三十五話 反省会議
「うおぉぉおお痛てぇよぉぉぉぉお!」
片腕が丸ごと抉り取られた痛みに悶える大柄な男、ラウム。その横で、溜息をつきながらラウムを冷めた目で見る小柄な男、フリッツ。
「あの野郎、絶対許さねぇからよ! 今度こそ絶対殺す!」
「はぁ、君は少し黙っておいた方がいいよ。僕がいなければ死んでたって言うのに、感謝の言葉もないのネ?」
「感謝はしてるっての! だが今はあの邪龍に対する殺意しか湧かねぇ!」
馬車に揺られながら、ラウムは失った片腕に治癒魔法を施す。
治癒魔法で失った片腕を生やすことはほぼ不可能。今はせいぜい、応急処置程度しかできない。
「本当に酷い有様だね。そんなに強かったの? 邪龍の器ってのは」
「聞いていたよりもずっと、ネ」
「へぇ。まぁでも、俺なら、片腕を失くすなんてへまはしないかなぁ」
「ゼイサムてめぇ、俺を煽ってんのか!? あぁ!? 表出ろやごらぁあ!!」
唾を飛ばしながら怒号を上げるラウムを見て愉快な笑顔を上げる男、ゼイサム。
ベージュ色の髪にはアホ毛が目立つくらいで、見た目にこれといった特徴は無い。しかし、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。
「そう怒るなよ。今のお前じゃ、俺には勝てないんだから」
いよいよ収拾がつかなくなるほど怒り狂い始めるラウムの横で、フリッツは呟く。
「僕たちのことはどうでもいい。君の方こそ、回収はできているんだろうネ?」
「もちろんだよ。なんか敵が二人来た、って誤算もあったけどね?」
「それは君が原因ネ」
「は!? 俺は何もしてないよぉ!!」
フリッツは呆れて言葉も出なかった。自分が能力を発動したことに、自覚すらないのだ。
「無意識のうちに、君が魔法を発動していたんだよ」
「へぇ、いつだろう? うーん……あっ! あの大会の時かな? なんか女の子がすごい魔法撃ってたからさぁ、ムカついてやっちゃってたのかも。本当困るよね、知らないところで魔法使っちゃうの」
「それはこっちのセリフネ」
ゼイサムの能力には一つ欠点があった。それは、無意識にうちに魔法を発動してしまうことだ。それも本人は自覚無しで発動している。
感情の起伏が大きい時、つまり今回で言えばディアナの放った魔法に、嫌悪感を抱いたゼイサムは無意識下で能力を発動した。そのせいで、ゼイサムたちの計画は輝空達によって見破られたのだ。
この欠点は意外にも厄介で、敵味方関係なく発動するため、味方が切り札として使った魔法を問答無用に霧散させ、その結果計画が全て台無しになったこともある。
「でもさぁ、珍しいよね。魔法を一回発動しただけで、計画がバレるなんて。今までにあったかな?」
「ないよ。少なくとも、僕が君と一緒にいる時はネ」
「俺たちの陽動も見破られたんだ。何かしらの能力を使ったに違いねぇ。それにあの緑髪のガキ――だろ?」
その場にいる二人が同時に、目を細めれば、ため息混じりにフリッツが言った。
「あの無愛想な男の――なら納得ネ」
***
「セレイディアの容態は?」
魔法大学内にある医務室、ベッドですやすやと眠っているセレイディアと、その横でディアナがセレイディアのお見舞いに来ていた。
そしてもう一人、中年男性が医務室内へと入ってきた。
「お母様は、無事です。マルクスという男の子が、すぐに治癒してくれましたので」
「それなら良かったよ。後で、その子に礼を言っておくよ」
ディアナと二人の間には、絶妙に気まずい空気が流れる。
それもそのはず、ディアナはこの男性が苦手だった。今でこそ神妙な面持ちでいるが、普段はこんなものでは無い。もっと面倒くさい。
「お父様こそ、お仕事の方は大丈夫なんでしょうか?」
「こんな緊急事態に、駆け付けない親がどこにいると思う?」
「ふっ、よく言えたものですよ、本当に」
ディアナは皮肉混じりに答えた。
こんな事態にまでなったのは、元はこの父親のせいとまで言える。あの龍神の盾さえ持っていなければ、良かったというのに。
「すまないな、ディアナ。今まで無理をさせてしまったよ」
「今更、遅いですよ」
苛立ちのこもった声で、ディアナは言った。
この父親は何も分かっていない。ディアナがここまで苛立ちを隠せないでいる理由を。
母であるセレイディアを、そしてアルクを、危うく死なせてしまっていたかもしれなかったのだ。
「お父様が探している人物は、下の階にいます。今はもう、あなたとは顔を合わせたくありません」
「……そうか」
少し悲しげな声で答えた後、ディアナ父は部屋を出ていった。
「――うっ、ディア、ナ?」
ドアが閉まる音で目を覚ましたのだろう。セレイディアが重い瞼をゆっくりと開く。
「私、どうしてここに……盾、は無事なの?」
「……まずは自分の身体を気遣ってください。盾のことは気にせずに」
まだ寝惚けているセレイディアは、今どうしてここにいるのかが分かっていない様子だ。
それでも、盾のことだけは忘れないでいるセレイディアに、ディアナは下唇を噛む。
「ディアナ……私は、無事よ」
優しい声と、温かに微笑みかけるセレイディアの顔を見て、ディアナは思わず泣きそうになる。
「――はい、良かったです。お母様」




