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『写真展』 (最終話) 未解決事件考察倶楽部

『写真展』 四話 未解決考察倶楽部


 

 ―― 結論から先に述べると、宮藤茜は、僕が見たものについての問いに、殺人を素直に認め、犯行の一部始終を語ったのだが、罪の償いは否定され、警察への自首は失敗に終わった。

 そもそも彼女には、殺人に対する罪の意識が低く、理想の作品作りの為の犠牲は仕方が無い・・・との考え方の持ち主で、正直、話しが通じなかった。

 逆に、「美しい部位を後世に残る作品に使われるのなら、私のために命を捧げる事は本望でしょう」・・・と、口にして微笑みを浮かべていた。

 彼女は僕に理解を求めたが、僕はそれを拒否した。

 そして僕は、これは情けない事に、宮藤茜に弱みを握られた。

 この部屋から出ない事を条件に出され、それは…命に変えても飲まないといけない条件であった為、仕方なく受け入れた。

 そして今、この手帳に僕の調べ上げた一部始終を書き残そうと手記を書いている。

 願わくば、この手帳が誰かに拾われる事を祈る。

 そして、この事件が明るみになる事と、被害者たちが家族の元に帰れることを願う。

 幸いな事に、この窓の側には道路が通っている。運が良ければ・・・――


 



――――――――――――――――



 


 ・・・手記は、ここで途切れている。

 

 手帳を閉じると、奥の机に座っている鼎さんが口を開いた。

 

「その手帳は、運良く…近くを通った方によって回収されたんだ・・・」


 手帳の側には、俺でも知っている超有名店のショートケーキと紅茶が用意されている。

 開店早々すぐに売り切れてしまうという入手困難な、真っ赤で大きなイチゴが乗ったショートケーキだ。

 鼎さんが話しを続ける。


「……余談だけど、今回のニュースを騒がせているあの犯人の供述では、犯人は弟に、自分の全てを知って欲しく、被害者の名前を使ってあの別荘に呼んだそうだ。 犯行の全て曝け出し、理解と賛同をしてくれると思っていたらしい。 犯人に何の根拠があって、その言葉を口にしているのか理解に苦しむが、『天泣 皇は自分側の人間』とも発言している。…けれど、犯人は、その自分側であろう弟からの賛同は得られず、逆に否定をされ警察への出頭まで促された。 そこで犯人は裏切られたと自暴自棄になり、「大切なものを壊す」と弟を脅し、部屋に監禁した上で、口封じの為別荘に火を放った。 弟を自分だけのものにしたかった…とも供述している。 弟は手記を書いている途中で煙に気付き、この手帳を急いで窓に向けて投げた・・・。 弟は奥にある部屋で見つかったそうだ・・・迫り来る煙から逃げるために・・・」


 ・・・なるほど、ケーキが美味すぎて話しが入ってこない。

 つまり、先生は…切り刻まれた死体達と共に激臭の中で最後を迎えた―― って、ことで。ご愁傷様。そして、いただきます。

 

「姫君、弟の気持ちを汲んでくれたかな?」

 鼎さんは机に両肘をつき、眼差しを俺に向け、真剣に問うてきた。

「・・・んぐ?」

 (気持ち?)

「手帳を読んで、どうだったかな? 弟を許そうと思ってくれたかな?」

「・・・・・・・・・ん?」

 (許す?)

「弟は・・・皇は、姫君に酷い事をしたと、自分が全て悪いんだと、…この手帳に綴っているんだ!」

「・・・・・・・・・・んんん?」

 (ちょっと、何言ってんの?)

 言葉に熱が帯びだし、とうとう鼎さんは机から身を乗り出す。

 そしてその反動で、【警察署長 天泣 鼎】と掘られたプレートが、重厚な音を立てて床に落ちた。

 鼎さんは熱苦しく会話を続ける。

「皇はものすごく反省している! 姫君が調子の悪い時に『写真展』へ無理矢理連れ出した事、私からも謝る。 ……だから、皇と仲直りしてくれないか?」

「・・・・・・仲直り?」

 

 ―― 鼎さんは一体何を言っているんだ?

