『写真展』 (一話) 脳のバグ
※本作には殺人事件・死体に関する描写、
精神的に不快感を伴う表現が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
『写真展』 一話 脳のバグ
※本編より、殺人・死体表現・歪んだ心理描写を含むためR15指定としています。
―― 殺人者には、殺した人間の顔が張り付いている・・・。
そう見えるのは、俺の脳がバグっているから。
脳だけではなく、生まれた時からバグまみれな俺は、全てが退屈で、生が面倒くさく、この意味のない世界に興味が無かった。
―― ただ、今は・・・至福の睡眠と、デミグラスソースたっぷりのハンバーグに生かされている。
「櫻雨くん?」
約束の魔の土曜日―― 俺は今、“友人”と呼ぶには気色悪く、“知り合い”と呼ぶには、もっと、ずっと、ずーーーーと遠くに配置でも良い位の…つまり下僕の中の上位下僕…の―― 天泣 皇こと“先生”―― に、無理矢理連れて来られた、有名建築家が設計したという、コンクリートの塊で開かれている、『写真展』に来ている。
それもこれも―― 先生が、傾倒、心酔、崇拝、信仰している、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】のせい。
【心霊スポット幽霊考察倶楽部】とは、大手動画配信サイト【MyMove】にて、心霊系動画を制作、投稿している、登録者数三十九万人の中堅心霊動画サイトなのだが…。・・・実は、投稿主の正体は、生活費に目が眩んだ俺…というオチつき。けれど、色々と面倒くさいので、誰にも秘密で運営中。―― ってことは、どうでもよく。
この【心霊スポット幽霊考察倶楽部】のせい…というのは、・・・面倒くさいので色々はしょると・・・。
・視聴者参加企画に参加した先生が投稿した“新たな心霊スポット”の場所がこの『写真展』が開かれているこの場所。
・心霊スポットでは無かったが、この建物を心霊スポットと紹介・今現在建物内にて『写真展』を開いている大学の同級生の写真家にチケットをもらったから、聖地巡礼と称して、無理矢理駆り出されることに。
・先生は上機嫌で聖地巡礼満喫中。―― 潔癖症で引き篭もり、人間嫌いの俺にとっては、最悪の地獄のミッション中。
―― あー、うぜぇ。
「櫻雨 白雪くん…だよね?」
―― 最悪…そう、最悪だ!
それもこれも、あの変態先生のせい!!毎週、仕事帰りの金曜夕から、休みの土、日曜夕と、俺の家に転がり込むのだが、昨晩は出世祝いと称して、飲めない癖に酒など等のアルコールを、俺の制止を聞かずに大量に摂取し、挙げ句の果てに、目覚めたら、俺の神聖なベッドに、全裸で潜り込み、「コイツ、まつ毛長っ」の距離で・・・・・・うげっ、思い出すだけでも鳥肌が…くそっ、気色悪いっ!
おかげさまで、朝から機嫌の悪さ最悪な俺の怒りを鎮めるために、あの、変態先生は、俺へのご機嫌取りに必死。今現在、罪滅ぼしと称して、このコンクリートに併設されたカフェにて、砂糖とミルクがたっぷり入ったカフェラテを購入中。―― に、見ず知らずの人物と楽しく談笑中。……だと!?
・・・はい――と、いうことで、今、更に機嫌の悪さがマックスに至った俺は、一人…少し外れた人気のない隅の隅の方で、静かに、大人しく、怒りを込めて待機中。……なのだが、どうにも今現在、面倒臭いことに、後方から女に名前を呼ばれている。
―― チラリと、あの変態野郎の方を伺うが・・・(何だ? その楽しそうな顔は!)
