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プロローグ サイレント事件

【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の出現で、利害関係=友人関係が崩壊の危機に迫っている、姫と先生。

 胡散臭い【心霊スポット幽霊考察倶楽部】に傾倒する先生の情熱が理解できない姫は、先生の情熱の押し付け行為にウンザリしていた。

 害が膨らみ、不満が募る。そこに先生の事以外の悩みも重なり・・・。

 利と害の危ういバランスに、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】とサイレント事件が絡んで、二人の関係はどうなる?

 【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は、サイレント事件をどう解決したのか・・・。

 これは、『未解決事件考察倶楽部』が設立される前のお話し――――――。

 


 人間関係は、利害が無ければ成立しない――とは、俺の持論。

 

 “先生”とは、大学で出会った。

 出会った当時の細かいことは全く覚えてないが、俺が、先生の不幸体質を和らげる効能があるとして、いつの間にか、隣が定位置となっていた。聞いた話では、どうやら先生の中では、俺は、“親友”――らしい。

 逆に俺は、先生を家事代行として利用した。ほとんどの電気製品が使えない位の機械音痴で潔癖性、人間嫌い。それに付けて面倒臭がりな性分を持つ俺の生活能力は皆無。

 料理、洗濯、掃除、買い物。季節の衣替えから、髪の毛のカットまで、器用な先生は文句も言わず、全て清潔に完璧に面倒くさい家事を頼みもしないのに行なってくれた。

 

 驚くべきことに、お互い社会人になった今でもそれは続いている――――――。

 

 ―― と、言っても、俺は社会には出ていない。卒業しても、ばい菌だらけの外に出ることを拒否し、この築50年の1LDKのマンションに引き籠もり、先生が紹介してくれたデータ入力の仕事で生計を立てていた。

 立地の良いこの部屋の家賃は、もともと義父の思い出の持ち物なので、免除…の話は断り、少額ながらも収めている。食べて行く分には十分に生活はできていた。

 俺とは逆に、きちんと社会人になった先生は、会社の仕事が忙しいらしく、毎日ここへきて家事を行うことは無くなり、その代わりに、毎週金曜日に泊まり込みで家事を行うようになった。

 会社帰りに駅近くのスーパーに寄り、買い物袋パンパンに詰まった食料を両手に引っ提げて、このマンションに転がり込み、一週間分の作り置き料理を作り、一週間分の溜まった洗濯物を洗濯し、一週間分のゴミの処理と全ての部屋の掃除をして、必要なら季節の衣替え、俺の髪が伸びていたら丁度良いくらいにカットして、日曜日の夜に、近くの自宅アパートへと帰って行く・・・。そんな面倒くさそうな生活が、かれこれ四年・・・――。


 ―― きっと、俺が想像する以上に、先生の不幸体質は、よほど酷いものなんだろう。



 そんな、利害が一致していた俺と先生に、ある問題が生じた。

 読んで字の如く、胡散臭さが充満する【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の存在だ。

 大手動画配信サイトと謳う【MyMove】(マイムーブ)にて、心霊系動画を制作・投稿している、アカウント名【心霊スポット幽霊考察倶楽部】――。

 

 三ヶ月前、先生は、出来立ての【心霊スポット幽霊考察倶楽部】と運命的な出会いをし、他の心霊系動画をも凌駕する内容の動画に感動し、瞬時に傾倒した。(先生曰く)

 

 先生とは、出会いから今日まで趣味嗜好の話は一度もしたことが無く、この時初めて、動画視聴が趣味で、特に心霊系を好んで視聴している旨を聞いた。

 ―― まさか、あの超理系脳の先生が、心霊現象など等の非科学的で根拠の無い現象を、本気で信じているとは・・・。

 ・・・あぁ、でも、・・・確かに、今思えば、“不幸体質”という現象も、非科学的で根拠の無い現象・・・。どうやら、出会った時からその片鱗は見せてはいたみたいだ。


 別に俺は、非科学的で根拠の無い現象を信じる人間を批判しているのではない。俺の思考が、“見えないものは信じない”―― であって、他人が何を信じ、何を思おうが、何を趣味嗜好にしてようが、俺には関係のないこと。勝手にすれば良い。興味も無い。面倒くさい。

 もちろん、俺のこの思考は、先生にも適用される。

 だから、床掃除をしていた先生の口から突然【MyMove】や【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の話題が飛び出して来ても、(実は内心引いたが)動揺も見せずに、「興味が無い」とだけ返事を返しながら、それでも動画の感想を恍惚の表情で述べるのを隔たりもせずに、貴重な意見として聞き流してやっていたのに・・・。


 ―― あれから三ヶ月・・・毎週恒例の金曜日。

 

「姫、これ見て」

 

 夕食後、リビングの大半を占めるソファで、四肢を投げ出しくつろぐ俺の目の前に突き出されたのは、先生のスマホ画面。画面には、見飽きた【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の新動画。

