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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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三十七話 決勝大会の予感

「アルク怪我は大丈夫かっ! って、ディアナもいたのか」


 扉を開けると、ベッドの上でりんごの皮を剥いているアルクと、それを眺めるディアナの姿があった。

 ディアナは輝空をひと目見ると、気まずそうにしながら視線を逸らした。


「俺よりもソラが心配だよ。もう二日も寝たきりだったから、本当に死んじゃうのかと思ったよ」


「そう簡単に死ぬつもりはねぇぜ俺は。というか俺二日も寝てたのかよ! くそっ、言われてみれば喉が……」


 当然、輝空の喉はカラカラだ。二日間寝たきりで、飲まず食わずだった輝空は空腹感も凄まじい。


「……これ、良ければ飲んでください。一度も口はつけていませんので」


 依然として視線は合わないまま、ディアナは輝空に水の入ったコップを渡す。

 普段のディアナからは考えられないほど気が利く。輝空はありがたく、水を貰った。


「うめぇ、キンキンに冷えてやがるぜこれは……ありがとよ、ディアナ」

 

 実に身体に染み渡る一杯だ。喉が潤うだけでなく、血流も良くなった気がする。


「ソラ、様。その、この度はどうも……」


「何を今さら様なんてつけてんだよ。ソラって呼んでくれよ」


「……お母様を助けて頂いてありがとうございます、ソラ」


 ディアナから聞く初めての感謝の言葉に、輝空は喜びを噛み締めた。

 顔を歪める様子もなければ、仕方なく感謝の言葉を述べた訳でもない。その事が何より輝空は嬉しかった。


「どういう表情なんですかそれは……」


「つい嬉しくなってな。お前の口から感謝の言葉が聞けるなんてよ」


「しっ! 失礼ですよ! 私はまだあなたのことなんて嫌いなんですから!」


「ははっ、そうだな」


 ディアナは青筋を立てて激昂している。

 感情的になるディアナを見ると、何故かホッとした。以前は常に無愛想で、目には光を宿していなかったというのに。

 後ろでりんごの皮を剥き終わったアルクは、一人で黙々とりんごを食べながら輝空とディアナの掛け合いを見ていた。


「まぁなんだ、とりあえずは一件落着! とは言えねぇかもだけど、みんな元気そうで良かったよ。というわけで、反省会といくか! じゃ、アルクから言ってくれ!」


 アルクから聞きたいことはそれほどない。だが、輝空の意識が無くなったあとの様子は聞いておきたい。身体がどうなっていたのか、そばで見ていたアルクが一番よく知っているはずだ。


「えっと、俺はまず、腹を刺されたのがダメだったよ……あの時あいつがナイフを隠し持っていたことは分かってたのに、ちゃんと避けきれなくって。でも、急所は避けれてたから、次はもっと力をつけて、あいつに勝ってやる!」


「……それだけか?」


「そうだけど、他に何かあるかな」


 アルクは頭をポリポリと掻きながら、キョトンとした顔で輝空を見つめる。

 反省会と言っても、個人の反省を言い合うだけのものとは想定していなかった。確かに、輝空も言葉足らずであったが。

 ディアナは冷めた目で輝空を見ると、ため息をついて呆れ声で呟く。


「少し言葉足らず過ぎです。自分がどうなっていたかが聞きたいんでしょう?」


「ぐっ……なぜ分かった」


「はぁ、最初から反省会なんてそのまま聞けばよかったものを。私も聞きたかったことなのでいいですが。あなたのあの息が詰まるような禍々しい魔力、とてもじゃありませんが龍神などとは呼べませんでしたよ」


「俺もその辺よく分かんねぇんだよ。身体が変な鱗に包まれるのは今回が初めてだし。もうあんなことにはなりたくねぇな」


 腕が白銀の鱗に蝕まれていく度に感じる痛み。皮膚が内側から抉られていくような、火で表皮を少しづつ炙られているような感覚だ。今まで経験した痛みとは比じゃない。

 

「実は俺も輝空が気絶した後、一緒に気を失ったんだよね」


「そうだったのか。いや、そりゃあそうか。アルクの傷なら仕方ねぇ」


 あの場で間違いなくアルクが一番の重症だったのだ。本来、輝空が先に気絶していたことがおかしい。


「じゃ、ディアナも一応言ってくれ。何か反省することはあるか?」


「私はおまけですか……私の力が無力だったせいで、アルクに傷を負わせてしまったことです」


「俺もディアナと殆ど一緒だ。よしっ! これにて反省会は終了だな!」


 強引に会話を終わらせた輝空に驚くアルクと、無表情で睨みつけてくるディアナ。非常に怖い。


「あれ、アルク、決勝戦はいつだったっけ?」


「この前の試合から五日後って言ってたから……」


「五日後って、今日じゃありませんか?」


 一瞬理解できなかった。しかし、理解した時、この場にいる三人は絶句した。


「どどどどどうすんだよ! もう時間が! いやそれ以上にアルクのケガが!」


「うーん、辞退はしたくない……今ここを抜けだすしか」


「それはダメです! また傷が開いてしまったらどうするんですか!」


 ディアナの言うことはもっともだ。治りかけだと言うのに、また傷が開いてしまえば元も子もない。

 アルクはそうか、と弱々しい声で言うと少し悲しそうに目線を下に落とす。


「どうしても辞退したくねぇってんなら、俺が出るしかねぇな」


「あなたもダメです! いくら元気といえども、まだ治っていないかもしれないんですよ!」


「じゃあどうしろって言うんだよ!」


「決まっているじゃないですか」

 

 輝空が唾を飲み込むと、ディアナは少し口角を上げて言った。


「――私が、決勝で戦います」

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