(クソがっ)……当分、あの変態先生は来そうもない。
・・・自分の名前を知っている人物に対する、普通の人間の対処法は、声の主の方に振り向いて、挨拶を述べる。―― と、俺は、先生に学んだ。
・・・正直、か・な・り・面倒臭いが、普通…を演じるためには、振り向くしか無い。
「あの、白雪くん…?」
「…は?」
左右の胸に男と、顔に女。下腹部に、三つの赤ん坊――。
振り向くと、息がかかる気色悪い位置に小柄な女がいて、その女には六つの顔が張り付いていた――。
甘える上目遣いから、咄嗟に、二、三歩下がる――。
「・・・あぁ、やっぱり白雪くんだ! 後ろ姿の骨格が綺麗で、見覚えがあったから、そうかなって思って、声かけちゃった」
フフっと小さく笑う姿からは、到底六人も殺したようには見えない――。
小柄で、純真無垢を装う容姿。己の見せ方をよく研究し、男の気の引き方をよくわきまえてらっしゃるようで・・・。
・・・いかにも、「好みのタイプは清純派」を謳う、先生のストライクゾーン。
「…変わってないね。 綺麗な体に、綺麗な顔・・・撮りたかったな〜、あの場所なら、白雪くんの裸体が映えるから・・・」
「ざ〜んねん」と苦笑しながらも、瞳の奥がギラついて見える。
上から下まで獲物を舐め回すような視線が、とても気色悪く、頭の中に、先ほど『写真展』で見てきた三枚の写真が浮かぶ。
一枚は、泥で汚れた太腿から、赤く塗られたつま先までの、女の片足の写真。
一枚は、青い糸で吊り下げられた、骨ばった五本の指。薬指にはシルバーの指輪がはまっている。
一枚は、今回の写真展のポスターにもなっている、一輪の向日葵を持つ、青白い男の手――。
この三枚以外の写真は、いかにも、―― そう見せようとするような作り方――をした、陳腐な写真ばかりだったが、この三枚だけは本物だ。
……本物の死体――を使って撮っている。
死体を身近で見たことがある人間ならわかる。細胞が死に行く色や、体温の消えた肌の質感が作り物では表せないということを・・・。
この三枚の写真の人物は、この、目の前の女・・・宮藤 茜によって殺された。
そして、殺された人物は、・・・おそらく……いや、百パーセント、宮藤 茜に張り付いた三つの顔――だろう。
―― と、さっきから、要領が全く掴めず、過去話や自分語りなど等、くだらない話ばかりを繰り返している目の前の宮藤 茜に対し、適当に相槌を打ちながら、頭の中で、この脳のバグが見せたものについて暇潰し程度に思考していると・・・「……姫」と、後方から、遠慮がちに俺を呼ぶ聞き慣れた声――。
「皇くん!!」
俺より先に反応したのは、宮藤 茜。
宮藤 茜は俺の脇を抜け、「皇くん、昨日は連絡ありがとう。 嬉しかったよ〜」―― と、ずいぶん親し気。
俺が振り向くと、片手に俺のカフェラテを持ち、少し屈んだ先生と、得意の甘えた上目遣いで、さりげないボディタッチを繰り出し、嬉しそうに挨拶を交わしている宮藤 茜。
―― まぁ、長身の先生を前にすれば、誰だって上目遣いになってしまうものだが・・・。 …別に悔しさは無い。
そんな二人を、少し離れた場所で、生暖かく、静かに、大人しく観察していた俺に、こともあろうか先生は、わざわざ宮藤 茜との仲睦まじい談笑を中断し、「姫、遅くなってごめんね」と、カフェラテを渡しながら、「心スポのリスナーに会っちゃって……」と、満遍の笑顔で、それはそれは嬉しそうに、俺に、くだらない報告をしてきやがった。
―― ほら、いきなり会話から外された宮藤 茜の表情に、一瞬、悪い顔が覗いたぞ。
ウェットティッシュで清めたカフェラテにストローを挿す時に、偶然、見えてしまった宮藤 茜の顔は、まるで獲物を取られた、猛獣のよう。……でもそれは、誰にも気づかれない位のほんの一瞬で、すぐに笑顔に戻ると、先生の上着の袖口を掴み、少し左右に揺らさせながら、「え〜、皇くんずるい、茜も心スポのリスナーさんに会いたかったな〜」と、くだらなすぎる話に入ってきた。
「茜も、皇くんのお手伝いから、心スポのリスナーになったんだよぉ」
宮藤 茜は、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の視聴者企画で取り上げた、先生の投稿のネタ元だ。
「え!? そうなんだ…ありがとう。とても嬉しいよ。…でも、宮ちゃん、心霊系は怖いって言ってたけど、大丈夫?」
慣れた手法で、再び先生の視線を己に向けさせ、会話の中心に躍り出た宮藤 茜の表情は、とても満足気。
―― いつも思うんだが、なぜ、この変態先生は【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の側の目線なんだ?