 

「ほら、今週の心スポは、いつもと内容が違うみたいだよ」

 

 のほほんと、「明日の天気は晴れみたいだよ」と同じ感覚でそう言い放つ目の前のこの馬鹿面には、ソファで眠気と戦うことに生きがいを感じ、今、まさに至福の時間を絶賛満喫中の俺の邪魔しているという自覚は全く無く。あたかも、俺が、…いや、俺もが、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】に傾倒していると、自分と同じ嗜好なんだと、心霊現象に興味があるんだと、甚だ迷惑でしかない勘違いの節が見える・・・。

 目の前に突き出された先生の手は、たとえ目を瞑っていても、その気配が鬱陶しい。俺がスマホを受け取らないと引っ込まない面倒くさいシステムだ。

 

「はぁ〜っ」

 

 ――・・・なので、盛大な溜息を、わざと見せつける様に一つ吐いてやると、近くにあるウェットティッシュでばい菌だらけのスマホを受け取り、追加で数枚重ねて、スマホを隅々まで清める。時間をかけて、納得がいくまで、十分に清めた後、ようやく動画の視聴を開始した。

 

「はぁぁぁ〜っ」

 

 もちろん、視聴の前に、もう一度盛大な溜息を吐くのを忘れない。

 

 先生は、俺がスマホを受け取ると、満足そうに満遍の笑みを見せつけ、キッチンへと消えて行く。

 この後の意見交換…(先生の一方的な感想)の為のコーヒーを淹れる為だ。

 (―― 鈍感なのも大概にしろっ!)

 


 さて、スマホ画面に映る、問題の【心霊スポット幽霊考察倶楽部】(先生曰く“心スポ”)―― 三ヶ月前の新設から、毎週金曜日、午後十九時更新を続け、動画本数を十三本と増やし、登録人数は、当時二人(先生と誰か)から、今現在十五人に増えているらしい。(先生調べ)

 内容は、日本全国に数多存在する心霊スポットに焦点を当て、その場に現れると噂される幽霊を考察する――という、ごくありきたりな内容。

 画像は動画映像を使用せず、静止画のみで展開される。見ればわかるが、全て著作権のフリーの拾い画像だ。音楽も音声もフリー素材。動画制作も無料アプリを使っている。クオリティも素人感丸出しで、実に質素で貧乏臭い作り・・・ますます胡散臭さが漂う。

 先生曰く、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は本物だからこそ、幽霊の考察を重視し、それを目立たす為に、わざと質素な作りにしている――・・・だそうだ。

 (貴様は、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】にそれを聞いたのか?・・・お花畑脳が!!)

 こんな胡散臭さ満点の作り物に「傾倒」し、さらに「洗脳」まで進んでいるとは・・・。―― 哀れな先生よ・・・。

 

 ―― 幽霊なんてものは、この世に存在しないのに。


 持たされたスマホ画面をタップすると、すぐに動画が始まる。

 

『今週の【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は、先週、視聴者様から募った、“新たな心霊スポット発掘”特集です』

 

 聞き飽きたオープニングが終わり、安っぽい機械音声が今週のテーマを読み上げ、ようやく本題に入って行く。

 ―― どうやら先生が言ってた通り、今週はいつもと違う。ネタ切れ感漂う視聴者参加型らしい。

 

『まずは、1枚目の画像です。これは、都内在住の、“帝”さんからの投稿。「廃墟の窓に顔が…」ですね』

 

 画面には、ボロボロに朽ち果てた家屋の窓の画像が映し出されている。

 

 『この廃墟では、昭和初期に大量殺人があった―― という悲しい過去があり、その殺され人々の怨念が渦巻く場所とされ、地元では、知る人ぞ知る心霊スポットなんだそうです。そんな怨念渦巻く廃墟を写したこの画像・・・。確かに。窓には顔らしきものが写っています。・・・が、これは、3つの点が顔に見える、類像現象。…ただの目の錯覚です。【心霊スポット幽霊考察倶楽部】では、独自にこの廃墟を調べましたが、昭和初期に大量殺人は愚か、この廃墟では死人が出た事が無い…という事実に辿り着きました。…資料はこれです』

 

 画面いっぱいに、よくわからない書類が映し出されているが、スマホの画面だと字が小さ過ぎて確認することが難しい。

 (スマホの小さい画面の事を考えろよ!)

 

 『この建物も昭和初期では無く、昭和48年に建てられた、林業者の為の休息所で、その前は木々が生い茂る林地でした。よって、ここは心霊スポットでは無い――という結論に【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は至りました。―― それでは、次の投稿は、「写真展」です。――』

 

「・・・これ、次の、…僕の投稿だよ!」

 

 ソファの側のローテブルに俺の分のコーヒーを置いて、床に腰を下ろし、自分の分のブラックコーヒーを一口啜る先生。体温が伝わりそうな距離感が気色悪いが、それよりも、先生から飛び出したその発言と、はにかんだ顔はもっと気色悪い・・・。

 

 『―― 都内在住の“先生”さんからの投稿』

 

 (コイツ、“先生”って名前・・・隠す気が無いのか?)