 

 そもそも、俺がここ(警察署)に来た理由って・・・、―― 毎回、鼎さんの呼び出しには、入手困難な和菓子や洋菓子を出してくれるので、今回はなんの菓子だろう?――と、甘味の期待…ではなく、「皇のことで大切な話しが・・・」――と、テンション神妙な、先生の大切な大切な家族であり、天泣家長兄の鼎さんから呼び出されたからだ。

 五臓六腑が潰れるほどの苦痛を伴う外出だったが、(甘味)・・・先生の大切な話しを聞くため、(用意周到)・・・すでに迎えに来ていた車両に飛び乗って、(一ヶ月ぶりの甘味に期待)・・・親友である先生の大切な話しを聞くため、(ワクワク)・・・着いた先が警察署で、いきなり署長室へ通されて、手帳を渡され、「読んで欲しい」―― と、言われたから、テーブルに出されたショートケーキと紅茶を横目に、(仕方なく)・・・手帳を読んだら、宮藤 茜に纏わる事件のことが細かく記されていて・・・。

 そこからどうして、先生を“許す”になるんだ?

 俺は、甘味さえ食べれれば満足なので、先生のことなどどうでもいいが、このタイミングで「皇のことで、大切な話しが・・・」って、神妙に言われたら、事件関連を連想して、故とか、没とか、亡とか、普通そういう報告じゃないのか?

 

 故だろうと、没だろうと、亡だろうと、なんでもいいが、―― まず、許すも何も、俺は別に先生に怒ってなどいない。

 

 むしろ、俺の思惑通りに動いてくれたおかげで、計画が成功して満足してる。

 

「姫君、手帳読んだよね?」

 俺の様子が自分の思惑とズレていると感じたのであろう、鼎さんが恐る恐る聞いてきた。

「はい、今回の事件の事が・・・」

 俺は頷き、読んだ内容を簡素に答える。


「・・・・・・今回?事件の事?」

「事件の事」

 

「・・・最後のページは?」

「最後のページ?」

 

 先ほど机に置いた目の前の手帳に手を伸ばし、最後のページを開くと・・・。

 冒頭――『姫へ』から始まる、俺に対しての反省文が綴られている。

 しかも、これが1ページにびっしり細かい字で書き込まれており、またクセ強文字なので、見にくく、読む気も失せる。

「あーそっか、“事件の事”って、宮藤茜事件の方を読んじゃったのか〜。 どおりで読むのに時間がかかっているなぁ〜と思ったよ」

 アハハ―― じゃねーよ、先に「最後のページ」って、言えよ!!

 全くこの兄弟は・・・長男も末っ子もそっくり天然すぎる。・・・この様子だと、まだ会ったことのない後の三人の天泣兄姉達も大丈夫か?



「ところで姫君、改めてそれを読んだ上で、皇のこと・・・」

 …天下の警察署長が、職務中に弟のために一肌脱ぐって・・・常識的にどうなんだ?

 (先生から、過保護だとは聞いていたが・・・)

 職権濫用とか、公私混同だとか、果ては内部告発なんて楽しいイベント・・・まぁ、俺は甘味さえ与えてもらえればどうでもいいけど。

…とりあえず、鼎さんがウザく、拒否ると面倒くさそうなので、仕方ないからここはひとまず「許す」と、一言いっておこう。

 

 俺の言葉に、鼎さんは弟君とよ〜く似た満遍の笑みを浮かべると、ケータイを取り出し、どこかへ連絡している模様。

「どこへ?」「誰に?」など、聞かずとも、遠くから電話先の相手であろう足音がすごい音を立てて近づいて来ているではないか。

 

 テーブルには、先ほど俺が食したと同じショートケーキと紅茶のセットが二つ・・・ん?―― 二つ?

