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金色の午後、君に届いた風

穏やかな風が、胸の奥のざわめきをなだめるように吹いていた。

真っ青な空がまぶしすぎて、涙が出そうになる。

芝生の上で光がきらきらと揺れ、空気が少し甘く感じられた。


その中に、一人の少女が立っていた。

さっきまで隣にいた八木美里の姿は、いつの間にか消えていた。

――岸本 景、一人きりだった。


ゆっくりと近づいてくる足音。

その足音は、やがて目の前で止まった。


息が感じられるほどの距離。

登夢はまぶしいものを見るように、目を細めた。


「……俺はおまえが好きだ。

 友達からなんて言わない。

 おまえは友達と手をつなぐか? キスするか?

 俺は、友達なんていやだ。

 ――俺の恋人になってくれ。」


その声はまっすぐで、どこまでも不器用だった。

けれど、その不器用さこそが登夢らしかった。


景はしばらく黙っていた。

胸の奥で、何かが震えている。


「わ、私も……く、草薙君のこと……。」


そこまで言って、言葉がつかえてしまった。

声が震え、息が詰まる。

二人の間に、永遠にも感じる沈黙が流れた。


その静寂を破ったのは――。


「登夢、女の子を脅してどうする。まったく、お前は女心ってもんがわかってないなぁ!」


突如、中庭に響く軽快な声。

シャケ――荒巻大蔵が、どこからともなく現れた。


「お嬢さん、このバカに脅されてるなら逃げなさい!

 あとはこの、か弱き女性の味方・荒巻大蔵にお任せを!」


その言葉に、景は思わず笑ってしまった。


「違うの。告白するつもりが、逆に告白されちゃって……それで、ちょっとびっくりしてただけ。」


そう言って景は、胸に手を当てて小さく息を整えた。

頬がほんのりと赤い。


登夢は空を見上げた。

風が気持ちよくて、

すぐそばに景の気配があって、

その匂いが胸いっぱいに広がる。


――この瞬間を、忘れたくない。


「……私、草薙君が好きです。付き合ってください。」


景の言葉が、やわらかく胸の奥に染み込んでくる。

その一言が、世界のすべてを変えた。


始めは、妹みたいだと思っていた。

いつの間にか、笑顔が嬉しくて、悲しそうな顔がつらくて、

危ないことに巻き込みたくなくて――。

でも、それでも、離れられなかった。


――好きだ。守りたい。離したくない。


気持ちはあふれていた。

けれど、言葉にはならなかった。


登夢は、目の前の景をそっと抱きしめた。

優しく、壊れものを扱うように。


「……ありがとう。」


愚直に、それだけを伝えた。


「うれしい……うれしいよ登夢君。

 ……お礼を言うのは、私のほう。ありがとう。」


はじめて、名前を呼ばれた。

それだけで胸が熱くなった。


小さな彼女を抱きしめ返す。

お互いの背中に腕を回して、ぎゅっと確かめ合う。


そして――唇が触れ合った。

それは、心と心がひとつになるような瞬間だった。


「お二人さん、あっついぜぇ!」

「景、おめでとうー!」


遠くで、シャケと美里の声が聞こえる。

けれど今は、何も聞こえなくていい。


ただ――目の前の“彼女”だけを感じていた。


風がやさしく二人を包む。

午後の陽射しが、金色にきらめいていた。

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