 

 『「友人の写真家が開いた写真展の場所が曰く付き」・・・とのことで、これは宣伝なのでしょうか?写真展のポスターが大きく写った建物内の画像――』

 

「姫、宮ちゃん覚えてるだろ? 大学でさ、いつもカメラ持って、「綺麗な体の一部」をテーマにを撮影してた背の低い女の子。 宮藤茜ちゃん。 姫にも「裸体を撮影させて」って、言い寄ってきた子。・・・この前さ、偶然、駅で会ったんだ・・・」

「ふーん」

 (記憶も、興味も無いのだが)

「それで、近くのカフェでお茶して、お互いの近況報告・・・」

「うるさいな」

 

 ―― 別に怒気は込めてない。…ただ、なんか鬱陶しいから小さく呟いただけ。

 

「・・・・・・」

 

 黙りこくった先生の顔を盗み見ると、いつもはキリリとした眉毛が八の字で、銀縁メガネから覗く少し垂れ気味の目がもっと垂れて…まるで捨てられた子犬のよう。

 (いい表情だ)

 胸が空く表情が見れたので、今回ばかりは大人しく動画を見てやることにする。

 

 『――・・・この建物では、14年前にとある芸術家の焼身自殺があり、その芸術家の怨念が今も彷徨う。…と噂され、画像は焼身自殺があった場所――とのことなんですが、…これは、・・・事実無根ですね。【心霊スポット幽霊考察倶楽部】が調べた所、焼身自殺どころか、その建物で亡くなった方は誰一人いませんでした。資料はこれです・・・。3年前の週刊誌の取材で、この建物のオーナーが答えてます。この幽霊話はただの「噂」だと。・・・ですが、少し気になる点が・・・。この写真展のポスター。テーマが「綺麗な体の一部」なんですね。その人の一番綺麗な体の一部を様々なシュチュエーションで写している・・・。【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は、このポスターに写る、廃墟で一輪の枯れた向日葵を持つ男性の“青白い手”が気になりますね。皆様、興味がある方はぜひ、この写真展に足を運ばれてみては・・・。では、次が最後です――』

 

「実に良い“宣伝”だったな」

 

 偉大な偉業を成し得た男に、労いの言葉を吐いてやる。・・・が。

「結構有名なスポットって聞いたんだけどね。次、頑張るよ」

 (――・・・次って!?)

 

「あ、それと、宮ちゃんに写真展のチケット譲って貰ったから、今度一緒に行こうね。宮ちゃんも、姫に会いたがってたし」


 

「は?」

 (なんで、俺がっ!!!)

 

「ね!」

「・・・っ」

 (くっ)

 

 普段は俺に対して、お伺いを立てるような物言いの先生だが、たまに、有無を言わせない気迫を漂わせながらの物言いの時がある。こうなった先生は誰にも止められず。・・・なので、数日後、必ず俺は、この写真展に駆り出されるのだろう。

 (―― 最悪・・・)

 

 『・・・最後は、相模県の“霧内”さんからの投稿です。』

 

 もはや、俺の心は動画どころではない。心ここに在らず、だが・・・それでも勝手に動画は進む。

 

 『E県と、E県の隣りの県にまたがるJ山。そのJ山を抱き込むような形で走る、今は欠番となった国道――。地元の人でも滅多に使わなくなったこの廃道の中腹あたりで、霧内さんは、昼間にもかかわらず、幽霊らしきモノを目撃。その時撮った画像だそうです。 霧内さんが聞いた、地元に住む友人の話によると…J山には12年前から数件の幽霊の目撃情報が出ており、中には具体的に、頭の欠けた複数の幽霊の目撃談もあるだとか・・・。霧内さんは、わざわざ【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の今回の企画の為に、J山に赴いたそうです』

 

 もはや、頭は「写真展」の事でいっぱい状態――――――。

 

 『では、その幽霊らしきモノを撮ったとされる画像が・・・これです。―― この画像、ただの森林を写しただけの画像ですが、…よく目を凝らしてみると、…この真ん中の、…この森林の奥の方に、頭の欠けた人の顔が・・・。これは若い女性?でしょうか・・・?――――――・・・茶番はこれ位で。 実はこの画像、某大手地図アプリで提供されている道路ビューから拝借された画像だと判明しました。この画像に映る、この若い女性は合成です。…きっと、どこかからの拾い画でしょう・・・。 残念ながら、霧内さんとは連絡が取れなくなってしまいましたが、元々【心霊スポット幽霊考察倶楽部】のリスナーさんでは無かったようです…。―― よく作られたお話と、尺が足りなかった為に使わさせてもらいました』