 目の前に並べられたケーキを凝視していると、要さんよりかなり年上であろう強面の副署長さんが、俺の目の前にシャインマスカットがたくさん乗ったケーキのおかわりを出してくれた。―― この副署長さんは、俺をここまで送迎してくれた人でもある。

 (…苦労が多そう)

 副署長さんにお礼をいって、大きく瑞々しいシャインマスカットケーキににフォークを沈めた時、遠くから近づいてきていた足音が止み、そして、まるで雷が落ちた時のような音を立てて、署長室のドアが開かれた。

 

「姫っ!!」

 現れたこのうるさい生き物は、―― 生きてたのか!? な〜んて、もちろん先生。

 (あー、ウザい)

 名を呼ばれたから、呼んだ方へと顔を向けたのに、呼んだ張本人は俺と目が合うと、一瞬ホッとした表情をしたと思ったら急にムッとした表情に変わり、ツカツカと鼎さんの机の前に行くと、バンッと両手で机を叩いた。

 (うるさっ)

「鼎兄さん、何なんですか先程の電話は!! 「姫を呼び出し、手帳を読ませた」――って。 手帳は例の事件との照らし合わせのために富士県警に貸し出していたものです。 富士県警は遠方なので、この署を挟んでのやり取りには感謝をしますが……私利私欲のために証拠となり得る品の一般市民への情報漏洩は、警察署長として甚だ自覚が足りないものかと思います。・・・それと、再三言っておりますが、僕と姫の問題に入ってこないでください!!」

 ……珍しく、声を荒げる先生。―― よほど手帳を見られたのが恥ずかしいのか・・・。

 (後で揶揄おう)

 けれど、「僕と姫の問題」・・・って言い方が、そんな大層なもんでもないし、気色悪い。

 

「・・・手帳の事は、申し訳なかった。 私の自覚が足りなかったよ。・・・けれど、分かって欲しい。私は、兄として、皇の事が心配で、姫君を失った皇を見ていられなかった。…かつて私も、最愛の妻に逃げられ、その寂しさからキャリア組をドロップアウトし、地方の警察署の一刑事として、難解な事件をバッタバッタと検挙しまくる日々・・・」

「……鼎兄さん、その話しは五時間コースになるから・・・」

 ―― その五時間コースの話し、俺は余裕で八回は聞いてる。

 こうなると、鼎さんは止められず、五時間後に― 最近新婚でラブラブ―まで聞かないと終わらない。

 先生も先生で、逃げどころをなくしたのか、鼎さんの話しに合わせて相槌を打ったりして…付き合っている。

 ・・・そういえば、先生、よく見ると、目の下には濃くて大きな隈があった。頬はこけて、体の線も薄くなった気がする。

 (フラついてる? 寝てないのか?)

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・―――― はぁ〜。

 

「今日の晩飯、久しぶりにデミグラスソースがたっぷりかかった先生のハンバーグが食いたいな」


 俺の言葉に、先生が振り返る。

 

「・・・・・・ひ め?」


 座っているソファから少し横にズレて、空いた場所に手をポンポンすると、先生はフラフラ〜っと俺の方へと近付いてきて、ストンと俺の横へ座った。

 先生はテーブルに置かれたショートケーキを俺に渡してくるが・・・(いや、薄くなったお前が食えよ!!)・・・けれど、「姫、ケーキ好きだよね」って言われたら、…………仕方がない、もらっておこう。

 とりあえず、先に頂いていたシャインマスカットのケーキを頬張りながら、ふと、鼎さんの方を見ると、―― 先生そっくりな満遍の笑みを浮かべていて、目が合うとウィンクしてきた。…気色悪い。

 


 …………うむ。まぁ、これにて、大円団ってことで終わりだろう。

 

 

 そもそも、ことの発端は、先生が平々凡々たる事務員から、サイレント事件の記事を書いた事により大出世して、未解決事件担当の記者なんかに成らなければ、この事件は表に出ることは無かったであろう。

