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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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三十六話 百年後の俺へ

『旅に出るって、僕も一緒じゃないんですか! 僕だけこの地に残すって、どういうことなんですか!』


 淡い黄色の髪をもつ少年が、今にも泣きそうな顔で訴えかけている。

 それを、黒髪の中年男性が笑みを浮かべながら、少年を宥めた。


『簡単な話だっつーの。お前はもう一人前だ。俺が居なくとも十分やってける。そうだろ?』


『僕はまだまだ未熟です! だから、だからぁ……僕はまだ、あなたと……師匠と一緒にいたいです!』


 ついに涙を流す少年に、黒髪の男は困り果てていた。

 確かに、この少年はまだまだ歳が若い。一人では心細いというのも分かる。

 だが、こうするしかないのだ。世界で一人の弟子に、これを託すために。


『仕方ねぇことなんだエリック。こっから先は、俺一人で行かなきゃなんねぇ』


『理由を、聞いてもいいですか?』


 涙目でこちらを見てくるエリックに、黒髪の男はエリックの頭を撫でながら答えた。


『百年後、いや二百年後かもしれねぇ。そん時になって生まれてくる俺の生まれ変わりに、色々と託さなくちゃな』


『生まれ、変わり?』


『あぁそうさ。正確に言えば、同郷ってだけなんだけどな。たった一人、同じ故郷を持つ誰かに、俺は俺の意思を託したいんだ』


 空を見上げる目は、とても輝いている。

 その横で、エリックは不服そうな顔をして黒髪の男を見つめる。

 そして一言、エリックは小声で黒髪の男に問いかける。


『僕に、その意思を託すことはできないんでしょうか?』


 当然の疑問だ。弟子を差し置いて、その意思を他の誰かに託すのだから。それも、会ったことのない百年も先の人間にだ。

 それでも、黒髪の男は先を見据えている。エリックでは到底理解できない何かを。


『あぁ、俺の意思は、未来の誰かにしか託せねぇ。でもよエリック、お前が俺の意思を繋げることは出来る』


『そんなこと、どうやって……』


『龍神の盾、こいつをお前に預ける。お前はこれを子孫に繋いでいくんだ』


 エリックは意味を理解できないまま、盾を黒髪の男から受け取った。


『僕は、百年も待てる気がしません……それに、これを繋いでいく自信も』


 俯くエリックに、黒髪の男は優しい声色で言った。


『大丈夫だエリック。お前なら必ず、そいつを繋いでいけるさ』




 ***




「やはり、ソラ様はお目覚めしないか」

 

「もっ、申し訳、ございません。僕の、治癒魔法で、これ以上は……」


「君のせいでは無いよ。気にすることはないさ」


 意識が朦朧とする中、二人の声が輝空の耳に入る。

 先程まで、妙な夢を見ていた。見知らぬ二人が会話をしている夢だ。

 一人は淡い黄色の髪のエリックという青年、もう一人は輝空と同じ黒髪の中年男性だった。

 二人はどうやら師弟関係にあったらしい。それ以外は覚えていないが。

 輝空は呻き声を上げながら、徐々に瞼を開いていく。そうして、最初に目に入り込んできたのは知らない天井だった。


「ここは……」


「ソ、ソラ、さんっ!?」


「その声、マルクスか」


 顔を横に向けると、マルクスが目を見開いてこちらを見ている。

 そしてその横にいるのは淡い黄色の髪を持つ中年男性。容姿は随分整っていて、中年と言っても三十半ばか、あるいはそれはより下でも通用しそうだ。


「おぉ! ついにお目覚めになりましたか! ソラ様!」


 かなりの至近距離まで詰め寄る男性に、輝空は狼狽える。

 輝空は細目で男性の顔を見る。


 ――あれ、この人?


 会ったことは無いのに、見覚えのある顔立ちだ。それも、ついさっき見た顔によく似ている。


「あんた、もしやエリックか!」


「……エリック?」


 キョトンとした顔をする男性に、輝空は首を傾げる。

 間違いないはずだ。この顔は、夢の中で見たエリックという少年によく似ている。

 淡い金髪、目鼻口の形も似ているし、エリックを少し老けさせればこの男性の顔になるだろう。

 それなのに、この男性はどうもエリックのことを知らないみたいだ。


「あっ、えっと、人違いだったみたいです。お名前を聞いてもいいですか?」


「はい、仰せのままに! 私、パウル・ローヴェルトと申します! 先程、ソラ様がおっしゃった『エリック』という人物は私の祖父のことでしょう!」


 ローヴェルト、つまりはこのパウルという男はディアナの父親なのだ。そして、エリックという名前の少年は、どうやらパウルの祖父であるらしい。


「祖父……あの夢は結局……」


「何かお困りで?」


「大丈夫です、こっちの話なので……えっと、セレイディアさんはご無事ですか?」


「はい。この、マルクスくんが治療もしてくれたおかげもあってか、比較的軽傷で済みました」


 パウルはマルクスの肩を掴んで微笑む。

 ガチガチに固まったマルクスだが、少し照れくさそうに頬を染めていた。

 マルクスは手をモジモジとしながら、小さい声で言う。

 

「ソ、ソラ、さんの、おかげ、です。僕は、ただ怪我を治した、だけです。それに……」


 照れくさそうな顔から突然、少し目線を落として悲しげな顔に変わった。


「たっ、盾は、敵に取られちゃい、ました」


「……そう、か」


 今にも泣きそうな顔だ。マルクスは責任を感じやすい。一度のミスでも、こうして泣きそうな目でこちらを見てくる。


「そう責任を感じなくていいんだぞ。セレイディアさんを助けられた、それだけで十分じゃねぇか? ねぇ、パウルさん?」


「ソラ様の仰る通りです。私にとって、マルクスくんは妻を助けてくれた恩人」


「あっ、ありがとう、ございます」


 頭を下げながら礼を言うマルクスに、パウルが優しく微笑む。

 実際のところ、輝空は盾の価値がそこまで分からない。取られたとて、旅に支障が出る訳でもないのだ。


「違う違う、今は盾のことよりアルクだ! アルクは、今どこに!?」


「おっ、落ち着いて、くださいっ! アルク、さんは無事です! えっと、隣の部屋に、今は……」


「あぁ、そう。なら、良かった……行かねぇと俺、話しておきたいこともあるんだ」


 ひとまずは、アルクが無事なら良かった。手が鱗に蝕まれてからの記憶はあまりない。指輪を受け取ったあとのことをアルクに聞いておきたい。


「パウルさん、俺もう行きます」


「もう行かれますか。では私も、仕事の方へ戻るとしましょうかね。最後にソラ様、ディアナをお願い致します」


 パウルは微笑みながら、それでいて少し悲しげにも見える顔で輝空に言う。


「はい、わかりました。それでは!」


 輝空はベッドから立ち上がり、扉へ颯爽と向かう。

 躓きそうになるも、輝空は扉へと飛び出した。

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