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異世界への扉 〜千年続く物語に、終止符を打つ〜  作者: 阿蘇輝
三章 【盾と大会】
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二十六話 図書館を駆け抜ける不審者二人組

「ディアナ、師匠の前でもそのフードを被っているつもり? 成長したディアナの顔を見たいんだけどね」


「成長って……私が卒業してからまだ半年も経っていませんよ」


 呆れた口調でディアナはフードを脱いだ。

 やはり、ディアナの表情はピクリとも動く様子もなく冷め切っている。それも、ミネルヴァが以前会った時よりも酷い。


「昔から言っているでしょう。笑顔を作りなさい、笑顔を。でなければあなたの美しい顔が勿体ないでしょう」


「はぁ、師匠は茶化す以外の言葉を発せない呪いでもあるのですか? そんな話ばかりするなら、私はもう行きますよ」


「ふふっ、愛情表現だよ」


 楽しそうに弟子との久しぶりの会話を純粋に楽しんでいる。

 ミネルヴァはディアナが大学在学中も、こうしてディアナを茶化す発言が多かったのだ。

 ミネルヴァにとって、これは愛情表現だ。弟子の可愛い反応が見たい、ただそれだけだ。

 だがディアナからすれば、会う度にだる絡みをするウザイ師匠。苦手意識を持っている。

 それでも、魔法の技術は素晴らしい。特に、専門である火魔法はディアナ以上の技術力を誇る。


「そういえばさっき、ソラ様と一緒に居た子、この前の予選で勝ち抜いていた子だよね? ディアナと仲がいいのかい?」


「いいわけがないでしょう……この前の大会見に来ていたのですか?」


「もちろん。毎年どれだけの額をあの大会に注ぎ込んでいることか……儲かったことはないけどね」


 ミネルヴァは頭の後ろを掻きながら苦笑いをした。

 そして、ディアナは知っている。師匠が賭けている額は、笑えるような金額では無いことを。それも、今まで儲かったことがないとすれば――ディアナは考えると、顔からは血の気が引いて、身の毛がよだった。