 飛んで火に入る夏の虫の如く、宮藤 茜が、この時期に先生に接触してこなければ、俺もわざわざ殺人犯を処刑台に送ろうなんて・・・面倒くさい筋書きは思いつかなかったであろうし、宮藤 茜も、今頃婚約者の“温泉王子”とやらと新婚生活を送りながら、大好きな写真で賞を獲るために、新たな被害者をどんどん生み出していたかもしれない。


 

 ―― 先生への出世祝いは、俺流の火中の栗拾いを再現。

 表に出ていない殺人という美味しいネタ()先生()に提供する宮藤 茜()の図。

 この茶番劇の筋書きを思いついたのは、宮藤 茜の体に、望月義弘の顔が張り付いているのを見た時――。

 

 実は、前もって望月義弘の行方不明は、少し前のサイレント事件の被害者、霧内と同じ行方不明者リストに載っていて把握はしていた。

 大学の同級生達が捜索に動いていることも把握していたし、連絡網を通じ顔の広い先生のところにもいずれ情報が回ってくることも予想していた。

 ・・・結構早い段階で望月義弘の件が先生の耳に入っていた事には驚いたが。

 その後の宮藤 茜の、望月義弘に対する知らぬ存ぜぬ発言。先生の気を引かせたかったのかどうかは知らないが、あの発言のおかげで先生が宮藤 茜に不信感を募らせ、疑いを抱いたところはよかった。家族構成を調べ、行方不明中の姉、宮藤葵の存在・・・望月義弘がダメな時は、姉殺害から攻めて逮捕・・・の流れの筋書きも用意していたが、こっちは死体発見とか色々と時間がかかって面倒だったので、望月義弘路線で行ってくれて、先生のネバネバ執着もたまには役にたった。

 俺の方でも、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】を使って、望月義弘と宮藤 茜の繋がり匂わせてみたり・・・結果的にこれが証拠となって、先生を宮藤 茜にぶつける事に成功。

 さすがに、宮藤 茜が先生のケータイを使って俺に連絡をとってきた時は、故、没、亡…が頭に浮かんだが、好みの男を連れ込み殺す先がいつもあの山奥の別荘――って、過去の殺人を見てきてわかっていたから、その日の【心スポ】の投稿動画を、東京の廃墟商業ビルから、宮藤 茜の別荘近くの湖に急遽差し替え、動画内で聖地巡礼を煽り、翌日、見事釣られたリスナーを別荘へ誘導し、先生の救出に繋げた・・・は、まぁ、上手くいって良かっ・・・べっ、別に…先生が故没亡でも良かったんだが、・・・そろそろ家も汚れてきたし、デミグラスソースのハンバーグが無性に食べたくなったから…仕方がなく、、、だ!!

 ま、出世祝いのための茶番劇で祝われる主役が死んだら意味ない・・・ってのもある。

 

 

 これだけお膳立てしたのだから、前回のサイレント事件同様、イイ記事になったであろう。

 (読まないけど)

 


 宮藤 茜は、このまま行けば俺の思惑通り、栗を拾い、火傷を負う猫の如く、殺人罪で死刑判決を下されて、一生俺達の目に触れることはない。

 ―― 面白い女だったが、先生への執着と思い込みの激しさ、そしてあの嫉妬深さは後々厄介なことになりそうで・・・。

 だからこそ、こちらに火の粉が降りかからないよう、安心、安全、平穏の観点から、早めにこの世からの排除が妥当だろう。

 素晴らしく、イイ最後じゃないか。好きな人の記事になって死ねるのだから。


 

 

 ―――――― では、全て丸く収まった感じで、これにて終・・・

 

「良いのは、顔だけだな、アンタ」

 

 ずいぶん棘のある言葉が、静まり返った部屋に響き渡る。

 

「!?」

 

 テーブルを挟んで、向かいのソファにどかっと座り込み、俺を睨みつける、絶世の美形――。

 (誰?)