 雑音がうるさい――――――。


 『―― ただ、不可思議に思った点が複数。…今回は隠しましたが、妙に地名が具体的で細かく、地図アプリでの道路ビューの画像も、きちんと地名にあった場所…を使っている点と、“頭の欠た複数の幽霊”…なんて具体的で本当に見たかのような証言。 “12年前”…と言う数字も一体どこから出て来たのか・・・。少し、手の込んだイタズラでしょうか?――――――・・・今回は、作り物だと分かりましたが、この様に、ネットにある心霊スポットの中にも、作られた話はたくさんあります。それを見極めながら、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は、今後も様々な心霊スポットに現れる幽霊の考察動画を制作して行こうと思います。“帝”さん。“先生”さん。“霧内”さん。今回の企画参加ありがとうございました。では、次回――』

 

 ―― はっ、と、気付くと、もうすでにエンディングが流れている。

 

 とりあえず、この憎たらしいスマホはもう必要ないので、エンディングが流れたまま側の先生に突き返し、その流れで、ローテーブルに置かれた自分の分のコーヒーを手に取ると、丁度良く冷めたコーヒーを一口――・・・。

 大量のミルクと、大量の砂糖で構成されたコーヒーが、痛いくらいに心に染み渡り、嫌な気分も・・・全然消えることはなく・・・。先生に対する憎しみばかりが増えていく。


 その後、先生は、今回の【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の感想やら考察やらを恍惚と述べていたけど、俺の頭の中はそれどころではなく、適当にあしらって、プリンを食べたら、いつの間にか眠りについてしまったようだ。

 

 こうして、俺の心中を察しない鈍感なこの男は、いつも通り自分の仕事をこなし、日曜日の晩に機嫌良く自宅へと帰って行った。

 玄関で見送る俺に、「土曜日に、宮ちゃんの写真展行こうね?」―― と、恐ろしい言葉を残して・・・。

 


 これでも前までは、「日光を浴びなきゃ」―― と、二、三ヶ月に一回は、無理矢理外に連れ出されていたのが、(それも滅茶苦茶苦痛だったが)…最近では、一ヶ月に一回のペースで無理矢理連れ出されている。

 先月は、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の聖地巡礼と称して、隣県の神社に連れて行かた。―― その前も、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の聖地巡礼と称して、都内の某墓場に連れて行かれた。

 

 そして今月は、写真展・・・。

 (今から憂鬱・・・)

 

 

 【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の存在が、先生を変え、俺の生活も変化してしまった――。


 そして、そんな変化を最も大きく変える出来事が起きたのが、―― 三日後の水曜日。

 早朝、突如ベッドルームに鳴り響いたケータイの着信音。

 苛立ちながら布団から手を伸ばし、サイドテーブルに置かれたガラケーを取ると、パカリと開いて耳に当てる。

 一瞬、(着信拒否しようか)と頭の中を掠めたが、…後々が・・・かなり…だいぶ…面倒なので、素直に出てやることにした。

 通話をかけてきた相手はわかっている。

 

「…何? 先生」

 

 ついつい言葉が強くなってしまうのは、睡眠を唯一の趣味とする俺の邪魔をしたから。

 なので、口調や態度にそれが現れるのは仕方がないことだろう。先生もそれを十分理解し、承知しているはずだ。

 なのに・・・。

「姫、今すぐニュースを見て! それと、今日、仕事帰りに姫のところに寄るから」

 

「は?」

 

 時間にして三秒。奴はそれだけ言うと、早々に通話を切ってしまった。―― 耳に流れるツーツーツーの電子音が虚しく残る。

 

 

「・・・・・・はぁ?」


 先生の背後から聞こえた、駅らしき場所の雑踏音。

 ケータイを閉じると、小さな液晶画面が光り、ところどころ欠けた液晶文字で時間が表示される。この時間帯は、…おそらく通勤時間帯。・・・一応、急いでいる・・・とは理解はできた。・・・・・・理解はできたが―― 。

 

 ―― 「健康にいいから」と、ピーマンを食わされた時以上に腹が立つ!!



 言いなりになるのが癪なので、このまま寝てやろうと目を瞑ったが・・・妙に目が冴えてしまって眠れない。

 至福の時間を邪魔された恨みは、懇々と、世界で最も深いマリアナ海溝よりも深くなっていくが、…仕方がないので起きることにし、ベッドルームからリビングに移り、久しぶりにパソコンの電源を入れる。

 

 この家にはテレビが無いので、ニュースを見るならデータ入力の仕事で使っていたパソコンを起動しないといけない。面倒臭い作業だが、これしか無いので、仕方がない。

 

 パソコンが起動すると、横に置いてあるノートに手を伸ばした。ノートを開くと、癖の強い先生の文字でパソコンの使い方が書いてある。初心者用の解説書を読んでもチンプンカンプンだった俺でも、必要最低限に扱えるように改良された手作り説明書だ。今でも仕事用途以外では、このノートを見ないと扱えないのだ。

