ラッキースケベで即結婚!?乙女ゲームは断固阻止!
Xで突然思いついたネタを投稿したところ、フォロワーさんと盛り上がって書くことになった、完全な悪ふざけです。
追記…Xに#ラッキースケベで即結婚のタグを作っていただきました!作家の皆様はどうぞご自由に、それぞれが思うラッキースケベで即結婚を書いて下さい!
私には前世日本人だった記憶がある。その理由はわからないが、私はそれに気がついた時から最悪の世界に転生したなと思っていた。
私が転生した世界は同人の恋愛ゲームの世界。いわゆる乙女ゲームというやつだ。しかも転生先はヒロインである。
このゲームはなかなかふざけた世界観で、まず男女の素肌の接触が絶対的な禁忌なのである。肌に少しでも触れようものなら責任を取って結婚しなければならない。
プレーヤーはイベントが発生する度、無駄に難易度の高いQTEをクリアして結婚を回避しなければならない。要はどのタイミングでラッキースケベイベントを発生させるかでエンディングが変わるのだ。
普通男女逆だろと思うかもしれないが、何故かこのゲームは女性側が迫りくる数々のラッキースケベを回避しながら最適な結婚のタイミングを探り、幸せな未来を手にするゲームなのだ。安い同人ゲームだから仕方ないのかもしれないが、頭がいかれているとしか思えない。
そして今日は乙女ゲームの舞台である学園に入学する日だ。未婚の男女の素肌の接触が禁忌の世界観でなんで共学なんだよと、頭の中で何度突っ込んだかしれない。
私ははっきり言って見知らぬ人と結婚なんてしたくなかった。結婚はお互い話をして親しくなってからするものだと思う。
だから私は絶対に迫りくるラッキースケベから逃げきってみせると心に誓った。
幸いにも、私の前世はパルクール全国一位。つまり日本一身軽と言っても過言ではない人間だった。この世界が乙女ゲームの世界だと気がついてから、私は前世と同じ動きができるよう人知れず特訓を重ねてきたのだ。
私はゲームの最初のQTEを思い出す。門をくぐろうとするとなぜか王子が目の前に居て、王子めがけて転んだヒロインを抱きかかえるのだ。ここのQTEは最初だから簡単……ではなく序盤にしては異常な難易度だった。
しかしここでQTEに失敗してラッキースケベイベントを発生させてしまうと、王子と仮面夫婦になるバッドエンドだ。とりあえずここでバッドエンドにさせておこうという製作者の悪意を感じた。
私は呼吸を整え門をくぐる。すると強制力でも働いているのか、自然に足がもつれた。王子がいないタイミングで門をくぐったはずだったのだが、なぜか目の前に王子の背中が見える。
しかしこんなピンチは想定内だ。私はおもいきり体をひねると地面に手をつきそのまま側転で王子から距離をとる。ゲームの主人公よりかなりアクロバットな避け方をしたが、念には念を入れておいたほうがいい。
私が冷汗をぬぐった瞬間、なぜか周りから拍手が巻き起こった。見世物ではない。こっちは真剣にやってるんだ。
私に背中を向けていたため何が起こったのかわからない王子は、突然の拍手喝采に驚いている。
まあこれで最初のイベントを潰せたと考えたら、この拍手も悪くないかもしれない。
私は王子を無視して揚々と校舎内に入った。
校舎内に入ったはいいが、イベントはまだまだある。攻略対象以外との接触も気を付けなければならないので気が抜けない。私は自慢の体術で次々と接触を回避していった。
私は最初、全く気がついていなかったのだ。乙女ゲームを回避することだけを考えていたから、この学園が共学である本当の理由を。
この国は男尊女卑だ。そして一夫多妻制である。特に結婚に関しては女性は触れられたら終わりだ。だから男性は気にいった女性に無理やり触れようとするし、女性は無理にでも少しでもマシな男性に自分から触れようとする。