 そういえば、さっき副署長さんが、ケーキセットを二組・・・。

 俺が空中でホワンホワンホワンと回想していると、目の前の美形の睨みがさらにキツくなる。

 

「アンタさぁ、体調が悪かったかどうか知らないけど、自分都合で皇さん突き放して傷付けて、一月も連絡無しで、悩ませたり…鼎さんが連絡して、ようやく顔を見せたと思ったら、労いの言葉も無く、心配すらもしていない。 終いにゃ、アンタもニュースとかでご存知の事件関連で、心身共に疲弊している人間に対して「飯作れ」って・・・アンタ本当に皇さんの親友なの? 都合の良いように使ってるとしか思えないんだけど?」

 

 ―― 美形の発言の“親友”ってところは引っかかるが、確かに言っていることに間違いはないだろう。

 

「ミカ、姫は今回の事件には関係無いよ。…それに、悪いのは僕の方だよ。 姫の体調を考慮せず、無理をさせてしまったんだ。 こうして、苦手な外出までして顔を見せてくれただけでも奇跡なのに、僕との関係をまた築いてくれようとしてくれているんだ」

 (ミカ!?)

 ただならぬ二人の関係には興味すら湧かないが、この美形の正体について鼎さんが説明してくれる。

 

「姫君、彼は銀竹ぎんちく みかどくん。 都内の大学生。 あの事件で、たまたま近くに居て、別荘の火災から皇を助け出してくれた命の恩人だよ。 そして、その足で火を付けた犯人である宮藤茜を捕まえ、迅速に消防や警察に通報してくれた、今回の功労者。 皇が外に投げた手帳を拾ってくれたのも彼。 今日は皇と一緒に、富士県警へ事件関連の捜査協力として、リモートでの事情聴取のために、ここへ来てくれてたんだよ」


「ミカは心スポのヘビーリスナーなんだ。『写真展』のカフェで出会って、そこから意気投合して、仲良くさせてもらってる」

 (・・あぁ、あの時の!!)

 あぁ、そっか、…でも、先生って昔からだけど、今回の宮藤 茜然り、変なのばかり引き寄せるよな・・・。

 

「皇さんに毎回会う度に「姫、姫」ってベタ褒めしてるから、どんな人間の出来た良い男かと思ったら、―― 薄情な能面野郎で・・・。 絶対皇さん騙されてるよ!! コイツ、皇さんの優しさにつけ込んで、親友って思い込ませて、自分の良いように利用してるんだって!!」

 

「……ミカ、姫を誤解してるよ…」


 おいおい、冷静になれって美形・・・ミカって言ったか?―― ミカよ!!

 まず、成人している知人の男の話題でベタ褒めって、気色悪いと思わないのか? それに、“親友”って言って俺に付き纏っているのは先生の方だ。家事だって勝手に合鍵まで作ってやっている。……利用? 違うな。やらせてあげているんだ!!・・・って、どうでもイイが、それよりも・・・。

 

「……なんだよ、アンタ、オレのことジロジロ見てきて、気味悪い・・・。 オレに惚れたんなら、お断りだ。 入れる穴が有れば何だってイケるけど、さすがに能面マグロは萎えるわ」


「ミカっ!! 姫を蔑める発言は怒るよ!!」


 一日に二回も先生の怒号を聞くとは・・・俺如きでよく熱くなれるもんだ、先生よ。

 憶測だが、ミカは容姿が優れているから、人に好意を持たれる機会が多い―― モテにモテていて、遊びまくっている――からの発言だろう。

 容姿は負けず劣らずの先生なのに、どうしてこうも違うんだろうな・・・。

 ま、俺への嫌味は、事実とは異なるから、あえて否定するまでもなく、無視すれば済む。

 そんなことよりも、俺がミカをジロジロ見ていたのは、容姿でも、惚れたわけでもない。

 

 ―― 俺が見ていたのは、ミカに張り付いている若い女の顔だ。

 つまり、ミカはこの女を殺している、殺人者・・・。

 

 けれど、これはどういうことだ?