「……怖いよ、…怖いけど…、皇くんが好きなモノなら、…茜も、共有したいから……」
宮藤 茜の言動はあからさまで、先生への好意を隠そうともしない。
「姫と僕は大歓迎だよ! 心スポが好きなら、コメント欄に感想とか書き込むといいよ。 宮ちゃんに合ったリスナーの友達が、きっとできると思う」
せっかく俺という邪魔者を蚊帳の外に追い出し、二人だけの世界を作り出したのに、肝心の先生が、この有り様。―― おい、鈍感先生よ、君はあまりにも鈍すぎる。それと、俺を巻き込むな!!
「あ、茜は、皇くんと二人だけがいいな。…こう見えても、人見知りなんだよ。…初めての人とか苦手だし・・・。 皇くんと二人だけで、聖地巡礼とか、心スポの話しで盛り上がりたいな〜。茜と皇くんって、感性が同じだと思うんだ〜。 そうだ!! 来週の土・日とか、皇くん休みでしょ? 茜と聖地巡礼巡りしようよ!!」
先生の腕をしっかりと強く抱きしめ、その腕を胸にはさむ姿に必死さが伝わる宮藤 茜――。 左右の胸に張り付いた、殺された男達の顔が、先生の腕に押しつぶされて、苦痛に満ちた顔が、更に苦しそうに歪んで見えるのは、俺の脳のバグが俺にそう見せている・・・からなのか・・・・・・。
過多な糖分を摂取した脳は、眠気を伴いながらも、観察と考察の効率を上げる効果があるという。
過多なミルクは、胃に膜を張り、イライラを抑えてくれる効果があるという。
「ごめんね、土曜と日曜には大切な約束があるから、無理かな・・・っと、ごめん、電話がかかってきたから、ちょっと外すね」
スルリと宮藤 茜をかわし、胸ポケットからスマホを取り出して連絡先を確認すると、少し離れた場所へ移動し、通話を始める先生。―― その様子を、俺は飲みきったカフェラテに挿さったストローを齧りながら、目で追い、眺めているのだが・・・。
心の中では、―― “大切な約束”って、何だ? 俺は貴様と、土・日に約束した覚えはないし、いつの間にか勝手に合鍵作って、家に来て家事やってるのは貴様だろうが。―― と、イラつき悪態ついている俺。
しかも、その悪態から、今朝の気色悪い先生の行動への怒りがぶり返し、「白雪くん」と、今、目の前で気色の悪い声で俺の名を呼ぶ宮藤 茜と二人きりにされたことにも相俟って、寛大な心で許しを与えようとしていた、俺の心は機嫌の悪さ至極。
―― どうやら俺のイライラは、過多なミルクでも効かないようだ。
「白雪くん、白雪くんのRainの連絡先、聞いてもいい?」
電話中に、チラリと俺の方を伺った先生の顔から色が失われ、蒼白になっているのは、俺の機嫌の悪さが読めたからだろう。
さすが聡い先生。―― 表情が無い・・・いわゆる、無表情な俺の顔色を窺えるのは、この世に義父と先生だけ・・・。
それだけは、褒めてやろうではないか。この変態野郎よ!!
