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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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三十二話 隠していた力

「どうしてここまでして……私、あんなに酷いことを言ったのに……」


 ディアナは涙を流しながら言うと、アルクは笑顔のまま答える。


「そんなこと、気にしなくていいよ。それと、もう一人来る」


 苦しそうな声を出しながらアルクは後ろを向く。

 黒髪の冴えない少年、辰谷輝空が息を荒らげ、目を丸くしながらアルクとディアナを見ていた。

 輝空からアルクの腹部の傷は見えない。今、輝空には何が起こっているの理解出来ない。


「どう、なってやがる」


 輝空は小走りで二人のもとへと駆け寄っていく。

 アルクの腹部を抑えている手が、血まみれになり地面へ滴り落ちている。それを見て、輝空はただ呆然と立ち尽くしていた。


「ははっ、来やがったな! 邪龍の器!」


 大柄な男は今までにないほど興奮した声をあげる。しかし、輝空はその声を気にする様子も無い。


「ア、アルク、なんだその傷!」


「これくらい、平気、だよ」


「平気なわけないだろ! ディアナ、状況を説明してくれ!」


 喉を絞りながら、震えた声でディアナは答える。


「私が、殺されそうになったところをアルクが助けてくれて……それで、今、アルクが、私のせいで……」


 再びディアナの目から大粒の涙が溢れ出す。それを見て、輝空はとてつもない激情に苛まれた。

 怒りで我を失ってしまいそうになるが、それをぐっと堪え、輝空は敵二人を目を向ける。

 こちらを嘲笑っているかのような不快な笑みを浮かべる大柄な男、もう一人は、以前にも輝空とアルクを襲ったフリッツという男。フリッツは輝空を警戒しているのか、目を細めてこちらを見ている。


「ソラ、二人相手じゃ殺されちゃ、ゴホッゴホッ」


「傷が開くかもしんねぇからアルクはそこで大人しくしてろ。俺が何とかしてやっから」


「君一人で何が出来る。ただ見ているだけしかできていなかった君がネ」


 以前は確かに、輝空は見ているだけで何も出来なかった。

 もしあの場で下手に動けば、却ってアルクの邪魔になっていたことくらい分かる。それに、輝空は単に自分よりも強い敵に恐れていたのだ。

 だが、今回は違う。ビクビクと怯えて、何も出来ないようじゃダメなのだ。そんな生温い覚悟じゃ、この世界では生きていけない。

 

「この力はなるべく使いたくなかったけど、どうやらこれなしじゃ俺は役立たずなままみてぇだ」


 そう言って輝空はつけていた指輪をゆっくりと外す。その場にいる全員が、その光景に釘付けになっていた。

 まるで別人のように、薄ら笑いを浮かべていた男も今は眉を顰め輝空を警戒し始めた。

 敵だけの表情が変わったのでは無い。ディアナやアルクまでもが、別人に成り代わった輝空をただ唖然として見るしかない。


「まるでデタラメだな、これは」


 禍々しい輝空の魔力に圧倒されながら、大柄な男はぽつりと呟く。


「結局、ハーラルトの言う通りになっちまったな」




 ***



 

 輝空がこの世界に来て間も無い頃、修行をつけてくれていたハーラルト・フランドレットは言った。


『分かっているだろうけど、ソラの力は大きすぎる。何があっても使わないように……と言ってもソラは守らないだろうね』


 輝空は膨大すぎる魔力を制御することが出来ない。もし、魔力を制御する指輪を外してしまえば、またあの日のような悲惨な目に遭うことになる。

 それでも、必ずこの力を使わざるを得ない時が来ることをハーラルトは見据えていた。


『そんなに信用されてねぇのかよ……』


『うん、これだけは確信を持って言える。君は僕の言いつけを守らない』


 思いのほか評価が低かったことに肩を落とす輝空に、ハーラルトは微笑みかけながら言う。


『でも、ソラが力を自分のためでなく誰かのために使うことも分かる。だから、これだけは守ってほしい』


『何を、守るんだ?』


 ハーラルトは笑顔を浮かべたまま答える。


『信頼できる仲間ができた時に、その力を使うんだ』




 ***




 輝空は今でも、ハーラルトの言っていたことの意味が分からないままでいる。

 アルクは最も信頼出来る仲間の一人だ。ただ、それと力を使うことにどんな関係性があるというのか。


「ディアナ、お前は母親の所へ行った方がいい」


 黙り込んでいたディアナに、輝空が話しかける。


「どうして、でしょうか?」


 震えた声でディアナは問う。

 すっかり萎縮しているディアナは、いつもの毒舌で辛辣なキャラからは想像も出来ない。


「俺の推測でしかねぇけど、こいつらの他にもう一人仲間がいるかもしれねぇ」


「……!?」


 ディアナの顔色はさっと青ざめる。絶句して、言葉も出ていない。

 そして敵二人、特にフリッツは眉をぴくりと動かし輝空を睨んでいた。


「で、でも、アルクは……」


「俺の、ことは気にしないで、ディアナは母さんの所へ行ってくれ」


「……はい。どうかご無事で」


 そう言って立ち上がり、ディアナは森を抜ける。

 それを遮ろうとフリッツがナイフを投げるが、輝空は己の掌で受け止めた。

 激しい痛みが輝空を襲う。それでも、今の輝空はその痛みを上回るだけの怒りがある。

 顔色一つ変えずに掌に刺さったナイフを取ると、傷跡が何事も無かったかのように治る。輝空は腕が切られようが、少し時間が経てばすぐに治る程の再生力を持つのだ。この程度じゃまともに傷を与えることは不可能だ。


「指輪を持っててくれアルク」


 輝空がアルクに指輪を投げる。

 そして、輝空は目の前にいる敵に向き直り、鋭い眼光で睨みつける。


「覚悟しろよてめぇら。絶対ぶっ飛ばしてやる」

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