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黒紫の龍仮面

 本当に一瞬の暗転だった。

 けれど、視界が開けた時には、俺の全てが大きく変わっていた。


「なんだ、これ……!?」


 第一に姿が人ではなくなっていた。

 全身が仮面と同じ黒紫の装甲みたいな何かに覆われて……いや、肉体そのものが変質していると言った方が正しいか。

 まるであの怪物のように——。


 しかし、困惑していられたのも束の間。

 怪物の激昂によってすぐに現実に引き戻される。


「クソが! テメエも”ルナティック”だったのかよ! これじゃあ、楽に狩れねえじゃねえか!」


「ルナティック? おい、それって何だ——」


 訊ねるも、


「だとしても、オレ様の邪魔するんならぶっ殺すけどなァ!!」


 聞く耳も持たず怪物は、一直線に俺に飛びかかってきた。


「くっ……!」


 ちょっとくらいこっちの話を聞けっつーの!


 内心でぼやきつつ、咄嗟に身構えて攻撃に備える。

 刹那——身体の奥底から膨大な魔力が溢れ出した。


「っ——!?」


 せき止められていた水流が一気に解き放たれたかのような段違いの高出力。

 それを全身に纏わせれば、容易く怪物の攻撃を受け止めることに成功する。


「何っ!?」


「っ、らぁっ!!」


 更に間髪入れず声を力ませながら、拳と蹴りを何度か連続で叩き込む。

 最後に渾身の力で蹴り飛ばせば、怪物の身体がいとも簡単に吹っ飛んだ。


「ぐがぁ!」


 うめき声を上げて勢いよく廃墟に突っ込んでいく怪物。

 大量の砂塵を巻き上げて瓦礫の山に埋もれる様を眺めていれば、少女が目を大きく見開いてこちらを見ていた。


「まさか、あんたが仮面の適合者だったなんて……! それに、その眼は一体——」


「適合者? 眼? 何を言って……」


 訊ねようした時、砂塵の中から物音がする。

 視線をやれば、怪物がピンピンした状態で瓦礫の山から抜け出てきた。


「あ゛〜、いってえなァ。やっぱ同族からの攻撃は堪えるわ」


「っ!? おいおい、あれでまともなダメージ一つ与えられねえとか化け物か……!」


「それがルナティック——魔物の力をその身に宿した超人。変身中は身体強化が無くても、常に全身が強力な魔力の鎧に守られていると思った方がいい」


「マジもんの化け物じゃねえか……っ!」


 ——ああ、それから。

 少女は一つ補足を加える。


「他人事みたく言ってるけど、それはあんたも同じだから。……いや、あんたの場合は——」


 しかし、言い切るよりも先に怪物——ルナティックとやらが襲いかかる。


「ケヒヒヒッ、死ねえええええっ!!!」


「っ、お前は下がってろ!!」 


 少女を手で制してから、俺は怪物に向かって駆け出す。

 今度は魔力を纏わせるだけでなく、収斂させて全身に巡らせる。


 身体強化——大幅に増加した魔力は、俺の膂力を爆発的に飛躍させる。

 だが、身体強化を施したのは、向こうも同じだった。


 条件は五分。

 肉体を強化された異形と異形が激突する。


「ヒャハハハ!! どうだ、これが俺の力だ!!」


「……っ!」


「オラオラオラァ!! さっさと切り刻まれて全身ミンチになりやがれ!!!」


 ルナティックが放つ力任せの殴打や振り回される爪をいなしていく。

 さっきよりも繰り出される一撃一撃が重く、且つ鋭くなっているが、どうにか攻撃を耐えつつ、隙を見て反撃の一撃を加える。

 それを幾度も繰り返すうち、ルナティックに焦りが見え始めた。


「……は? どういうことだよ。なんで……オレ様が押されて……っ!?」


「さあ、な!」


 気がつけば、俺とルナティックの形勢は逆転していた。

 ついさっきまでは俺が防戦一方だったのに、今は俺が一方的に攻め続けていた。


 自分でやっておいてなんだが、なんでこうなっているのか俺が知りたいくらいだ。

 俺とこいつの条件は同じはずなのに——。


「チッ!!」


 俺の猛攻に耐えかねたルナティックが、一度仕切り直すべく後ろに跳んで距離を取った時だ。

 お互いが抱えていた疑問の答えは、少女によって齎された。


「——あんたがそいつに押されているのは、あんたとそいつの仮面の狂魔刻印に宿る魔物が別物だからだよ」


「なっ、なんだと!?」


(狂魔刻印? またよく分からねえ言葉が出てきやがった)