 それでもケロッとしているミネルヴァは、本当に頭のネジが数本外れている。


「……私が出ているのには気づかなかったのですね」


「え!? いつ!? どこで!? 誰と?」


 ディアナは唖然として言葉も出ない。弟子の魔法を見ても気づかない師匠がいてたまるか。


「決勝で負けたのが私です」


「あぁ、あの子ね。素晴らしい才能の持ち主だと思っていたんだよ。でも気づかないもんだね。魔法って、放てばどれも一緒だからね。ディアナの場合は特に」


 遠回しにミネルヴァは個性がない、とディアナに言っているようなものだ。

 ディアナは口を尖らせる様子もなく、どこか納得した顔で、俯いていた。


「ディアナ、固有魔法を持っていないからと言って、他と劣っている訳では無い。寧ろ、基礎を完璧にこなしている君は素晴らしいよ。それも無詠唱で」


「皮肉にも、あなたの教えのおかげ基礎を完璧に出来ましたからね」


「皮肉なんて、人聞きが悪いね」


 年相応の紳士な落ち着き、というより爽やかな青年みたいだ。

 ディアナは何も変わっていないミネルヴァに、安心感を覚えつつ、そして一つ思い出したことがあった。

 焦っている様子を顔には出さない。無論、対して焦っていないのもまた事実だが。


「すみません、二人に図書館の場所を伝えるのを忘れていましたので、私はこの辺で」


「あぁ。久しぶりにディアナと話せて楽しかったよ。会いたくなったらいつでもおいで」


 会いたくなることなんて金輪際現れない。と、思いつつディアナは一礼をして講義室から出た。




 ***




「やっぱり俺らって、ただの不審者だな」


 輝空はぽつりと呟いた。

 当然ながら魔法大学内には、生徒と教授以外には殆どいないはずなので、輝空やアルクはただの部外者であり、傍から見れば不審者とも捉えられる可能性がある。

 そんなことを考えながら、輝空はすれ違った生徒に図書館の場所を教えてもらった。

 図書館はミネルヴァたちのいる棟の向かいにあるドーム型の大きな建物だ。

 一際目立つその建物の屋内には、それはもう夥しい数の本が並べられている。

 規模が違いすぎる。輝空の行ったことある図書館の何倍もの大きさを誇る。

 これにはアルクでさえも、目を見開き口を小刻み震わせていた。


「こ、これ! す、すごい!」


 語彙力が無くなってしまうくらい、その光景は圧巻であった。


「これだけあれば、心を読む魔法の一つや二つくらいあってもおかしくねぇ」


 輝空が大学に来た目的は、他でもないステリアの願いを叶えるためだ。

 もしここでお目当ての物が見つかりでもすれば、イリジア王国に引き返してもいい。龍なんてこの際どうでもいい。

 そんなことを考えている輝空の横で、アルクは鼻息を荒くしていた。


「おれ、ちょっと行ってくる!」


「おい、どこに……ってか走んな!」


 全速力で駆け抜けるアルクは、図書館にいる生徒たちの注目を一瞬にして集めた。

 不審者が乱入した、という声が聞こえた気がするが、気にせずアルクを追いかける。

 余裕を持って走れる空間に驚きを覚えながら、周りに目をやる。

 ここで痛恨のミスをしてしまう。本を見つけると言ったが、そもそも輝空はこの世界の文字を読むことが出来なかったのだ。

 一番肝心なことを忘れていた。輝空は頭を抱えて悶える。


「ぐあぁぁあ! 忘れてたぁぁぁあ!」


「あ、あの!」


 悶える輝空の後ろで、突如知らない声が耳に入る。

 肩をビクッとさせて、輝空が振り向くと、そこにはオドオドとしてこちらを見ている少年がいた。

 濃藍色の髪がセンターで割れており、若干髪がベタついてるように見える。

 眼鏡に奥に見える焦げ茶色の瞳で、輝空に目を向けている。


「とっ、図書館ではっ、おしっ、ずかに……おねがっ……」


「あぁ、ごめん! うるさかったよな、思ったより声出てたわ!」


 輝空は必死に手を合わせて、大声で謝罪をした。


「だっ、から! お静かにっ!」


 顔を赤らめて、ぎこちなく注意をする。輝空が苦笑い混じりに再び謝罪をした。


「あははっ、ごめんごめん。今ちょっと友達追いかけててさ」


「……さっき、はっ、走ってた人、ですか?」


「そうそう。俺がこの図書館に用があって、本を探してたんだけど……」


「いっ、言っていただければ、僕が、取りに行きましょうか」


「それは嬉しいんだけど、俺読み書きができなくってさ……ああっ! 良かったら俺に文字を教えてくれない? 暇だったらでいいんだけど」


「ぼっ、僕が!?」


 少年は輝空の提案にぎょっとした。あまりの驚きようだったので、輝空も思はず吃驚する。

 口をパクパクとさせ動揺している。何だか、申し訳なくなってきた。


「絶対って訳じゃないから、そう慌てないで。な?」


「い、いや! べ、別に、嫌じゃ、ないです……」


「えぇっ!? まじ? ありがとう!」


 まさか受けてくれるとは思わなかった。これはかなり好都合だ。

 アルクに文字を教えられる気もしないし、ディアナに関しては嫌な顔をして断られる未来が見える。それなら、この少年に教えてもらえる方がいい。

 半ば強引に引き受けて貰ったようにも思えるが、輝空は特に気にする様子もない。


「んじゃっ、いつ空いてる?」


「明日の、お昼ならいつでも……」


「りょーかいっ! そんじゃまた明日!」


 テンポよく会話を終え、別れの言葉を告げ輝空は、再びアルクの後を追った。

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