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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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三十四話 戦いの終わり

「ソラァ……」


 自力で止血を終えたアルクは、木を背もたれにして座っている。

 腹部が熱い。今はもうまともに動けるような状態では無い。

 しかし、目の前で悶え苦しむ輝空を放ってはおけなかった。体は白銀の鱗に蝕まれ、額からは角が生えており今も尚少しずつ大きくなっている。

 今の輝空は人間とはとても言い難い。龍と称した方がいいと思うまでに、以前の輝空の面影は無くなりつつある。


 ――俺が、助けないと。


 命懸けで自分を守ってくれた輝空を黙ってこのまま見ている訳にはいかない。

 でも、どうすればいいのだろうか。アルク自身も怪我を負っている中、輝空を背負って治療してくれる人の所まで連れていく事は不可能だ。それに、輝空の状態を見ても治せる保証は無い。


 ――これなら、もしかして。


 ふとアルクは思い出したように、ポケットに入れていた指輪を取り出した。

 肌身離さず輝空が持っていた物だ。輝空から詳しく聞いていないが、大事な物だと言っていたことは覚えている。

 アルクはゆっくりと立ち上がり、腹部を抑えながらのそのそ歩き出す。

 この指輪を、輝空の指につける。簡単そうに見えても、輝空に少し近づくだけで感じる禍々しい魔力のせいで、アルクは息を詰まらせる。


「ソラァ、今助けて、あげるから」


「ア、ル……」


 か細い声で名前を呼ぶと、今にも気を失いそうな目でアルクをじっと見つめている。

 輝空に近づけば近づくほど、空気がどっと重くなる。その場にいるだけでも呼吸が苦しい。


「ソラ、手をっ!」


 これ以上は近づくと、自分が輝空の魔力に押し潰されてしまいそうだ。

 傷の痛みを堪えながら、声を上げる。

 その声が耳に入ったのか、輝空は少しずつ手をアルクに伸ばしていく。

 アルクも手を伸ばし、そして輝空の人差し指に指輪をはめ込んだ。


「これで、ようやく……」


 みるみるうちに輝空の体を蝕んでいた鱗が消えていき、角も引っ込んでいった。

 輝空はそのまま意識を失うと、アルクもまた意識が朦朧とする。

 最後に振り絞った力と声で、再び傷口が開いたのかもしれない。

 目に差し込んでくる太陽の光が消えていく。そうして気がつけば、アルクも気を失っていた。




 ***




 ――お母様、どうか、どうか無事でいて!


 輝空の忠告通り、ディアナは自宅へと向かっている。

 輝空を信用しているつもりはないが、母であるセレイディアの身に何かあるかもしれないとなると放ってはおけない。

 アルクのことも心配だ。輝空がついているとは言え、一人であの二人に勝てるはずもない。

 ディアナの意識が、アルクへと傾きかける。その都度ディアナは首を横に振って意識をセレイディアに戻す。

 初めてのことだ。セレイディア以外の人物が頭に過ぎるなんて。


 ――森を抜けてディアナは自宅の近くまで来ていた。

 特に被害がある様子もない。しかし、全く人の気配がしない。

 嫌な予感がして、思わずディアナは唾を呑み込む。そうして、ディアナは一心不乱に自宅へと走った。


 ――ディアナの自宅付近で、戦闘が行われていたのだろうか。

 地面には数箇所大きな穴があったり、家の塀にもたれかかって気絶している人間が何人かいた。

 そして、ディアナの自宅だが、それはもう酷い有様だ。

 至る所に装飾が施された豪華な内装は、見るも無残な姿に変わり果てており、ここにも魔法が放たれたであろう痕跡が残っている。

 ディアナは奥へと進み、リビングへと向かった。


「お母、様?」


 頭に血を流し、まるで眠るようにして床に倒れ込むセレイディアの姿。

 一番嫌な予感、それが現実になったかもしれないことへの絶望が、ディアナを襲う。

 膝から崩れ落ち、声を出すことはおろか、呼吸をすることすらままならない。

 セレイディアの傍にいる、一人の少年に気が付かないまま、ディアナは呆然としていた。


「ディ、ディアナ、さん?」


「――?」


 少年の声を聞いて、ふと我に返るディアナ。

 他に誰かいる。それも、声からして年齢はディアナと同じくらいだ。


「あな、たは……」


「ぼ、ぼっ僕! ソ、ソラさま……ソラさんに言われて、ミネルヴァ教授と一緒に……あっ! かっ、勝手に家に入って、すみません」


 吃りながらも、必死に喋る少年に唖然としていた。

 なぜ自宅にいるのだろうか、という疑問よりも母を治療してくれている様子の少年に言葉が出なかった。


「えっ、えっと、ディアナさんの、お母様は、ご無事です」


「――っ」


 安堵感に肩の力が抜けていった。同時に、涙が目から溢れ出す。

 その光景を見る少年、マルクスは手をひらひらとしながら慌てふためいていた。



 

 ***




「なぜここがバレたんだろう?」


 どこかやる気なさげな声と、それでいて不快感を隠せないでいる声色だ。


「さぁね。でも一つ言えることは、君は私に逆らえないということだ」


 男の周囲には無数の炎の球だ。それも、ただの魔法使いが出せるような物ではない。

 ミネルヴァは魔法大学内でもトップクラスの実力者で、特に火属性の魔法はディアナですら足元に及ばない程だ。


「確かに、普通なら手も足も出なさそうだ……でも、俺に魔法は効かない」


 そう言って男が指パッチンをすると、ミネルヴァが出した炎の球が霧散し、跡形もなく消え去った。


「その能力で、あの結界を破ったのかい?」


「あぁ、そうさ」


 ディアナ宅にある結界はそう簡単に破れるような物ではないが、この男の能力なら容易いのだろう。

 魔法が効かないのなら、肉弾戦に持ち込む他ない。


「魔法が効かないにしろ、私が君の身柄を確保することに変わりは無い!」


 ミネルヴァが杖を投げ捨て、男に殴り掛かる。

 徐々に距離を詰めていき、手の届く範囲まで来たところで男はボソボソと呟く。


「目的は達成された。お前に用は無い」


 ミネルヴァが一発男に入れる瞬間に、ミネルヴァの拳が見事に空振る。

 気がつけば既に男の姿はない。詠唱する様子もなかったが、それもあの男の能力なのだろうか。


「参ったな、こりゃ。これでは、私たちの完敗ではないか」


 ミネルヴァは後頭部を触りながら、先程まで殺気をむき出していたとは思えない程、素っ頓狂な声を漏らした。

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