 

 とりあえず、ノートに書き込まれた、“銀行残高の見方”と“インターネットの見方”―― を調べ、双方をモニターで確認し、仕事帰りの先生の訪問を待つことにした――・・・。



 ―― リビングのソファに転がり、手作業に夢中になっていた。

 気づくといつの間にか部屋は真っ暗だ。

 日中は、窓から差し込む日差しが暖かく過ごしやすかったが、最近は日の入りが早く感じられ、暗くなると少し冷える。

 外に出ずとも、季節は多少感じられ、月日は分からずとも、曜日の把握はできている。

 今と前とでは把握の仕方が変わってしまったが、それは仕方のないこと。・・・正直、今の方が生きやすくなった。

 窓から差し込む街の明かりを眺めながら、そんな面倒くさいことを考えた自分に驚く。

 “生”には執着がなかったはずなのに、“生”を考え、そのために動く日が来るなんて・・・。

 

 暗い部屋は余計なことを考えて面倒くさい。…なので、作業の手を止め、持っているものをライト代わりに使い、暗くなったリビングの電気をつけようとしたところでチャイムが鳴った。

 先に部屋の電気をつけると、次にオートロックを解除し、手に持っていたものをベッドルームのサイドテーブルの引き出しにしまう。

 

 数分後、合鍵でドアを開けた先生の第一声が、「確認もしないでオートロックを開けたら危ないでしょ!」―― で、なぜか説教された。

 

 (来ると言ったから開けたのに)

 

 ―― 今朝から胸に積もり積もった恨みで、怒りたいのは俺の方なのだが・・・。

 あまりの理不尽さに、込み上げた怒りを鎮めたのは、俺が大人だから。―― 今日のことはお土産のプリンで流してやろう。


 風呂から上がると、驚いたことに、ローテーブルに所狭しとご馳走が並んでいた。テーブルの下には数種類の酒類もある――が、とてもじゃないが、男二人でも食い切れる量ではない・・・。

 何かの祝い事?…かと思ったが、思い当たる節はない。双方の誕生日でもない。…はず・・・。

 

 先に風呂から上がった先生の姿はキッチンにある。

 少しズレた鼻歌を歌いながら火を使っている。そのズレた鼻歌を聞くたびに、先生は人間なんだな…と思う。

 俺の持論では、全てが完璧な人間は、人間では無い。―― というのがある。俺の身近な人物がそうだから。・・・つまり先生は、鼻歌がズレてて良かったってことだ。

 

 とりあえず、ボーっと突っ立ったまま先生を眺めてる―― この図は気色悪いので、ソファに寝転がり、クッションを枕がわりに、天井を見上げてる。

 年季の入った天井のシミの数を数えながら、…考えてみると、朝から何も食べてないことに気づき、気づいた途端に腹の虫がグーっと鳴った。

 

「お腹空いたね。 食べよっか?」

 

 クスクス笑いながら、いつの間にか側に来ていた先生が、二人分のスープをテーブルに置き、腰を降ろす。

 俺もソファから降りて床に座ると、疑問に思っていたことを口にした。

 

「祝い事?」

 

 目の前の先生は、「うん」と嬉しそうに答えると、取り分けた料理の皿を俺に渡してくる。受け取った皿には、俺の大好物ばかりが美味そうに綺麗に並べてあり、はやる気持ちを抑えながら「いただきます」を唱えると、まずは一番大好物なデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグにかぶりついた。

 (・・・うーん、先生の方が美味いな)

 

「心スポの登録者数が十五万人に行ったんだ」

 

「?」

 

 グラスに注いだワインを一気に煽ると、先生は言葉を続ける。

「今日だけで十五万人だよ。…今朝のサイレント事件の影響で一気に増えた」

 

「…サイレント事件?」

 

 まず、この祝い事が、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の登録者数が十五万人に達したお祝い…ということは理解できた。なぜ、先生がそれを祝うのか意味不明だけど・・・。

 そして、ここで初めて今朝の先生の「ニュースを見て」の言葉の意図が理解できた。先生が見せたかったのは、サイレント事件の方だってことを・・・。―― ニュース項目の隅の方にあった、先生のお気に入りのセクシー女優の新作動画解禁ではなく・・・。

 けれど残念なことに、俺はその意図には全く気づかず…その前に確認した銀行残高に意気消沈していて、女優のことなんてどうでもよく、画面いっぱいに所狭しと並んでいた“サイレント事件”という文字は、一応は視界には入ったものの、意味無しと判断し、そのままパソコンの電源を切った。

 

 そのことを、そのまんま先生に伝えると、セクシー女優の件で顔を真っ赤にしながら、「――・・・今朝の電話は出先からだったから、時間に余裕がなかったんだ」と、言い訳をし、「説明不足だったよ、ごめんね」と、キリリとした眉毛を八の字にして謝ってきた。―― まぁ、実際その通りだと思う。

 

 けれど、その、サイレント事件と、【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の登録者数が十五万に達したのと、どう関係があるのか?

