二十五話 師との再会
「魔法の盾はゲット出来ませんでした。私は今、マキア魔法大学にいます」
「何をブツブツと……気味が悪いですよ」
辛辣な言葉は輝空の心を少しずつ抉っていく。異性からの罵倒はどうも慣れない。
前日のことだが、輝空は龍神の盾を貰い受けることは不可能だった。
理由は盾を護るための結界を、ディアナ、そしてディアナの母であるセレイディアも解除することができなかったのだ。
結界を解除するためには詠唱を必要とし、その詠唱を知るのはディアナ父だけである。肝心なディアナ父は現在この街にはいないので、帰ってくるまでは輝空達もこの街に滞在せざるを得ない。
「はぁ、なぜ私がこんなことを」
不満を隠す様子もなくぼやく。
そもそも、ディアナが魔法大学を案内してくれる事になったのは、母セレイディアのおかげだ。
輝空から頼んでも断られる未来は目に見えている。ましてや、私情で魔法大学に行くとなるとさらに嫌な顔をされてしまう。
「ディアナ、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」
なんの突拍子もなくアルクが質問を投げかける。
「……なんでしょう」
輝空が質問をすれば問答無用で無視をされるのだが、どうやらアルクにはある程度心を開いている。
「この前戦った時、最後の最後で魔法を解いたのはどうしてなの?」
「……」
ディアナは頭を下に向け、考えている様子だ。
ローブのフードを被っているので、その顔は窺えない。それでも、難しい顔をしていることが想像出来る。
少し沈黙が続いたあと、ディアナの口が開いた。
「私が自分で魔法を解いたのではありません。何故か途中で魔力を供給することが出来なくなって、それで放った魔法が霧散してしまいました。まぁ、幾ら言っても言い訳にしかなりませんが」
確かに、違和感は外から見ていた輝空にもあった。魔法の途切れ方が、プツッと何の前触れもなく霧散したからだ。
「それが無ければ、俺も負けてたんだな。さすがディアナだよ」
「……お世辞のつもりですか?」
「そんなことないよ。俺は、本気でそう思ってる」
アルクの声は真っ直ぐであり、純粋だ。
それにはディアナも言い返す言葉も見つからない様子で、ただ黙り込むしか無かったようであった。
***
しばらく魔法大学内を歩き回ると、ある講義室にまで来ていた。
そこには講義を終えた学生たちが出ていく姿が見える。
「ここは……?」
無視される覚悟で、輝空はディアナに質問した。
「講義室です」
それは見れば分かるが、質問に答えてくれたことに輝空は胸を撫で下ろす。
結局、何のためにここへ来たのかは分からないまま、ディアナは講義を終えたばかりの教授に話しかけた。
「ご無沙汰しております、師匠」
「自ら私を訪ねるとは。どういう風の吹き回しだろうね、ディアナ」
黒板に何かを書いている男は、振り向く気配もない。ディアナはお構い無しに、話を続けた。
「別に師匠に会いたくなって来た訳ではありません。大学の図書館を使わせていただきたかったので」
「もう全ての本を読み切ったと言ってなかったかい?」
「私じゃなくて、この方にです」
さすがに振り向かない訳にもいかなかった男は、書く手をやめてこちらに目を向ける。
ディアナの半歩ほど後ろにいる輝空を見てから、目を細めた。
「その方は?」
「例の、選ばれし者です」
「ほう、あなたが」
驚く様子もない男は、白髪混じりの栗色の髪を持った中年の男だ。
特徴はなんと言っても眼鏡。それ以外の特徴はない。
男は輝空を見てにっこりと笑うと、自分の名を言った。
「私はここ、マキア魔法大学の教授であり、ディアナの師である、ミネルヴァ・アングレムと申します。どうか、ミネルヴァとお呼びください」
「俺は、辰谷輝空です。えっと、今回は調べたいことがあったので大学に来ました」
笑顔を崩さないまま、ミネルヴァは呟く。
「ソラ様ですか。どうぞお好きに、大学の図書館をお使いください。何か分からないことがあれば、大抵私はここにいるのでいつでもお申し付けください」
「はい、ありがとうございます」
「では行きましょうか」
「ディアナ、少し待ちなさい」
輝空やアルクと一緒に図書館へ向かおうとするディアナを、ミネルヴァは止めた。
ディアナは足を止め、不満そうな顔を向ける。師匠に対してもその態度を崩さないディアナに、輝空は関心すら覚えた。
「久しぶりに会った師匠だって言うのに、話もせずに行くというのかい?」
「何か話すことでもあるのですか」
「特に何も。少しディアナと話がしたくなっただけだよ」
ミネルヴァは笑顔を保ったままだ。だがその声は少し悲しそうである。
ディアナはため息をついて「仕方ありませんね」と口にし、輝空とアルクには図書館に先に行っておくようにと告げた。
そうして、輝空はミネルヴァと別れを告げ、講義室を出て行った。
廊下でこの大学の生徒とすれ違う度に、怪訝そうな顔で見つめられる。
無理もない。この大学の生徒でもない二人が大学内を散策しているのだから。
そして、少し歩いたところで輝空は足を止めて、口をポカンと開ける。
「どうかしたのソラ?」
輝空達は再び過ちを犯す。それも一番大事な事だ。
「俺たち、図書館の場所分かんないじゃん」




