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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
一章 【旅と夢】
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八話 動き出す物語

 ――もう旅立ちかぁ。早いなぁ。


 空を見上げ、心の中で呟く。

 大きな荷物を背負い、腰には剣をさしている。

 ハーラルと曰く、この剣はそれなりに業物と言えるものらしい。


 自分の体に不自由を感じつつ、少し足早になる。

 ――王宮の門の傍で輝空を待つ二人に向かった

 

「随分、大荷物のようだね。肩の負担にならないかい?」


「これくらいなら問題なし。思い出の品もありましてね、中々捨てられるものも捨てられなかったんだよ……」


 いつかの日本から持ってきた物品。

 あの一件以来、道端に放置していた輝空だったが、幸いにもその後ハーラルトが回収していた。

 もちろん鞄は血と土でよごれていて、使い物にならない。

 その他の物品は無傷。教科書以外は全て持っていくことにした。


「あんまり長々話してると、俺が行きたくなくなっちゃうから、ここは簡潔にいこう。まずはハーラルトだな。お前には……まぁ、迷惑かけたな、うん。特訓のこととか、ほぼほぼ強制的にさせられたみたいだったけど……結構楽しかったよ」


「楽しかったなら何よりだよ。そして、七日間よく耐えてくれた。今更ながら、あの特訓内容は少し厳しすぎたかもしれないと、反省しているよ」


「どうしてお前は終わってから言うんだよ。次誰かを弟子にとる時は、あれよりずっとましなことさせてやれよ」


 ハーラルトとは、いつも通りの会話をした。

 最後までブレない姿勢に、輝空は関心を覚える。


 そして、次はステリアだ。

 事前に何を言うかは決めている。輝空はステリアに硬い表情を向けた。


「ステリア、俺は君に――」


「――っ!」


 輝空の言葉は強引に遮られた。

 ステリアが輝空の胸へと飛び込み、力強く抱きしめた。


「ステ、リア?」

 

 振り絞るような声でステリアは言った。


「行ってらっしゃい、ソラ」


 至ってシンプルであり、それでいて深い意味が込められた一言だ。

 その一言に、輝空は妙な安心感と懐かしさを覚えた。

 出かける前、母親が欠かさずに言ってくれた言葉である。当時はなんとも思わなかったが、今思えばそれも恋しい。

 

 輝空は余計なことを言わず、その思いを受け取った。


「あぁ、行ってくるよ」


 二人は互いに抱き合い、心を交わす。


「君の思いも、願いも、全て背負って、それから――」


「――」


「迎えよう。最高の結末を」

 


 ――――――――――――――――――――――――


 

「行ってしまわれましたね」


「そうね」


 ステリアとハーラルトは、少しずつ遠ざかっていく輝空を眺めていた。

 その背中は龍に選ばれるのに相応しい、凛々しい背中である。


「ソラがここへ来てから、本当に賑やかになりましたね。特にこの七日間は、時が流れが普段より早く感じました」


「私も同じ。もっとソラとたくさん、話したかったなぁ」


「そうですね……それでステリア様、愚問であることは承知の上でお聞きしたいのですが、ステリア様はソラのことを信じておられますか」


 突然ハーラルトが質問を投げかけた。

 ステリアは少し考える素振りを見せると、答えはすぐに帰ってきた。


「信じてるよ。予言でソラを知った時からずっとね」


「――そうでしたか」


 五年前、予言書で知った『辰谷輝空』という存在。

 何度も読み返し、どれだけ彼の存在を待ちわびたことか。


 ――そんなことも知らずに、一人の少年は歩み続ける。

 振り返りたい気持ちを堪え、前だけをただ向いて。

 

 これから始まる。全てを背負った少年の物語――。

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