「その様子だと仮面のことは聞かされてなかったんだ。私のことを龍の魔女って呼んでいたのに」


 少女は俺を一瞥してから、


「なら、ついでにあんたにも教えてあげる。『黒紫の仮面』の正体を。あんたが狙っていたそれの別名は『龍の仮面』——古のドラゴンの力を内包した外付けの狂魔刻印」


 ルナティックに告げれば、奴の顔が動揺で酷く歪んだ。

 二人の話に全くついていけてないが、どうやら向こうにとっても俺の状態は異常事態ということか。


「外付けの狂魔刻印だと!? そんなの聞いたことねえぞ! デタラメ抜かしてんじゃねえ!!」


「信じないのならそれでいいよ。だけど、私が言ったのは紛れもない事実。そして……あんたは、そいつには敵わない。それはあんた自身がよく分かっているでしょ?」


 ルナティックは苛立った様子で俺と少女を睨む。

 暫しの間、黙り込んでいたが、忌々しげに舌打ちを鳴らすと僅かに後退りをした。


 気づくと同時、俺はすかさずルナティックを呼び止める。


「……待てよ。このままお前を見逃すと思ってんのか?」


「あ? なんだよ、ちょっと殺されかけたからってキレてんのかよ。小せえ野郎だな」


「違う、そうじゃねえ。俺のことはどうだっていいんだよ。そうじゃなくて……お前だろ? この街で起きている連続殺人の犯人」


 訊けば、いまいちピンと来ていなかったのか、ルナティックは首を傾げていたが、ああ、と思い出したよう声に出し、


「そりゃオレだな。ここの人間は美味かったぜェ、特に女子供はよォ!」


「っ、やっぱりかよ。この外道が……!!」


「……で、だったら何だって言うんだよ」


「お前を止める。これ以上、犠牲者を出させるわけにはいかないからな」


 言いながら俺は、収斂した魔力を全開で激らせる。

 今の攻防でなんとなくこの力の使い方は分かってきた。


「ルナティックだとか狂魔刻印だとか龍の仮面だとか、そこら辺は正直あんまよく分かってねえ。けどな……これだけははっきりと分かる。ここでお前を倒さなきゃ、また新たな犠牲者が出る。それだけは絶対に防がなきゃならねえってな!」


 地面を蹴り、全速力でルナティックに肉薄する。

 反応が遅れた隙を突いて懐に潜り込み、腹部を思い切り蹴り抜く。

 そのまま間髪入れず拳と蹴りのラッシュを叩き込む。


「が、は!」


 俺と奴が似た肉体になっているとすれば、並外れた頑丈さと耐久力にも限度があるはずだ。

 なら……その可能性に懸けて、ひたすら殴りまくる!


 反撃の隙すら与えない連撃でルナティックの体力と魔力を消耗させていく。


(やっぱり、そうか……!)


 未だに傷一つ与えることはできていないが、攻撃を叩き込む度に全身に纏う魔力の総量は減少している。

 つまり程度に差はあれど、俺もこいつも決して無敵ではないということだ。


 確信に至ったところで、ルナティックが苦悶の表情を浮かべてふらつき始めた。


(っ、ここだ——!!)


 即座に前蹴りを浴びせてぶっ飛ばす。


「うがあっ!!」


 ごろごろと勢いよく地面を転がった先でルナティックは、蹲ったまま身悶える。

 ようやくまともなダメージを与えられるようになったと見ていいだろう。


「……これで終わりだ」


 身動きが取れなくなったことを確認してから、極限まで圧縮した魔力を右足に集中させる。

 収斂した魔力が全身に巡り、右脚から魔力が迸ったところで俺は、姿が変わる前に浮かんでいた単語の一つを声に出す。


「ジャックポット・ウィング——!」


 瞬間、背中からも魔力が溢れ出し、それに合わせて俺も助走をつけて高く跳躍する。

 更にそのまま空中を駆け上がり、最高地点まで達したところで飛び蹴りの体勢に入れば、放出した魔力が推進力となってルナティックめがけて一直線に降下する。


「——メテオストライク!!」


 そして、ようやく立ち上がったルナティックに蹴りと圧縮した魔力を叩き込めば、


「ぐああああああっ!!!」


 吹っ飛んだ先でルナティックを中心にして魔力の爆発を引き起こした。

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