 初めてのケースだが、ミカに張り付いているこの女の顔は、俺と視線が合うと、驚いて逃げてしまう。―― しかも、クルクルと表情まで変わっている・・・。

 今までの張り付いた顔は、苦しそうな表情を浮かべ、張り付いたその場所から動くことはなかった・・・。


 (何がどうなってる?)


 ミカに張り付いた顔も、目が合う俺が気になるのか、視線から避けるように逃げるのだが、少しすると、困った顔でまた現れて、視線が合うと逃げるを繰り返している。


 (とうとう脳のバグが悪化したのか?)


 女の顔は、ミカに出されたケーキを見ている素振りもするので、試しにシャインマスカットケーキを一口、フォークで与えてみると、それがちょうどミカの口元で、驚き見開いたミカの目と目が合うと、ミカの口にケーキが消えた。

 

「仲直りだね」

 

 鼎さんの満足気な声が署長室に響いた――――――。





 

 


「なぜ、宮藤茜は、三人を殺さなければならなかったのか・・・」

 

 先生が疑問を投げかける。

 

「あの女は、承認欲求の塊だ。一回目の殺人で撮った写真が運良く賞に入って、注目された事が快感となったんだろう。 鳴かず飛ばずでいた矢先に、二回目の殺人で撮った写真でまた賞を獲得。この時の成功例で死を扱う写真に目覚めたが、偽物ではダメな事に気付き、三回目の殺人による賞の獲得で、確信を得たんだろうな」

 

 それをミカが答える。

 

「大学の同級生達の話しでは、宮藤茜は・・・複数人と関係を持っていたらしい。妊娠騒ぎもあったそうだ。あの写真の赤ん坊は・・・」

 

 白熱する二人の考察を、俺はソファの上で、甘々のカフェオレを飲み、BGM代わりにしている。

 

 ―― ここは、俺の家。

 あれから、なんやかんやあり、たまたま時間があった時だけ、ミカが先生と共に俺の家へ来るようになった。

 理由は、「皇さんが、良い様に使われないように。この性悪に騙されない様に」―― だそうだ。

 奴らの会話はもっぱら【心霊スポット幽霊考察倶楽部】と未解決事件の考察だ。

 もちろん、初めは俺も先生も拒んだが、ミカの作る肉じゃがが最高すぎて、「たまにならイイ」――と、俺が折れた。

 なぜか先生は、未だに不服そうだが…。


「皇さん、姫、心スポが始まるよ」


 俺は、ミカがなぜか俺だけ“姫”と敬称も付けずに呼ぶのが不服だが…。


 今現在、二人は投稿された新動画に夢中だ。

 今週の【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の動画は、この前やむ得ず差し替えた、“東京の廃商業施設”―― にしてみたのだが、視聴中にもかかわらず、「来週の・・・」「この日なら・・・」と、実に嫌な言葉が聞こえる・・・。

 

 俺は嫌な予感を覚え目を瞑り、寝たフリをする。

「なあ、姫」

「おい、姫」

 どうやら嫌な予感は当たったようだ。

 

 この後俺は、二人にウェットティッシュで拭き上げられたスマホの画面を突きつけられた。

 そして、来週、東京の廃商業施設へと連れ出されることとなった。


「最悪」


 この前から、俺が動くと、面倒事が増える。

 今回は、厄介事まで舞い込んできた。

 

 ・・・これも全て先生のせいだ! 全部先生が悪い!!


 人の気も知らないで、渦中の疫病神先生は、同じく疫病神のミカと考察話しで盛り上がっている。

 心に中で先生に対する悪態を吐きながら、視線を二人の方へ移すと、ミカに張り付いている顔と目が合った・・・。


 悪化した脳のバグは、今日も異常なく正常に動いている。

 

 まぁ、厄介事など全て先生に押し付ければ、俺はこれからも、至福の睡眠と、デミグラスソースたっぷりのハンバーグと肉じゃがに生かされるだろう。


 


 終わり。

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