 

 ―― その前に、初めて聞くサイレント事件とは?

 

 俺の問いに、缶ビールを煽り、一気に空にした先生が答える。

 

「《誰も知らない。…警察さえも認知してない事件が、犯人の自白により、初めて世間に明るみになった事件》の事だよ。 別名“未認知事件”と呼ばれるものだけど…。 東都新報が造語で“サイレント事件”って言葉を見出しで使って、それを他社も使い始めて、それが世間に認知されたんだ…」

 

 先生は自分のスマホを取り出すと、近くにあったウエットティッシュで清め、何やら画面を操作すると、俺に渡してきた。

 画面には『声無き被害者の信念 深夜に出頭のエリート医師が12年間に及ぶサイレント事件を供述』とデカデカと書かれており、こう続く。

 『―― 都内在住の30代医師が日曜深夜に港署に自ら出頭した。医師は、受け付けた安全課の警察官に「越後県の上空山で人を殺して埋めた」と話し、12年前からに行方不明になっている少女の名を上げ、「見られてる」「知られた」と、意味不明な言葉を繰り返し、取り乱した様子だったという。翌朝、月曜早朝、医師の任意の元、警察官2名が医師の自宅を捜索すると、医師の供述通り、地下室から30体以上もの遺体の一部を発見。医師の身元は港署から警視庁に送られた。警視庁は医師が殺人および死体遺棄に関与した疑いがあるとみて、任意で事情を聴取している――』

 

 俺が記事を黙読し終えると、先生が口を開く。

 

「…実は今朝方、医師の供述通り、上空山の山中で、地中に埋められた無数の白骨化した遺体が発見されたんだ。遺体は全て頭部が欠損していた状態でね。今頃ニュースになっている――」

 

 先生が、新たに開けたビールを一口煽る。

 

「―― その後の警視庁の調べで、この医師が起こした事件の手口は――・・・まず、人目の無い場所で家出中の未成年に声をかけ、言葉巧みに自宅へ誘い、薬で体の自由を奪い、地下室に監禁。散々暴行や人体実験まがいな事をした挙句に、場所を上空山の山中に移し、山中の山小屋で生きたまま脳を取り出し殺害。脳の方は薬液入りの瓶に詰めて自宅に持ち帰り、地下室の冷蔵庫に保管した。脳を抜いた遺体は、山小屋の側の深く掘った穴に捨てた――と供述したらしい。――・・・それと、これはどこにも出てない情報だけど、医師が口にした、12年前から行方不明になっている少女の名前が、――“霧内”・・・一番最初の被害者…だそうだ・・・」

 

 こんなくだらない事件なんて幾つもあるのに、なぜここまで気にかけるのか?・・・それと、どこにも出てない情報とやらを、どうして先生が知っているのか?―― という疑問は、何かを俺に察して欲しくて、じっと見つめてくる先生には聞けず、・・・察して欲しいこともわからない・・・。

 

 そんな表情が顔に出ていたのだろう、俺の心中を逆に察した先生が話しを続ける。

 

「今回のこのサイレント事件は、五日前の金曜日に上がった【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の動画に取り上げられた、“霧内”さんの投稿内容と接点が多くあるんだ。動画では、場所名はアルファベット表記で伏せられているけど、誰の目から見ても、今回の犯人が供述した“越後県”や“上空山”と一致する。それと十二年前という歳月や、頭の欠けた顔・・・。―― どこにも、誰にも認知されていない、警察さえ気づいていなかった、犯人以外知り得ないサイレント事件を、関連も無い【心霊スポット幽霊考察倶楽部】は、掴んでいた。・・・これは、きっと、殺された霧内さんの無念の声を聞いた【心霊スポット幽霊考察倶楽部】が、霧内さんの為に、犯人を炙り出すように意図的に動画を制作し、見事に解決に導いた事件―― だと、僕は思っている」

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

「・・・・・・・・・へぇ〜」

 ―― 少し、引いた。

 

「この考えに至った時、幽霊の存在と、心スポが本物であることを改めて認識したよ。それと、心スポの熱い正義感に感動を覚えた」

 

「・・・・・・へぇ・・・」

 ――だいぶ、引いた。

 

「・・・だから、この僕の思いをSNSで綴ったら、賛同してくれた人達が心スポを登録してくれてね・・・一気に十五万人・・・あ、今は、・・・二十三万人か、増えてるね。乾杯!!」

 

 【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の画面を開き、俺に登録者数の欄を見せてご満悦な先生。

 酒が弱いのに、ワイン一瓶とビール二缶・・・あきらかにキャパオーバーだ。口調もおかしい。酒は嗜む程度で、こんな無茶な飲み方をする男では無かったはずだが・・・。

 

