマが増えると、ランキングに乗りやすくなって、また新しい読者さんの目にも触れやすくなります。
「おもしろかったよ」「ここが好きだった」など、ひとこと感想も大歓迎です。全部しっかり読ませていただきます。
誤字報告や、こんなざまぁが読みたい、といったリクエストもお気軽にどうぞ。
応援していただければ、リゼルとアレクの甘々後日談や、王太子視点のさらにざまぁな話なんかも書いていきたいと思っています。
ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝を。
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