・・・それに比べ、承認欲求が高く、空気が読めない宮藤 茜・・・。―― 面倒くさい女。
清楚系を装い、甘えた声を出せば、男は皆懐柔できると思っているところが痛い。
「無理」
ポケットから取り出したのは、所々傷が入った、年季入りまくりの十年以上前のガラケー。
角が立たず、丁重に断るのにはうってつけのアイテムだろう。
まるで、どこかの時代劇の如く、宮藤 茜の目の前にかざしたら・・・ほら、さすがの宮藤 茜も、目が点になっている。
気のせいか、一時…場の空気がおかしくなったが・・・。
やがて、目が点だった顔が、哀れみの表情に変わると、連絡先の交換は諦めたのか自身のスマホをそっとしまった宮藤 茜。
けれど、次の瞬間、俯き、「はぁぁっ」と、大きなため息を吐いた後、また顔を上げ、俺を見る瞳の色が変わる。
「私、皇くんのこと、大学の頃からずっと好きだったんだ…」
今日以前のことは知らないが、今さっきの言動や行動を見れば、そんなことは一目瞭然だ。
ただ、なぜ、その言動を、本人にではなく、関係のない俺に告げ、しかも装いは未だ清楚を被っているのに、スッと細められた瞳に宿る色が、嫉妬、憎しみ、敵意に染まっているのか・・・。
「“親友”の白雪くんに、協力してもらえれば…と思って…。……茜のお願い無理かな?」
俺への視線は敵意で染め上げているのに、吐き出す声音や表情、仕草は甘く、言動には断り難い雰囲気を漂わせている。
もちろん、宮藤 茜の欲しい答えは、了承一択だろう。
けれど、空気読みさえバグっている俺から出た言葉は、了承でも断りでもなく、心外だった為に発した「親友!?」(俺の中では、先生は下僕上位の下僕なので)であった為、これの何が宮藤 茜の気に障ったのか、「―― やっぱり、白雪くんの中では皇くんは、“親友”じゃないんだ!!」と、忌々しげに独り言をつぶやいた後、さらに敵意を強め、徐々に般若の面のような怒りに満ちた表情に変わっていった。
―― この時、ようやく俺の中で、宮藤 茜と殺人が結びつき、殺人鬼として認識し、張り付いた顔達と宮藤 茜が繋がったのだ。
―― とはいっても、それについては、元々どうでもいい。なぜなら、ただの暇つぶしの観察結果に過ぎないからだ。
宮藤 茜が殺人鬼だろうが俺には関係がない。通報も何もする気ない。ただし、俺を巻き込まなければの話。
・・・なのだが・・・―― ただ、今現在、宮藤 茜から向けられた敵意は少々面倒くさい。
「気持ち悪い」
「男のくせに」
「消えて欲しい」
思い込みの激しい正義感から読み取った俺への敵意の正体は、“軽蔑”と“嫉妬”――。
宮藤 茜が妄想構築した世界での俺への解釈は、先生をたぶらかし、先生を利用し、先生を汚している―― ゲイらしい。
―― 気色悪い、妄想の三角関係・・・。 その線でいくのなら、恋のライバルよりも、いっそのこと稀代の殺人鬼とされる方が同族嫌悪よろしく、よほど面白みもあったのだが・・・。
的を得てない俺への口汚い罵詈雑言は、暇つぶしの余興にはちょうど良い見せ物だったが、同じ言葉の繰り返しばかりで、鬱陶しく、飽きてきた。
写真家として成功し、幸せを掴んでいるにもかかわらず、なぜ今更、あの、KY野郎を求めているのかわからないが、女の執念は恐ろしい。―― 目の前の、恋に狂った宮藤 茜は、特に…だ。
―― なんとか、穏便に三角関係からの渦中から外されたい。
今、まさに、アドレナリンの海に身を沈め、先生の代弁者として、敵である俺の排除に酔っている、宮藤 茜。
勝手に渦中に放り込まれたが、そこに俺の居場所を作るのはやめて欲しい。―― 俺は、栗拾いに興じる猿にも猫にもなる気はない。
一応、俺的にうんざりした顔を作ってみてはいるのだが、空気読みのできない宮藤 茜には、難しい問題だったようだ。
……なので、諦めた。
今、何かをして、火に油を注ぐ必要はない。火中に飛び込まなければ、火傷を負う必要はないのだから。
いつも通り、厄介ごとは全て先生に押し付けて、宮藤 茜の、俺への敵意を除けれればいい―― 。
「皇くんは、渡さないからっ!!」
ヒステリックな物言いは声を抑え、聞こえる範囲を調整しているのは、見事と言えよう。
「僕が、何かな?」
……が、よほどアドレナリンの海の居心地が良かったのか、電話を終えて戻ってきた、飛んで火に入る夏の虫・・・が真後ろに立っていることには気づかなかったようだ。
先ほどまで、あんなにも高揚していた宮藤 茜の顔から、サーッと色が失われる。
―― 清楚系の顔面蒼白なんて病的で、ますます先生のストライクゾーンではないか!!
「あ、あの、皇くん、違うの、聞いて。…白雪くんが茜に・・・」
先生に縋り付き、必死に何かを訴えようとしている宮藤 茜。―― だが、俯いてしまっているので、せっかくの病的清楚系が台無しだ。……多分だが、頭の中が――“どこから聞かれていたの?”―― で、一杯なのだろう。
ただ、俺を悪者に仕立てようとしている所は合格だ。正義感の強い先生のことだ、気を引くには、ちょうどいいだろう。
さて、肝心の先生の反応は・・・。
「二人とも、いつに間にか、ずいぶんと仲良くなったんだね?」
「!?」
「!?」
・・・この状況で?