要は、学園自体が国の用意した婚活会場なのだ。
そんな誰に触れるか触れられるかを争う婚活会場で、私は派手なアクロバットで目立ってしまった。そうするとどうなるか、面白がった男子生徒の間で誰が私に触れられるかの賭けが始まってしまったのだ。
私の学園生活は熾烈を極めた。前世パルクール全一としての技術とプライドで、何とかすべての接触を回避してきたが、心は疲弊するばかりだ。
そして入学して三か月がたった頃、ふざけた男子たちに追い掛け回されてなんとか逃げきった先で、私は初めて友達ができた。
今まではずっと追いかけられっぱなしで同性の友達すらできなかったのだ。
それは逃げ隠れるため屋上の小屋の上にのぼった時、たまたまそこにいた男子生徒が私に触れようとすることなく匿ってくれたことから始まった友情だ。
彼の名前はアレンといって、乙女ゲームの攻略対象者ではないが端正な顔をした男だった。初めて会った時なぜ匿ってくれたのかと尋ねたら、彼は笑ってこう言った。
「俺も女子に追い掛け回されて疲れてるんだ。君はいつも逃げ回っているし、俺の気持ちをわかってくれるんじゃないかと思ってさ」
この屋上の小屋の上は、男性でも相当な身体能力が無いと登れない。一歩間違えると転落して大怪我をする。これまではアレンの逃げ場だったのだろうに、アレンは逃げたいときはいつでもここにきていいと言ってくれた。
さらに二月が過ぎて、夏の盛りになった頃。アレンとはかなり仲良くなっていた。話してみるとアレンも体を動かすことが好きで、趣味があった。毎日のように屋上で話すようになっていたから、私もだいぶ心を許している。
「暑い……」
ここは太陽をさえぎることができない屋上で、さらに二人とも長袖に手袋までして肌の露出を最小限にしているのだ。素肌同士が触れてしまうとアウトなので、顔以外は完全防備だ。いっそ目出し帽も作って被るべきかと私は何度も考えた。
「あーもう我慢ができない!」
アレンは上着を脱ぎすてると、手袋を外す。
「君も外したら? 俺しかいないし大丈夫でしょ」
確かに暑すぎて死にそうだと思っていたので、私は深く考えず手袋を外して上着を脱いだ。
その瞬間風が吹いて、手袋が飛ばされそうになる。私は慌ててそれを掴んだ。
「危ない!」
手袋を掴んだタイミングでバランスを崩して下に落ちそうになった私を、アレンは抱きとめる。完全に油断していた。
しばらく、その場を沈黙が支配する。二人の顔は蒼白だった。
「ごめん!」
アレンが勢いよく私の体から手を放す。言い訳しようもないほどに素肌が触れあってしまった。お互い無言で見つめあう。
「ここには俺たちしかいない。お互い忘れてなかったことにもできる」
アレンに言われ、私の心は痛んだ。いつの間にか、誠実な彼を好きになっていたようだ。
「アレンがそう望むなら……」
歯切れの悪い私にアレンは私をまっすぐ見つめて言った。
「俺は……もし君がいいならそのまま結婚してもいいと思ってる」
私はその言葉に歓喜した。学園中の男性に追い掛け回されて逃げまどい、疲弊した心を慰めてくれた彼にプロポーズされている。女性としてこんなに幸せなことがあるだろうか。それもこんなふざけた国でだ。
その日から、私は彼の事実上の妻となった。学園では私の結婚相手が決まったことが話題になり、さらにその結婚相手と相思相愛であることで驚かれた。
私の結婚相手が決まっても、一夫多妻制のこの国ではアレンの妻の座を狙う女がまだいる。私はずっとアレンのそばに立って、今度はアレンにちょっかいを出す女を華麗に撃退することになった。
そうして学園を卒業するころには、私たちは男性からも女性からも憧れの夫婦と呼ばれるようになったのだった。