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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
一章 【旅と夢】
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五話 謝罪と友情

 ――また一日が経過した。

 

 昨日の宣言通り、今日はステリアが来ることは無かった。

 その代わりなのか、一人の男が来た。


「久しぶりだね」


 忘れたい記憶が蘇る。

 声を聞くだけでも鳥肌が立った。


「今日は君の腕を切り落としに来たわけじゃない。もう少し、肩の力を抜いてもらっても構わないよ」


「すまねぇが俺は結構根に持つタイプなんだよ……くそっ、腕が痛むような気がする」


「腕は無事に生えてきたようだね。身体に異常も無さそうで良かった」


 ランタンの光が、男の笑顔を照らした。

 エメラルドグリーンの透き通った瞳、すっと通った鼻筋、分厚すぎず薄すぎずバランスの取れた唇、どの点においても申し分がない。

 それが逆に、輝空をさらに不快にさせる。


「それで、何の用だよ。まさかからかいに来ただけじゃねぇだろうな」


「そこまで嫌味な男では無いよ。君を解放しに来ただけさ」


「別の人ってお前のことだったのかよ!」


 複雑な心境である。

 素直に喜べず、感謝の言葉を言いたくない。

 とは言っても、一刻も早くここから出たい。

 そんな葛藤もありつつ、今はやはりここから出るのが最優先だ。


「無駄話もこの辺にして、早くここから出してくれねぇか。そろそろ地上の空気が吸いたい」


 そう言うとすぐさま牢屋の鍵を開けた。

 意外に従順なことに驚きながらも、輝空も一応感謝を伝えた。


「さぁ、行こうか」


 輝空と男と共に、地上へ続く階段に向かった。

 


 ――――――――――――――――――――――――

 


「権力者の家だろうなとは思ってたけど、これは予想以上にでかいな……」


 広々とした廊下。高価であろう絵画。

 ふんだんに(きん)が使われた壁と天井、そして天井から豪華なシャンデリアがぶら下がっている。

 王宮と、一目見ただけで分かった。


「ここはイリジア王国の王宮だからね。大きいのは当然だよ」


「王宮! つまり王様がいるってわけだな!」


「そういうことになるね。しかし今は王の体調が優れないから、恐らく面会は無理だと思うよ」


「まじかよ! せっかく話せるかと思ってたのに……」


 話せないと分かってあからさま気を落とした。

 国の王に対して失礼極まりない態度だが、男は寛容だ。

 特に輝空の言動に咎めることは無かった。


「おっと、忘れていた。自己紹介が遅れてしまったが、ハーラルト・フランドレットだ。好きなように呼んでくれ。それで君の名は?」


「くっ、あんまり名前を教えたくねぇ……輝空だ」

 

「ソラか。いい名前だ」


 ハーラルトは再び微笑んだ。

 その度に輝空は顔を歪める。

 そんな掛け合いをしている最中、ハーラルトから質問が上がった。


「時に、ソラ。その指輪は誰から受け取ったもの?」


「これはステリアって子から持って来てくれた。効果があるとか何とか言ってたけど、いまいち実感がねぇな。第一どんな効果すらも分からない」


「ステリア様が……いつ抜け出せたんだろう」


「様?」


「うん、ステリア様は王の一人娘だよ」


「あいつそんな偉かったんだ……」


 良くも悪くも、ステリアの佇まいはとても王女には見えない。

 言い換えれば親しみやすいが、王女としては好ましくないと言ったところだろう。


「ところで、いつまで歩くんだこれ」


「まだもう少し先だよ」


 輝空は大人しくハーラルトに従い、後ろについて行った。


 

 ――――――――――――――――――――――――


 

「ここだよ」


「やっとついたか……」


 輝空は十分ほど王宮内を歩き回り、ようやく目的地に到着した。

 最初こそ、その豪華な王宮内に目を丸くしていたが、いざ歩き回ると代わり映えのない景色が続く。

 流石に飽き飽きとした輝空は、明らか不機嫌そうな顔色をしている。

 

 今いる部屋の内装を見れば、再び感動を得られた。

 部屋の広さは二十畳は優に超えているだろう。とても、一人部屋にしては大きすぎる。

 用途は主に客人の寝泊まり部屋として使われている。つまり、客間だ。

 客間と言われるだけあって、家具は一式揃えられていた。


 その中でも、輝空がまず目に入ったものは、見るからにフカフカなベッドだ。

 形状は至ってシンプルの、色も白で統一されている。

 本能的に、輝空はそのベットに飛び込んでいた。


「家のベッドよりいい! ふかふかだぁ」


 掛け布団に顔を擦り合わせている。

 ハーラルトはその光景を見て、苦笑い。そして言及した。


「体を流していない状態で飛び込むのは、衛生的に良くないのでは無いかな」


「うぉ! 忘れてた! 飛び込む前に言ってくれよ……」


 実に三日、輝空は風呂に入っていなかった。

 髪に艶が出始め、臭いはかなり強烈だ。

 ハーラルトは特に気にせず、いつも通り接していたので輝空は気づかなかった。


「だいぶ臭ってたんじゃないか俺……すまねぇな」


「問題ないよ。それに……僕からも謝罪がしたい」


「え?」


 輝空とハーラルトは互いに視線を交わせた。

 輝空はなんのことかさっぱりと言った顔だが、ハーラルトは違う。

 誠心誠意謝罪する人の顔だった。


「僕はあの時、君を試していた。予言に書かれた男がどんな人物なのだろうかを探っていた」


「……」


「その結果、君の心に傷を作るような真似をしてしまった。本当に申し訳ない」


 ハーラルトは頭を下げた。

 輝空は何か言うわけでもなく、頭を下げるハーラルトをじっと見ていた。

 許す、とも言わず許さないとも言わない。


 ――。

 

「顔、上げろよ」


「――」


「お前が顔を下げるとかまじで似合わねぇから。堂々としてろよ」


 輝空はハーラルトの肩を叩き、笑顔を見せる。

 ――その瞬間、二人の間で友情という蕾が芽吹いた。

 

「ありがとう……ソラ……お詫びと言ってはなんだが、僕と七日間の特訓をしないか」


「は?」


 急な展開に輝空は驚きを隠せないのであった――。

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