ニコニコと嬉しそうなKYな先生。
先生に縋り付きながら時を止めた宮藤 茜。
一番空気読みのできないのは、先生ではないか―― と呆れ返る俺。
「姫、飲み終わったのなら、僕が持ってるよ」
と、空になったカフェラテの容器を受け取りながら、「姫が誰かと会話するなんて珍しいんだよ」と、よくわからない会話を宮藤 茜と始めている。
「僕以外のお友達なんて初めてだから、緊張しているのかもね」
(おいっ)
「お友達?・・・茜と?」
(違うぞ)
「姫ってシャイだから、緊張しちゃうと口が悪くなるっていうのか・・・態度が悪くなるんだよね。 だから、許してあげてね、……アレ・・・照れ隠しだと思うから」
宮藤 茜の耳元で、コソコソ内緒話を装っているが、おい、クソ野郎、全部筒抜けだぞ!!
ニヤニヤして、こちらを伺う二人の視線が気色悪いが、宮藤 茜の瞳からは敵意の色は消えている。
「大丈夫だよ、あかね、白雪くんの事嫌いになんないよぉ」
先ほどの態度はどこへやら、―― どの口が・・・と思う反面、敵意が消えたことには喜ぶべきであろう。
・・・けれど、今、俺を見る粘つくような、視線は気色悪く、いただけない。
「よかった、姫の良さをわかってくれる子ができて」
ニコニコと満遍の笑顔を振りまく先生・・・くっそ気色悪い。
「白雪くんのことよりも、茜は・・・皇くんのことのほうが大事」
「…え?」
「初恋なの、大学で一目見た時から、ずっと、好きなのは皇くんだけ・・・」
側から見れば、映画やドラマのワンシーンみたいな構図だが・・・どうも、宮藤 茜の腹に張り付く腹の赤ん坊がチラつく。
「そうなんだ! 僕も大学の時から、宮ちゃんのこと自慢の友達だったよ! 写真に対する姿勢が真摯で格好良くて、努力家で頑張り屋。 あの時の夢を叶えてプロの写真家になるなんて、相当な努力を積み重ねてきたんだと思う。 尊敬するよ! 」
眩しいくらいの笑顔を振りまく先生とは対照的に、発したセリフは的違いも甚だしく、場が凍りつく。
宮藤 茜は、あらゆる口説き文句を先生へ投げかけるのだが、全て暖簾に腕押し状態で終わり、先生には好意の1%も通じていない。
「モテない」・・・と、口癖のように言っていた原因は、KYが過ぎる先生にある。
宮藤 茜は自分の気持ちを伝えようと必死だが、先生はピントの合ってない会話を続けてる。
まるで、球技の審判員にでもなったかのように、二人の舌戦を右へ左へと流しているが、先生のある一言で、唐突に流れが変わる。
「―― 姫には僕が必要だから」
「休みの日は私と過ごして」の、宮藤 茜の言葉の返答が、コレ。
(この、真っ裸変態クソKY馬鹿下僕阿呆先生がぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!)
せっかく渦中から離脱できたのに、この一言で、全てがパーッだ。
再び、宮藤 茜に、自分と先生を邪魔する原因は、俺―― と、再認識しさせてしまい、宮藤 茜の瞳は再び俺への敵意で染まる。
けれど、そんなことよりも、俺は、この傲慢な言葉が頭に来た。そして怒りは、今朝のことを含め、頂点へと達する。
「必要ない」「来なくていい」「鍵返せ」
感情に任せて吐き出した俺の言葉で傷つけ、「帰る」と言ってその場から立ち去ろうとする俺の行動にショックを受ける先生と、側で、ぼう然と立ち尽くす先生を支える、俺への敵意に染まりながらも、嘲笑を浮かべる宮藤 茜――。
帰りのタクシー代はかなりの痛手だったが、見事、厄介事を全て先生に擦り付けることに成功し、渦中から抜け出せたことは、想定の範囲内と言えよう―― 。
―― あれから一ヶ月・・・。
ある山奥の古びた別荘に火が放たれ、地下室から天泣 皇が発見された。
メディアは一斉に宮藤 茜を取り上げ、俺は警察署に呼び出された――――――・・・。
続く。