 久しぶりに見る寝顔に毛布をかけてやると、寝顔の主が握っていたスマホから【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の機械音声が流れだす。その機械音声は、今し方、話の中心となっていた“霧内”とやらの部分を読み上げている。

 うるさく、鬱陶しいので、酔って眠っていても品性を欠かさない先生からスマホを取り上げると、指で軽く操作し、静かになったスマホをローテーブルに置いた。

 そして、その時、先生の側に落ちている小さな用紙に気づき、それを拾い上げると、それもローテーブルに置こうとした瞬間、偶然用紙に書かれていた文字が目に入る。

 

 なるほど、と思った。

 

 先生がこのサイレント事件の情報に、やけに詳しい理由がこの小さな紙には書いてあった。

 

 俺はその小さな用紙を、ローテーブルに置いたスマホの上に、表側を向けた状態で置いておいた。


 ―― 東都新報 社会部編集課 事務部 天泣あまなき こう ――

 

「・・・・・・」

 

 大きい会社に勤めているとは知っていたけど、それが新聞社だったとは・・・。

 

 興味のないことは忘れる性質の俺の頭は、当時先生から聞いたであろうその情報を必要ないモノと判断し、頭の片隅にも残らず忘れたんだろう。――よくあることだ。・・・けれど、このインパクトなら、今後忘れることはないだろう。

 

 …ただ、先生の盲目は気色が悪い。なぜあそこまで【心霊スポット幽霊考察倶楽部】に心酔するのか?

 

 ―― 幽霊なんていないし、いないものが声を発するはずが無いのに・・・。

 

 ただの作り物に「正義」や「感動」だなんて…発言がどんどんおかしくなっている。馬鹿につける薬は無い…と聞くが・・・。もちろん、面倒くさいので心配なんて無駄なことはしないが、・・・同じ仲間だと思われていることに、嫌悪感と鳥肌がたつ。

 

「・・・」

 

 正直、サイレント事件なんてどうでも良く、事件の詳細にも興味がない。

 気になるのはお金の心配だったが、その心配も、先生が高級取りのおかげで(甘い汁が吸えそうで)心配なくなりそうだ。


 目下で気持ちよさそうに眠る端正な顔がムカついたので、おでこを一発叩いてやると、酔って赤くなった頬と同じ赤く染まったおでこに満足し、そのままリビングの明かりを消し、叩いた方の手を清め、寝る準備をした後、ベッドに潜り込み、すぐさま至福の眠りに就いた。

 

 ―― 翌朝、先生の姿はリビングに無く、部屋は綺麗になっており、冷蔵庫には昨晩の食べきれなかった料理がきちんとタッパに入れられていた。

 ローテーブルには、癖の強い文字で「おはよう」「行ってきます」が書かれたメモと、豪華な朝食が置かれていた。



 人間関係は、利害が無ければ成立しない――とは、俺の持論。

 

 【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の出現で、害ばかりを押し付けられるようになった俺と先生との利害関係は、バランスが崩れ崩壊するかと思っていたが、害が増えてく一方で、利もそれ以上に増えている。

 よって、この関係は、まだまだ続きそうだ――。

 

 ―― ただ、害が利を超えた時点で、俺は先生を切るだろう。

 



 朝食を食べ、ベッドルームに戻ると、サイドテーブルからタブレットを取り出す。

 タブレットの電源を入れると、画面は【MyMove】のログイン画面を表示する。

 慣れた手つきでログインを済ますと、――ようこそ【心霊スポット幽霊考察倶楽部】さん――の文字が踊る投稿管理ページが表示され、今まで投稿してきた十四本の動画がズラッと並んでいる。

 どの動画も視聴再生回数が見たことのない数字を表しており、近々の例の動画は、その倍以上の再生回数を表している。

 ―― これも、サイレント事件の影響と、先生の拡散成果か・・・。

 

 登録者数は、昨日先生が言っていた数字より増えており、三十六万人に達している。

 (増えるとは思っていたが、まさかここまで・・・)

 心中は複雑だが、これは、このような結果に陥るように仕組んだ結果だ・・・。


 【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の全ての始まりは一年前。アルバイト先であったデータ管理会社の倒産から始まった。

 毎月ギリギリの給料の中で、少しだけ貯めてた貯金を切り崩しながら、初めの半年間は在宅の仕事を探していたが、なかなか見つからず・・・。 その時たまたま見た記事か何かで、“動画投稿”と言うものを知った。

 

 まずは情報集め――と動画の作り方や、さまざまなジャンルの動画を視聴する中で、一つだけ、自分にもできそうなジャンルを発見する。それが、心霊動画だった。

 急いでこのタブレットを買い、【MyMove】内で一番見られている動画からノウハウを学び、研究に研究を重ね、こうして出来上がったのが【心霊スポット幽霊考察倶楽部】――。

 

