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翼と爪と息吹

「はあっ!?」


 今のは良いのが入っただろ……!


 手応えからして、確実に魔力の防御幕は破ったはずだ。

 なのにどうして……!?


 けれど、じっくり思考する余裕はなく、すぐにルナティックの攻撃の対処に意識を引き戻される。


「キャハハ! ほらほら、ちゃんと魔力を操作しないとあんたも肉がドロドロになるよ!」


「くそっ……!」


 ルナティックの打撃を防ぎつつ、魔力の防御幕を広げて液体が身体に触れないようにする。

 変身したことで魔力の出力は飛躍的に跳ね上がったが、操作技術に関しては変身前と変わらない。

 そのせいで魔力の操作に集中せざるを得ず、思うように反撃に出られない。


 それでも俺は、さっきの攻撃が通用しなかった原因を必死に模索する。


 一体何がこいつの身を守っている——?


 けれど、そう簡単に答えに辿り着くはずもなく、魔力だけがどんどん消耗していく。

 今はまだ耐えられているが、これ以上、魔力を消耗すれば直に奴の攻撃を喰らってしまう。

 そうなれば、本当に俺の身体は溶解液に溶かされてしまうだろう。


(いつまでも、防戦一方というわけにもいかないか……っ!)


 だったら、多少身を削ってでもカラクリを解き明かすしかない。

 決断すると同時、防御用の魔力の何割かを攻撃用に回し、ルナティックの頭を狙って回し蹴りを繰り出す。


「っ、——!!」


 振り回した右脚がルナティックの頚椎を捉える。

 だが案の定というべきか、ルナティックはびくともしない。

 体表を覆う液体が激しく揺れただけだった。


 反面、俺は攻撃に魔力を回したことの代償を支払わされる。

 飛散した溶解液の一部が魔力の防御幕をすり抜けて俺の肉体に触れ、鋭い痛みに襲われる。


「馬鹿だねえ! 何度やったってアタシにアンタの攻撃が効くことはないよ!」


 無意味な行動をしたと、ルナティックが俺を嘲笑う。

 けれど——、


「……ああ、そうかもな!」


「っ!?」


 間髪入れず俺は前蹴りを放ち、ルナティックを吹っ飛ばす。

 これも弾性に富んだ液体によって防がれ、肉体には一切ダメージが入らなかったが、今のでなんとなく予想がついた。


 ——なるほど、そういうことか。


 ジーナが言うには、狂魔刻印には何らかの魔物の力が封入されているという。

 さっき戦った男が恐らくトウテツの力を宿していたように、あいつも何らかの魔物の力を宿しているはず。

 そして、あいつが何の魔物をモデルとしたルナティックなのか心当たりがあった。


 ゲル状の液体、溶解能力、高い弾力。

 これらの特徴を持ち合わせる魔物は——俺もよく知るやつだった。


「ようやく分かったよ。お前、スライムのルナティックだな」


 スライム——第一級(ファースト)に分類される最弱クラスの魔物。

 初級(ビギンズ)の冒険者でも比較的安全に狩れる魔物であり、強さは完全に別物だが奴の特徴と一致していた。


「ご名答。アタシはスライムの力を宿した——スライム・ルナティックさ」


「やっぱりか。通りでパンチも蹴りが全然効かねえわけだ」


 スライムはそもそもの耐久が脆弱なせいで分かりづらいが、打撃や衝撃にはかなりの耐性がある。

 並みの冒険者が身体強化込みで本気で蹴り飛ばしたとしても、それだけで絶命させることは難しいだろう。


「へえ、どうやらルナティックというのは、元のなった魔物の強さとイコールってわけではないみたいだな」


「ああ、そうさ。どの魔物の力を宿すかも大事だけど、それ以上に重要なのは本人の戦闘力と相性さ。たとえ最弱の魔物の力であっても使用者自体が強くて高い適合率を誇れば、トウテツだって食えるし、ドラゴンだって上回る。それがルナティックの素晴らしい所だよ!」


「……みたいだな。実際、さっき戦った奴よりお前の方が断然手強いし」


「ふうん、思ったよりは物分かりがいいじゃないか。だったら、さっさと負けを認めて仮面と女を寄越しな。そうすれば命だけは奪わないでおいてやるよ」


 けらけらと笑いながらスライム・ルナティックは俺に手のひらを差し向ける。

 もう自分が勝つと確信しているのだろう。

 けれど、俺は頭を振ってから、


「断る。この仮面もジーナもお前らの手には絶対に渡さない!」


「……あっそ。じゃあ、とっとと死んじまいな!」


 叫び、スライム・ルナティックは手のひらから大量の溶解液を放出した。

 トウテツ・ルナティックだった男を瞬く間に白骨化させた攻撃——まともに食らえば、この肉体であってもただでは済まないだろう。


 ——このままなら、だが。


 溶解液の濁流が迫る中、俺は顔を右手で覆い、仮面に魔力を流す。


「——喚装(コール)・ブレス!」


 変身する時と同じ感覚で脳裏に浮かんだ言葉を唱えれば、俺を中心にして魔力を帯びた火炎が周囲に迸った。

 直後、放たれた火炎が溶解液の濁流が衝突、瞬く間に蒸発させると、スライム・ルナティックは激しい動揺を見せた。


「何っ!? な、なんだ……今のは!?」


「俺だってよく知らねえよ。けどまあ、強いて言えば……形態変化ってやつなんだろうな」


 言いながら、俺は拳に炎を纏わせる。

 それから小さな火球に圧縮し、スライム・ルナティックに撃ち放つ。

 火球は高速で飛んでいき、着弾すると強烈な爆炎を撒き散らした。


「ぐあああっ!!」


 炎に呑まれたスライム・ルナティックが悲痛な叫びを上げる。


「ようやくまともなダメージが入った……!」


 ついでに今の攻撃でこの状態での能力がどんなものかなんとなく把握できた。


 どうやらこの”ブレス”は、魔力を帯びた炎熱を操ることができるらしい。

 炎のバリアの防御力も放出する炎の威力も申し分ないが、反面、攻撃範囲の広さと出力の高さ故に周囲にも被害が及びそうだ。


 あまり人がいない遺跡群とはいえ、近くに意識を失ったジーナがいる以上、無闇に攻撃するのは少し危険か。

 そうなると……今使うべき能力はこれじゃないな。


 スライム・ルナティックがのたうち回っている間に俺は、再び喚装(コール)をするべく右手を仮面に当てがう。

 とはいえ、肉弾戦を主体とするウィングでは相性が悪い。

 だが、龍の仮面にはウィングとブレスの他にもう一つ能力が存在している。

 恐らくこれならスライム・ルナティックにも通用するはずだ。


 仮面に魔力を流し込み、俺はもう一つの能力の名を口にする。


「——喚装(コール)・クロー」


 刹那、高熱と炎が消失し、代わりに手元に片刃の剣が召喚された。

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