 脳のバグを使い、心霊スポットと言われる場所の画像に映る“黒い球”を見つけては、その土地に纏わる謂れを調べあげ、幽霊の存在を肯定する動画を作る。逆に、有名心霊スポットの画像に“黒い球”が写ってなければ、幽霊の存在を否定する動画を作る。それが俺のやり方。脳のバグを利用したやり方だ。

 

 …ただ、資金が無いが為に、無料アプリやフリー素材に頼ってしまい、安っぽく、胡散臭いものができ上がってしまい、少し不満が残る。―― 先生にも目をつけられたことにも不満が残る。

 

 自分が作った【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の動画を見せられるのも苦痛だし、そもそも感想なんてどうでもいいし、傾倒もやめて欲しい。盲目は気色が悪い。

 (どうにかして、目を覚させないと・・・)―― 幽霊はこの世にはいないのだから。


 (けれど・・・)

 

 登録者数三十六万人の欄を見る。

 

 正直、今回は、先生のこの傾倒を利用した。―― いや、先生だけではなく、登録者数十五人全員を巻き込み、拡散力を利用しようと思っていた。


 発端は、タブレットで地図アプリを触っていた時に、“黒い球”が写った画像を偶然見つけたこと。

 画像は越後県と越中県に跨る上空山の道路ビュー。その画像には、真ん中に真っ黒な球がくっきりと写っていた。

 

 “黒い球”というのは、俺には馴染みのあるものだ。

 昔から、写真ではなく、デジタルの静止画像のみに見られるのだが、俺以外には見えないらしので、俺はそれを脳のバグと認識している。ただ、それに触れると脳のバグが加速し、面倒臭いことになる。

 

 ―― 意図は全くなかった。

 たまたま俺の指が、その道路ビュー内の黒い球に触れてしまったのだ。

 触れた指先にピリリと電流が走り、脳内に映像が流れてくる。それは殺人状況で、被害者視点で展開される。音声は無い。俺はただこの視点の持ち主の死に際を見ているだけ。

 ―― 映ったのは、ノコギリを持った男の顔。

 ―― 必死で抵抗する手。

 ―― 一瞬だけ映ったスマホの画面。

 ―― 十二年前の日時、“霧内”の文字。

 ―― 赤く染まった視界。

 闇――・・・。

 

 “霧内”をネットで調べると、未成年の少女が出てきた。

 十二年前に家出をしたまま行方不明。今も見つかってないと。―― ただの気まぐれだった。

 

 けれど、その二日後、意外な場所で“霧内”を見かけることになる。

 それは、先生に無理矢理連れられて行かれた【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の聖地巡礼地。

 俺と先生の前に、一人の男が神社内をスマホの画面を見ながらウロウロと歩いていたのだが、その男は全身に顔が張りついており、すれ違う時に見た男の頬に、ネットで調べた“霧内”の顔が張り付いていた。

 

 ・・・これも、黒い球同様、俺の脳のバグなのだが、人の顔が張り付いている奴は殺人者であり、張り付いた顔は、そいつに殺された人・・・と俺の中では認識している。

 

 当然、脳にバグがない先生にはそんな顔など見えるはずもない。

 

「さっきのあの人、俺たちと同じ目的を持った心スポのファンだよ。スマホに心スポの動画流してたから」

 

 男が去った後、隣を歩いていた先生が屈んで、俺の耳元で、気色悪い声で囁いたこの言葉で、殺意・・・は一瞬湧いたが、それをグッと堪えながら、俺の頭の中で計画が練られ、繋がった点を線とし、実行に移した。

 

 まず、視聴者参加企画を企て、動画を視聴するであろうあの男しか知り得ない情報を、被害者の名前を騙る人物に語らせる。

 十二年間もの長い間、隠し通せていた誰にも知られていない秘密が、被害者の名の下で、こと細かく暴かれてしまった――恐怖。

「見られている」「知られた」――この男も唯の人間だったのだろう。狙い通り、利用価値は十分にあった。



 【心霊スポット幽霊考察倶楽部」は、先生の言うような“正義”なんぞ一ミリも無い。

 あるのは、食っていけるだけの登録者数を得るための野心で、その為に、使えるものを使って作った動画が、計画通り注目を浴びただけ。

 犯人とか、被害者とか、事件さえも、唯のコマにすぎない。―― だが、それももう、過去のことだ。目標を達成できた今では、そんなモノどうでも良い。


 それよりも、明日の金曜十九時までに【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の動画を作らねば・・・。

 



 ―― 毎週恒例の金曜日。

 

「姫、これ見て」

 

 目の前に突き出されたスマホの画面には、見飽きた【心霊スポット幽霊考察倶楽部】の新動画。

 

 俺は見せつけるように、盛大にため息を一つ吐くと、近くのウェットティッシュを数枚引き抜き、気が済むまでスマホを清める。

 そしてもう一度ため息を吐くと、動画を視聴しはじめた・・・――。



 人間関係は、利害が無ければ成立しない――とは、俺の持論。

 利が多いから離れられない。


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